今年、私たちの生活は大きく変わった。

“ニューノーマル”な、価値観や行動様式が求められ、在宅勤務が一気に加速した。

夫婦で在宅勤務を経験した人も多いだろう。

メガバンクに勤務する千夏(31歳)もその一人。最初は大好きな夫・雅人との在宅勤務を喜んでいたのだが、次第にその思いは薄れ、いつしか夫婦はすれ違いはじめ…?

2020年、夫婦の在り方を、再考せよ。

◆これまでのあらすじ

雅人との価値観の違いに悩む千夏は、これまでのように喧嘩する気にもなれない。夫婦生活の末期症状を迎えた彼女のもとに…?

▶前回:価値観が違い過ぎる、エリート拗らせ夫。ついにこぼれた、妻の危険な本音とは?



「千夏も別れちゃいなよ!」

葉月は、3杯目の白ワインをゴクゴク飲み干すと言い放った。

その目は若干充血しており、顔も少し赤い。そうなるのも無理はないだろう。彼女は、千夏と合流してからの20分の間に、驚くほどのハイペースでワインを飲んだのだ。

明るく離婚を報告してきた葉月だが、こんなお酒を飲むなんて、それなりのストレスがあったのだろう。この後ジムに行くからとアルコールを控えた千夏は、オレンジジュースを啜りながら邪推してしまう。

だが、葉月の勢いは止まらない。千夏を同志だと思ったのか、どんどん挑発してくる。

「今日は、とことん愚痴ろうよぉ。雅人さんの嫌なところ、たくさんあるんでしょ?」

そう言ってニヤリと笑うと、大きな声でウエイターを呼び止めて再び白ワインを注文した。

「私たちの自由に、かんぱーい!」

ハイテンションで騒ぐ葉月は、もはやただの酔っ払いだが、それが千夏に安心感を与えた。

葉月は、お酒を飲むと大概のことを忘れてしまうからだ。この際、何を言っても大丈夫だろう。彼女はきっと、忘れてくれる。

「雅人さんがいなくても生きていける気がしてきた」

千夏がそう言うと、葉月が満面の笑みであるものを差し出してきた。

「これ、見て」


葉月が見せて来た衝撃的なものとは…?

バツイチ女のモテ期


「私、モテ期かもー!」

葉月が差し出したスマホの画面には、男性の写真が映し出されていた。

プロフィール画像のようだが、清潔感のある端正な顔立ちで、芸能人と言われても不思議ではないほどのイケメンだ。

「この爽やかイケメンが、どうしたの?」

葉月と彼の接点が分からず、千夏が首を傾げながら聞くと、彼女は嬉しそうにこう答えた。

「最近、毎日やり取りしてるの。落ちついたら会いましょうってことになってて。

みんな、熱心にアプローチしてくれるから、こんな感じで連絡取ってる人が数人いるのよねえ」



どうやら葉月は、離婚して早々にマッチングアプリを始めたらしい。元々美人な彼女には、モテ期バブルが到来しているという。

「私って、まだこんなに需要あったんだなあって」

キャハキャハ笑いながら、「あ、またメッセージきた」と、浮かれた様子でスマホをタップする。

千夏は、さすが葉月だと感心してしまう。いつだって彼女は自由なのだ。他人からどう見られているか、世間体がどうとか、全く気にしない。

自分だったら、離婚歴があることを引け目に感じてしまい、積極的に話したいとは思わないだろう。

それは、会社員である自分と、無職の彼女との違いなのだろうか。そんなことをぼんやりと考えていると、葉月が「千夏もやってみれば?」と、いたずらっぽく笑った。

「やめてよ」

口ではそう言いながらも、心のどこかで「私にもまだ需要あるのかな」と、反射的に考えてしまった。

−何考えてるのよ、私…。

独身で、すでに恋愛できる立場の葉月に釣られ、あらぬことを考えてしまった自分を反省する。だが、自分に需要があるのかはさておき、雅人との価値観の違いに悩んでいることは確かだった。

2人とも在宅勤務になり、一緒に過ごす時間が増えて気づいてしまった。彼とは、理想とする将来像も、物の見方も全然違うということに。

元々は他人同士なのだ。価値観が違うのは仕方ないかもしれない。問題は、雅人が歩み寄る姿勢を一向に見せないことだ。

千夏は、彼と一緒の将来を描くことが出来ないと、思い始めていたのだ。

−それに私、経済力もあるし…。

幸いなことに千夏には、1人で生きて行くのに十分な経済力がある。もし雅人と離婚することになったとしても、問題にはならないのだ。

情緒的な結びつきも感じられなくなりつつある今、彼と結婚生活を送る意味がよく分からなくなっている。

どんどんネガティブな方向に考えてしまっているのだ。

「どうしたら良いか分からないよ…」

口から本音が、目からは涙が、ポロリと出てしまった。


葉月のアドバイスを受け、雅人と距離を置く千夏にまさかの出来事が…?

