—理性と本能—

どちらが信頼に値するのだろうか
理性に従いすぎるとつまらない、本能に振り回されれば破綻する…

順風満帆な人生を歩んできた一人の男が対照的な二人の女性の間で揺れ動く

男が抱える複雑な感情や様々な葛藤に答えは出るのだろうか…

◆これまでのあらすじ

絵に描いたように清純な婚約者・可奈子(25)がいるにも関わらず、魔性の女・真珠(26)に本能的に惹かれてしまう誠一(30)。真珠にそそのかされた誠一は、ホテルの一室に足を踏み入れてしまうのか…?

▶前回:「こんな屈辱は初めて」男が女にホテルでサレた"酷い仕打ち"とは



「人生の分かれ道」


人生は選択の連続だ、というシェイクスピアの名言があるが、僕は今、選択を迫られている。

ホテルの21階のフロア…。

目の前には重厚なドアが二つあり、麗しい女性が手招きをしている。

彼女が右のドアを開けば、僕は引き返そうと思う。
彼女が左のドアを開けば、その先に飛び込もうと思う。

思い返せば自分の意思など尊重せず、用意されたレールに乗って定められた人生を歩んできた。親の望む人生を歩み、親が望む息子を演じ、女性が望む男になって、行儀良く生きてきた。

たまにはサイコロを振って、ドキドキしながら人生を決めてみたい。

「ん?どうしたの?」

エレベーターの前で立ち尽くしていた僕を、真珠(マシロ)が不思議そうに見つめていた。真珠は何も知らない。僕に婚約者がいることも。だから彼女に罪はない。悪いのは僕だけだ。

真珠は僕の手を引き、“左”のドアを開けた。

この先の出来事は墓場まで持っていく。

結婚したら良い夫になるのだから、最後に楽しい思い出を作ることくらい許してもらえないだろうか。婚約者の可奈子に「おやすみ」と一言LINEを入れ、僕は秘密の園へ足を踏み入れた。


ホテルの一室に飛び込んでしまった誠一、とうとう一線を越えてしまうのか…?

重厚なドアを開け、部屋に飛び込むと、そこにはラグジュアリーな空間が広がっていた。

通常の部屋の2倍以上の天井高、それに沿うように大きな窓が広がっており、夜の東京が燦然と輝いて見えた。

弧を描くような巨大なソファが部屋の中心に鎮座しており、テーブルの上にはシャンパンボトルが冷やされている。

30人くらいで派手なパーティーが出来そうなほどの広い部屋だった。

「なに、この部屋…」

「プレジデンシャルスイートよ。私このホテルが大好きでよく泊まるんだけど、運が良いとアップグレードされるのよね」

真珠は履いていた赤いピンヒールを脱ぎ捨てると、シャンパンボトルを開け始めた。

「この階はこの部屋だけ。だから誰にも邪魔されずに楽しめるよ。カードがないと上がれないから、あの男も追って来ないし」

「え、でももう一つドアなかった?」

「あぁ、あれはコネクティングルーム」

僕は思わず笑ってしまった。左右どちらの扉を選んでも、真珠の部屋だったとは。

僕はもう悩むことをやめた。考えても仕方がない。人智を超えた何か強力な引力に引っ張られているような気がするのだ。



シャンパンが並々と注がれたグラスを手渡された。

「運命の再会に、乾杯」 

真珠がそう言って、グラスを近づけてきた。

一気に飲み干そうとしてシャンパンが口元からぽたぽたと零れ落ちスーツを濡らしても、真珠が気にする様子は微塵もなかった。じっとりと濡れたスーツを甲斐甲斐しく拭いてくれる女性は、僕の隣にはいない。

「運命、か…」

「あのバーで出会ったのも、こうして1週間後に再会しちゃったのも運命感じない?」

「確かに縁は感じる。真珠は運命とかってあると思うの?」

「うん。でも運命は自分で変えられると思ってる。人生は…」

その瞬間、僕と真珠の言葉が重なった。

『選択の連続』

同じ言葉を口ずさんだ僕らは顔を見合わせて大笑いした。

「出会ったのも再会したのも運命だと思う。だけど私と貴方があのバーに行ったのは自分の選択でしょ?私が貴方に話しかけたのも、貴方が私を連れ出したのも、この部屋に入ったのも全部自分で選択したこと。

