食事会より効率的で、紹介よりも気軽な出会いの手段。それは、「マッチングアプリ」だ。

インスタントな出会いと割り切るか、運命の人に出会える可能性を信じるか。全ては、使う人次第。

今日もこの東京のどこかで、出会いと別れが繰り返されているのだ。

お送りするのは、『東カレデート』を通じて知り合った男女のラブストーリー。一体どんな結末が待っているのか…?

◆これまでのあらすじ

アプリで出会った男性・翔吾とのデートがうまくいかず、自分の女としての価値に自信を無くしていく沙也香。

デートの帰りに声をかけられた男に優しくされ、心を動かされる。

一方、沙也香が憧れる美女・夏織が抱える悩みとは...?



拓巳と出会ったのは、2年前の美容外科学会。

美容皮膚科のナースをしている私は、勉強のために参加させてもらい、たまたま隣で講義を聞いていたのが拓巳だった。

「そんなにきれいな顔をしていたら、手術の話なんて退屈でしょ?」

フランクに話しかけてきたので、最初は有名な美容外科医だとは気づかなかった。

学会の中盤になって、講義を行うために立ち上がった彼は、若いのに堂々とスピーチし、質疑応答も難なくこなしたあとで、スマートに私の連絡先を聞いて立ち去ったのだ。

何回か食事をして、お互いのことを話して。同じ美容医療に関わっていることもあり、私たちが深い仲になるのに時間はかからなかった。

「夏織、今日は僕が夕食を作るから先にお風呂に入っておいで。夏織が好きそうな入浴剤も買っておいたよ」

今日はお互い仕事が休みなので、六本木にある拓巳のマンションに来ている。

拓巳は、出会った時からずっと穏やかでとても優しい。だけど、最近その優しさや気遣いが妙に不自然で、違和感を感じている。

職場へ車で送り迎えもしてくれるし、取材や手術で相当疲れているはずの翌日に、自ら苦手なはずの料理をすると言い出し、どこから入手してきたのか、私が好きな日本酒・新政No.6のX-typeまで用意していた。

「ありがとう。じゃあ、お先に」

そう言ってバスルームに向かうと、嫌な予感がした。

なんとなく私や拓巳じゃない他の誰かが、ここを使ったような気配がしたのだ。

私はオーガニックのシャンプーとサロン専売のシャンプーを気分で使い分けているが、ここ最近はずっとオーガニックの方ばかりを使っている。

だけど、サロン専売の方のボトルが手前に来ていた。

それだけで十分に気持ちが悪いが、よく見ると赤茶色の髪の毛がボトルについている。私も拓巳も、髪は染めていない。

ーやっぱりそうか。

付き合おうという言葉こそなかったが、そんなことを気にすることもないほど拓巳は私にべったりだった。だから、きちんとした彼女として扱ってくれている。そう信じていた。

だけど本当は、ずっと私だけがそう勘違いしていたのかもしれない。


拓巳との関係を疑い始めた夏織の心境は…

拓巳が他の女にここを使わせた証拠を目の前にしても、私の気持ちは落ち着いており、怒りや悲しみよりも、拓巳の妙な優しさの原因が判明したという清々しさが勝った。

ー夏織って、クールビューティーって言葉がぴったりだよね。

拓巳によく言われていたが、別にクールな性格なわけじゃない。めったなことで取り乱さないのは、そんなのはカッコ悪いと思っているし、そうならないよう先手を打つようにしているから。



他の女の影を感じ、自分が彼女なのかも確信が持てないままなら、出会いを求めることは自然なこと。

そう自分に言い聞かせた私は、『東カレデート』というマッチングアプリを数日前に始めた。誰にも言わずひっそりと。

出会いの方法をアプリにしたのは、医療関係者ではなく私とは全く別の世界の人と話してみたかったからだ。

拓巳の様子が変だと思い始めた頃から使い始め、今は一人の男性とだけ連絡を取っている。

でも本当のところは、拓巳のことを完全に諦められたわけではなかった。どこかで私の勘違いであってほしいと願っていたから。

「拓巳、わたしのシャンプー使った?」

料理の合間にお笑いの動画を見て笑っている彼に、廊下から声をかける。

「え?あぁ、今朝...使ったかな。あれいい匂いだね」

「本当に拓巳が使ったの?本当に?」

駆け寄って悲しそうな顔をしてみせると、慌てて言い返してきた。

「そうだよ。僕でも夏織でもない人が使ったと思っているの?」

どうして嘘をつくのが下手なのに、他の人を家に入れてしまうんだろう。拓巳の髪からはあのシャンプーの匂いはしてこないのに。

大手の美容外科勤務の拓巳は、メディアにもちょくちょく出演していて有名だった。症例数は圧倒的な件数で、口コミやSNSで話題になったほどだ。

くりっとした目と整った顔立ちのおかげで、イケメン美容外科医として女性ファンが多い。

「他の人が使ったの?せめてシャンプーはやめてよ…」

拓巳はその綺麗な瞳を向けて切ない顔をし、何も言わずお風呂上がりの私を抱きしめた。

その腕は力強く、謝罪の念を感じたが、わたしの心は折れてしまいそうだった。


そして夏織は、ついに浮気現場を目撃…!?

