教育は平等、ではない。

親の経済力が子どもの教育や学力に反映される「教育格差」。

東京の中心で暮らす裕福な家庭では、子どもの教育に桁違いの金額を費やしていると聞く。

これまで、年間学費300万円をかけて世界のトップ層を目指すインターママや、親子4代白百合ママ、福翁自伝を愛読する幼稚舎ママ、敢えての公立ママなどを紹介してきた。

今回は、自身の母校でもあり、都内屈指のお嬢様学校・聖心女子学院に娘を通わせるべく準備中のママに、お話を伺った。



#File08 私は聖心で、女性にとって最も大切なことを教わった。


名前:綾香さん
年齢:30歳
子ども:長女2歳
子どもの学校:未就学(これから幼稚園受験)


週末の朝。

取材班は、尾山台の『オーボンヴュータン』で綾香さんを待っていた。

2歳の娘を父親に預かってもらう必要があるため、自宅からほど近いのだというこの店を綾香さんから指定された。

決してアクセスの良い場所にあるわけではないのに、客足が途絶えないことに取材班は驚く。

見るからに高級そうなシャツやサマーニットに身を包んだ紳士、バーキンやケリーを携えたご婦人が、ひっきりなしに焼き菓子の詰め合わせなどを購入していく。

その様子を見るだけで、この店に集う客質の高さが伺える。


「お待たせしました」


現れた綾香さんは、『オーボンヴュータン』の雰囲気にごく自然に溶け込む女性だった。

フリル袖の白トップスに、ラベンダー色のフレアスカートという品の良い装いに、手にはさりげなくフェンディのピーカブー。

ふんわりと柔らかい空気を纏う綾香さんは、小学校から高校まで聖心女子学院(以下、聖心と表記)および内部進学による聖心女子大学のご出身である。

彼女は、自身の2歳になる長女を、同じく聖心に入学させるべく準備しているそうだ。


綾香さんが、愛娘を聖心に入学させたい理由とは

女性にとって、最も大切なこと


−お子様を聖心に通わせたいのは、どういう理由からですか?

取材班の質問に対する綾香さんの返答は、明瞭だった。

「それはやはり、うまくいけば大変な思いをせずに初等科から聖心女子大学まで内部進学できますから」

−そ、そうですよね。

綾香さんの、ゆっくりとした丁寧な口調に他意はないだろう。

しかしながら「大変な思い」をして受験戦争を経験してきた我々にとってみれば、はっきり言って妬ましいことこの上ない話である。

取材班がやりきれぬ思いを消化している間に、綾香さんは続ける。

「それから私自身が聖心で、女性にとって最も大切なことを学んだと実感しているんです」

−女性にとって最も大切なこと、とは…?

「他者への、愛と感謝の気持ちです」

そういう綾香さんの言葉には、とても説得力があった。

というのは、無理を言ってお願いした今回の取材に関しても快諾してくださっただけでなく、依頼メールの返信に書かれていた言葉を、取材班は覚えていた。

そこには「こちらこそ、自身を振り返り子どもの教育について改めて問う良い機会をいただき感謝しております」というようなことが書かれていたのだ。

小さな子どもを抱え忙しい毎日を送っているに違いないのに、そんな中でも他者への気遣いと感謝を忘れない。

取材班が、都内屈指のお嬢様学校を卒業した女性の品位を、垣間見た瞬間であった。



−そういった教えを、子どもたちは具体的にどのような形で学ぶのですか?

「そうですね...」と、綾香さんはしばし考えを巡らせたのち、こんなエピソードを教えてくれた。

「例えば、学内で悪いこと…誰かの物が失くなったとか、誰かが誰かの物を壊したとかいう問題が起こったとしますね。そういう時でも、絶対に犯人探しをしたりはしません」

犯人を探さず、どうやって解決するのだろうか。取材班が首をひねっていると、綾香さんは言葉を続けた。

「聖心ではキリスト教の教えに則り、罪は罰するのではなく赦すもの。誰かを問い詰めるようなことはせず、先生は自責の念に響くお話をして子どもたちを諭します」

なるほど、非常に素晴らしい教育方針である。

−しかし、そのやり方が通用するためには、そもそも子どもたち自身に「良心」というものがしっかりと育まれている必要がありますね?

