教育は平等、ではない。

親の経済力が子どもの教育や学力に反映される「教育格差」。

東京の中心で暮らす裕福な家庭では、子どもの教育に桁違いの金額を費やしていると聞く。

これまで、年間学費300万円をかけて世界のトップ層を目指すインターママや、親子4代白百合ママ、福翁自伝を愛読する幼稚舎ママ、敢えての公立ママなどを紹介してきた。

今回は、悩みつつも早稲田実業初等部を選んだ母親の本音に迫る。



#File07 好きなことをしながら学歴もついてくる。早稲田初等部を選んだ母親の本音


名前:聡美さん
年齢:37歳
子ども:長男8歳
子どもの学校:早稲田実業学校初等部

JR新宿駅の人の多さは、異常だ。

サラリーマンとOLが行き交う駅構内は、人混みをすり抜けるように歩かねばならず一瞬たりとも気が抜けない。

用事がなければ好んで近寄らないこの街を訪れるのは、いつぶりだろうか。

今回の待ち合わせ場所は、『NEWOMAN』6階の『ROSEMARY’S TOKYO』である。

長男を早稲田実業初等部に入学させた聡美さんは、家事育児のほかフリーランスでデザイナー業をされているため多忙で、今回の日程調整もなかなかに骨が折れた。

クライアントとの打ち合わせの合間に1時間なら…ということで、聡美さんが立ち寄りやすい新宿駅近くのカフェを指定させていただいた次第である。

「こんにちは、初めまして」

店に現れた聡美さんは、ビジネスライクな声色で取材班に軽く会釈をした。

てろんとした素材のとろみトップスに、深いグリーンのミモレ丈スカート。シンプルながら洗練されたフォルムのバッグはヴァレクストラのものだろう。

聡美さんは言われなければ絶対に子持ちには見えない、できる女の風を吹かせた女性だった。

聡美さん自身にも興味がわくが、雑談をしている時間はない。取材班は挨拶もそこそこに、さっそく本題に移ることにした。

−早稲田実業初等部(以下、早稲田初等部と表記)を選ばれた理由を、教えていただけますか?


聡美さんが早稲田を選んだ本音とは

大学受験制度の良し悪し


「実は…最後まで暁星小学校と迷っていたんです」

早稲田初等部は大学までのエスカレーター式であるのに対し、暁星小学校は高校まで。大学は別の学校(東大、早慶への高い進学率を誇る)に一般受験をして進学することになる。

聡美さんは最後まで、最終学歴となる大学は受験を経験させ、自分の力で掴み取るべきではないか、と悩んでいたそうだ。

「ただ…一方で、暗記ベースの受験システムに疑問もあって。夫とも話し合い、最終的には、子どもの将来を考えたら、受験のための勉強に時間を費やすより自分の好きなことに注力させてあげたほうが良いという結論に達しました」

聡美さんの意見に、取材班も大きく頷く。

聡美さん自身もご主人も、そして取材班も大学受験を経験している。だからこそ、その長短をよく知っている。

聡美さんの言う通り、結局は暗記力と要領の良さが物を言う受験制度には疑問点も多い。

ただ、志望校合格という目標を掲げ、達成に向けて努力し続ける根性を養ったり、楽に流されず自分を律する力を学んだり、自分の力で合格を掴み取ることで味わえる成功体験の尊さを、我々は知っている。

しかしながら、根性も自律の精神も成功体験も、他に得られる場面があるなら何も大学受験を経験する必要はない、とも言える。

「伸びやかに好きなことをしながら、学歴もついてくるなら最高です。それが、早稲田初等部を選んだ理由ですね」

−確かに、それは最高ですね…。

取材班は、聡美さんの息子が心底羨ましくなってしまった。受験に疲弊させられることなく好きなことに没頭でき、しかも学歴も得られる環境。

それは本人の努力以前に、両親に相応の資金力があるからこそ得られる恩恵であるが…。



−早稲田初等部に合格するには、どんな資質が必要なのでしょう?

