丸の内勤務の証券マン・江森(通称:えもりん)、30歳。おとめ座。

外見はプーさんそっくり、愛されキャラな男。好きな食べ物はハチミツ...ではなく、『ウルフギャング』のプライムステーキ。

港区生まれ、港区育ち、育ちのいい奴らは皆トモダチ。生まれながらに勝ち組な彼は、日本を代表するエリート・サラリーマンとして独身生活を謳歌している。

イケてるはずなのに拗らせ気味な男・えもりんは、周囲の結婚ラッシュに焦り、恋人探しに精を出すが、真面目な損保OLとのデートにゲッソリと疲れてしまう。

しかし、美人CAの菜々子から奇跡の返信が届き...?



―江森さん、お誘いありがとうございます。お食事、ぜひ^^―

菜々子からの返信を目にしたとき、江森は交差点のど真ん中で、小躍りしたいほど舞い上がった。

先日出席した結婚式二次会で、悪戦苦闘しながらも何とかLINE交換までこぎつけた28歳のCA・菜々子。

スラっとした長身に華奢な手足、色白で、艶やかな髪はほんのりと栗色だった。そして、上品だが色っぽさが香る顔立ちは、江森の好みのドストライクだったのだ。

―二次会で少し話しただけなのにデートOKなんて、もしや、彼女もボクに一目惚れしたんじゃ...?!

悪友のハルのような美青年ではないし、“プーさん”とあだ名されているとはいえ、自分はこれでも結構モテるのだ。

トーク力も背も高いし、顔は愛嬌も可愛げも清潔感もある。(痩せれば確実にイケメンの部類だと思っている)独身女性からしたら、確実に優良物件には違いない。

―これはもしや、運命の出会い?恋が始まってしまうかもしれない...!

江森は数日の間、菜々子との逢瀬をあれこれ妄想しては幸せに浸っていた。真夏の恋の予感は、男にとってもロマンス溢れる夢なのだ。

しかし。

約束の当日、期待値がMAXに高まった江森を待ち受けていたのは、2時間前ドタキャンという受け入れ難い悲劇だった。


美人CA菜々子の、ドタキャンの理由は...?

カジュアルデートじゃ、28歳の美人CAは釣れない...?


「菜々子ちゃんって、どうやら喘息持ちで、身体が弱いらしいんだ...」

楽しみにしていた菜々子とのデートの2時間前ドタキャンの理由は、持病の喘息の発作が出てしまったとのことだった。

もちろん、紳士的な江森はそんなことで怒ったり不機嫌になったりはしない。

体調不良は仕方ないし、大事な身体をいたわる優しいLINEを送り、一人激しく凹みながらもリスケの提案をした。

だが、江森の提案する日程は、何かと理由をつけてはことごとく丁寧にやんわりと断られてしまい、なかなか菜々子に会うことができない。

「彼女、ボクと食事には行きたいらしいんだけど、フライトのスケジュールは崩れることが多いし、仕事で疲れると発作が出ちゃうらしくて、前もって約束するのは申し訳ないって言うんだ...」

菜々子はマメに返信をくれるから、少なくとも脈ナシではないはずだ。しかし、デートの約束を確定できないことに、江森はかなり悶々とした思いを抱えていた。

「ふぅん」

丸の内の『The Café by Aman』にて、キンと冷えたビールをくいっと飲みながら、友人のまゆこは江森の相談を静かに聞いていた。

ここは仕事終わりに軽く一杯立ち寄るには最適な場所で、ビジネス街のど真ん中にありながらも、緑鮮やかな森に囲まれて癒しを得ることができる。



「えもりんは、そのスッチーとどんなデートするつもりだったの?」

「うーん、菜々子ちゃんは汐留に住んでるっていうし、丸の内で軽く飲んでから、焼鳥でも食べに行こうと思ってたよ」

江森が答えると、まゆこはクスクスと意地悪く笑い始める。

「それじゃあ、喘息の発作も起きちゃうわね」

「え!どういうこと?!仮病って言いたいの?ボクが悪いってこと?!」

まゆこはスーツのスカートから伸びる形の良い脚をゆっくりと組み替えながら、もったいぶるように言う。

「面食いのえもりんが一目惚れするような28歳のスッチーが、貴重な休みにサラリーマンと焼鳥デートなんて、足が重くなっちゃうんじゃないの。試しにお鮨にでも誘ってみなさいよ。絶対来ると思うわ」

