いつの頃からか、「婚活してるの?」とすら聞かれなくなった。

幸せになりたいと願う気持ちは、何歳になっても変わらないのにー。

35歳を過ぎてから「独身」がコンプレックスとなっていく女。婚活歴15年の山崎真理子も、まさにそういう女だった。

顔は悪くない、性格は難なし、仕事は順調。結婚願望は今もある。

―40歳になったって、恋愛も結婚も仕事も、諦めたくない。

これは、年齢を重ねるにつれて“幸せになること”を諦めかけていた女が奮起し、幸せ探しを再スタートする物語である。


真理子は、後輩の心ない一言で撃沈し、それをバネに幸せを必ず掴むという決意をした。気がつけば、年下の上司・黒田に少しずつ惹かれ始める。

ニューヨークで出会った宏人からプロポーズをされたが、結局関係は白紙となってしまった。婚活が振り出しに戻った41歳の真理子は、幸せを掴めるか…?



「えっ…。結婚の話、なくなってしまったの…?」

「はい…」

真理子は、マンションのオーナーであるマダムの部屋にいた。

プロポーズしてくれた宏人との関係が白紙になってから、2週間が経っている。41歳で婚活が振りだしに戻った話の一部始終を、真理子はマダムに報告したのだ。

「そうだったのね。でも私は、真理ちゃんの決断を応援するわ。自信持ってね」

「ありがとうございます。私、色々あったからこそ、気付いたことがあったんです。あれだけ、結婚したいって思っていたけど、“結婚しないと幸せになれない”と思い込んでいたところがあったのかなって。

実は結婚がしたかったっていうより…ただ、幸せになりたかっただけなんだって、気付いたんです」


自分の人生を生きると決めた真理子は、黒田に対して行動を起こすことを決める…!

―41歳になっても、ずっと誰かの人生を生きているみたいだった。

いつの頃からか、結婚していないだけで肩身が狭くて、「すみません」って頭を下げなくてはいけないような気さえしていた。

誕生日に、「1年以内に絶対に結婚する」と決意して走り続けた数カ月。

既婚者に引っかかったり、黒田に惹かれながらも尻込みしたり、ニューヨークに一人旅に行ったり、せっかくの結婚のチャンスを自ら逃したり…。

振り返ると、なかなかのドタバタ劇だった。しかし、全力で行動し経験を積み重ねたことで、今までいかに他人の価値観に縛られながら生きてきたかに気付くことができた。

―私は、一体何に気を使って、何に委縮していたのかしら?

以前、親友の恵子は「幸せになりたいなら、宏人さんと結婚するべき」と言っていた。確かに客観的にはそうかもしれない。

でも、自分にとっての幸せはそこにはないことに気付いたのだ。

―もう、他人が決めた幸せの基準に、自分を当てはめない。

「この年齢になっても、こんな風に悩んだり誰かを好きになったりするなんて思ってもいなかったなぁ」

真理子が独り言のように呟くと、マダムが、フフッと笑いながらこう言った。

「人は何歳になっても、バカみたいに恋をするのよ。恋愛が若い人の特権だなんて誰が言ったの?人生100年時代、恋愛も100年時代よ」

いつもの調子で、彼女は意気揚々と話している。

「私みたいに夫を亡くしたあとに、もう一度恋愛している人もたくさんいるわよ。その人たちも、同じように悩んだり、少しのことで一喜一憂したりしているわ」

―マダムの歳になっても、恋愛で悩んだりするのか。

そう思うと少し気が遠くなるけれど、それはそれで楽しそうだ。

「それにね、結婚ってね、不思議とご縁がある人とするものなのよ。自分の意思だけではどうにもならないこともあるから…もう少し、気楽に考えるといいわよ」

40歳を過ぎると、もうこれを逃したらチャンスがないと考えてしまいがちだ。だが、最後だと思うと力が入りすぎて、選択に余裕もなくなる。

―ちょっとだけ、肩の力を抜いてみよう。



マダムの部屋を後にし、自分の部屋に戻った真理子は、早速、黒田にLINEをした。

実は、仕事が佳境に入りタイミングを失して、彼にまだプロポーズが白紙になったことを言えないまま2週間ほど過ぎている。ゆっくり話がしたいと思い、食事に誘うことにしたのだ。

『明日、もしご都合よければ、ゴハンでも行きませんか?』

シンプルなメッセージの中に、思いを込めて送信ボタンを押す。

黒田を休日に誘い出すのは初めてだった。送った後、返信が来るまでは落ち着かなかったが、すぐに既読になり返事が届く。

『いいね、行こうよ!』

こうして、二人にとって初めての"休日の約束"が決まった。嬉しくて小躍りしたい気分だ。

―デートの前日は、いくつになってもソワソワする。

少しの緊張と同時に、小さな幸せを感じながら、真理子は眠りにつくのだった。


ついに、休日に会うことになった二人。進展はあるのか?

