「今度こそ、幸せになりたい」

“離婚”という苦い経験を経て、また恋をして結婚がしたいと願う人たちがいる。

そんな彼らの再婚の条件は、実に明確だ。

「一度目よりも、幸せな結婚!」

それ以上でも、それ以下でもない。

幸せになることを、諦めないバツイチたちの物語。

4話からは、バツイチ子持ちの未央の物語がスタートした。

◆これまでのあらすじ
「子どもにパパを作ってあげたい」という気持ちから婚活を始めた未央。アプリに登録して本格的に再婚活を始めたが…

▶️前回:30代女を、陥落させるには…。出会って30分で、警戒心が強い女を口説き落とした男の手口



「プロフィールには、『離婚歴あり』『子どもあり』にチェックしてるのよ。でも意外と『いいね』がつくのね」

「なかなか、いいじゃん!」

「でね、今、3人とメッセージのやりとりをしてるんだけど、この先どうやって進めるのがいいの?」

未央は同期である優奈と、ランチをとるために職場近くのカフェにやってきた。

先週登録したばかりのマッチングアプリについて、すでにアプリを使いこなしている優奈に、進め方を伝授してもらうことにしたのだ。

「私は5人同時進行してるよ。今週1人、来週1人会う約束をしてる。マッチングは会ってナンボよ!とりあえず会ってみて、ダメだったら即フェードアウト」

優奈は未央と同じ36歳だが、未だ独身。1年前よりマッチングアプリにハマり、今や婚活が趣味のようになっている。

「ダメかどうかって、どこで判断するの?」

未央は食後のコーヒーを飲みながら、アプリのメッセージを確認する。その様子を見ながら、優奈が楽しそうに言った。

「プロフィールの写真と本人が違いすぎたり、話がまったく噛み合わなかったり、ダメだなって思う理由はいろいろだよ。ズルズル引っ張るのは、お互いの時間の無駄になるから早いうちに見極めるのがポイント」

優奈の言葉に未央が頷く。

「なるほど。じゃ、とりあえず会ってみるわ」


とうとう、アプリで知り合ったバツイチ男とデートする未央だったが…

金曜日。

未央は仕事を定時で切り上げると、自宅から電車を乗り継ぎ、新宿御苑に向かった。

メッセージのやりとりをしていた一人と、会う約束をしているのだ。

その人は、プロフィールによると、未央より2つ上の38歳で、スマホのアプリを開発する会社を経営している。年収は2,000万で、バツイチで子どももいるが一緒には住んでいないらしい。

未央はアプリでマップを確認しながら、目的地の店を目指す。

「場所はお任せします」とは言ったものの、まさか新宿御苑になるとは思わなかった。

未央の自宅や職場からはそう遠くないが、あまり行き慣れない場所だったからだ。

― たしか、彼の職場は新宿で、自宅は高田馬場にあると言っていたから、慣れた場所なのかしら…。

指定してきた店は高級そうな中華レストランだが、未央の中で相手への期待値は下がっていく。

なんとか店にたどり着くと、一人の男性が店の前に立っていて、未央と目が合うと緊張した様子で声をかけてきた。



「失礼ですが、未央さんですか?僕、小野徹也です」

白シャツにネクタイのいたって普通のスーツ姿。身長はヒールを履いている未央より少し高いくらいだが、筋肉質でスーツの上からでも鍛えているのがよくわかる。

― イケメンじゃないけど、清潔感があるから嫌な感じはしないわ。

「はい、未央です。よろしくお願いします」

未央は少し安心して、彼の後に続いて店に入った。駅からだいぶ歩いたけれど、店は静かでいい雰囲気だ。

「じゃ、初めましてということで、乾杯!」

1杯目は紹興酒もいいかなと未央は思っていたが、仕事終わりはやっぱ生ビールでしょ、という小野の誘導のもと、二人はビールで乾杯した。

コース料理を予約していたようで、まもなく冷菜やスープが少しずつサーブされた。どれも繊細で美味しい。

今のところ、会話も途切れず続いている。

― もしかして、アタリかも!?

未央が気がかりだった元奥さんや子どものことも、小野は隠すことなく自分から話す。

「元妻とは、価値観の不一致で別れたのですが、息子とは、月に2、3回は会っていますよ」

子どもの話を嬉しそうにしているあたり、子煩悩なパパなのだろう。

大学時代はアメフトをやっていて、体を動かすことでストレスを発散するタイプだと笑う。

小野の話を聞けば聞くほど、誠実な人柄が浮かび上がってくる。

「うまいっ!」

そのうえ、お料理が出てくるごとに、豪快に平らげていく。

彼のその食べっぷりを見ていると、新宿御苑までわざわざ来てよかったと思えてくる。今まであまり縁のなかった体育会系だが、未央の彼に対する印象は悪くなかった。

― スポーツが好きな壮太と気が合いそう。

すごくタイプというわけではなかったが、「壮太に父親を作ってあげたい」という再婚活のきっかけを思い出し、息子のことを思いながら、小野のよいところをひとつずつ拾い上げるように観察した。