翌日、六本木17時。けやき坂のイルミネーションが点灯をはじめる。次の患者で今日の担当は終わりだ。

私がカルテを読みながら受付で待っていると、拓巳がいきなり現れ「これ皆さんで!」と『GAZTA』のチーズケーキを持ってきた。



「ちょっと、どうしたの?連絡もせずに職場に来るなんて...」

「夏織のこと心配させちゃったから、サプライズだよ。昨日はごめんね」

あっけにとられていると、拓巳はみんなに爽やかに挨拶をした。

他のナースたちは目をキラキラさせ、私のことも羨望の眼差しで見ている。まさか私たちが、彼氏と彼女かもわからない「曖昧な関係」だとは思いもしないだろう。

昨日は拓巳の家に泊まる気になれず、自分の家に帰った。だけど、今までと変わらず好きだと半ば強引に言いくるめられ、結局結論が出せないまま今に至っている。

「今日も夏織は綺麗で完璧だね。僕の自慢だよ」

そう近くで囁いたかと思ったら颯爽と出ていき、入れ違いで、患者の沙也香が息を切らしてやってきた。

予約時間を気にして走ってきたのか、巻いた髪が乱れている。拓巳のことはいったん忘れ、仕事に集中しようと笑顔で挨拶をする。

沙也香は若いころに相当焼いたのか、年齢の割にシミが多い。それを隠そうと厚めのファンデーションを塗っているようだが、メイクを落とさず寝てしまうこともあるという。

スキンケアで気を付けるべきことなどを話すと、案外素直に聞いてくれ、元気で人懐っこく施術の時によく話もする。だから港区のマダムの予約が続いた後だと、ほっと心が安らぐのだ。

施術をしながら、沙也香が昨日のデートが失敗だったと愚痴をこぼしている。

話を聞くと、デート相手とはマッチングアプリで出会ったらしい。

「私が使ってるのは、『東カレデート』です。でも、夏織さん興味ないですよね。素敵な彼氏さんいるんですよね?いいなぁ…」

沙也香も、私にちゃんとした恋人がいて、幸せな恋愛をしていると思い込んでいるのだ。

自分と同じアプリを使っていることがわかり一瞬ドキッとしたが、女性会員同士は繋がる心配はないはず。

「…いえ、純粋に興味ありますよ。それにしても沙也香さん、次はうまいくいくといいですね」

そう笑顔を向け、メニュー表を広げた。



仕事の後は、同僚のナースとクリニックの近くで食事をした。2軒目でお酒を飲みながら仕事の話をしていると、すっかり時間も遅くなってしまった。

拓巳のことも相談したかったが、同僚に事実を話すと一気にクリニック中に広まってしまうのは明らかだ。

若干の消化不良のまま店を後にし、スマホの画面にちらりと目をやる。

するとアプリで唯一連絡を取っている「ショウゴ」から、都内の和食屋さんのリストが送られてきていた。

銀座、西麻布、恵比寿、神楽坂・・・。

どこのお店も素敵で、思わず頬が緩む。

彼はアパレル経営をしているという。ギラギラしているタイプだったら嫌だなと思ったが、プロフィール写真を見る限り、服装もシンプルで、わかりやすいブランド物も身につけていないので好感度が高い。

拓巳以外の人とデートをすることは、一緒にいるようになってから初めてのことだ。全く心が痛まないといえば嘘になる。

でも、二人の関係に白黒つけようとしないで曖昧に誤魔化し続ける拓巳よりも、私だけを見てくれて大切にしてくれる誰かを、見つけたい。

だから私は、このデートに対しても前向きな気持ちだし、とても楽しみにしているのだ。

和食リストを眺め、タクシーを拾おうと歩いていると、向かい側の道に見覚えのある姿を見つけた。

それは、明らかに拓巳だ。そして隣には、自分とは全く違うタイプの女性がいた。


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拓巳と一緒にいた、意外な人物は…?