結婚に必要なのは、お金or愛?

それは、女にとって永遠のテーマである。

“最後は愛が勝つ”と信じたくてもそれは理想論だということに、女たちは徐々に気づいていくのだ。

しかし「お金より愛が勝つ」と言い切る、ある女がいた。

その名は、愛子。

金に糸目がない女だらけの東京において、愛子は信念を貫き、幸せな結婚生活を勝ちとれるのか?

広告代理店で働く29歳の愛子は、大手通信会社勤務の知樹と結婚を決め、幸せな毎日を過ごしている。

一方、同時期に医者との結婚を決めた親友の明日香は、いつか絶対、愛子に「愛より金」だと認めさせてみせると固い誓いを立てていた。



「披露宴会場の件なんだけど、やっぱり君の望み通り、リッツ・カールトンに出来ないか、両親に話してみることにしたよ。明日香の夢だったんだろう?」

『乃木坂 しん』でのディナー中、突然切り出した公平を見つめながら、明日香は天にも昇るような気持ちになった。


―結婚式は、絶対にリッツで挙げたい。


それは、明日香が公平と出会うよりも前から決めていたことだ。だから、公平の御両親が別のホテルを推していると聞いたときはひどく落ち込んだものだ。

この結婚の門出を祝う舞台は、一流ホテル群の中でも最高峰に位置するホテルでないといけない。

明日香は嬉しくなって、家に帰るなり、早速サークル仲間のグループLINEに報告を入れようとしたが、ふと思いとどまった。

—独身の友達に結婚式の話なんてしても、面白くないわよね。

LINE画面を閉じて、大きくため息をつく。

「あーあ、どこかに、思いっきり結婚式の話ができる相手はいないかなあ…」

そのときパッと閃いた。Instagramがあるではないか。

そして明日香は、普段のアカウントとは別に「花嫁専用アカウント」を開設した。

“asuka_gorgeous_wedding”と名付けたアカウントのプロフィール欄には、他のユーザーの花嫁アカウントを見よう見まねで、こう記した。

“2018.9 挙式予定@ザ・リッツ・カールトン東京。プレ花嫁、卒花の皆さん仲良くしてください♪また、知り合いの方は当日まではブロックさせていだきます”

これで好きなだけ結婚式の話題を投稿できる。知り合いをブロックするのは当日のネタバレ防止のためだ。

スマホに夢中になっている明日香の手元を、公平が覗き込む。

「明日香、さっきから何やってるの〜?プレ花嫁…卒花…?」

明日香は公平に説明した。プレ花嫁とは、結婚式の準備をしている花嫁予備軍のこと。卒花は、卒花嫁、つまり結婚式を終えて花嫁を卒業した人のことだ。


プレ花嫁たちの交流会「花嫁会」に参加する明日香

カリスマ・プレ花嫁への憧れ


公平は、へえ〜と間の抜けた声を出した。

「そしたら、既婚の女性は全員“卒花”ってこと?うちの母さんも卒花?」

明日香は、公平さんったら、と笑って肩をすくめた。

その後も色々なユーザーの花嫁アカウントを探索した。中には30枚以上のドレス試着写真を全て載せている強者もいる。

—それにしてもどれも安っぽいドレス。なのに、シューズだけはジミー・チュウで頑張っちゃって…。趣味が合いそうな人は、いないなあ。

私だったら…。やっぱりヴェラ・ウォン?それともオスカー・デ・ラ・レンタ?そんなことを考えながらInstagramを見ていると、あるユーザーにたどり着いた。



“美紗子”という名前の、フォロワー6万人ほどを抱える人気ユーザーだ。3ヶ月後に挙式を控える彼女は、式準備の投稿をメインに載せ、時折日常生活の投稿を挟んでいる。写真に映り込む自宅の雰囲気やファッションの様子から、抜群のセンスの良さが伺えた。

数万人のフォロワーを従え、ライフスタイルを余すところなく披露すること。それは明日香にとってまさに憧れそのものだ。

そのとき、彼女の最新の投稿に目が釘付けになった。

—花嫁会、開催します!インスタ映えするウェディングアイディア、伝授します♪

花嫁会とは、SNSを通じて知り合った花嫁たちが集まる、情報交換を目的とした交流会のことだ。明日香は目を輝かせる。

この花嫁会に行ってみたい…。でも、一人で乗り込む勇気がない。

—そうだ。プレ花嫁といえば、身近なところにもう1人いるじゃない!