取材班の言葉に、綾香さんは大きく頷いた。

「ええ。ですから、初等科の試験ではまさにそこを、見られているように思います」


聖心女子学院初等科の考査で見られているポイントは…

見られているのは、「家族愛」


−聖心初等科のお受験では、どういう点を見られるのでしょう?

その質問に、綾香さんは「私の主観ですが」と前置きをしてからこう断言した。

「家族愛、だと思います」

それは、まさにご自身が初等科お受験を経験して感じたことなのだと言う。

「これは私の実体験なのですが、初等科のお受験で、“お受験が終わったら何がしたいですか?”と聞かれたんです」

−なるほど。綾香さんは何と答えられたんですか?

「家族で遊園地に行きたいです、と答えました。その時、校長先生がにこやかに微笑みかけてくれたんです。子どもながらに“正解したんだ”と思いました」

子どもは正直である。

咄嗟の質問に対する答えから滲み出る、家族愛。

家族に存分に愛されて育ってきた子どもたちだけが入学を許されるからこそ、罪を赦す寛容な心を大切にする“聖心らしい教育”が保たれるのだろう。

−ちなみに、初等科の考査で、親はどのような質問をされるのですか?

家族愛が試されるのは、何も子どもたちだけではないのだ。聖心初等科の親子面接では、子どもとの向き合い方を具体的にヒアリングされるらしい。

「例えば、娘がおもちゃが欲しいと言うことを聞かないときに、どうやって解決するかをその場で実演したり。そして親が言ったことを子どもに確認し、理解しているかどうかもチェックされます」

もちろん、ここでの正解は叱責ではない。きちんと何が悪いかを説明し、自責の念を喚起する方法での円満解決である。

綾香さんのお話を伺っていると、聖心が徹底して大切にしていることが何かがよくわかる。

愛と感謝の気持ち、そして正しく善悪の判断ができる心。

それは、これまで取材をしてきたどの学校とも違う素養だ。

「聖心というと箱入りお嬢様のイメージがありますよね。しかし最近は“多様に、グローバルに、よりよく生き抜く”というスローガンが掲げられ、強くたくましい女性の育成を目指しているようです」

白金の一等地に広大な敷地を擁する屈指のお嬢様学校・聖心も、時代に合わせて変革をしているのだろう。

取材班は思った。

当連載で、東京の有名私立小学校におけるお受験模様をヒアリングしてきたが、それぞれにカラーも違えば求められることも違う。

多額の教育費をかけることができる家庭ほど選択肢が広がり、迷う場面も多いのかもしれない。

とはいえ結局、子育てに正解はないし、教育にも正解はない。

親自身が何を大切に思い、子どもに何を大切にして生きて欲しいかを突き詰めた先に進むべき道があるのだろう。

「そろそろ娘のもとに帰らないと…」

そう言って眩いダイヤが光るカルティエの時計に目をやる綾香さんに礼を述べながら、取材班はこれから華麗なるお受験に挑む親子に、心の中でエールを送った。

Fin.


【これまでの華麗なるお受験】
Vol.1:年間学費300万!インターナショナルスクールの知られざる世界
Vol.2:型にはまらぬ人生を。多額の投資も厭わない、インターママのあり余る愛
Vol.3:「わきまえられること」が肝要。名門お嬢様学校、白百合学園の教え
Vol.4:願書に「福翁自伝」の感想欄が...!慶應義塾幼稚舎受験の恐るべき実態
Vol.5:華麗なるお受験: “普通じゃない”思考を養う、幼少教育の最新トレンドに迫る
Vol.6:慶應義塾幼稚舎コミュニティに所属する事で得られる、強固な絆とその真価
Vol.7:早稲田初等部で出題される6つの項目。その中でも重視される、意外な資質