就職活動は、今や「売り手市場」と言われ、かつての就職氷河期などどこ吹く風。

しかし、時代を問わず“狭き門”とされる企業は常に存在し、選ばれし者だけが生き残るのが現実だ。

そして「就活の頂点」を目指す若者たちは皆、こう信じている。

−就職で、すべての人生が決まる。

本連載で紹介するのは、内定のためなら手段を選ばない数々の猛者たち。彼らが語る、驚くべき就活のリアルとは?

先週、あらゆる内定を捨てた男が登場したが、今週は…?



【今週の就活女子】

・名前:亜美(30歳)
・現在の勤務先:大手日系電機メーカー
・出身大学:都内ミッション系大学
・就職時の内定企業:現在の勤務先、ベンチャー企業


「今日はこの後、某大企業主催の若手交流会に行くんです」

『和光アネックスティーサロン』に現れた亜美は、仕事帰りとは思えないほど気合の入った、総レースのワンピースを着ている。

席につくなり、亜美は大企業の素晴らしさについて語り始めた。

「今、会社の寮に住んでるんですけど、清澄白河で家賃1万5000円なんです」
「あと、生理休暇もしっかり取れるし、有給消化率もすっごく高くて」

そして、無意識なのか分からないが、彼女は最後に必ず「やっぱり大企業って良い」と言うのだ。随分、大企業信仰が強いらしい。

少々面食らっていると、亜美は思い出したように就活の話を始めた。

「私、どうしても大企業に行きたかったんです。そのために、ボストンまで飛びました」


ボストンに向かった目的とは…?

サラリーマンほど、恵まれた働き方はない


横浜市で生まれ育った亜美。父は、建設関係の会社を経営していた。父の会社はうまく行っていて、それなりに裕福な生活をしてきたそうだ。

小さい頃から、華道や日本舞踊などの習い事をしていたし、高校時代には1年間オーストラリアに留学をした。恵まれた家庭環境で育てられたのである。

しかし、亜美が大学に入学した頃、状況は変わった。父親の会社の経営が悪化し、生活が急変したのだ。

奨学金を借り、亜美もアルバイトで自分の生活費を稼ぐ日々。

その当時、家庭内はどんよりと暗かった。全員がピリピリした雰囲気で、何を話すにも気を遣う、ひどく疲れる毎日が続いた。

その後、亜美の兄も手伝って何とか会社を持ち直すことが出来たが、これをきっかけに亜美は、経営者の不安定さを痛いほど思い知ったのだ。

「絶対に、安定した企業に行く」

そう決めた亜美。それ以来、“安定した企業”は、彼女の就活におけるたったひとつの軸となった。

亜美の中では、安定した企業=大手日系企業だ。

「今や、大企業=安定は通用しないって言いますけど、絶対にそんなことはないと思います。だって、経営危機に瀕した航空会社や家電メーカーは、結局残っているじゃないですか」

それに先輩から話を聞く限り、日系の大企業の多くでは、給料は安定的にもらえるし、手厚い福利厚生もまだまだ存在していた。

残業代もちゃんと支払われるし、休暇も取得出来る。

破格の給料やスキルなんかどうでも良い。欲しいのは、“安定”だけ。

父親が寝ずに働く様子を目の当たりにしてきた亜美は、サラリーマンほど恵まれた働き方はないと思っていた。

「それから…結婚相手も、絶対に大企業のサラリーマンって決めてました」

亜美は、将来の夫探しのためにも、どうしても大企業に行く必要があったのだ。



就活では、業界や職種は問わず、とにかく“大企業”と呼ばれる会社にエントリーした。その数、50社。

しかし亜美は、なんとすべての企業に落ちてしまったのだ。

”数うちゃ当たる”状態となっており、業界や職種ごとの対策が立てられていなかった。ろくに志望動機も言えないまま受験したというから、当然の結果だろう。

エントリーシートの段階で落ちた数は、45社。

なんとか面接に進めた5社のうち、4社は一次面接で不合格。最終面接まで漕ぎつけた1社も、結局不合格だった。

大手企業のほとんどは、面接を同時期に行う。そのため、その時期に内定を逃すと、次の採用は翌年に持ち越すはめになる。

1社くらい受かるだろうと思っていたが、内定はゼロ。亜美は焦った。周囲が内定をもらって一段落していく姿も、焦りをさらに加速させた。

亜美は、“内定ゼロ”の状態を脱するため、慌てて2次募集や通年採用の企業にエントリーした。

夏休み直前、遅ればせながら内定をもらったのは、コンサルのベンチャー企業。設立間もない会社で、ネットには、ブラック企業と書かれており、どうしても行く気にはなれなかった。

ついに就職留年を真剣に考え始めた矢先のこと。海外留学から帰ってきたサークルの先輩から、こんなアドバイスをされたのだ。

「亜美ちゃん、ボストンキャリアフォーラムって知ってる?」


亜美、ついにボストンへ旅立つ…?

