2017年、東京での“当たり前”な出会い方。

それはお食事会でも友人の紹介でもなく、デーティングアプリだ。

しかしオンライン上での出会いに、抵抗感を示す人は未だ少なくない。今まで難なく自分の生活圏内で恋人を探してきた男女なら、尚更のことだ。

商社で秘書として働く、桃香(30)もその内の一人。

―デーティングアプリって流行っているみたいだけど、私には必要ないわ。

そう思っていたある日のこと、憧れの先輩・奈緒が「いいね!」していた「東カレデート」をダウンロードし、四苦八苦しながらも数々の男とデートする。

今日は桃香にデーティングアプリを勧めてくれた、亜美の結婚式だった。



デーティングアプリで出会ったカップルの結婚式


「亜美、おめでとう!」

今日は「ザ・リッツ・カールトン東京」で、親友・亜美の結婚式だった。

亜美はふわりと広がるチュールが特徴的なヴェラ・ウォンのバレリーナに身を包み、今まで見たことのないような笑顔を浮かべている。

「結婚することになったの」という報告を受けてから、約1年。亜美はペアーズで知り合った弁護士の彼と、無事ゴールインした。スピード婚だったので驚いたが、計画的な亜美のことだから、最初からそのつもりで付き合っていたのだろう。

「本当、幸せそうね」

桃香が座っている席には、いつものメンバーである茜と聡子がいる。20代前半から散々食事会に繰り出していたメンバーが、こうして幸せになるのを目の当たりにするのは、何とも感慨深い。

「亜美さんの旦那さん、素敵だね。どこで知り合ったんだっけ?」

桃香たちと同じテーブルに座る、26、27歳くらいの女の子3人組が話しているのが聞こえた。亜美の、会社の後輩だろうか。

「デーティングアプリらしいよ」

その返答に対する彼女たちの反応に、桃香は思わず耳をそばだてた。


デーティングアプリで結婚したカップルへの反応とは?

「あ、そうなんだ。そう言えば、私もこの間Tinderでマッチした人とデートしたんだけど……」

彼女たちは亜美の話はそこそこに、自分たちの恋愛話に花を咲かせていた。

桃香は当初、亜美の「デーティングアプリで彼氏ができた」という話にとても驚いた。しかし現代の恋愛市場において、デーティングアプリは出会いの一つの手段として“当たり前のように”使われているという現実を知ったのだ。

特に、同じテーブルにいる彼女たちのような20代の若い世代は、オンライン上で出会って付き合うことに何の抵抗もないようだ。

「あーあ。幸せそうで羨ましい」

隣にいた聡子が大きな溜息とともに、そう口にした。

「聡子も、そろそろなんじゃないの?」

聡子は結局、公認会計士の明夫から猛烈なアプローチを受け、半年前から付き合っているのだ。

桃香は、付き合う前に色々と相談に乗ってあげていた。彼のことを「いいな」と思った時期もあったが、今ではそれもすっかりいい思い出になっている。

「……まぁ、普通よ」

聡子は努めて明るい口調でそう言ったが、心なしか少し元気がないように思えた。

「ね、行きたいイタリアンのお店があるんだけど。来週時間ある?」

桃香はそう言って、聡子を誘った。元気のない様子が、気になったのだ。



桃香が誘った店は、渋谷2丁目になる『オステリア ヴィネリア ラ・コッポラ』だ。ここは、人気のシチリア料理店『ドンチッチョ』の姉妹店で、昨年オープンしたときから気になっていたお店だった。



「この間の結婚式、良かったわね」
「ほんとね。亜美、すごく幸せそうだった」

魚介の冷静パスタをフォークに絡ませながら、聡子は大きくうなずいた。顔は笑っているが、相変わらず元気のないような感じがした。

「聡子、元気ないね。明夫君とうまくいってないの?」

桃香は、単刀直入に聞いてみた。聡子は勝ち気な性格なので、自分から「悩み事がある」とは決して言わない。しかし、何か思い悩んでいることには間違いない。

「ううん。明夫君はすごく優しいし、うまくいってるわ。でも……」
「でも?」


聡子が思い悩んでいることとは?アラサーあるある!?

「実はこの間、彼のご両親と会ったの。その後“そろそろ結婚かな”っていう雰囲気になったんだけど、本当にこの人でいいのか、もっと他にいるんじゃないかって考えだしちゃって……」

ただのマリッジブルーにしては、根が深そうだ。勝ち気で美人な聡子だが、実は押しに弱い。明夫の猛烈なアタックの末に付き合ったが、どうやらここに来て迷いが生じているようだ。

「桃香は、幸せそうよね。羨ましいわ」

聡子はそう言って、大きく溜息をついた。

桃香は、積極的に「東カレデート」を活用していた。その中で頻繁にデートしているのが、IT系の会社を経営している晃という男だった。

晃は、6歳年上の36歳。外資系のIT企業を辞めた後に起業し、会社を軌道に乗せるまで特定の異性と付き合うのを控えていたらしい。面倒見が良く、頼りがいのあるタイプだ。

「いざ結婚となると、もう少し色んな人とデートしてからでも良かったんじゃないかなって、つい考えちゃうのよね」

聡子がそう言ったとき、ちょうど桃香のスマートフォンのディスプレイが光った。

「晃さん?」

聡子にそう聞かれ、桃香は「たぶん」と微笑んだ。



聡子が化粧室に立った間に、スマートフォンに来ている通知を確認した。1件は最近デートしている晃と、もう1件は「東カレデート」でメッセージしている亮平。そしてもう1件はこの間の食事会で知り合った男だった。

―お疲れさま!桃ちゃん、仕事終わった?
―明日のお店、予約したよ!
―桃香ちゃん、来週の土曜日空いてる?

不思議なことに、「東カレデート」で色んな男性とデートしているうちに、オフラインでの出会いも増えてきた。俗に言う「引き寄せの法則」だろうか。

「晃さん、大丈夫?」

化粧室から戻って来た聡子に聞かれ、桃香は「もちろん」と微笑んだ。そして聡子はこう嘆くのだった。

「今明夫さんと別れたら、またイチから誰かと出会うなんて、考えられないわ……。あの時もっと、色んな人とデートしてれば良かった」

桃香が今、「実は3人の人とデートしている」と言ったら、聡子は大層驚くだろう。

色んな人と出会えるうちに、たくさん知り合っておきたい。「あの時もっと色んな人とデートしておけば良かった」なんて後悔なんて、したくない。


来週は2件、デートの約束が入っている。


桃香は聡子に、「東カレデート」を教えてあげたくて、たまらなかった。

―Fin.