日曜日の昼下がり、真理子は『ザ タヴァン グリル&ラウンジ』に向かう。

自分から誘ったものの、直前になると何から話そうかとアレコレ考えてしまう。しかし、待ち合わせ場所に既に到着していた黒田の顔を見ると、いつもどおりの雰囲気で、すっかり緊張は解けていた。



せっかくの休日だから、昼からお酒でも飲もうと二人で乾杯をした後、早々に黒田から話をふってきた。

「そういえば、山崎さんって結婚いつするの?お祝いしないとね」

「その話ですけれども、実は無くなったんです。ちゃんと言わなきゃと思ってたんですけど、タイミングがなくって」

「えっ…?」

黒田は目を見開き、完全に固まっていたが、しばらくして我に返ったようだ。慌てた様子で真理子に尋ねた。

「…な、なんで?」

「自分の気持ちに嘘がつけなくて、結局…白紙になりました」

「…それって、どういう意味?」

「…うーん、何が何でも来年までに結婚したいって焦っていた時に、ちょうどいいタイミングで彼が現われて…。この波に乗れば私もとうとう結婚か!なんて浮かれていたんですけどね…」

まだ戸惑った顔をしている黒田をちらりと見ながら、真理子は続ける。

「“彼と一緒にいたい”というより、結婚をしなくちゃいけないって思い込んで、焦っていただけだったのかもしれません。…結局、中途半端だった私のせいで白紙になりました。…カッコ悪いですよね。でも今となれば、これでよかったんだって思っています」

黒田は、しばらく無言だった。そして呟くようにこう言った。

「…ホッとした。…すごく、ホッとした」

彼は少し俯き加減で、何かを思い出すように話し始める。

「実は、山崎さんがニューヨークに行っちゃうかもしれないって思ったら、ひなのさんが言ってたように僕も“真理子ロス”になってた…」

真理子は笑いながら答える。

「私がいないと仕事に差し支えるからですか?」
「いや、そういう訳じゃない」

黒田は、真理子の言葉にかぶせるように否定した。

「…元カノが留学した時は何とも思わなかったのに、山崎さんが行ってしまうかもと思った時は、引き止めたい衝動にかられた…」

「そうなんですか?」

「そう思ったけど、そんな資格、僕にあるわけないし。“行くな”なんて言ったら、パワハラになるのかなとか考えていたよ…」

「ふふっ」

真理子は思わず声を出して笑う。

「黒田さん、またこうやって一緒にご飯いきませんか?私から誘ったらパワハラにはなりませんよね?」

すると、黒田は一瞬驚いた顔をした後、笑顔で大きく頷いた。そんな彼を見ていると満たされた気持ちになる。

ーこれでよかったんだ...。

その後は、二人でたわいもない話をして何度も心の奥底から笑った。

笑いながら、真理子は幸せを噛みしめていた。

ー「結婚しないと、幸せになれない」。そう思っていたけど、それは違うよね…。

アラフォー独身ってだけで惨めな気持ちになっていた自分が、もったいない。

結婚を諦めたというわけではない。ただ、幸せが結婚だけにある、という思い込みをやめただけ。

こうして好きな人と笑い合う時間や、一人旅やバレエなど今までしたことがないことにチャレンジして、自分と向き合う時間...。

そんな日常の中に落ちている、きらきらした瞬間を一つ一つ積み重ねて、これからも生きていく。

他の誰かが決めた幸せではなく、自分にとっての幸せを見つけていこう。真理子は、そう心に誓った。

小さいころ思い描いていた41歳の自分と、今の自分は全然違う。それでも今ここにいる自分を思いっきりハグしたい気持ちだった。


Fin.


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