1人って幸せ


「少し雅人さんと距離置いたら?」

突然の涙に驚いたのか、葉月がハンカチを差し出しながら、落ち着いて、と諭す。

さっきまで酔っ払っていたとは思えないほど真面目な表情で、千夏に寄り添う発言を繰り返した。

「表情も暗いし、いかにも無理してるって分かるよ。ギリギリでしょ。

一回、冷静になって考えた方が良いよ」

「うん…」

弱々しく答えると、葉月がすぐさまスマホで何かを検索し始めた。

「ねえ、ニューオータニ、空室あるよ。

とびきり美味しいものでも食べて、ゆっくり休んだら?」

千夏のためにホテルの空室状況を調べてくれたらしい。

「あ、ディナーなら付き合うよ!

私もパーっと美味しいもの食べに行きたいし」

−葉月が言う通り、一度距離を置いた方が良いのかもしれない…。

言われてみれば、今自分が欲しているのは、ひとりになる時間。静かな環境で、冷静になって考える時間だ。

「うん、そうする」

千夏は、「お店探してみよう」と、スマホで検索を始めた葉月の横で、雅人にメッセージを打った。

“今日は、外に泊まります。帰りません”

気持ちが落ち着くまで連絡しないと決めた千夏は、このメッセージを送った後、スマホの電源を切った。



「じゃあ、私はここで。今晩はゆっくりしてね」

食事を終えると、葉月はホテルまで送ってくれた。

店の前で良いと言ったのにホテルまで付いてきた。心配してくれたのだろうかと涙腺が緩みそうだったが、エントランスに着くなり、さっさとタクシーに乗り込んだ。

「ホテルだとタクシーがすぐ捕まるから」という理由でついてきたらしい。本心なのか、千夏に気を遣わせないための嘘なのか。

葉月のことだから、本心の可能性が高い。そんなことより、千夏は、1人の時間を後押ししてくれた彼女に感謝していた。

「じゃあ、おやすみ」

ホテルの部屋に入った千夏は、ベッドに倒れこんだ。

−自分1人だけの空間が、こんなにも幸せだったなんて…。

天井を仰ぎながら、久しぶりの1人時間を噛みしめる。思い返してみれば、在宅勤務になってから、1人の時間がなくなった。

これまでは、雅人も不在にしていることが多かったから、1人になる時間を確保出来た。だが、在宅勤務と自粛生活が始まってからは、常に部屋で一緒。

どれほど息苦しかったのか、離れてみてようやく分かった気がする。

その夜、千夏は、ゆっくりとバスタブに浸かって体を癒し、ふかふかのベッドでぐっすり眠った。



翌朝。

−そういえば…。

ホテルの卓上に置かれたカレンダーを何気なく見た千夏は、あることに気づいた。生理がきていないのだ。

昔こそ不順で悩んだこともあったが、最近は毎月、ほぼきっかりきていた。

しかし、慣れない在宅勤務でストレスが溜まっているせいだと深く考えていなかったが、今回は3週間以上遅れている。

−ま、まさか。

千夏の脳裏に、漢字2文字が過ぎる。思い返してみれば、まだ出社していた頃に雅人と抱き合った心あたりもある。

千夏は、慌ててスマホで近くの薬局に駆け込んだ。

簡易キットで検査すると、結果はなんと陽性だった。

−どうして今なの。

千夏が真っ先に感じたのは、喜びや感動よりも動揺だった。


▶前回:価値観が違い過ぎる、エリート拗らせ夫。ついにこぼれた、妻の危険な本音とは?

▶︎Next:9月15日 火曜公開予定
妊娠が発覚した千夏。雅人も様子がおかしいと気づくが…?


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