女の幸せは、チヤホヤされること?貢がれること?

いいえ。私の幸せは、そんなんじゃない。欲しいものは自分で勝ち取るの。

「若くたって、女だって、成功できるんだから。私にかまわないで」

これは、銀座の一等地でランジェリーショップを経営する、勝気な女社長の物語。

◆これまでのあらすじ

メイコは、コウタのデッサンを使用した新商品のランジェリーをプロデュースした。その商品の発売当日。売り上げはなぜか、メイコの予想をはるかに上回っていて…?

▶前回:「私って恋愛対象としてアリ?」女の問いに、男が返したショックな言葉とは



「…えっ、どういうことなの!?」

メイコは目を丸くしながら、店の公式Instagramアカウントをチェックしていた。

そこには新商品に関連するコメントが100件近く投稿されている。

書き込まれているコメントを見れば、なぜここまで爆発的な売り上げになっているのかが一目で分かった。

「こんなこと、聞いてないんだけど…」

誰もいない有楽町のホテルの一室に、メイコのか細い声が響く。

“爆発的な売り上げ”のキッカケとなっているのは、元カレの俊也の会社だった。

俊也の経営する家具ブランドの新しいWEB CMが、昨日公開されている。その冒頭でベッドに寝転び天井を見つめている、大人気モデル。

その彼女が、メイコのブランドの新作ランジェリーをきっちりと身に着けていたのだ。

メイコは、なぜこんなことになっているのか分からず、慌ててLINEのトーク一覧を開く。そして履歴をさかのぼって見つけ出した俊也の名前を、ためらいもなくタップした。

別れ話以降、初めて俊也へ電話をかける。

スマホを耳にあて、ドキドキしながらコール音を聞いていると、しばらくして寝起きでぼんやりしている俊也の声が聞こえてきた。

「ねえ、聞いてないんだけど。どうしてあなたの会社のCMに、うちの新商品が使われてるの?」


俊也から聞かされる、まさかの理由

「…へっ?」

俊也の素っ頓狂な声に、メイコは事態をイチから説明する。すると、さえぎるようにして俊也は言った。

「いや、莉子ちゃんがわざわざ送ってきたから…」

「莉子が?」

「そう。『プロモーションにぜひ使ってください』って、さ。手紙まで入ってたよ。なんだ、メイコは知らなかったのか?」

―え、なんで?どうして莉子が?

メイコは混乱したまま「そう…」とだけ言って、電話を切ろうとする。その気配を感じたらしい俊也は「待って!」と言い、メイコを引き止めた。

「メイコは、元気でやってる?」

「もちろんよ。だけど、今回の新作でしっかり実績作って、トシさんがいなくても本庄メイコはやれるって、見せつけたかったのにな」

「…完全に、俺の会社が宣伝手伝っちゃったね」

苦笑する俊也にメイコはうまく返すこともできず、落ち込んだまま電話を切った。そして、手元のノートパソコンをいじりながら首をかしげる。

―莉子が、私の自立を阻もうとしている?…でも、なぜ?

