東京を歩けば、ポルシェはもちろん、フェラーリ、ランボルギーニなどのスーパーカーといわれる「超」高級車を当たり前のように目にする。

なぜなら世界でも指折りのスーパーカー保有国である日本の、その殆どの車がこの狭い東京に集まっているのだ。

そのスーパーカーの深く低いシートに、サングラスを掛け悠然と座る女たちがいる。

数千万円を超す車のシートに座るのは、いったいどんな女たちなのだろうかー?

これまでポルシェに座る自分に自信が持てない女性やランボルギーニに座る小悪魔を紹介した。さて、今回は?



File3:ベントレーコンチネンタルGTの女


名前:莉里花(まりか)
年齢:不明
住居:赤坂


待ち合わせ場所、ザ・リッツ・カールトン東京の『ザ・ロビーラウンジ』で、ソファーに浅く腰掛け背筋をすっと伸ばし、上品なネイルが揃う指でシャンパングラスをゆっくり傾けている彼女は、一際目を引いていた。

彼女の名は莉里花。

そんな美しい莉里花が助手席に乗る車は、ベントレーのコンチネンタルGT。価格は2,500万を超すイギリス産まれの高級車だ。

「車内のインテリアを彼と一緒に選んだのもあり、とても思い入れがあります。上質な革とウッドパネルとメタルで構成されていて品のある内装です」

ディーラーで上質な革やパネルのサンプルを手に取りながらシミュレーターで車を作り上げるというのは、洋服やバッグをオーダーするみたいで楽しかったという。

「フロアマットは私の靴に傷が付かないようにと、毛足が5センチくらいある白いムートンのオプションを彼がチョイスしてくれました」

土足で乗る車の敷物に白いムートンをチョイスするなんて一般人には理解不能だが、ベントレーを所有する彼が彼女をとにかく大切に思っているという事だろう…。


只ならぬ雰囲気を持つ彼女の正体とは?

彼女の職業は、銀座の老舗クラブに籍を置くホステスだ。聞くと将来ママになりたいといった願望も一切なく、週の半分程度しかお店に出ていないという。

「私がお店に出るのは特定のお客様がいらっしゃる時や、知り合いの男性と食事をしたその流れで顔を出す時くらいです」

それだけの出勤でも十分な収入を得る事ができるのだろうか?今美しいからといって将来に渡りホステスとして働くには、厳しい状況に陥るのではないのだろうか?

「私には一生独りで生きるのに、十分な資産があります」


彼女の実家は名古屋の高級料亭だったという。母は店を手伝っていたが実質的に店を切り盛りしていた祖母との折り合いが悪く、父は名ばかりの経営者で毎日遊び歩いていた。

お店は彼女が中学を卒業する頃、祖母が体調を崩したと同時に長年お付き合いのあるお客様達に惜しまれながら幕引きとなったという。

「家族は元々商売で繋がれていただけの関係で、母も他にお付合いをしている男性がいました。店仕舞いをきっかけに家族はバラバラになりました…」

すぐに両親は離婚し、父は殆ど家に帰ってこなくなった。高校に通いながら、体調の優れない祖母との実質二人暮らしのような毎日だったが、とても穏やかな日々だったという。

「祖母は私の事を心から愛情を持って接してくれて、私もそんな祖母を唯一の家族だと思っていました。祖母は自分が亡くなったら、私が独り残される事が分かっていたのでしょうね…。その時は東京に住む祖母の年の離れた妹を頼るように、と言われていました」

祖母が亡くなった時は何よりも悲しく、絶望が彼女を襲ったという。しかし、祖母は唯一の孫である莉里花に、名古屋市内のビルを数棟遺贈する手配を取っていたのだ。

「祖母は莫大な財産を持っていたのだと思います。高校生だった私には代理人だという相続に詳しい人や専門家がついてくれて、色々と調整をしてくれました。半分は税金としてなくなったようですが、それでも私1人が生きていくのに十分な収入があります」

