あなたはもう、気づいている?

あの笑顔の裏に潜む、般若の顔。

『なんで、あんな女が彼と…』
『こんなにも彼に尽くしたのに…』

復讐なんて何の生産性もないってこと、頭ではわかっている。だけど…。

激しい怒りに突き動かされたとき、人はどこへ向かうのか。

これは、復讐することを決意した人間たちの物語。

◆前回までのあらすじ

愛菜はちょっとした悪戯心から、親友である真由子が思いを寄せていた涼真とデートを重ねてしまった。そして、真由子にそれがバレ、怒りをかってしまう。

▶前回:「隠し撮りされてたなんて…」デート相手の男に送り付けられた、ヤバすぎる写真とは



愛菜:「まさか、自分にも復讐心が湧いてくるなんて…」


心から好きになれる男性にそうそう出会えないのと同じくらい、心底気の合う女友達も、また貴重な存在だ。

大人になればなるほど、心を許せる同性の友達は少なくなってくる。

だから、何度も後悔した。どうしてあの時、冷静な判断を欠いてしまったのだろう、って。

ちょっと気に食わないところがあるからって、親友である真由子が本気で恋した男を横取りするようなこと、するべきじゃなかった。

けれど、同時にこうも思っていた。

―復讐まですることないのに…。

復讐なんて、何も生み出さない。余計な恨みをかうだけ。真由子に復讐されてから4年間、ずっとそう思っていた。

…つい、さっきまでは。

いま、私ははじめて復讐心というものを理解した。どうしようもなく抑えられない強い怒りに突き動かされる、この衝動を…。


真由子から復讐を受けた4年後。今度は愛菜が復讐したいと思った相手とは

幼い頃、「愛菜は将来、何になりたいの?」と聞かれれば、「およめさん」と即答していた。

29歳になった今でも、その夢はぶれていない。

もともと大手広告代理店での受付業務に大した熱はなく、いまどき珍しい部類に入るかもしれないけれど、自分のことを腰掛けOLと強く自覚していたのだ。

コロナの影響で勤務日数とそれに応じた給与が減ってしまってからは、より一層、早く結婚してしまいたいという欲は強くなるばかりだった。

でも、私は焦っていなかった。

IT系ベンチャー企業で役員をしている、将来有望な恋人・豪太がいたから。彼も今年で33歳になる。

お互いに適齢期、付き合ってそろそろ2年を迎える私たち。

新居はどこにするか、ハネムーンはどこに行きたいか、子供は何人欲しいか、子供の名前は何にするか。

“もしも”の域からでない仮定の話ではあったけれど、結婚後の未来を2人で夢みて、何度も語り合った。

だから、当たり前に結婚するものだと思っていた。あとは、“いつ”するかという問題だけ。

仕事の忙しい彼を急かすのもかわいそうだし、焦っているとも思われたくない。だから、結婚は彼のペースで。待とう。私はそう決めていた。

だから、あの現場に遭遇してしまったときは、息が止まるかと思った。いや、数秒は本当に息ができなかった。

それは、豪太から『今日も仕事だ…』とLINEが入っていた、ある土曜日のこと。

友人とランチに出かけようと、銀座を歩いていた、そのときだった。

豪太と女が仲良く手をつないで歩いている姿が、目に飛び込んできたのだ。



その映像が目に飛び込んできた瞬間、脳に視覚情報が伝達されるよりも前に、心臓がドクンと跳ねた気がした。体が意識とは関係なく反応した。

その距離感と女の表情から、2人が男女の関係であることはすぐにわかった。

―彼氏の浮気現場に遭遇する。

文字に起こせば、安っぽいドラマにありそうななんともチープな展開。しかし、いざ自分の身に降りかかると、これほどまでの衝撃に襲われるという事実にどこか新鮮ささえ覚える。

