外資系投資銀行でバックオフィスを担う、有希、30歳。

港区の酸いも甘いも知り尽くした彼女に与えられた呼び名は、“港区おじさんコレクター”。

数々の港区おじさんをコレクションしていた有希のポートフォリオに突如として入り込んできた浩介によって啓一との苦い記憶を呼び起こされた有希。

しかし大輔の力強い助言により前向きな気持ちを取り戻すと、過去を清算し、新たなポートフォリオを組み始めることにする。

彼女は港区の完全紹介制パーティーで見つけた隆志と康孝とのディナーを経て、休日デートに出かける相手を見つけた。



チェック項目①デート前。時間設定で分かる、男の本気度合い


ランチに向かう女性たちやカップルがにぎわう中目黒駅の前で、有希はワンピースの裾をはためかせながら待っていた。

今日は、先日の完全紹介制パーティーで出会った翔太との休日デートだ。

IT系ベンチャー企業のCTOである翔太は、SNSパトロールも、平日ランチでの査定もクリアした港区おじさんだ。

「ごめん。待たせちゃったね。」

白いTシャツにジーパンという気軽な格好で現れた翔太は、有希の鞄を受け取るとスタスタと代官山方面に歩き出した。

「どうせ、いっつもタクシーなんでしょ?たまには歩こうよ。」

そういって笑顔を向けた翔太の顔は、随分と眠そうだった。

「昨日、遅かったんじゃないですか?無理しなくても、会うの夕方からでも良かったんですよ?」

土曜日の12時を集合時間に指定してきたのは翔太だった。ずばりと言った有希の質問に、翔太は照れくさそうな表情を浮かべると、こう語った。

「有希ちゃんディナーなんて誘われ慣れてると思って。どうしたら印象に残るデートにできるか考えてたんだ。有希ちゃんの知り合いの中に土曜日の昼から集まろうなんて相手少ないでしょ?しかも車じゃなくて徒歩とか。」

確かに有希の周りの男性は、金曜日の夜は遅い時間まで仲間や女性と過ごし、土曜日はなるべく昼頃まで寝ていたいという人が多い。有希も今までは休日のデートと言えば、夕方または夜の時間帯からの待ち合わせが多かった。

「変な人。しかもなんで駅と反対側から歩いて来たんですか?」

有希が怪訝な顔で見上げると、翔太は大真面目に答えた。

「間違えるとかっこ悪いから、道を1度予習してきたの。」

自分に関心があるのには気付いていたが、ここまでストレートに伝えられると、有希は返す言葉もなかった。


楽しい時ほどシビアなトピックで。真剣具合をはかる一言。

日差しにあたり、少し汗ばんできた頃、代官山にあるゆったりとした一軒屋レストランの『レストラン シェ・リュイ』に到着した。

2人は太陽の入るテラス席に座ると、顔を見合わせて笑った。

「あ〜意外に良い運動だったね。」

翔太はすっかりご機嫌でメニューを覗いていた。

【港区おじさんコレクション⑩】
名前:石田翔太
年齢:38歳
職業:IT系ベンチャー企業(上場)CTO



チェック項目②デート中。ボディタッチの有無から分かる、男の真剣さ




翔太は、不思議な男性だった。

ストレートな物いいとは裏腹に、デートの最中であっても有希に指一本たりとも触れることがないのだ。

レストランにたどり着くまでにいくつか車道と歩道が近い道があったが、有希をかばうように歩くものの、腰の周りに手が行ったり、何かにつけて肩を触ったりはしなかった。

何度かデートを重ね、距離が縮まると、男性の「少しでも近づきたい」という欲求は高まり、軽いボディ・タッチという形として現れる。これは女性にも言えるかもしれない。

しかし有希は、このボディ・タッチは女性にとってマイナス面しかないと考えている。女性から男性を触るのは相手への好意を暗示するもので、男性からのタッチを受け入れるのもまた言葉には出さない「OK」信号を出していることになるからだ。

お昼から翔太がシャンパンをオーダーした時は警戒していたものの、予想に反して翔太はテーブルの反対側からニコニコ有希を見ているだけだった。



「石田さんって、女性を裏切ったりすることありますか?」

楽しく話していた最中、急に有希は質問を口にした。

これは有希の最後の踏み絵だった。あえて2人が楽しい状態の時に、相手にとって都合の悪い話をする。その時に対応に困ったり、話を流したりする男性は、あまり誠実でないことが多い。

例えば結婚の話題もそうだ。付き合う直前の一番2人が楽しい時に「結婚前提ですよね?」と聞いて、「YES」と言えない男性はその後も恐らくその気はないだろう。

「急にどうしたの……?驚いたよ。」

そして、こう続けた。

「こんなことで、気休めになるか分からないけど、僕の親父は警視庁勤めで、かなり厳しく育てられたんだ。特に異性関係にはうるさかったよ。」

なんでそんなことを聞くのか分からない。というきょとんとした顔で翔太は有希を見つめていた。


持続力の確認。飽きっぽいは、最も避けたい相手。

「今日はありがとう。この後も、と言いたいところだけど、また別日にご飯に誘わせて。」

いつもであればディナーに行く時間に、翔太と別れることになった。

「次はいつが空いてる?」

有希が駅のホームで問いかけると、翔太はにっこり笑って反対側の電車に乗り込んだ。

「有希ちゃんのためなら365日空けるって!また連絡するから!」

自分の都合の良い日しかあげない男性、まずは女性側の空いている日を聞いてくる男性、週の前半しか予定が空いていない男性。そんな男性からのデートのお誘いは、女性にとって自分の優先順位の低さを痛感させられる瞬間だ。

翔太の365日は嘘だったとしても、全日程差し出すという優先度の高さに有希は少し心を動かされた。



チェック項目③デート後。会う頻度は?




その後も有希と翔太は週に1回、定期的に会うようになっていたが、翔太からの有希の優先度の高さも、関心度も決して薄れることはなかった。

翔太と話していると仕事も趣味も一貫して1つのことを突き詰める傾向があり、有希は自分への好意は継続するのではないかという予感を感じていた。

翔太とデートをはじめてから、有希は珍しくコレクションを増やすことをしていなかった。所詮ポートフォリオを組むということは、複数人に興味を分散し、自分の寂しさを紛らわしているだけに過ぎない。と感じるようになったからだ。

それぞれに役割を与え、その集合体から甘い蜜を吸い上げようと考え港区おじさんをコレクションしていた有希だったが、

―しばらく、翔太だけでいいかもしれない。

そんな新しい感情が芽生えていた。

有希の脳内評価:★★★★☆(5つ星中4つ星)
・差別化をはかった奇抜なデートは好感度が高かった。どうしたら私の印象に残るのかしっかり考えているあたりに自分と似た戦略的な要素を感じる。

・デートを重ねても手出しがないことに誠実さを感じる。都合の悪い質問にも動じることがなく、ある程度信頼できる相手なのではないかと考えられる。

・まだ様子は見たいが、しばらくは翔太1人に集中投資でも十分に幸せかもしれない。

―Fin.