私たちは、東京にいる限り夢を見ている。

貧しい少女にガラスの靴を差し出す王子様が現れたように、いつかは幸せになれると。

だが必ず、自分が何者でもないと気づかされる時が来る。

神戸から上京し、港区女子へと変貌を遂げる真理亜と、その生き様を見つめる彩乃。

彼女たちが描く理想像は、現実なのか、それとも幻なのか...

真理亜の育ちの良さに嫉妬しながらも、東京でもがきながら生きる彩乃。しかし急に真理亜がアメリカへ旅立ち、ホッとしていたのだが...



どうして私たちは、人のことが気になるのだろうか。

誰かが眩しくて、そして憎らしくてたまらなくなる。でもそれは、自分自身のコンプレックスを反映しているだけなのかもしれない。



真理亜があっさりとアメリカへ旅立ってから、1年が過ぎようとしていた。

東京で一生懸命働き、美容にもお金を注ぎ、それなりに遊んで手入れしてきた分、22歳の頃の自分よりも、26歳の今の方が見た目には自信があった。

そのせいなのか、連日のように食事会へ参加したお陰なのか、私は医者の健一郎という彼氏を捕まえた。

「私の彼氏、医者なの。」

最近女子会で彼のことを言うたびに、少し鼻高々となる。そして彼と付き合ったことで、女友達との関係性にも変化が出始めた。

「私の友達、可愛い子しかいないんだよね。」

気がつけば、周囲は皆可愛い子で固めていた。可愛くない子をそばに置くなんて、耐えられない。

彼女たちに埋もれることで、自分もその一員だという安心感が生まれる。SATCの原理で、中途半端に綺麗な女性たちでも、3人以上揃えば何となく美人に見えるのだ。


でも結局、こんなことを言っている間は決して幸せになれないと、後になって気がつくことになる。


本当は怖い女友達。笑顔でマウンティングする女にご注意を

理想の誕生日


「彩乃、今度の誕生日は『銀座うかい亭』でお祝いする?」

誕生日。その言葉を聞くたびに、佐藤に祝ってもらった誕生日を思い出す。

たしかあの時、私はルブタンを貰って、大喜びしていた。

今の私は、一体何を望むのだろうか。

「ありがとう。健ちゃんも忙しいと思うから、無理はしないで。でも誕生日の日は当直入れないでね。」

『銀座うかい亭』の重厚感溢れる内装に、目の前で調理される鉄板焼き。クラシックで、特別感が詰まっている店だ。



このお店で彼氏にお祝いをしてもらえるなんて、私もだいぶ大人になったものだと考えながら、ワイングラスに口をつける。

昔は、ワインの味なんて分からなかった。

こうして銀座の一等地にある最高級の店に似合う女性に、私はなった。どんな場所に出ても恥ずかしくない、素敵な鞄に良い靴が鎧となり、私を守ってくれる。

それに加えて素敵な彼氏に、東京の一部の人しか味わえないであろう、憧れを持たれるような生活。

もう、私は大丈夫。これで強くなった。そう思っていた。


女友達の笑顔の裏に隠されたマウンティング魂


「この前、お誕生日だったんだけど彼が『うかい亭』に連れて行ってくれたの。」

最近よく遊んでいるグループの女子会で、お互いの近況報告をしているうちに、いつの間にか話題は先日の誕生日の話になる。

「そうなんだ〜、よかったね。私、彩乃ちゃんには早く幸せを見つけて欲しくて。」

そのグループにいる、少しだけアクの強い早苗が、笑顔で私に向かって話しかけてくる。

—よかったね。早く幸せを見つけて欲しい。

早苗が言い放ったこの言葉を、頭の中で反芻する。一瞬、聞いただけでは分からない。

でも今一度よく言葉をかみ砕いて自分の胸へ届けようとした時、この言葉はガラスの破片のように細かく私の心を傷つけた。


—あれ?私今、馬鹿にされてる?


永遠に抜けられない、女の嫉妬ループ。抜け出す方法はただ一つ

早苗は、常に自分が中心にいないと嫌な人だった。表面上の軽い付き合いだけでは、彼女の心の闇に気がつかない。

けれども少し仲良くなると、彼女はまるで昔の自分を見ているようで胸が痛かった。

「早苗ちゃんは?最近どうなの?」

早苗に話題を振ると、彼女は待ってましたとばかりに最近の自分の出来事を話し始めた。

その光景を見て、急に馬鹿らしくなる。

女友達って、なんでこんなに面倒なのだろうか。結局、私たちは生きている限り他人からの評価に晒され、そして気をつかって生きなければならない。

そして彼女のように笑顔でマウンティングしてくる女友達を、簡単には跳ねのけられない。

「私なんて、今年の誕生日は旅行がプレゼントだったから。日本での鉄板焼きディナーとか、羨ましい!」

良い鞄さえあれば、この靴さえあれば、そして大きな家に素敵な王子様さえいれば、誰もが幸せになれると信じている。

でも、心はそれだけでは満たされない。

常に何かを探して、人と比較して心をエグられ、そして私たちは傷つかないように自分の身を守る術を身につける。

笑顔で人の心を踏みつける、という技を身につける人もいる。

早苗が私を見下しているのは明らかだった。いや、正確に言うと、自分が一番でないと気が済まない彼女は、私の話が面白くなかったのだろう。



不意に、シンデレラの話が頭の中をよぎる。継母たちにいじめられていたシンデレラは懸命に耐え、魔法の力でお城へ行って王子様に出会えた。

でも、それだけではない。

ガラスの靴を王子様が見つけやすい所に忘れたお陰で、王子様はその靴と共にシンデレラを見つけられたのだ。

でも、仮に靴を落としていなければ?森の中に落としていたら?

決して、待っていただけではない。
彼女は、自分自身で幸せを掴みに行ったのだ。


そんなことを一人で考えていると、仕事の電話で現実に引き戻された。

「ごめん、仕事だから行かなくちゃ。またね。」

お会計を先に済ませ、一人外に出る。ビルの合間から吹く風は冷たく、思わず身震いするが、あの女子会から抜け出せたことにホッとした。

—真理亜だったら、この状況を何て言うのかな。

空気が澄んでいるせいか、空が綺麗に見える。きっと彼女だったらこう言うに決まっている。

「私なんて、まだまだだから。みんな、凄いね。」

出来る女に限って、謙虚だ。そして人に対して優しい。コンプレックスがある女は、そのコンプレックスが顔に表れる。

うまく表現できないけれど、表情が硬く、常に人に対して批判的だったりする。25歳も過ぎると、女の生き様は顔に出る。


—私は今、どんな顔をしているんだろう。


急に、女友達を顔で選んでいた自分が恥ずかしくなった。もういい加減、このくだらない東京戦争から一歩抜け出そう。

駅に急いで歩き始めた途端に、まるで漫画のように、ピンヒールの先が石畳の間に挟まり、思わず片方の靴が脱げてしまった。

でも、当たり前だがこの東京では誰もその靴を拾ってくれない。

コケてもつまづいても、自分自身で靴を拾い、そして再び歩き出すしか道はない。


—自分の人生は、自分で切り開く。


慌てて靴を拾い、恥ずかしさで下向くところだが、私は笑顔で上を向き、大きく歩き始めた。


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真理亜が東京を去った、本当の理由とは?