―私、年内に婚約するー

都心で煌びやかな生活を送る麻里・28歳は、ある日突然、こんな決意を固めた。

女の市場価値を冷静に受け止めれば、20代で結婚した方が絶対お得に決まっている。

掲げた目標は“今年中にプロポーズされる”こと。

麻里は本気の婚活を決意し、とうとう運命の男・優樹に出会う。しかし、なかなかデートに誘われず、告白もされない。彼には、実は別れられない恋人がいたが、修羅場の末、麻里は優樹の奪還を果たした。



「麻里ちゃん、大好きだよ...」

優樹が優しく耳元で囁くたび、麻里はトロけそうな幸せに酔いしれる。

今日一日で、一体どれだけ愛を囁き合っただろうか。

「私も大好き」

優樹の元カノを撃退し、晴れて恋人同士になった二人は、とにかくラブラブMAX状態である。

この週末は「ハイアット リージェンシー 箱根 リゾート&スパ」に小旅行にやって来たが、二人は部屋の窓から紅葉に色づき始めた強羅の山々を眺めながら、一歩も外に出ずにイチャイチャしていた。

とにかく毎日会いたい、一日でも会えない日があると寂しい、数時間LINEが既読にならないだけで胸がハラハラと落ち着かない...

なんて、普段なら鼻で笑いたくなるような少女漫画級の恋に、麻里はどっぷりと浸かっている。

「麻里ちゃんが、俺のものになればいいのに...」

麻里の身体をきつく抱きしめながら、優樹は切なそうに呟く。

―そんなの簡単よ。方法は、たった一つじゃない...。

心の中で返事をしながら、麻里は“年内婚約”という目標が叶いつつあるこの現状に、一人興奮して震えそうだった。


ラブラブ過ぎる二人。親友の冷静な忠告とは...?

茶番のような恋人劇場


「じゃあ麻里ちゃん、行って来るね。向こうから必ず連絡するから」

数日後、麻里は優樹のマンションのエントランスで、ニューヨーク出張に旅立つ彼を見送っていた。

交際が始まってからというもの、もはや半同棲のような形でほぼ毎日一緒に過ごしているため、4日も離れ離れになるのは胸が痛い。

「私のこと、忘れないでね。CAさんに色目を使われないでね...」

「もう、そんなことばっかり言って...。俺、麻里ちゃん以外の女の人に興味なんかないよ」

優樹は冗談のようにクスクス笑うが、麻里はわりと本気で心配している。なぜなら、

“ビジネスクラス+外銀の爽やかな若者=独身CAの恰好の獲物”

に違いないではないか。

実際、食事会などで居合わせて友達となったCAの女たちは、イイ男がいれば躊躇わずに声をかけたり、過剰なサービスで気を惹くと言っていた。

そんな恐ろしい場所に最愛の恋人を送り出すと思うと、もはや目に涙が滲んでしまう。

「麻里ちゃん...そんな顔しないで。向こうで空き時間もありそうだから、お土産買って来るね。ねぇ...何か欲しいモノ、ある?」

優樹は麻里の頬を撫でながら、優しく問う。

ーゆびわー

瞬時にその3文字が頭に浮かぶが、麻里はそれをぐっと堪え、優樹に抱きつく。

「優樹くんが無事に帰って来てくれれば、それでいい...」

「...麻里ちゃん、本当に愛してるよ...」

そして二人は熱い抱擁を交わし、しばしの別れを惜しんだ。


結婚に前のめる女


「......まるで茶番ね」

一連の報告を済ませると、みゆきは呆れたように笑った。

「それで、結婚願望については?ラブラブなうちに、きちんと確認した方がいいわよ」

今日は白金台の八芳園内にある『スラッシュカフェ』に来ている。ここはテラス席あり、広々とした庭園の眺めも最高で、使い勝手の良いカフェだ。

「はっきりとは聞いてないけど...。でも優樹くん、“麻里ちゃんを俺のものにしたい”なんて言ったのよ。ニューヨークのお土産、婚約指輪だったらどうしよう...!」

そんな期待をするのは、さすがに前のめり過ぎだろうか。

いや、しかし。

彼は出発前、麻里にお土産は何がいいか何度も聞いていた。少しシャイな優樹のことだから、ひょっとすると彼もその気で、麻里の後押しが欲しかったのかもしれない。

「さすがに付き合って数週間で、指輪はないでしょ...?麻里、盛り上がるのはいいけど、のぼせすぎて失敗しないでよ?そもそも、優樹くんは彼女持ちの男だったんだから...」