取材班が気を取り直して尋ねたその質問に、聡美さんはこう断言した。

「早稲田初等部が求めているのは、総合力です」

これまでの取材で、学校側が子どもたちに求める能力はそれぞれかなり異なることがわかった。

例えばインターナショナルスクールでは5歳でバイリンガルが最低条件であるし、都内有数のお嬢様学校・白百合学園ではわきまえられることが肝要とされている。

早稲田初等部と双璧をなす慶應義塾幼稚舎では考査にペーパーテストの類はなく、運動、絵画、行動観察の3ポイントで判断される。

その基準からは、学力云々よりも地頭だったり、センス、感受性を重視していることが窺える。

一方で早稲田初等部は、①ペーパーテスト ②運動 ③行動観察 ④生活習慣 ⑤巧緻性 ⑥絵画 そのすべての項目から出題されるのだという。

「6項目から出題されるのは、私の知る限り早稲田初等部だけ。そして特に④生活習慣の項目があるのが特徴的です。早稲田初等部では、総合力が大切であるとともに、“生活力”も重視されているように思います」


早稲田初等部が重視する「生活力」とは一体…?

去華就実の精神


−生活力とは、例えば試験でどのように試されるのですか?

小学校受験経験のない取材班には、想像もできない。

年によって異なりますが…と、聡美さんは具体例を教えてくれた。

「例えば雑巾、水を張った洗面器、ゴミ箱、ティッシュ、ペーパータオルなどが用意されている状態で、机の中央に牛乳が溢れている。そこで、“綺麗に片付けてください”と発問されるわけです」

なるほど。おそらく、ティッシュやペーパータオルで牛乳を拭き取った子どもはマイナス採点を食らうのだろう。

この話だけでも、以前お話を伺った慶應義塾幼稚舎とは真逆であるな、と感じる。

なんせ慶応義塾幼稚舎においては、掃除はすべて用務員の仕事であり、子どもたちは掃除などしないのだから。

「生活力を身につけさせるために、自宅でも食事の前後に台拭きをさせたり、洗濯物を畳ませたり、自立・自活を意識した生活をさせるようにしていました」

−なるほど…それは、ご家庭での準備もかなり必要になりますね。

「そうですね。年長さんになってからは幼児教室に週4日、毎日2.5時間の自宅学習、それから生活力を養うお手伝い。…子どもらしい生活ではなかったかもしれませんね」

苦笑する聡美さんに、取材班はやはりあの質問を投げかけてみた。

−幼児教室などお受験対策のための費用は、どの程度でしたか?

うーんと唸った後で、聡美さんは声のトーンを少し落とし、教えてくれた。

「年長さんの時は月額18万円にプラスして春季、GW、夏季、直前の特別講習などを受講して…総額は年間400万円弱でしょうか」

比較するのも憚られるがあえて記述すると、30代の平均年収が400〜450万円と言われている。

都内の有名私立小学校を目指す華麗なるお受験には、もはや30代の年収レベルの費用が必要なのである。

それだけの資金力を有する家庭が集まる早稲田初等部。母親たちの集まりもそれは華やかなのではないかと推測されるが、そういうものでもないらしい。

−ママ友の集まりなど、随分華やかなのでは?

「いえ全然。早稲田ママは、地味ですよ」

取材班の邪推を、聡美さんはあっさり否定した。

「早稲田実業は“去華就実”を掲げていて、ママたちも皆地味にしなくちゃという意識が強いので。私も学校に伺う際はネイビー族です(笑)」

30代の平均年収並の金額を子どもの教育に投資できる財力があっても、決して華美に飾らず実を重んじる。

その精神の遵守は、子どものみならず母親にも求められているのである。

「周囲の目が気になって、最近はSNSも全く投稿しなくなってしまいましたね」

…そう言って、聡美さんは苦笑した。


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最終回 白百合と並ぶお嬢様学校、聖心女子学院の華麗なるお受験


【これまでの華麗なるお受験】
Vol.1:年間学費300万!インターナショナルスクールの知られざる世界
Vol.2:型にはまらぬ人生を。多額の投資も厭わない、インターママのあり余る愛
Vol.3:「わきまえられること」が肝要。名門お嬢様学校、白百合学園の教え
Vol.4:願書に「福翁自伝」の感想欄が...!慶應義塾幼稚舎受験の恐るべき実態
Vol.5:華麗なるお受験: “普通じゃない”思考を養う、幼少教育の最新トレンドに迫る
Vol.6:慶應義塾幼稚舎コミュニティに所属する事で得られる、強固な絆とその真価