まゆこの衝撃的な提案に、江森はしばし言葉を失う。

あの儚げで純情そうな菜々子が、まさか自分をそんな損得勘定で査定しているなんて、考えてもみなかったのだ。

「で、でも焼鳥ってカジュアルで美味しくて、下手な高級店より、距離を縮めるには最高じゃ...」

「そう思ってるのは男だけよ。そうね、『鮨たかはし』でも予約してみたら?」

しかし、まゆこの言う通りに『鮨たかはし』の席を確保すると、菜々子は驚くほどアッサリと誘いを快諾してくれた。


念願のデートが実現。しかし、またしても悲劇が待ち受ける...?

予約困難の鮨デートの盲点。2軒目の誘いに惨敗した男


「江森さん、なかなか時間が合わずにすみませんでした。でも、今日は“たまたま”時間が合ってよかった。素敵なお店を予約してくれて、本当にありがとうございます」

銀座の『鮨 たかはし』に現れた菜々子は、江森の記憶よりもずっと美しくみえた。

ノースリーブの白シャツにベージュのタイトスカート。細いストラップのミュールで飾られた美脚に、つい目を奪われてしまう。

柔らかに微笑む菜々子を見ていると、まゆこの忠告やこれまでの悶々とした懸念は、一気に吹き飛んでしまった。

いくらこの店がミシュラン三ツ星『鮨 さいとう』出身の大将が握ることで有名だからと言って、彼女はそんなミーハー感に釣られるような、俗っぽい女ではないはずだ。

江森はこじんまりとしたカウンターに菜々子と肩を並べているだけで、天にも昇るような気持ちになる。

「いえいえ、こちらこそ今日は早い時間からありがとう。お腹は空いてる?」

「もちろんです♡」

『鮨 たかはし』は予約困難店のため、席は17時からしか確保できなかったが、菜々子は嬉々として頷いてくれた。



可愛い顔で美味しそうに鮨を味わってくれる彼女を眺めているのは心底楽しい時間だったが、途中で江森はあることに気づく。

菜々子は、その華奢な身体や儚げな印象のわりに食欲旺盛で、しかも、かなり酒に強いのだ。

「菜々子ちゃんてそんなに細いのに、けっこう食べるし飲むんだね」

「やだ、ごめんなさい。恥ずかしい...。体力仕事なので、たくさん食べる癖がついちゃって...」

「いや、変な意味じゃないんだ!むしろ嬉しいよ。いっぱい食べて飲んでね」

実は江森は、酒の強い女性があまり好みではない。

親友のハルには「神経質な男だな」なんて馬鹿にされるが、特に酔っ払った女性は、何となく下品に見えてしまうのだ。



―でも、菜々子ちゃんは変に酔ってもなさそうだし、CAさんはワインにも詳しいだろうからな...。

江森は気を取り直して鮨を楽しみ、2軒目は彼女をどこに連れて行こうか、会話に気を配りながらも頭をフル回転させていた。



「菜々子ちゃん、どこかにデザートでも食べに行かない?」

『鮨 たかはし』で食事を終えたのは、まだ19時前だった。この後は「パレスホテル東京」か「アマン東京」のラウンジに連れて行けば、ゆっくりとロマンチックな夜を過ごせるはずだ。

「江森さん、ごめんなさい。明日は早朝フライトで4時前に起きなきゃいけないので、また改めて誘ってもらえますか...?」

「えっ......でも、まだ19時前だよ...?」

「本当にごめんなさい、フライト前は体調を整えないと、喘息になりやすくて...今日は楽しかったです!」

まだ日も落ちぬ真夏の19時前、銀座に一人取り残された江森は、逃げるように去って行く美しい菜々子の脚を、いつまでも見送っていた。


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