丸の内勤務の証券マン・江森(通称:えもりん)、30歳。おとめ座。

外見はプーさんそっくり、愛されキャラな男。好きな食べ物はハチミツ...ではなく、『ウルフギャング』のプライムステーキ。

港区生まれ、港区育ち、育ちのいい奴らは皆トモダチ。生まれながらに勝ち組な彼は、日本を代表するエリート・サラリーマンとして独身生活を謳歌している。

イケてるはずなのに拗らせ気味な男・えもりんは、恋人探しに精を出している。しかし、真面目な損保OLとのデートにはゲッソリと疲れ、CAの菜々子とのデートは19時解散となってしまう。さらに、イケメン商社マンの親友・ハルの爆弾発言に驚愕するが...?



「後輩がさ、デキちゃったんだよね」

長年の悪友・ハルの発言に、江森は完全に言葉を失う。

「いや、俺もビックリしたんだけどさ〜...」

ハルは子どものように舌をペロッと出し、上目遣いで江森を見つめ、そして媚びるように笑った。こんな仕草がサマになる30歳の男が、他にいるだろうか。

「ってか、後輩って誰だよ...?お前、彼女いたの...?」

「あー、会社の後輩だよ。別に、付き合ってたワケじゃなかったんだけどさぁ」

この男は典型的なB型で、常日頃から自由人だと思ってはいたが(江森は几帳面なA型である)、まさか付き合ってもいない女を妊娠させるほどの無謀を侵すとは、さすがに驚愕である。

「...それ、お前の子どもだってことは、確かなのか...?」

「失礼な奴だな。彼女はそんな子じゃねーよ」

なぜに、そこは自信満々なのか。江森には到底理解し難いが、ハルが妙な決意を固めているのは、紛れもない事実であるようだった。


悪友の【ご報告】に、ヤケになる江森を待ち受けるのは...?

「結局、お前は自分が一番大好きだよな」


「ハルが結婚しちゃったら、残されたボクとまゆちゃんはどうなるんだよー」

六本木の『ミントリーフ モヒートバー』へ移動するなり、江森はこのバーの名物である様々な味のモヒートを浴びるように飲んだ。

甘味のあるカクテルは大好きだし、今日はとことん飲んでやりたい気分なのだ。

この店はテーブルチャージもサービス料もないカジュアルだがオシャレなバーで、しかも午前5時まで営業している。



「おいおい、まゆこを一緒にするなよ。あいつこそ、たぶん彼氏できたばっかりだぜ」

「...う、うそだろ...?この前会ったときは、そんなこと一言も聞かなかったよ...」

まゆこはやはり長年の女友達で、ハルの勤める商社で秘書をしている。

彼女は江森の良き恋愛相談相手で、かなりの美人ではあるが、とにかく性格がキツい。それに30歳になるのに理想は日々高くなるばかりだから、結婚はおろか、恋人なんて絶対にできないと踏んでいた。

「二人して、ボクを置いてけぼりにするんだな...。はぁ。いいなぁ、まゆちゃんもハルも。ボクに幸せが訪れるのは、いつなんだろう...」

江森は完全に酔った頭で、妄想にふける。

彼女や奥さんになる人は、優しくて上品で、色白で少し色気のある感じの美人がいい。あとは頭も良くて、外では自分を立てつつも、ちょっと尻に敷いてくれるくらいの強気さがあると面白い。

かつ、それなりレベルの四大卒で、家族関係も良好な子でないとダメだ。さらに言えば、地方出身者よりも、できれば都内出身がベターである...。

「えもりんってさ...」

江森が独り言のように理想を呟いていると、ハルがシラけた様子で言う。

「彼女が欲しいのも、結婚したいのも分かるけどさ。でもお前って、結局自分が一番大好きだよな。女のことも、自分のアクセサリーくらいにしか思ってないだろ?

そういう利己的な奴って、薄っぺらいっていうか、男気がないよな。だから結局、いつまでも中途半端に独りなんじゃないの?」

「...う、薄っぺらい?男気が、ない...?」

江森は思いがけないカウンター攻撃を食らったように、ショックを隠せず、バーからずり落ちるようによろめいてしまう。

そんな自分を、ハルは色素の薄い瞳に同情のような色を滲ませ、哀しそうに見つめていた。

ああ。自分は長年の親友に、憐れまれているのだ。そう理解するまでに、少しの時間を要した。


ハルの説教に撃沈する江森が出会ったのは...?

普段は強気な“彼女”の意外な姿に、不意打ちを食らう男


ハルに説教された夜から、江森はすっかり自信を失ってしまった。一言で言えば、“撃沈状態”である。

―薄っぺらい...。男気がない...。

このセリフを、何百回反芻しただろうか。それはまるで呪いのように、江森の頭から離れない。

―ていうか、そもそも何で俺が、あんな女たらしに説教されなきゃならないんだ...?

ハルの説教は日がたつにつれて、ボディブローのようにさらにジワジワと精神的に効いてきた。面と向かった“ダメ出し”というのは、けっこうツラい。

それに、江森は褒められて伸びるタイプであり、実はかなり打たれ弱いのだ。

お盆前で仕事はスローダウンしたというのに、江森は凹み過ぎて、これまでのようにせっせと女の子とデートの予定を立てる気力もすっかりなくなってしまった。

CAの菜々子へ送ったLINEは既読スルーされているし、損保OLの奈央や生肉撮影女・亜美のLINEは、逆に既読スルーしている。

夏休みの予定も皆無で、この暑い夏に惨敗した気分だ。

定時に会社を出ると、江森はトボトボとあてもなく仲通りを歩いた。



―まだ、セールやってるかな...。

夏らしいカッコいい服でも買って、ちょっぴり気分転換するのもいいかも知れない。そう思い新丸ビルのユナイテッドアローズに立ち寄ろうとすると、見覚えのあるシルエットが目に入った。

「あ、まゆちゃん!」

「えもりん...」

まゆこは何となく虚ろな表情で、力なく答える。いつもの刺々しくも美しく溌剌な彼女の、こんな姿を見るのは意外だ。

「まゆちゃん、元気ない?どうしたの?夏バテ?」

「......ううぅっ」

江森が顔を覗き込むなり、まゆこは突然顔を歪ませ、その目にはみるみるうちに涙が滲んだ。

「ど、どうしたの?!まゆちゃん...?」

急に泣き始めたまゆこに江森はひどく焦りながらも、とりあえず道端のベンチに座らせる。そしてラルフローレンのハンカチを差し出すと、彼女の涙はさらに止まらなくなった。

「えもりん...私...」

顔を上げたまゆこの表情を見て、ハッと息を飲む。

ハの字に垂れさがった眉、涙でたっぷりと潤った大きな瞳、そして、小刻みに震えるピンク色の唇。その顔は普段の強気で高慢な彼女からは想像もできないほど弱々しく、今にも壊れてしまいそうだ。

「ま、まゆちゃん...」

思わずまゆこの身体を支えるように腕を回すと、彼女はしおらしく、江森の肩にそっと体重を預けてきた。

お互い丸の内勤務の二人が、丸の内のど真ん中で抱き合うのをもしも誰かに見られたら、一体どうなってしまうのか。

江森はソワソワと及び腰になりながらも、まゆこの柔らかな身体の温もりと女らしいフローラルな香水の香りに、胸をドキドキと高鳴らせていた。


▶NEXT:8月15日 土曜更新予定
まゆこの意外な姿にトキめく江森。彼女に一体なにがあったのか...?!