みゆきの忠告に、麻里はほんの少しムッとする。

「あのね、優樹くんは、これまでの男とは全然違うの!彼だって絶対同じ気持ちよ。結婚を意識してないなんて有り得ないから大丈夫よ」

しかし、数日後にはその自信が打ち砕かれることになるとは、麻里は全く予想していなかった。


帰国した優樹。そして、彼から贈られた初プレゼントとは...?

NYからやってきた、予想外のおみやげ


「麻里ちゃん、ただいま!」

出張から帰宅した優樹は、玄関のドアを開けるなり、エプロン姿の麻里を真っ先に抱きしめた。

今夜は海外出張で身体も胃腸も疲れている優樹のため、麻里は彼の自宅で、慣れない手料理を用意して待機していたのだ。

「優樹くん、会いたかったよ...」

「俺もだよ。何回も麻里ちゃんの夢見ちゃったよ...」

何度も熱い口づけを交わしながら、麻里は改めて、この愛しい恋人への愛を確認する。

上品で爽やかな外見は最初からタイプであるし、ニューヨークにいる間も、優樹はきちんと連絡をくれた。

そして何よりも、変に気取らず、こうしてストレートにたっぷりと愛情表現を示してくれる彼が麻里は大好きだ。

「あ、そうだ。麻里ちゃんのおみやげ!」

優樹がRIMOWAのスーツケースを探る間、麻里はドキドキと胸を高鳴らせていた。

まさか指輪とまでは行かないが、元カノとの修羅場という苦難を乗り越え結ばれたのだから、初めて贈られるプレゼントに多少は期待していいはずだ。

するとその瞬間、優樹は深いボルドー色の紙袋を取り出した。

―えっ、カルティエ...?!?!

麻里は胸の高鳴りはますます激しくなり、呼吸すらままならなくなる。

しかし優樹は、そのカルティエの袋をサッとよけ、ニコニコしながら免税店のビニール袋を差し出した。

「麻里ちゃん何もいらないって言ってたけど、いつもデザートを美味しそうに食べてるから...」

そしてモジモジと恥ずかしそうに取り出したのは、なんとゴディバのチョコレートの小さな箱である。

拍子抜けしてしまった麻里は、一瞬目が点になる。

―え、ゴディバ...?チョコは好きだけど、日本でもどこでも買える、ゴディバがおみやげ...?



「あ...ありがとう......う、嬉しい...」

麻里は震え声でやっと答えたが、カルティエの袋が気になって仕方がない。

「ねぇ、それは...?」

「ああコレ、俺、うっかりベルト忘れちゃって。せっかくだから、五番街のカルティエで買ったんだぁ」

麻里は「そうなの...」と苦笑いしながら、その五番街で他に買うものはなかったのかと、激しく問いただしたい気持ちに駆られる。

「麻里ちゃん...」

気力がすっかり無くなってしまった麻里を、優樹が熱っぽく見つめている。

「俺、麻里ちゃんのこと“は”、本当に好きだよ。可愛くて女の子らしくて、しかも優しくて...。手料理まで用意してくれて、ありがとう」

ここでふと、“麻里ちゃんのこと『は』”という一言が気になった。

「ねぇ優樹くん。今さらなんだけど...。あの元カノさんとは、どのくらい付き合ってたの...?」

「え...?う、うーん...3年くらいかな?」

「ちなみに...彼女と結婚しようとは思わなかったの...?」

思い切って聞くと、優樹は嫌なことを思い出すように、ひどく顔を歪めた。

「正直、彼女はずっと結婚したがってたけど...。俺、やたらと結婚したがる女の子って、物凄く苦手なんだ」

彼が吐き捨てるように言ったとき、麻里は目の前が真っ暗になった。


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まさかの婚活女子嫌いだった優樹。麻里は食事会三昧の生活に舞い戻る...?!