メイコは、モヤモヤした気持ちを抱えたまま、銀座の店舗へと向かった。





「おはよう、莉子」

メイコが挨拶をすると、莉子は珍しく気まずそうに目を泳がせた。挨拶を返さない莉子に、メイコは言う。

「見た?すごいことになってるね」

メイコが微笑むと、莉子は「はい…」とつぶやき、しょんぼりとうつむいた。

「ねえ莉子。どういう意図?勝手にそういうことしちゃだめよ?」

メイコが極力優しくたしなめると、莉子は今にも泣き出しそうな顔でこう言ったのだ。

「こんなに跳ねるとは思いませんでした。それに、こんなにすぐメイコさんの耳に入るなんて」

「…莉子は、何がしたかったの?」

「私、なんか悔しくて。メイコさんが、俊也さんの手助けなしに成功していくのを見るのが、怖くてたまらなかったんです」

莉子はメイコと目も合わせず、床をにらみつけたまま続ける。

「メイコさんは、確かに私の憧れです。でも一緒にいればいるほど、自分のコンプレックスが強くなって。比べちゃうんです」

そして莉子は、さらにうつむいた。

「なんで私はメイコさんみたいに、生まれも見た目も頭も良いカリスマじゃないんだろうって、落ち込むんです。一生勝てないって、メイコさんを見てると分かるから」

メイコは莉子の本音を聞き、ずっと可愛がってきた彼女が追い詰められていたことに、今ようやく気付いた。

「だから、メイコさんの足を引っ張りたくなりました。本当にごめんなさい。嫉妬です、これも…」

そう言って莉子は「コウタからプレゼントされた」と言っていたネックレスに触れる。

そんな彼女をジッと見つめていたメイコは、ゆっくり口を開いた。


取り返しのつかないことをした莉子に対し、メイコは…?

「莉子、ごめんね」

メイコが謝った瞬間、莉子はバッと顔を上げ、不思議そうにメイコを見つめてきた。

「莉子の気持ち、全然見えてなかった。…でもね、なんで一生勝てないなんて言うの?分からないじゃない、誰にも。自分で自分を大きく見積もってないと、可能性はどんどん狭くなっていくのよ」

「はい…」とうつむく莉子の肩を叩き、メイコはいつも以上に明るい笑顔を見せる。

「まあ、初日からこれだけの売上が出てるのは、莉子のおかげね!今日は忙しくなるわ〜!」

メイコの言葉通り、店頭での新作ランジェリーの売れ行きも、想像を遥かに超えていた。

それは初日から、店頭分の在庫がほとんどなくなるほどの売上だったのだ。

「大変だったね、今日!ホントにお疲れさま」

まだ少し気まずそうにしている莉子を先に帰らせると、メイコはバックヤードへ行き、ウキウキとした気持ちで電話をかけた。

コウタに、だ。

スマホからは「メイコさん!お久しぶりです」と、優しげな声が聞こえてくる。メイコはその声に、気持ちが昂るのが分かった。

「コウタ!新作のランジェリー、すっごい売れてるよ!色々あって、予想の10倍は超えてる。凄かったわ〜」

「ええ!?…ほんとですか?」

素っ頓狂なコウタの声に笑いながら、メイコは言った。

「ねえ、今から会えないかな」

「え!…会えます。うち、来ますか?」



久々に訪ねたコウタの家は、相変わらず様々な作品が置かれており、雑然としていながらも雰囲気のある空間だった。

その場で振舞われたコウタの手料理と日本酒を味わいながら、メイコは思う。

―この人といると、なんだか居心地いいなあ。

一緒に仕事をしてから、メイコはコウタを明らかに特別な存在だと感じている。そんなことを考えながら、赤らんだ頬でメイコはさりげなく聞いた。

「そういえばさ、莉子にプレゼントした?」

「あ、ネックレス?ねだられたんです。結構高くてビックリした」

酔っているのか、コウタの口調が砕けた。メイコはそれが嬉しい。

「僕、ブランドとかよく知らないから…。ネックレスってこんなにするんだって驚いた」

困り顔のコウタもかわいくて、メイコは思わず微笑む。すると彼は、急に何かを思い出したようで「そうだ!」と立ち上がった。

「メイコさんに、次会ったら渡そうと思ってたモノがあって」

その言葉を聞いた瞬間、メイコはイヤな予感がした。「自分のためにもブランド物を買ってくれていたとしたら、ガッカリするな」と思ったのだ。

しかし戻ってきたコウタが持っていたのは、予想外のものだった。

「染めてみたんだ。これは、メイコさんをイメージした色」

メイコに手渡してきたのは、薄紫色のスカーフ。予想を大きく裏切るプレゼントに、メイコは笑みをこぼす。

「仕事で会わなくなってから、たまにメイコさんに会いたいなって思っちゃって。そんなときに、これ作ってた」

そう言ってコウタは、照れくさそうに笑う。

「うわあ!すっごく嬉しい、ありがとう!」

「…僕、メイコさんが好きです」

スカーフに見とれていた瞬間の、唐突な告白。

その言葉にメイコがうなずいたとき、静寂を切り裂くようにスマホが鳴り響いたのだった。


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メイコのスマホに、電話をかけてきた人物とは…?