そして、高校卒業と同時に名古屋を離れ祖母の妹を頼って東京に移り住んだ。

「独身だった祖母の妹…和子さんは、銀座のクラブを経営していました。和子さんも、祖母と同様に私の事を本当の娘のように可愛がってくれました」


銀座という場所で彼女の人生は大きく変わる

息を飲むような美しさと凛とした所作を持つ二十歳前後の彼女は、それは大変な人気者で、和子のお店は景気が悪い中でも繁盛していったという。

「何に対しても無気力な私でしたが、和子さんに感謝されたり随分年上の男性に褒められたりするうちに、自分の存在を認めてもらった…大袈裟かもしれませんが、生きていて良かったと思えるようになりました」

そもそも働く必要もない程の収入と資産を持つ莉里花だが、それから和子の元で十数年に亘り通常のホステスとは異なる形で、夜の銀座をベースに政財界や経営者達との繋がりを築いていった。

ベントレーの彼とは、経営者達のパーティで知り合った。そして、接待時にはお店を使ってくれるという。ただしその彼の職業も年齢も全てはヒミツだそうな。



「だってお客様の事を私がお話しするのは、ルール違反でしょう?」

涼し気な瞳から鋭い視線を僕に向けた後に口角を上げ美しく笑う彼女を見て、僕は牽制された事に気付いた。政財界とも縁を持つ彼女だけに、そこはやはり言えないのだろう。

一般的な女性よりもずっと多くの男性を十代の頃から見てきた莉里花。彼女は出世する男とそうでない男、生き残る男と没落する男というのをおおよそ見分ける事ができるらしい。

面白い鑑識眼である。僕自身はどうなのか、ぜひ彼女に聞いてみたいと思っていたら、ふと思いついた顔をして次のように言った。

「あなたが前回お会いしたという亜沙美さんの彼は、今はトレーダーとして成功しているかもしれませんが、残念ながら後に転落していくタイプですね」

若手経営者や投資家の集まりの際に彼の紹介を受けた事があったが、彼の周辺にいる人達も含めて関わりを持ちたくないと感じたらしい。


“男を見抜くプロ”が選んだ究極の関係とは…?

「人間ってやはり似たような方同士が自然と気が合ったりお付合いしたりしますよね。結局は…」

莉里花の言葉に思わず深く頷いてしまった。そして、ふと目の前に座る美しい彼女とそのヒミツの彼にも似た所があるのだろうか?と思い、再び鋭い眼差しで牽制される事を覚悟で聞いてみた。

すると意外にも、彼女はふっと柔らかい顔になり「そうかもしれませんね」と言った。

「彼も私と同様、独りで生きていくには十分な財産を持っています。お互い結婚願望もなく利害関係も一切なく、一緒にいる事で精神的な安定を得る事ができる…とても心地の良い関係です」

そう話して手元の時計に目を向けた彼女は「あ…途中でごめんなさい。時間になりましたので失礼しますね」と言いソファーから音もなく立ち上がった。

「後半の話は流して下さいね」

彼女は立ち去る間際に、人差し指を唇に当て美しく微笑んだ。



明日は和子とベントレーの彼と一緒に、祖母のお墓参りに名古屋へ行くという。近い将来にお墓を東京に移し、最期はお世話になった祖母と和子さんと一緒になりたいと考えているそうだ。

…いつかそんな彼女のお店に行ってみたいと思い、夜の銀座に詳しい人に店の名前を言ったら「一生縁のない場所だからあきらめろ」と一蹴されてしまった。残念である。

ベントレーコンチネンタルGTの助手席に座る女性は、あり余る資産と男を見抜く力を持つ異世界の蝶であった。そしてもう二人きりで会える日は二度とやってこないだろう…。



【身近になった世界最高峰のドライバーズカー】


日本でベントレーを見ると大型高級セダンというイメージで見られる事が多いが、実際にステアリングを握るとそのどっしりと構えた重厚感のあるボディからは想像もできないようなスポーティな走りをする。

ベントレーは大きく分けて2種類あり、ひとつは運転手を付けてオーナーは後席に乗るタイプのショーファードリブン。もうひとつはオーナーが自ら運転を楽しむドライバーズカーで、この彼女が座るコンチネンタルGTは2ドアで後者にあたる。

ベントレーのSUV型ベンテイガにV8シリーズが追加され、車両本体価格も2千万を切っていることもあり人気が高い。これからますますベントレーを目にする機会は増えていくだろう。

※本文内の車に関する価格や情報は、取材当時の物で現在と異なる場合があります。

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