好き、じゃなきゃ結婚できない。
でも好き、だけでも結婚できない。

東京で勝ち組でいつづけるには生まれ・学歴・収入・ビジュアルが複雑に絡んでくる。欲望と打算と、認めたくない妥協と。

勝ち組と言われる結婚をした夫婦たちは、どう折り合いをつけハイスぺ婚に至ったのか?

披露宴で聞かされる新郎新婦の馴れ初めなんて、正直もう聞き飽きた。

ハイスペ婚に辿りついた夫婦たちの、これまでの人生とは?

広告代理店の先輩、悠が羨ましがる才色兼備の妻をもつ、智弘の人知れぬ悩みとは…?



年収1,300万円:智弘(34歳)広告代理店勤務の場合


智弘に指定されたのは『M BAR』の個室だった。

部屋に入ると、朝の帯番組を担当する男性アナウンサーに似ている、親しみやすいが端正な顔立ちの男が出迎えてくれた。

しかし、才色兼備と崇められる妻との馴れ初めを聞こうとすると、何やら神妙な面持ちで語り始めたー。



妻の真央とは仕事を通じて知り合いました。

真央は、クライアントの広告宣伝の担当者で。歴史ある一部上場企業に勤めていて、広告業界にはあまりいない清楚で可愛い外見に一目惚れでした。

話してみたら、お互い神戸出身で意気投合したんです。もちろんクライアントなので、遊びで手を出したりなんてできません。結婚を前提に交際を申し込みました。

そう、僕は“彼女しかいない”と思ったんです。なのに、なんでこんなことになったんでしょうか…。

僕は神戸といっても三田市の出身です。中高は男子校の灘に通っていました。自由な校風で有名ですが、東大に行くのが当たり前という風潮なので、勉強が中心の生活でしたよ。

勉強しなきゃ東大に入れない僕は、灘の中では頭が良いとは言えませんでした。それでも必死で勉強し、東京大学への進学を期に上京しました。それまで勉強ばかりで、女の子となんて会話すらしたことありませんでした。

思えば東大に入ることが目標になってしまっていて、入学してから目標を見失ってしまったんですね。加えて初めての一人暮らし。テニスサークルに入ったら日替わりで女子大とのコンパ。

可愛い子が「すごい、すごい」と笑顔で話を聞いてくれる。こっちは、ちょっと肩が触れただけでもドキドキしてしまうのに太腿を触られたりして、今まで律していた自分の欲求が一気に爆発してしまいました。

とにかく、そういうことをしてみたくて。緊張してるのがバレないように、その子を家に誘ってみたら、拍子抜けするくらいあっさりとついてきて。

それからはもう、無我夢中でした。


センター試験には出題されない、ワンチャンの方法

僕が達成感に包まれていたら、その子、こう聞いてきたんです。

「私達、付き合ってるよね…?」って。

東大入学後の目標を持っていなかったように、その子ともその先を考えてたわけじゃなかったので狼狽えました。気の効いたことも言えずにいたら、怒って帰ってしまったんです。

数日後、サークル内に、僕が初めてでイマイチだったと吹聴されていました。あんなにあっさり家についてきたくせに、酷い仕打ちだと思いましたよ。そのサークルはすぐに辞めましたが、コンパ漬けの日々は続きました。

便利な言葉も、覚えました。

とにかく先に「今は彼女を作るつもりは無い」って言っておくんです。それでも女の子に困ることはありませんでした。

でも…初めての子に言われた言葉がトラウマになっていて、疑心暗鬼というか、フラれる前にフラないと心が保てなくなっていました。真剣な交際が怖かったんです。

学業を疎かにしていた訳じゃ無いんですが、灘ですら落ちこぼれだったのに東大に入ったら神童みたいなのがいっぱいいるんですよ。僕は、そこでの競争には勝てるわけも無いですからね。

