男の家で一日中…。彼と連絡がつかなくなり、発狂した女が取ったありえない行動
最初はほんの少しのつもりだったのに、気付いた頃には過剰になっていく“束縛”。
―行動も、人間関係の自由もすべて奪い、心をも縛りつけてしまいたい。
そんな男に翻弄され、深い闇へと堕ちていった女は…?
◆これまでのあらすじ
詩乃からの愛情が鬱陶しくなった亮は、女友達のアリサを利用して、ムリヤリ別れを告げることに成功した。
そして詩乃のことを忘れ、アリサと食事を楽しんでいたその時、いきなり目の前に血相を変えた詩乃が現れて…?
▶前回:できるだけ多くの女と、常に関係を持ち…?女に裏切られた男がした、最低な行為
「おかしい、おかしい。ありえないよ…!」
亮とアリサがレストランに入っていく背中を茫然と見つめながら、詩乃は目の前で起こっていることを信じられずにいた。
2人がお店に入って、もう10分以上は経っているだろうか。それでも詩乃はピクリとも動かず、店の前に立ちつくしている。
そしてようやく、止まっていた思考が急激にグルグルと動き出した。
―あんなに好きだって言ってくれてた亮が、私を振った!?そんなのあるワケないじゃない。あの女が亮を脅しているんだわ。
そう自分に言い聞かせた詩乃は、その場で大きく息を吸って叫んだ。
「亮を、助けないと…!」
突然叫びだした詩乃に驚いたのか、通りを歩いていた人たちが何事かと一斉に詩乃を見てくる。しかし詩乃はそんなことを一切気にする様子もなく、勢いよく駆け出した。
そして店員の静止も振り切り、レストランの扉を押し開けたのだ。
「いらっしゃいませ。お客さまはご予約されているでしょうか?」
扉を開けた瞬間、レストラン特有の張り詰めた空気とともに、ウエイターが声をかけてくる。しかし詩乃は、その声も無視して奥へと進んで行った。
―亮を返して。亮を返して…!
亮の目の前に、姿を現した詩乃は…?
「お客さま!?お待ちください、お客さま…!!!」
ウエイターが止めに入る声なんて、気にもならない。詩乃は亮の姿を探し、店内をズンズンと歩き回る。
そして興奮状態の詩乃は、ゼエゼエと息を切らしながら、店の中をグルリと見回した。
ウエイターの叫び声で気付いたのか、その異様な騒ぎに、ホールにいた他の客も詩乃を何事かといった目で見ている。その客の中に、亮の姿を見つけた。
―亮!!やっと見つけた。
バッチリと目があった瞬間、詩乃は亮の元へと駆け寄った。怯えたような表情で詩乃から少しも視線を外さない亮を見て、詩乃は喜びで満たされる。
―こんなに私のこと見つめてくれたの、久しぶりだね?そんな顔して、よっぽどその女が嫌なのね。今、助けてあげるから…!
詩乃が一歩ずつ亮に近づいていくと、亮は立ち上がり、なぜだか後ずさりを始めた。
「亮、どうしたの?迎えに来たよ?」
詩乃がそう言うと、亮は震える唇を開いて、こう言ったのだ。
「分かった。分かったから詩乃、落ち着いて?ここ店内だから…」
亮の言葉を聞いて、詩乃は素直にスッと立ち止まる。
「…大丈夫。亮の言うことはなんでも聞くから、ね?」
そう言って詩乃は、にっこり微笑んだ。
「詩乃、いい子だね。俺はこの女性と仕事の打ち合わせがあるから、今日のところは帰ってくれるかな?お仕事が終わったら必ず連絡するからね」
シンと静まり返った店内に、震えている亮の声が響く。
店のどこからか「そんなんで彼女、言うこと聞くの…?」と不安そうにつぶやく女の声が聞こえた。
しかし詩乃は、亮の放った言葉に表情をパッと変え、満面の笑みを浮かべる。
「そうだったの…。お仕事の邪魔してごめんなさい。じゃあ私はおうちで待ってるね」
そう言ってあっさりと、レストランを出て行ったのだった。
◆
翌朝。
―ねえ、なんで…。亮から全然連絡が来ないんだけど。
「また後でね」と言われてからもう何時間も経つのに、亮から連絡が来る気配は全くない。
詩乃はレストランから帰宅し、一晩中亮にLINEを送り続けた。それに電話もかけ続けているが全く出てくれず、詩乃の心配は募っていく。
…発信履歴は、もう100件を超えた。
もちろん一睡もできないまま朝になって、空もだんだんと明るくなってきた頃。詩乃はついに、亮のマンションへと向かうことにしたのだった。
亮と連絡が取れないことに、発狂した詩乃は…?
詩乃はメイクも髪の毛もボロボロのまま家を飛び出して、タクシーをつかまえる。
しかしマンションに到着してインターホンを押しても、亮は全く出てくれなかった。
―ねえ、亮。家にいるんでしょ?どうして出てくれないの?こうなったら亮が出てくるまで、ここで待っててあげなきゃ。
詩乃はそんな“義務感”に駆られて、マンションの前で亮が出てくるまで待っていることにした。
しかし1時間、2時間…と経っても、亮は出てこない。それでも詩乃は亮が出てくるのを待ち続けた。
―亮、具合でも悪いのかしら…。心配になってきた。
気付けば日も暮れ、辺りは真っ暗になっている。詩乃はすでに10時間以上、マンションの前でずっと立って待っているのだ。
「あの、すみません…。ちょっと良いですか?」
すると突然、誰かに声をかけられた。
「亮…!?」
亮がようやく迎えに来てくれたのだと思い込んだ詩乃は、勢いよく顔をあげ、彼の名前を呼んだ。
しかし顔をあげた詩乃の前にいたのは、亮ではなく見知らぬ男だった。目の前で起きていることを理解できず、詩乃がぼうっと男の顔を見つめていると、その男は困ったような声で言った。
「あの、ここで何してるんですか?」
「えっと…。亮を待ってるんです!!」
「うん、誰かを待ってるのかもしれないんだけど、ここに何時間もずっと立ってたら、迷惑だから。マンションの住人から『気味が悪い』って苦情があったんで」
詩乃がマンションの前でずっと待ち伏せしていることを、誰かが管理人に通報したようだった。
―なんて迷惑なことしてくれるのよ…!
他人から「気味が悪い」と思われ、通報までされていた事実に腹が立った詩乃は、男の制止も振り切り、自宅へと逃げ帰ったのだった。
◆
数か月後。
結局あれ以来、亮から連絡がくることは一度もなかった。
スマホが壊れるのではないかと思うほど電話をかけても出ないし、こっそり亮のマンションに行ってみても、出会えなかった。
電話は着信拒否されているし、どうやらあのマンションからも引っ越してしまったようだ。
おまけにLINEからSNSまで、全てブロックされている。
だけど詩乃は相変わらず、亮だけを追いかける日々を送っているのだ。今は詩乃だとバレないようにInstagramのアカウントを開設し、着々と亮に近づいている。
―亮、早く会いたいな…♡
あんなに痩せ細っていた詩乃は、寂しさを埋めるために暴飲暴食を繰り返し、ぶくぶくと太り始めた。気付けば体重は10キロほど増えている。
もう、昔の詩乃は見る影もない。
―亮、亮、亮…。
家からは一歩も出ず、ただただ毎日ベッドの上で左手の薬指にはめられた指輪を眺め、いつか来ると信じている亮との日々を思っている。
―亮、愛しすぎてヤバいよ。
Fin.
▶前回:できるだけ多くの女と、常に関係を持ち…?女に裏切られた男がした、最低な行為