そう、愛子だ。彼女が“花嫁会”のような女子っぽいイベントに関心がないことは百も承知だが、駄目元で誘ってみると、意外にも二つ返事でOKが来た。

「インスタグラマー?行く行く!今ちょうどインスタ使ったプロモーションの企画に関わっているところだから、参考になりそうだし行ってみたい!」

明日香はホッとして、花嫁会当日に備えるのだった。



花嫁会は『ロイクラトンリゾート』の個室で開催され、主催者の美紗子は、品位と余裕に溢れたオーラを放っていた。憧れの人物を目の前にして、明日香の胸は高鳴る。

参加者は約20名。ひとりひとりが名前や職業など簡単な自己紹介をして、会はスタートした。しかし内容は、明日香にとってまるで期待はずれのものだった。

そもそもの花嫁会のテーマは、“インスタ映えするDIYウェディング”。明日香が掲げるゴージャスウェディングのテーマとは180度正反対だ。

さりげなく、リッツ・カールトンで挙式予定だという旨を伝えてみたが、「そうなんですね!」と相槌を打たれただけである。次に一同の関心の矛先は、愛子へと向けられた。

「愛子さんは?」

愛子は少し考えるようにしてから、答えた。

「そうですね、まだ色々と模索している段階なんです。今興味があるのは、ナチュラルな雰囲気の装飾や演出ですね」


明日香の嫉妬、そして野望。

明日香の野望


するとプレ花嫁たちが急にキャッキャと盛り上がる。

「ナチュラルウェディング、素敵ですよね!そしたら例えば、森で挙げるウェディングは?最近、都心を離れて自然の中で挙げる結婚式も注目されてますよね」

—森!!!???

明日香はギョッとした。



「森のウェディング素敵!愛子さんに似合うと思うわ!」

女たちの勢いに圧倒され、愛子が苦笑いしている様子を、明日香は呆れて見つめていた。

—森、森って何なの、この森女たちは…!


花嫁会がようやく終わり、帰り支度をしながら明日香は愛子に頼んだ。

「ねえねえ、美紗子さんと写真撮りたいんだけど、お願いできる?」

愛子は笑顔で頷いた。

「もちろん。今日のお礼も言いたいし、ご挨拶して帰ろうか」

挨拶に行くと、美紗子は二人に向かって質問を投げかけた。

「おふたりは、どんなお仕事をされているの?」

明日香のあとに、愛子が広告代理店で仕事をしていることを話した途端、美紗子の目の色が変わった。愛子にばかり質問を投げかけ、明日香のことは目にも入らないようだ。

「愛子さんってきっとすごく優秀な方なのね!あなたみたいな素敵な方に参加してもらえて、すごく嬉しい」

その言葉に明日香は複雑な気持ちを覚えたが、最終的には2人で美紗子に写真撮影を頼み、交互にツーショット写真を撮ってその場を後にした。

しかしその夜、美紗子の更新を楽しみにしていた明日香は、最新投稿を見てがっかりした。

載せられていたのは、全員での集合写真以外は、愛子とのツーショット写真だけ。明日香と2人で撮ったはずの写真はどこにもない。

—何よ…。美紗子さんだって、愛子が大手広告代理店って聞いたからインスタグラマーとして顔を売っておきたいだけよ…。

明日香は、だんだんと怒りが湧いてくるのを抑えられなかった。

—何がDIYよ!!Do it yourselfだなんて笑っちゃう!

ナチュラルウェディングなんて、ラグジュアリーなウェディングが挙げられない人の言い訳に過ぎないし、DIYなんて業者にオーダーするお金を節約するための都合のいい言葉だ。

あんな場所に、自分に釣り合うレベルの人間はいない。

「そうだ!花嫁会を、自分で企画すればいいんだわ!」

明日香はぽんと手を打った。一流ホテル挙式者限定の花嫁会を、自分で開けばいいのだ。

愛子は、式の費用は知樹と折半だと言っていた。いつもなら欲しいものは自分で買うと言い張る彼女も、こればかりは相手に合わせて予算を削るしかない。一生に一度のイベントなのに、なんと気の毒なことか。

—私は私にふさわしい世界へ、行かせてもらう。そして見てなさい。結婚式で、とことんレベルの違いを思い知らせてやるわ。


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