だから勉強はそこそこに、文学部に進み、普通に就職活動をしました。文学部に進んだのと辻褄を合わせるために、今の会社への就職を決めました。一応、専攻の内容を活かせるという大義名分がありますから。

入社してからは、お食事会に明け暮れる毎日でした。初めは、給料を手に入れて学生時代にできなかった様な派手な遊びをするのが楽しかったけど、しだいに虚しくなってきて。

まるでね、回転寿司みたいだなって思えてきたんですよ。

学生時代の女子大生とのコンパが一皿100円の回転寿司チェーンなら、社会人になってCAとか読モ相手にするお食事会は、少しランクが上がって一皿130円の回転寿司みたいな。

…何周レーンを回ってるか分からない寿司を食べても美味しくないなって、ようやく気付いたんですよ。



そんな時に、クライアント先で出会ったのが真央です。清楚な美貌に、チームの男どもはみんな釘付けでした。

オフィスに帰りながら、みんなで「とにかく可愛かったな」しか言えなかったですね。日頃はお食事会の時に、下品に女の子達を品定めする連中でも、真央の上品さの前には軽口もたたけなくなっていました。

今までコンパしてきた子たちが回転寿司なら、真央はカウンターでしっぽりと食べる高級江戸前寿司だったんです。

競合とのプレゼンに勝って、暫くしてから二人で食事に行き、その日に真剣に付き合ってほしいと伝えました。でも、真央が困った様な顔をしてて。


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そうしたら、「実は今迄きちんと男性と交際したことが無いんです」って恥ずかしそうに言ったんです。

こんな可愛い子がなんでと思いましたが、僕は嬉しくて堪りませんでした。真央のペースに合わせて付き合っていくことになったんです。

そして僕が30歳になる前にプロポーズをしました。

ずっと落ちこぼれだった僕が、こんなに素敵な女性と結婚できるなんて。僕しか知らない真央と結婚することで、絶対的な自信と安らぎを手にした気持ちでした。

両家の挨拶も済んで婚約の準備が整い、お互いの会社に報告したら、やはりどちらかの異動は避けられないとの話でした。

結局、真央が広告宣伝の部署から離れることになって。真央は、どちらにしろ異動のタイミングだったから…と言っていましたが、なんだか少し寂しそうでした。

新婚旅行から帰ってきて、すぐに仕事におわれる日々に引き戻されました。それでも、平日はお互い仕事に全力投球して、週末はなるべく一緒に過ごせる様に、ゆるくルールを作って新婚生活を満喫していたんです。



幸せな新婚生活だったはずなのに…。

今でも、ハッキリと覚えているのですが…珍しく平日早く帰れたので、ベッドで本を読んでいる真央に、抱きつこうとしたら振り払われて。恥ずかしがっていた訳じゃなく、本気で僕を拒絶しているようでした。明日も仕事だから寝かせてと言われてしまい…。

それから、また拒否されたらどうしよう…と考えると誘えなくなってしまい、気がついたら体の方も反応しなくなってしまったんです。

恥ずかしくて病院には行きたくないし、試しにプロのお店に行ってみることにしました。そうしたら、全く問題無くできて。

…なのに、真央を前にすると、緊張してしまってダメなんです。

気がつけば数か月が経っていました。週末をなるべく一緒に過ごすルールも、いつのまにかなおざりになっていました。

そしてついに真央から、「仕事に集中したいからベッドを分けて欲しい。」と言われてしまいました。僕は内心は嫌だったけど、まだ真央の躰に触れる勇気が出なかった。しばらく離れて様子を見た方が、僕自身も回復するかもしれないと思って受け入れたんです。

しかし…しばらくのつもりが、タイミングがつかめないまま数年が経ってしまいましたー。

今度、プロのお店の子に相談してみようと思っています。

まるで回転寿司みたいだと内心馬鹿にしていた子に、こんな形でお世話になるとは情けないですよね?


罰が当たったのかな…。


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