―まだ東京で消耗してるの?

2014年、あるブログから投げかけられた問いに、いま人々はどう反応するだろうか?

オンライン生活が日常になり、東京にいる必要もないと言われるが、一方で東京にこだわる者もいる。彼女の名前は、莉々というー。

◆これまでのあらすじ

ベンチャー企業で仕事に奮闘する莉々。そこで魅力的な女性・歩美と出会うが、莉々が思いを寄せる岩田と一緒にいるところを見てしまい…?

▶前回:「好きなオトコを、33歳の女に盗られた…」美人じゃないのにモテる女に惨敗した理由とは



―社長って、まだ歩美さんと付き合ってるのかなぁ…。

茨城にある実家の縁側で、深くため息をつく。

すると横で昼寝をしていた愛猫のキキがあくびをした。母親は、居間で裁縫をしている。

「莉々、あんたいつまでここにいるの〜?まあ、いつまでいてくれてもいいんだけどさ」

心配半分、帰ってきてくれた嬉しさ半分といった感じ。うーん、と生返事をするしかない。

ブブっとLINEの着信を知らせるスマホに、キキがびくっと反応した。聞き慣れない音なのだろう。

―芽衣:莉々、久しぶり!茨城かえってきてるんだって?良かったらお茶しない?

高校時代の大親友・芽衣からの連絡に、何の気なしに「いいね!」と返事をした。

10年という時の流れは、人を大きく変える。

私は男にフラれて仕事に逃げ、その仕事にも疲れて田舎に逃げてきた。ひたすら仕事に打ち込み体はボロボロ。結婚はおろか彼氏もいない。

―芽衣は…結婚したんだっけ?

高校時代は学校イチの美女として、いつもキラキラしていた芽衣。芽衣は一体、この茨城でどんな人生を送っていたのだろうか?


久々に会った高校時代の大親友。莉々が彼女に衝撃を受けた理由

洗濯で少しヨレたのか、大きめのボーダーシャツに動きやすさ重視のストレッチジーンズ。髪はばっさりショートに切りそろえられ、メイクはスッピンじゃないと分かる程度の薄化粧。

そして、その両手には、5歳の男の子と3歳の女の子。

「ごめんね〜、子連れで!」
「ううん、全然!こんにちは!」

結婚して子供がいることは知っていたけれど、いざその姿をみると「本当にそうだったのか」と納得した。

「てか、莉々めっちゃ久々よね??元気だった〜?会いたかったよ〜!なんかすごい綺麗になっちゃって!!!」

相変わらずの底抜けの明るさが、こちらまでグングン伝播してくる。けれど、学校イチの美少女として名高かったあの頃の姿は見る影もない。

「もう、毎日生活に追われてるって感じでさ、最近の唯一の趣味は、節約なのよっ!」

芽衣は顔の造形が美しいのに、今はオンナというよりオカンといった印象。でも、それを全く気にしていないような満ちたりた笑顔がまぶしかった。

地元で出会った男性と23歳でデキ婚し、今は水戸から車で1時間の田舎で専業主婦をしているという。

私が一度も求めたことのない、幸せのカタチ。でも芽衣は、それを謳歌していた。

―…なんか、羨ましい。

野心をもたず、良くも悪くも刺激の少ない世界で、平穏に暮らす芽衣。彼女から漂う幸せそうな空気感を、心から素敵だと思った。

けれど、私はこのとき悟ったのだ。自分はこの世界ではもう、きっと満たされない、と。



大学受験、就職、仕事。

これまでのどんなステージでも、高い目標を掲げ、それを成し遂げるために必死に努力して、自分の手で“憧れ”を掴んできた。一度覚えたこの快感こそが、自信と次のステップへの原動力となる。

しかし同時に、じっと同じ環境に留まっていることに耐えられなくなってくる。上を目指して頑張らないことに、罪悪感を覚えるメンタルをも身につけてしまったのだ。

―Up or out

ふと、ベンチャー企業で出会った、歩美の言葉が脳裏をよぎる。

外コンでは「昇進するか退職するか」という意で理解されているこのキャッチは、東京という地にもまるっと通用するのかもしれないと思った。東京では、常に上を目指し続けなければ、居心地が悪くなってくる。

芽衣の幸せそうな姿を眺めながらも、その内側ではそんなことを考えていた。

―ブブッ。

噂をすれば影…じゃないけれど、頭の中で思い浮かべていた人からタイミングよく連絡がくることって、たまにある。

スマホには、歩美からのLINEの新着メッセージが表示されていた。


歩美からのメッセージの内容と、莉々が東京を去ったワケ

地元の親友・芽衣と別れ、実家に帰るまでの帰路、歩美からのメッセージを開いた。

歩美:莉々ちゃん、元気してる??今請け負っている案件があって、もしよかったら、一緒に働かない?

ずっと苦手だと思っていた、完璧にも見えた女性。なのに、なぜだろう。今は彼女からのメッセージにすごく救われる気がする。



大手広告代理店を退職してまで入社したベンチャー企業は、途中から業績が大きく伸び悩み、1人また1人と従業員が去っていった。歩美との契約も途中で打ち切られた。人が少なくなった分、残った人間に負荷がかかった。

それでも、私は踏ん張り続けた。

けれどある時、突然過呼吸に陥った。腕と足には蕁麻疹。

自分ではまだまだ大丈夫だと思っていたのに、脳と心は意外とうまく連動していないらしい。全然大丈夫じゃなかった。

結局すぐに退職し、一旦実家に帰ってきたのだ。

それなりに貯金もある、貴重な経験も出来た。年齢的にも、再就職が見つからないことはないだろうから、ちょっとの間、静かなところで心を休めたかったのだ。

「あんた、このままこっちで就職したら?」

母からそう言われ、本気でその選択肢も検討してみたりもした。もともと地元がいやで東京にでてきたわけじゃない。

けれど、全然具体的なイメージがわかなかったし、なぜだかずっと落ち着かなかった。

癒されてしかるべき場所にいるはずなのに、心にうずく焦りのようなものがなくならない。

もうここでは満足できない体になってしまったのだと、芽衣を見て思い知らされたタイミングで、歩美からのこのメッセージ。

―…私、頑張らないで腐っている方がしんどいのかも。

下手に野心をもってしまったことが、幸せに繋がっているとも限らないことはわかってる。

でももう、一度知ってしまった快感を、一度知ってしまった世界を、知らなかったことにはできない。

莉々:歩美さん、来週どこかで会えますか?

意を決し、メッセージを打ち込み、何かを祈るような気持ちで送信ボタンを押した。家に帰ると、玄関で出迎えてくれたキキを撫で回しながら、こんなことをつぶやいていた。

「キキ〜。ちょっと、またしばらく戦いに行ってくるね」

少しずつ。だけど、確実に。ここから、快進撃が始まった。


▶前回:「横に並びたくない…」27歳の女にそう思わせた、美人じゃないのに魅力的な33歳

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東京に戻ることを決心した莉々を待ち受けていた、歩美の本音


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