だから運命は自分で切り開くものだと思うの。運命は変えられるって信じてる」

真珠の語る言葉を深く受け止めていると、彼女はニコっと微笑みながら顔を覗き込んできた。

「ねぇ、楽しいことしよ!」

真珠はシャンパンボトルを抱えていきなり立ち上がり、僕の手を引き部屋の奥へと向かった。

ガラス窓の向こう側には玉砂利を敷き詰めた小さな坪庭があり、その更に奥にはウッドデッキのテラスが広がっていた。

生暖かい夜風に触れながら、東京の街を見下ろす。

すると、真珠が突然服を脱ぎ始めた。僕が戸惑っていると真珠はクスクス笑った。

「貴方も脱いでよ」


まさか!?真珠がとった驚きの行動とは…?

真珠は僕のスーツを剥ぎ取ると、ワイシャツのボタンを上から外し始める。

自分の胸の鼓動が真珠に伝わってしまうのではないかと思うほど、僕はドキドキしていた。

真珠はたまにこちらの顔を見上げながら、ゆっくりと丁寧に全てのボタンを外す。そして、ベルトを外し…、真珠もシルクのキャミソールを脱ぎ捨て、僕たちは下着姿になってしまったのだ。

繊細なレースを施した黒い下着から溢れそうな豊かな胸に、キュッとした見本のようなくびれ…男の理想を具現化したようなプロポーションを目の当たりにし、思わず生唾を飲み込む。

このままキスするのかと思いきや、真珠は僕の手を強く引き、階段を駆け上がった。

「え、すげぇ…」

突如大きなプールが出現し、僕が目を輝かせて驚いていると、後ろから真珠に突き飛ばされプールに落とされてしまった。キャハハと甲高い声を響かせ子供のように無邪気に笑う真珠に、僕は助けを求めるフリをして手を差し出した。

「助けて〜」

「ごめんごめん」

謝りつつも笑い続ける真珠が僕を助けようと手を掴んだ瞬間、僕は手を引き真珠を道連れにした。

「酷い〜騙したわね。でも最高に楽しい!」

「うん、最高に楽しい!」

水しぶきを掛け合ったり、真珠をお姫様抱っこしたり、おんぶしたり、本気で泳いだり、手を繋いで一緒に飛び込んだり…。粋な照明でムーディーに演出された夜のプールで、僕たちは童心に返ったようにはしゃぎ続けた。

真珠は隣にいると緊張してしまうほどの美貌を持っているというのに、彼女の天真爛漫な言動に触れるとこちらの心まで解れ、不思議と素直になってしまう。

—女性と一緒にいて爆笑するなんて、いつぶりだろうか…

普段、何事も頭の中で冷静に考えてから行動していた僕に、真珠という不思議な生き物は大きく揺さぶりをかけてくる。僕が作り上げた好青年というお面も、頭の中を支配する理性も、何重にも重ねた壁も、真珠はすべてを取っ払って、裸になった心に直接語りかけてくるのだ。

真珠に真っ直ぐに見つめられると、取り繕うことができなくなってしまう。

「はぁ〜楽しかった。あの外銀男だったらプールになんて目もくれず直ぐにベッドに連行されていたと思うわ。今ここにいるのが誠一でよかった」

真珠はそう言うと、僕の頬を両手で包んでニコっと笑った後にゆっくりと口づけをしてきた。



化粧がほぼ落ちてスッピンに近い顔、濡れた髪、満月の光と暖色の照明に照らされた薄暗いプール…

何もかもが色っぽく、艶かしい空間だった。酒に溺れたことのない僕だが、この雰囲気には溺れそうになるほど妖艶なパワーを感じた。

「先にシャワー浴びていいよ」

バスローブを羽織った真珠に急かされ、僕は一人でシャワーを浴びることになった。シャワーから出れば、麗しい女性とエクスクルーシブな楽園が僕を待っている。裸でシャワーを浴びているこの状態で、引き返す男などこの世に一人もいないだろう。罪の意識をかき消すほどの期待を胸に、僕は真珠のいるベッドルームへ向かった。

しかし、予想外の展開が僕を待っていたのだ。


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誠一が驚愕した予想外の展開とは…?