今様のトレンドを敏感に反映した新店が日々誕生する街・六本木。

だが、揺るぎない評価と支持を得ている名店もまた、多い。この街の懐の深さを体現する、綺羅星の如き4店を美しいビジュアルと共にじっくりとご紹介しよう。



数多の逸話が誕生した伝説的レストラン
『CHIANTI 飯倉片町本店』

イヴ・サンローランが来日した際には必ず立ち寄り、三島由紀夫の最後の晩餐となった舞台。一体、どれだけのVIPや著名人がこの店を愛してきたことか。今年で創業58年を数えるイタリアンレストラン『CHIANTI』。

『CHIANTI』といえば各テーブルへワゴンで運ばれてくる前菜も忘れてはならない。その数およそ20種。好きなものを好きなだけ選んでもらうのが『CHIANTI』流だ。目の前に並ぶ旨そうな料理に喉を鳴らし、どれを頼もうか考えるひととき。そんな六本木の夜が堪らなく愛おしくなる一軒だ。


その伝説の数々はもはや語り尽くされた感があるが、それでもこの店には今なお伝えるべき伝統の味が息づいている。そのひとつが「スパゲッティ バジリコ」(¥2,700)だ。

バジルの輸入はおろか市場に出回っていない時代から続く名物は、創業者である川添浩史・梶子夫妻がシェフと試行錯誤しながら、大葉とパセリをバジルの代用に、アッシェした大葉とパセリをパスタに絡め、仕上げにバジルをトッピングした逸品。そのレシピは今も変わらず、この店の代名詞として受け継がれている。


「仔牛肉と野菜のソテー」(¥5,616)。玉ねぎなどの野菜、仔牛肉を炒めたら、赤ワインを回しかけてフォン・ド・ヴォーを投入。仕上げにバターを溶かして味を調える。


地下1階がレストラン。ギンガムチェックのクロス、赤、黄、緑の3色がそろう別珍のランプシェードは、昔から変わらぬスタイル。


1階がカフェ、レストランは階段を降りた地下フロアに。



星付きフレンチを圧倒的な夜景で。艶やかな時を約束
『Azure 45』

街場のフランス料理店からホテルのメインダイニングの料理長に就任。その翌年には、見事ミシュランの星を獲得した宮崎慎太郎シェフ。パティシエ出身ならではの細やかな盛り付けの美しさと繊細な味わいに定評のある彼の、新たなシグネチャーディッシュがご覧の皿だ。

「鮑のアンクルート」(単品¥6,000)は1個500g前後の鮑を丸ごとパイに包んで焼き上げる豪快さながら、仕上がりはモダン。クラシックな料理ながら、鮑は昆布や日本酒で柔らかく煮込んで紫蘇で包み、パイ生地には海苔を混ぜこむなど和の要素を用いて味わいは軽やかに。

それでいて、品良く仕上げた肝バターやサクッと歯触りも軽快なパイ生地がフランス料理としての複合的なテクスチャーの妙を演出している。


「最近、力を入れているのが舞鶴の魚介類。現地で鮑やとり貝を食べ、そのボリューム感のある旨みとみずみずしい味に感動した」そうで、レストランではさりげなく和の手法を取り入れ、持ち味を損なわぬよう旨みを凝縮。食感や香りを巧みに加味することでエレガントな一皿に仕上げている。

〝舞鶴産貝の「クリュ」〞霜尾さんのスナップエンドウのピュレは、¥19,000の京都舞鶴メニューの前菜。見た目も味わいも清涼感溢れるひと皿。


素材感を生かしつついかにガストロノミックに仕上げるか、を常に念頭におき、料理に立ち向かう宮崎慎太郎シェフ。


45階から臨む夜景も圧倒的な美しさを誇る。


前衛的な盛り付けにテンションはMAX!次なる名店とは?


メニューはなし。シェフの感性に導かれる美食の旅へ……
『le sputnik』

世界初の無人人工衛星「スプートニク」が店名の由来だから、というわけではないだろうが、2年前、彗星の如く六本木に登場し、瞬く間に人気店へと上り詰めた『ル・スプートニク』。

フランス料理の伝統を重んじつつ、食後の印象はあくまで軽やかな皿で構成されるコースの内容を知るのは、シェフ・高橋雄二郎氏のみ。素材やキーワードを記した紙すら登場しない。いわば、美味なるミステリーツアーだ。

写真は「蝦夷鹿のシンシンのロースト 37年のローズマリーとソース・シヴェ」はコースのメインディッシュの例。夏の蝦夷鹿にクラシックなソース・シヴェを合わせた一品は、樹齢37年のローズマリーの木に着想を得たもの。焼いたビオーネを添えて、森を表現。目で見て、そして味わって、二度溜息の出る優美な一皿だ。


「図らずもスペシャリテになってしまって」と語る「フォワグラ・ビーツ・薔薇」。フォアグラにビーツで作った花びらを飾り、同じくビーツのパウダーをあしらったひと皿は、凛と咲く1輪の薔薇そのもの。食したい場合は、予約時にリクエストを。

同じ日でも、テーブルによって料理が異なることはザラ。「リピーターが多いので、自ずとそうなる」とさらりと語るが、オートクチュールともいうべきコースを出し続けるには、技術や表現の引き出しを日々蓄えているからこそ。


テーブルをゆったりと配したコージーな空間。


店は街の喧騒を忘れさせる一角に。



マダムと語らうそれが六本木の粋人への第一歩
『AUX SIX ARBRES』

名店には、かならず、その店でしか味わうことのできないスペシャリテがある。

1978年に創業した『オー・シザーブル』。名だたるシェフを輩出したことでも知られており、マダムのお眼鏡にかなった料理は、歴代のシェフによって大切に受け継がれてきた。

そのなかでも『オー・シザーブル』らしさを表しているのが、フォアグラ料理だ。酒粕でマリネしたフォアグラのテリーヌ¥4,100。生と火を入れた状態とで提供。「ソーテルヌもいいけれど、日本酒を合わせるとフォアグラの風味が格段に引き立ちます」とマダム。


歴史ある「フォアグラのソテー マデラ ワインソース」(¥4,300)。フレンチの王道を行くクラシカルな料理ながら後味は軽やかマデラ酒の芳醇なソースでフォアグラの風味を引き立てたソテーは昔からの定番だが、10年前のリニューアル時に、酒粕でマリネしたフォアグラのテリーヌを新たにメニューに加えた。

上品な吟醸香とねっとりとした口当たりに陶然となるフォアグラは、マダムいわく「和と仏のコラボレーション」。

時代の移り変わりとともに少しずつ進化をしてきた美味はもちろん、歴史を丁寧に積み重ねることでしか成しえない風格、長きにわたって店を支えてきたマダムの思いの深さのすべてが『オー・シザーブル』の“スペシャリテ”だ。


名物マダムの関根葉子さん。ウイットに富んだ会話、マダムがセレクトするワインにほれ込み通う常連客も多い。


非日常感あふれる洒脱な空間。創業以来、多くの美食家を迎えてきた。