結婚して家を買い、そして子どもを授かる。

今まで「幸せ」だと信じて疑わなかったもの。

しかしそれを信じて突き進んでいくことが、果たして幸せなのだろうか?

外資系化粧品会社でPRとして働く祐実、29歳。

結婚後豊洲に移り住んだ彼女は、水天宮に参拝した帰りに人形町に立ち寄り、ある思いに駆られ、悩み始める。

これは東京でもがき苦しむ女性の、人形町を舞台にしたある物語―。

「人形町の女」一挙に全話おさらい!


第1話:結婚生活3年目。29歳女が抗えぬ「子供を持つ」ことへの漠然とした不安

「そろそろ子供が欲しいね」

祐実もそれが自然だろうと疑っていなかったので、純のその言葉をきっかけに、子作りすることになった。最初は「自然に任せておこう」と思っていたが、子作りを開始してから気づけば1年ほどが過ぎていた。

子作りには、純の方が積極的だった。祐実には「子どもは授かりもの」という気持ちが強くあり、病院に行くのは抵抗があった。転職して3年目になり、ちょうど仕事も面白くなってきていたのも、積極的になりきれない原因の一つだった。

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第2話:穏やかな結婚生活に生じた歪み。“次のステップ”への夫婦間の温度差

純は、テレビボード上の間接照明のみでテレビを見ていた祐実に驚いている。純のその問いかけに、「ちょっと具合悪くて」と答えると、「大丈夫?」と心配そうな表情で言う。月のものが遅れていると正直に言うと、純の顔はぱっと明るくなった。

「え!?妊娠?」

祐実の戸惑いとは逆に、純は心から喜んでいるようだった。純のその様子に、祐実は決定的な温度差を感じてしまった。

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第3話:信じた私が馬鹿だったの?自分ではない女の香りで気づく、夫の嘘

今日は、久しぶりに大学時代の友人、加奈子と沙希と会っていた。

加奈子に子供が生まれてからは専ら昼間に集まっていたが、今日は「実家から両親が来ているから思う存分羽を伸ばせる」と加奈子たっての希望で、ディナーの約束をした。

「子供は早く作ったほうがいいわ」という加奈子の言葉に、子供を持つことに漠然とした不安がある祐実は、心からうなずくことはできなかった。

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第4話:私は女として、何か欠落しているの?夫との別居後につきまとう、ある呪縛

夫がまとっていた、自分以外の女の、人工的な甘い香り。その香りが何を意味するのか。祐実は瞬時に理解したものの、心が追いつかなかった。

まさか自分の人生に、「夫の浮気」という事件が起きるなんて、想像していなかったのだ。大学時代に知り合って、丸10年。祐実と純は、固い絆で結ばれていたはずだ。しかし、この件で祐実は痛烈に思い知らされた。

夫だって所詮は他人だ、ということを。

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第5話:自由奔放に生きる女を、どうしても許せない。歳を重ねるごとに生じる、母親との軋轢

人形町には何軒か洋食屋があるが、『芳味亭』は一度行って、すっかりお気に入りの店になった。一軒家の古民家がそのまま店になっており、今日は二階の座敷に通された。

祐実が部屋に入ると、隣のテーブルに一人の男がいた。手には有名な和菓子屋『玉英堂 彦九郎』の紙袋を携えている。それを見て、祐実も母親に何か手土産でも持ってくれば良かったと後悔した。その男と目が合い、互いに会釈する。

30代後半くらいだろうか。ずいぶんと彫の深い華やかな顔立ちだった。そして驚いたことに、その男は「こんにちは」と声を発した。

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第6話:幸せな結婚、キャリアアップ。失敗を恐れて“何も選べない”女

食事中、麗子は昼間の話を蒸し返さなかった。ワインを2杯ほど飲み、気分が良くなってきた祐実は思わず、最近起きたいざこざを麗子に打ち明けた。菜々子の「子どもができて会社を辞める」という話が、祐実の心を揺るがせたのだ。

「彼は、子どもも欲しいって言っていたんですよ……。でも私、あんまり乗り気になれなくて。結婚して子ども、って当たり前の流れのように考えていたけれど、ふと考えたときに、不安になっちゃって」

「何が、不安だったの?」

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第7話:あなたとの結婚は、“失敗”だった。そう、確信した夜

今日、別居してから初めて純と会う予定だった。場所は銀座の『ル ボーズ』。祐実が店に着くと、純はすでに待っていた。

「元気だった?」

にこやかに微笑む純は、少し痩せたようだった。その姿を見て、少しだけ胸が痛む。

「……元気にやってるわ。純は?」
「何とか」

そこまで言うと、長い沈黙が流れた。

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第8話:“産まない”選択は、未だ理解されづらい。深まるばかりの既婚女との溝

翌日、『うな富』で、祐実は寛と向かい合っていた。

最近、寛とは何かと連絡を取り合っていた。家が近いし、別居中という境遇も似ている。それにお互いまだ離婚が成立していないので、男女の関係に発展する気配もなく、気軽な友人として付き合える感じが良い。

この店のうな重は寛の大好物らしい。手馴れた様子でビールと肝焼き、うな重を二つ頼んでくれた。人形町には肩肘張らず行けるお店が多く、かつ味に外れがない。今日のこの『うな富』の約束も、祐実は心待ちにしていた。

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第9話:2人が夫婦でいるのは、あと30秒。夫婦が一緒に過ごした最後の日

家に着くとさっそく、メイク道具や洋服など、祐実の物置部屋のようになっていた部屋を片付け始めた。持ち主不在の部屋は、少し埃っぽい。窓を全開にして、次々と段ボールへ荷物を詰め込んでいった。

「あれ、これなんだっけ……?」

ドレッサーの、二つある内の左側の引き出しを開けると、小さいメッセージカードがたくさん入っていた。

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