食事の後。

外に出ると新緑の香りがしっとりと漂っていた。5月の連休を控えたこの時期が未央は好きだ。

「未央さんさえ良ければ、お友達から始めませんか?」

正直、まだ好きなわけではないが、条件と人柄を見ると断る理由もないと未央は思った。

ゆっくり好きになればいいのだ。

「そうですね。友達からでもよければ」

未央は嬉しそうに微笑んだ。


バツイチは、やっぱりバツイチ!?このあと、小野の本性が明らかになる…



小野と出会ってから、約2ヶ月後の金曜21時。

未央は、自身の誕生日を祝ってもらったあと、彼の自宅に招かれた。

ラ・トゥール新宿ガーデン28階。窓の向こうに広がる夜景は、小雨でぼんやりと霞んでいる。

当の小野は1時間ほど前に「夜の日課だから」と階下のジムに降りて行き、部屋には未央ひとりが残された。

外の景色を見下ろしながら、未央はここ2ヶ月間の小野とのデートや会話を振り返った。



2度目のデートは、初めて会ってから1週間後だった。

場所は、新宿の思い出横丁。焼き鳥を肴に一杯飲み、小野の気取らない一面を知った。

― 自分を大きく見せようとしないし、信用できそう。

格好つけたり、虚勢を張ることのない小野の素朴な人柄に未央は惹かれていった。

そのあと、数回ほど会ったが、小野が指定してくる場所はいつも新宿や高田馬場近辺。そして連れて行かれる店は、食べ放題や居酒屋ばかり。素敵なレストランに連れて行ってくれたのは、結局初回だけだった。

― やっぱり、体育会系だから食事は質より量なのか…。

そうやって、自分を納得させようとしたが、食事をゆっくり楽しめないことが残念だと未央は思った。

それなら手料理はどうかと、先週末は彼の自宅で料理を振る舞ってみた。

前菜のほか、アクアパッツァやパスタなどを作ったのだが…。

「未央さんの料理は、おしゃれだね」

小野はそう言って、手料理を黙々と食べていたが、いつものような豪快さはなかった。

「小野さんは、どんな料理が好きなの?」

手料理が気に入らないのだろうか。未央は思い切って聞いてみた。

「普通のハンバーグとカレーかな」

なんとなく想像はついていた。

未央は小野と会うたびに、食の嗜好の違いを感じていた。それから、忙しいことを理由に、未央の都合に合わせる気がないことも。

そして、極めつけは…。

今日の未央の1日早い誕生日ディナーのとき。一応、小野は、「何が食べたい?」とリクエストを聞いてくれた。

「初めて会ったお店の北京ダック、美味しかったよね。あのお店の北京ダックが食べたいな」

未央は、初デートで行ったレストランをリクエストした。

しかし……。

「えっここ?この間のお店は、予約できなかったの?」

未央が小野に連れて行かれたのは、北京ダック食べ放題のお店だった。入り口のショーウィンドウには、焼く前の裸のアヒルが何十羽もぶら下がっている。

「北京ダック食べたいんでしょ?誕生日だから腹一杯北京ダックを食べよう!」

そう言われた時、未央の中にどうしようもない悲しみがこみ上げてきた。

それにとどめを刺したのが、彼からもらったプレゼントだ。

「プレゼントが自宅にあるから取りにこない?」と言われ、高田馬場の彼の自宅までついて来た。

きっと小野は、未央と一晩を共にするつもりだったのだろう。

リビングのテーブルには、シルバーの箱にブルーのリボンがかけられた箱が置いてあった。

この箱を見た時、嫌な予感がした。

「あ、ありがとう…」

小野からプレゼントを手渡されたとき、未央は絞り出すようにお礼を言った。

箱の中身は、シルバーのネックレス。

高校生の時に付き合っていた彼氏が、当時背伸びしてプレゼントしてくれたものにそっくりだ。

未央は、高価なプレゼントが欲しいわけではない。ただ、彼とは価値観が合わないのかもしれないと思い始めていた。

彼がバツイチである理由が、なんとなく見えた瞬間でもあった。

今日の誕生日の出来事をきっかけに、小野に対する興味が一気になくなっていた。

― このまま、彼が戻ってくるのを部屋で待って、一晩過ごすなんてできないわ。

今振り返ると、3回目のデートの時から、うすうす気付いていたことではあったが、小野とは合わないということが確信に変わった。

食の好みが合わないことに加え、自分のペースを絶対に崩さないところが気になる。

未央は、小野と会うために、壮太を両親に預けてまで時間を融通している。

その状況を推し量ることなく、自分の都合ひとつで彼の家の近くに呼び出されるし、今日だって未央の誕生日だというのに、部屋にひとり残されているのだ。

そのうえ、ケチであること。

小野は38歳で、経営者でかつて結婚もしていた。

人並みに女性をどこに連れて行ったら喜ぶのか、どんなプレゼントが相応しいのかはわかっているはずだ。

それをわかったうえで選ぶ店は、飲み放題や居酒屋ばかり。そしてプレゼントは、高校生が喜びそうなネックレス。

その時。

玄関を開ける音がし、ジムから小野が戻ってきた。

「あー、あちー」

そう言いながら冷蔵庫からプロテインを取り出し、直飲みする様子を未央はじっと見た。

― やっぱり、もう無理。

「ごめんなさい。さっき電話があって、息子の具合が悪いみたいなの。今日は失礼させて頂きます」

未央は、そう言い放ち小野を振り返ることなく、部屋を後にした。

帰り道、高田馬場駅まで歩きながら未央は考えていた。

― やっぱりバツイチは、それなりの理由があるからバツイチなんだわ。私もそうだから人のことは言えないけどね…。

小野と出会った当初、なんでこんな素敵な人がバツイチといえども独身なんだろうかと、彼に出会えた自分はラッキーだと感じていた。

しかし、彼を知れば知るほど違和感が募っていった。

― はぁ、そんなに簡単にいかないわね……。なんかちょっと疲れたわ。

そう考えると、未央のためにテーブルをセッティングし、ステーキを焼いてくれたオリバーにどうしようもなく会いたくなってきた。


▶️前回:30代女を、陥落させるには…。出会って30分で、警戒心が強い女を口説き落とした男の手口

▶NEXT:4月17日 土曜公開予定
バツイチの恋愛の難しさを痛感する未央に、大学の同級生が…