26歳、アラサーの仲間入り。周囲では申し合わせたように突然、第一次結婚ラッシュが訪れはじめる。

しかし当然、その波に乗り切れない者だって多くいるのだ。

結婚するのに早すぎる歳ではないが、言ってもまだ20代。微妙な年齢であるがゆえの「もっとイイ男がいるかも…」という、悪魔の囁きに翻弄される女たち。

主人公・杏里も、なんとしてでも結婚ラッシュに乗りたいと思うものの、なかなか決断ができず、現れる男とはことごとくうまくいかない。

そんな杏里の五人目の「元カレ」とは…?

◆これまでのあらすじ

杏里は、役者志望・28歳の佐藤リョウと付き合っていたが、彼に結婚願望が無いことを知り、別れを決意した。

そして、2019年12月。女友達・莉奈から誘われ、医師である男性を紹介されることになったが…。



元カレ5:戸倉俊介、30歳。大学病院に勤める若手の医者。


「杏里、今日来る人はね、私も何度か会ったことがあるんだけど、本当にいい人だよ」

友人の莉奈からそう言われ、杏里は笑顔で頷いた。

莉奈の誘いで、急遽ディナーに参加することになったのだ。そこには莉奈の夫と、彼が職場で最も仲の良い同僚が来るという。

「うん、ありがとう。楽しみ」

最近ろくな恋愛をしていない杏里を見兼ねて、莉奈が彼氏候補を紹介してくれようとしていることがよくわかる。だからこそ口ではそう言ったが、本心では、期待はしないでおこうと決めている。

ーここのところ、恋愛は散々だったしね。もう焦るのはやめよう。

その夜、店に少し遅れて男性二人がやってきた。

「おー杏里ちゃん、久しぶり!こいつは俺が職場で一緒の、俊介。で、こちらが莉奈の友達の、杏里ちゃん」

莉奈の夫がそう言うと、俊介は、爽やかな笑顔で会釈をした。

「はじめまして、戸倉俊介です」
「はじめまして。杏里です。なんか急にお邪魔する感じになっちゃって…すみません」
「全然!むしろ人数増えて嬉しいし、ちょうどよかったよ」

戸倉俊介、30歳。莉奈の夫と同じく、今は大学病院に勤める医者らしい。

落ち着いた雰囲気に、さり気ない気遣いと柔らかい笑顔。いかにもモテてきたのだろうと思わせる余裕がある。

すると、莉奈がぐいっと身を乗り出した。

「俊介さんって、いつから彼女いないんでしたっけ?」
「莉奈ちゃん、聞くねぇ。えっとね、もうすぐ1年経つかなあ」
「もうそんな経つんだ?お前の元カノ、かなり厄介なタイプだったよなあ」

その後はしばらく、俊介の元カノの話で盛り上がる。

元カノには結婚を迫られ、当時の俊介は結婚を決意しきれずに別れたらしい。

ーまだまだ遊びたいタイプなのかな…。

ぼんやり俊介を見つめていると、莉奈はにっこり笑ってこう言った。

「杏里は、最近彼と別れたんだよね?俊介さんどうですか?杏里、私の推しですけど」


若手ドクター・俊介との出会い。いかにもモテそうな男だが…。

「ちょ、ちょっと莉奈。俊介さん困っちゃうじゃん!」

慌てて俊介の様子を伺ったが、彼は相変わらず爽やかな笑みを浮かべたまま、さらりとかわす。

「えー、莉奈ちゃんの推しかあ。俺と杏里ちゃんが仲良くなったら、4人で色々出掛けられるね」

杏里の俊介に対する第一印象は、どちらかというとクールであまり喋らないほうなのかな、というものだった。

しかし食事が始まると、予想に反して彼は饒舌だった。自分の仕事の話や過去の恋愛での失敗談まで、面白おかしく話し、場を盛り上げてくれる。

彼は、話し上手なだけではない。杏里の仕事や趣味の話、莉奈との学生時代のたわいもない思い出話までも、莉奈の夫と一緒になって楽しそうに聞いてくれて、話を膨らませてくれるのだ。

ー莉奈のことも私のことも、大切に扱ってくれてる感じがするな…。

俊介の振る舞いに安心感を覚えながら、俊介が言ってくれた「俺と杏里ちゃんが仲良くなったら、4人で出掛けられるね」というセリフが、頭から離れなかった。

ー深い意味は無いだろうし、社交辞令で言ってくれたんだろうけど。でも本当にそうなったら、楽しそうだな…。

その日の夜、帰宅した杏里はさり気なく一言、俊介に連絡をしてみた。

ーAnri:今日はご馳走さまでした。ありがとうございました!

食事の席では、俊介が杏里をどう思ったのか全くわからなかった。でも杏里は、俊介の第一印象とのギャップや、溢れ出る安定感に少し惹かれてしまっていたのだ。

すると意外にもすぐに既読がつき、返信がきた。

ーShunsuke Tokura:こちらこそありがとう!また良ければ飲みにいこう!