大企業=安定なのか?


−ボストンキャリアフォーラム…?

ボストンキャリアフォーラム(通称:ボスキャリ)とは、毎年秋にボストンで3日間開催される、就活生のための選考会を兼ねた就職イベントである。

主に海外大学に通う学生向けで、外資・日系問わず多くの有名企業が参加している。驚くべきことに、3日間で内定がもらえることがあるというのだ。

調べてみると、亜美の志望企業がずらりと並んでいた。

−とは言っても、私は海外の大学に通ってるわけじゃないし…。

しかし、受験資格にふと目をやった亜美は驚いた。

「1年以上の海外留学経験を持っている方」と書いてあるではないか。

高校時代、留学していた経験がこんなところで活かせるとは—。

最近では、受験資格もかなり厳しくなっているらしいが、亜美が受験した当時はまだまだ緩く、“ボストンに来た者勝ち”と言われていたのだ。

亜美は、最後の希望をボスキャリに見出した。

—ダメ元でもいい。もう私に残された道は、これしかない…。

ボストンキャリアフォーラムの選考は、事前応募とウォークインの2通りがある。事前応募とは、フォーラムの前にエントリーシートを送付し、当日面接を受けるものだ。

一方のウォークイン。フォーラム当日、各企業のブースに自分の履歴書を持って売り込みに行くというものである。

事前応募で不合格でも、ウォークインで合格がもらえたなんて話も聞く。亜美は、出来る限り事前応募し、書類で不合格だった会社にはウォークインで飛び込むことにした。



そしてついに迎えたボスキャリ。この3日間に、亜美は全精力を注いだ。

ひたすら面接を繰り返し、自分を売り込む。この3日間の間、ほぼ徹夜でウォークイン用のエントリーシートの作成、面接の対策を繰り返した。

フラフラになりながら迎えた3日目。ついに、現在勤務する会社の最終面接まで進んだのだ。

疲れ果てていた亜美だが、最後の力を振り絞って自分をアピールした。

無事に面接を終えた亜美が一礼すると、面接官が手を差し出して、こう言った。

「次は、東京で会いましょう。おめでとう」

–受かった…。

ついに、内定をゲットしたのだ。

帰りの飛行機内、亜美は安堵感に包まれながら深い眠りについた。険しい道のりだったけれど、4月から安定した社会人生活を送れることが何よりも嬉しかった。

晴れて、念願の大手企業に就職した亜美。これで一件落着と思いきや、彼女は目を鋭く光らせ、こう言った。

「ボスキャリのおかげで、なんとかスタート地点には立つことができました。…でも、本当の闘いはこれからです!」

彼女の次なる目標は、安定した企業に勤める夫探しだ。

社内恋愛はリスクが高いと判断し、かなりの頻度で若手異業種交流会に参加しているという。大手企業が主催する交流会だが、実質は、独身のみに参加資格が与えられた婚活パーティー。

参加者は、名だたる日系有名企業の若手社員のみで、不毛な食事会や巷の婚活パーティーに行くよりもよっぽど的を得た出会いがあると嬉しそうに亜美は語る。

今日、大企業神話が崩壊しつつあると言われるが、亜美の信仰は相当根強いようだ。

「…ちなみに、結婚しても仕事は続けたいと思います。大手企業は、制度が充実しているので安心です。それから結婚して家を買うことを考えると、ローンのためには、やっぱり大企業が良いですよね。大企業は信用度が違いますから」

最後まで“大手企業”という単語を連発し、まだ見ぬ相手との結婚についてさんざんまくしたてたあと、亜美は交流会へと出かけて行った。

彼女が、心の”安定”を得られる日は、いつか訪れるのだろうか。


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