—女は、愛されて結婚するほうが幸せ。

その言葉を信じて、愛することよりも愛されることに価値を見出し、結婚を決める女性は数多くいるだろう。

めぐみも、夫からの熱烈なアプローチを受けて結婚を決めた女のひとりだ。

だけど、男女の愛に「絶対」なんて存在しないのだ。

“亭主元気で留守が良い”を豪語し、家庭は二の次、好き放題やってきた美人妻・めぐみ(30)。ところがひょんなことから、夫の様子がおかしいことに気づく。

夫を大切にすることを完全に忘れてしまった妻の行く末は…?

先週、体調を崩しためぐみは、夫のあまりの冷たさに怒りを爆発させてしまった。離婚を口走ると、夫からはまさかの反応がかえってきて…?



−絶対クロよ。浮気してるんだわ。許せない…。

荒々しく寝室のドアを閉めためぐみは、ベッドに倒れこんだ。

夫に対して一度爆発させた怒りは、すぐには鎮まらない。活火山のように、今にもまた噴火しそうな勢いだ。

−ふぅ、落ち着かないと。

冷蔵庫から取ってきたミネラルウォーターを一気に飲み干し、「何様よ!」と小さく叫びながら、乱暴にペットボトルを置く。

ガタン。

まずい、と思った時には遅かった。ペットボトルが勢いよく倒れ、サイドテーブルに飾ってあった写真立てが床に落下した。

ふと落ちた写真に目をやると、そこには、弘樹の隣で100本のバラの花束を持って微笑むめぐみの姿が写っている。

−バラ100本。何が“100%の愛”よ。結局、嘘だったんでしょ!

すぐには写真を拾う気になれず、しばし写真を睨みつける。すると寝室のドアが開き、弘樹が何食わぬ顔で入ってきた。

「ジム、行ってくる」

クローゼットから着替えを取り出し、出かける準備をしている。少しは反省したかと思ったが、そんな様子は全く見受けられない。

めぐみの怒りが、再びフツフツと湧いてくる。

「どうぞごゆっくり。私は、ひもじい思いをすれば良いんでしょ!」

嫌味たっぷりに吐き捨てると、弘樹は冷たく微笑みながらこう呟いた。

「…Uber Eatsでも頼んだら?」


“離婚しても良い”という夫の言葉に、妻がキレた先ほどまでの大喧嘩とは…?

初めて見る夫の怒り


玄関のドアがバタンと閉まる音を聞きながら、呆気に取られていためぐみは、ベッドに身を投げ出したまま、天井を見上げ深いため息をついた。

−勢い任せに、“離婚しても良いんだからね!”なんて言っちゃった…。

妻の体調不良の心配もせず、ダラダラしている夫に怒っためぐみは、 “離婚”を口走ってしまったのだ。

もちろん本心ではない。ちょっとお灸を据えてやろうと思っただけ。それなのに。

弘樹は、吐き捨てるように「俺も」と呟いた。それだけでも十分驚いたが、彼はさらに理解不能な行動に出た。

「もういい?俺、動画見たいから」と、再びヘッドホンを装着し、ソファに寝転んだのだ。



めぐみが立ち尽くしている横で、再び動画を見ながらゲラゲラ笑い始める。

そしてポテチを食べ始めたのだが、時折、食べかすが床に落ちるのが目につく。それらは、こげ茶色のフローリングの上に、斑らに悪目立ちしていた。

ゲラゲラした笑い声、ポテチの食べかす、音漏れしているヘッドホン。弘樹の行動すべてが、めぐみの神経を逆なでする。

極め付けは、コーラを飲んだ後の、グエッという音。

もう我慢出来ない。

めぐみは、弘樹の耳からヘッドホンを力一杯引っ張って取り外し、床に投げ捨てた。さらに、パソコンの電源も引っこ抜いて強制終了させた。

「おい、何すんだよ。体調不良なら寝てろよ」

弘樹が冷たく言い放ち、ヘッドホンを拾いに行く。

めぐみは、夫をきつく睨みながら、怒りのままに感情をぶちまけた。

「さっきからなんなのよ!浮気でもしてるわけ?だったら、相手のところに行けばいいじゃない。別に引き止めないわよ!」

めぐみが叫ぶと、弘樹が大きなため息をついて、「そういうんじゃない」と首を振った。

「じゃあ、なによ?会社で嫌なことでもあったの?