それから1ヶ月後。俊介と初めて二人での食事に行くことになった。

「また飲みにいこう」とLINEで言ってくれていたものの、医者である俊介はなかなか休みがないとかで、二人の予定が合うのに1ヶ月もかかってしまった。

ー他にもデートしてる子、いっぱいいるんだろうな…。まあ、恋愛のリハビリ期間だと思って、食事は楽しもう。

杏里はデートに期待しすぎないように努め、その場に挑むことにした。



待ち合わせのお店に入り、俊介の到着を待っていると、すこし遅れて彼は現れた。

「ごめん、遅れた。今日ゴルフ行ってて…。そうだ、これ。ちょっとしたものなんだけど、お土産あげる」

差し出された紙袋の中には、おしゃれなパッケージのお菓子が入っている。

ーゴルフ中に、私のこと思い出してくれたんだ…。

そんな俊介の心遣いが、すごく嬉しかった。自分でも単純だとは思うが、抱いていた警戒心が少しずつ減っていくのを感じる。

そこから二人は食事をしながら、最近の旅行の話で盛り上がった。前回会った時、お互いに旅行が好きだということが判明したからだ。

「俺、毎年家族で旅行するって決めててさ。仕事始めてから休みを合わせづらいけど、そこは頑張って調整していくようにしてるんだ」

「大人になっても家族旅行に行くって、なんだか素敵ですね」

ー仕事も忙しいのに、家族を大事にしてるんだな。

今日のデートは期待せずに来たつもりだったのに。俊介が意外に家族思いだということを知り、その温かい人柄に、杏里はどんどん惹かれ始めていた。


俊介との2回目のデートで、予想外のハプニングが?

「なんか自分自身も、家族持ちたいなって最近すごく思うんだよね」

杏里が笑顔で頷くと、俊介は楽しそうに、理想の夫婦像や家族について語り始めた。

ー俊介さんの家族に対する価値観、なんだか本当に共感できるし素敵だなあ…。

そう思いながらも、結婚願望はあったものの結局自分は浮気相手だった元カレ・佐々木のことをハッと思い出した。杏里は、冷静さを保とうと姿勢を正す。

そのとき突然、俊介が思いついたようにこう言った。

「俺、車が趣味で、最近新しく買ったんだよね。よかったら今度どこか出かけない?」



次のデートは、俊介の提案通りドライブになり、彼は杏里の家の近くまで高級車で迎えに来てくれた。

ーこの車を見せたかったのね、なるほど…。確かに素敵な車だけど、いろんな女性を助手席に乗せてきたのかなあ…。

直近の恋愛で痛い目にあってきたからなのか、いつにもなく疑心暗鬼になってしまう。



「近場だけど、ちょっとこの辺を一周してから、ごはんに行こう」

俊介は今日も物腰柔らかく、爽やかで魅力的だと思う。でもイマイチ、何が本心なのかがわからないミステリアスさを秘めている。

ハンドルを握る俊介を横目に、杏里はふと、過去に元カレとドライブした時のことを思い出した。

親から譲ってもらった愛車を大切にしていた元カレ・純。そしてカーシェアで借りた車に乗っていた元カレ・本田。

一方の俊介は、当たり前のことなのかもしれないが、自分の稼いだお金で買った車に乗っている。

「この車、けっこう乗り心地よくない?俺、こいつのこの部分とか好きなんだよねぇ」

彼は本当に車が趣味らしく、内装へのこだわりなどを得意げに話していた。

第一印象がクールだった彼が、急に車のことになると無邪気になった姿を見て、高級車を自慢したいというよりも純粋に車が好きなんだと感じる。杏里はなんだか温かい気持ちになった。

しばらくして目的地にしていたお店に到着すると、前回以上に二人の話は盛り上がった。彼と一緒にいると、本当に楽しい。

だが、俊介には惹かれつつあるものの、最初に抱いた警戒心はまだ拭いきれずにいた。彼はモテそうな上に、いろんな面で自分より一枚上手のような気がするからだ。

「そういえば杏里ちゃんは、どんな人がタイプなの?」

俊介から恋愛に関する話題をふられるのは、初めてだった。杏里は、咄嗟に思いついたことを口にする。

「えーっと、優しくて家族思いな人、とかですかね…」

俊介の家族思いなところに魅力を感じていたからなのか、自然とその言葉が口から出てきたのだ。でも、俊介にとってそもそも自分は恋愛対象なのかどうかも、よくわからない。

すると、俊介が顔をあげ、杏里をまっすぐ見つめた。

「前回も杏里ちゃんと色々話せて楽しかったし、考え方とかが似てるなって思って、気になってるんだけど…。2回目のデートじゃ付き合ってって言うのは早いかな?」

ーえっ…。

正直にいえば、嬉しかった。でも、これ以上恋愛で失敗はしたくないし、付き合うのであれば結婚を前提にしてほしい。

杏里は過去の恋愛での教訓を胸に、勇気を出して、俊介に問いかけた。

「私、次に付き合う人とは結婚したいと決めてます。俊介さんは結婚願望、ありますか?」
「もちろんだし、それを前提に、付き合いたいと思ってる」

普段は柔らかい表情の俊介が、真剣で、かつ少し緊張したような様子でそう言った。

ー俊介さんの言葉を信じたいものの、100%信じ切れるわけではない。でも…。

タイミングを逃したら、この告白もなかったことになるかもしれない。そう思い、杏里が頷こうとした時だった。

俊介のスマホの着信音が鳴り響いたのだ。彼は画面を見るなり「やば」と呟いた。

「ごめん、ちょっと一瞬、出てくるね」

その一言と共に席を立ち、少し離れた場所で深刻そうな顔をして電話をしている。

ーこんなタイミングで、一体誰…?


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杏里とのデート中、俊介に電話を掛けてきたのは誰?