心音が、どうしようもなくうるさい。

豪太がモテる男なのはわかっていた。今までも、女の影を全く感じたことがないわけではなかったけれど、多少の浮気は目を瞑ろう。そう思ってきた。

けれど、こうやって現場を実際に目撃してしまうと、耐えがたいほどの悲しみと、それ以上の怒りに支配される。冷静ではいられなくなってくる。信じたくないけれど、これは現実なのだという実感がじわじわ湧いてくる。

証拠の写真をとるべきか、怒りに任せて2人に詰め寄るべきか、回らない頭でどうするべきかを必死に考えていた、そのとき。

2人は、私の想像をはるかに上回る行動に出たのだった。


愛菜が目撃してしまった、豪太の浮気現場。そして、更なる修羅場に…

豪太とその女は、軽い足取りでとある白い建物に吸い寄せられて行く。

そして、その白い建物の掲げる看板を目にした私は、戦慄した。

『TIFFANY&CO. BRIDAL BOUTIQUE』

「…えっ」

思わず漏れ出た声に、通りすがりの人々の注目が集まるが、そんなことはもうどうでもよかった。

―…嘘でしょ。

さきほど感じていた悲しみが、強い、強い怒りに変わっていくことを感じる。

止まっていた呼吸が、一気に荒々しくなっていく。

―…許せない。

私は気が付くと、今にも店に入ろうとしていた2人の目の前に歩み寄っていた。どうするべきかなんて、もう分からなかった。この激しい怒りを、とにかく豪太にぶちまけたかった。

「…ねえ!!」
「…あっ。え、愛菜ちゃん、どうしたのこんなとこで偶然だね」

普段はクールで冷静沈着な豪太が、店内に入ってきた私を見るや否や、慌てふためき、額に汗を滲ませている。そして、そんな豪太と私の様子を見て、隣にいた女も何かを察知したようだった。

「いや、ちょっといったん店の外でようか、ね、ちょっと。ね?」

私は、豪太に強引に引っ張られるがままに、離れた場所へと連れていかれる。そして、女から見えない位置まで連れてこられると、豪太はひたすらに謝り続けた。

「本当にごめん。そういうつもりじゃなかったというか…、言い訳するつもりはもうありません。本当にごめんなさい、本当に申し訳ない…」

人の目をはばかることなく、豪太はひたすらに謝罪を繰り返す。

「こっちむいて」
「…はい」

私はそう言うと…彼の頬に思いっきり手のひらを叩きつけた。



私は、手のひらにジンとした痺れを感じながらも、足早にその場を立ち去った。

あの状況で、彼はとにかく私を帰らそうとした。いやでも理解するしかない。浮気相手は…私の方だったのだ。

豪太を置いて立ち去ったのは、謝罪をされたから許したわけでは断じてない。これ以上この男と関わっていると怒りが収まらないと感じ、一発だけ彼に制裁を与えて見捨てるという選択をしたまでだ。

けれど、それは大きな誤算だった。

彼が視界から消えたところで、怒りは全く収まらなかった。

むしろ、冷静さを取り戻してから、「ああすればよかった」「もっとこうすればよかった」という後悔の念が次々に溢れ出し、悔しさと怒りに心が蝕まれていくばかり。

2年間も、結婚を期待させるだけさせておいて、あの男は裏切った。私が幼い頃から夢みていた結婚を…。20代後半の貴重な2年を彼に捧げたのにも関わらず…。

私は、真由子のことを思い出す。

真由子も、好きな男と私が手を繋いでいるのを目撃したのだろうか。

だとすれば、復讐されたことも理解ができる。いや、復讐は当然のことだったのだ。

どうしようもなく抑えられない、強い怒り。衝動。

ビンタひとつで許されていいワケがない。そんなことで、この腹の虫がおさまるわけがない。

「豪太、絶対に許さない…」

私はそう呟くと、最も愛しく、最も憎い男を苦しめるために、ある行動に出ることを決意した。




▶前回:「隠し撮りされてたなんて…」デート相手の男に送り付けられた、ヤバすぎる写真とは

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愛菜が豪太に仕掛けた、恐ろしい復讐とは…。