昇進出来なかったとか?希望の部署じゃなかったとか?そうだとしても、私に八つ当たりしないで!」

怒りに任せて、罵詈雑言を弘樹に浴びせる。生理中のホルモンバランスの乱れもあるのか、感情を抑えることが出来なかった。

すると、弘樹がすっと立ちあがり、ドンっと机を叩きつけた。

「いい加減にしろ。何も分かってないんだな。話しても無駄だ」

ギロリとめぐみを睨んだその目は血走っていて、身体は小刻みに震えている。こんなに怒っている夫の姿を見るのは初めてだ。

これまで見たことのない様子に、めぐみは本能的に恐怖を覚える。

このままでは手を上げられるかもしれない。これ以上夫を刺激しない方が良いと、急いで寝室に戻ったのだ。


夫の浮気を疑うめぐみ。偶然にも衝撃的なメッセージを目にしてしまう…?

ガチャン。

玄関の鍵が開く音で、めぐみはハッと目を覚ました。体調不良と怒った疲れが重なって、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

−まだお腹痛いな…。

めぐみは、弘樹がシャワーを浴びに行ったのを見計らって、痛み止めを取りに行った。

テーブルには、スーパーのビニール袋に入ったまま、プロテインやスナック菓子、カップラーメンなどが置かれている。

見る限り、めぐみ用に買ってきてくれたものは一つもない。外出したなら、ヨーグルトの一つでも買ってきてくれても良いのに、と再び心がささくれ立つ。

−なんでこんなに冷たいの…。

それらをぼんやりと眺めていたところ、浴室から聞こえていたシャワーの音が止まった。そろそろ弘樹が戻ってくる。

慌ててめぐみが寝室に戻ろうとした次の瞬間。テーブルに置かれていた弘樹のスマホの画面が光った。

“実咲:明日のお昼、大丈夫そう?楽しみにしてる”

数秒後、スマホの画面は暗くなってしまったが、めぐみの脳裏には“実咲”からのメッセージが鮮明に焼き付けられた。

−実咲って、誰…?

めぐみは、足早に寝室へと戻り、facebookで実咲リサーチを始めたのだった。





盲点だった、“平日の昼間”


「さっきからため息ばっかりだけど、大丈夫?」

翌日。アルバイト先の法律事務所で、仲の良い女弁護士・細川凛に話しかけられためぐみは、ハッと我に返った。

めぐみの勤める法律事務所は、弁護士も秘書も40代以上がほとんどだ。そんな中で、細川凛は32歳。年齢の近い彼女とは、弁護士とアルバイトの関係を越えて、ランチに行ったり飲みに行ったり、仲良くさせてもらっている。

凛は、化粧っ気もなく、オシャレにも興味がないらしい。「気に入ったものを何着も買う」と公言し、トップスとパンツ(白、黒、グレー、紺)を、色の組み合わせを変えて着ている。

パンプスも、お気に入りのブランドで、サイズ37.5、ヒール7cm、黒のスエードをリピート。

こだわりのない、さっぱりとした性格が心地良く、「1を知って10を知る」を地でいく頭の回転が速い彼女と話すのは、気楽で楽しかった。

ちなみに、凛はバツイチだ。口癖は「結婚はこりごり」で、今は仕事に燃えているらしい。

声をかけられためぐみは、「大丈夫」とは返すことが出来ず、凛をランチに誘った。

「ちょっとランチ行きません?話したいことがあって…」

「そうくると思った。いいよ」

『FAUCHON LE CAFE』についた二人は、テラス席に座り、ランチメニューをオーダーする。ウエイターが離れたのを見計らって、めぐみは切り出した。

「あの、凛さん。不倫って、どんな証拠を集めておけば離婚する時に有利になるんですか?」

開口一番、素っ頓狂なことを言い始めためぐみの顔を、凛は驚いた顔で見つめ、プッと笑った。

「弁護士にも専門があるの。私の専門は、企業法務。お望みなら、知り合いを紹介するわ」

そうピシャッと言った後、「そういう回答を求めてるんじゃないんでしょ?」と笑って続けた。

「そんなこと聞いてくるなんて、聞いてほしいんでしょ。何があったの?」

話を振られためぐみは、最近夫の様子がおかしいこと、昨日“実咲”からのメッセージを見てしまったことなど、モヤモヤした気持ちを吐き出す。

一通り頷いて聞いた凛は、アイスコーヒーを一口飲んだ後、スマホを見せながらこんなことを言ってきた。

「ねえ、全然関係ないけど、この記事見て。最近、“昼休み不倫”って増えてるらしいわ」

めぐみの脳裏に、弘樹のスマホの画面がフラッシュバックする。

“実咲:明日のお昼、大丈夫そう?楽しみにしてる”

あの文面には、“お昼”と確かに書いてあった。

−盲点だった…。平日の昼休みに不倫!?

めぐみは、頭を鈍器で殴られたような衝撃でよろけそうになった。


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夫・弘樹の不倫証拠集めに奔走するめぐみ。疑惑をさらに強める出来事が…?