平日は全力で働き、週末は恋人と甘い時間を過ごす。

それが東京で生きる女たちの姿だろう。

でも恋人と、“週末”に会えないとわかると「いったい何をしているの?」と疑心暗鬼になる女たち。

これは、土日に会えない男と、そんな男に恋した女のストーリー。

◆これまでのあらすじ

IT会社でアプリをプロデュースする美加(28)は、脚本家の海斗(32)と恋に落ちた。だが彼は土日になると音信不通になる男だった。

実のところ、海斗は「仕事」や「趣味」に土日を費やしている。だが美加の理解を得られないままで…。

▶前回:甘い夜を過ごしたあと、ベッドを抜け出した男。女に内緒でしていた信じられないコト



4th week 「親友」

―月曜日―


恵比寿三丁目の交差点。

どの駅からも徒歩10分以上はかかるこのエリアには、昔から芸能人が人混みを避けてお忍びで現れる。

まだ、明るい18時。

創作イタリアンのテラス席で、美加は、高校からの親友・坂木日菜子を呼び出し、海斗に対する不平不満をぶつけていた。

「美加はぜんぜん悪くないよ!そんな男、すぐにやめて、次にいきな!」

日菜子はいつだって、美加の意見を全肯定し尊重してくれる。

「だよね!あんな男、もう諦めたほうがいいよね?」

ノンアルコールでも、日菜子と一緒にいると美加は気が大きくなる。

「そうそう!もう終わり!次!次!」

日菜子は目を閉じ、何度もうなずいている。

だが日菜子の隣に座る男は「ん〜」と首を傾げていた。日菜子の恋人・横山将樹だ。

付き合って2年。好きになれば好きになるほど相手を束縛する日菜子にとって、かなり長く続いているパートナーだった。

「将樹さん、何か言いたいことでもあるの?」

美加が尋ねると、将樹が答える前に、日菜子が口を挟む。

「将樹も言ってやってよ!そんな男、やめときなって!」

「そうだね……やめといたほうがいいかもね」と将樹は笑ってみせた。

美加の目に、将樹のその笑い方は“苦笑い”に見えた。

まもなく会話の主導権は日菜子が握り、最近の将樹とのデート――つまりノロケ――に話題が移ったため、それ以上詳しい話は聞けなくなった。

だが、美加は、将樹が海斗について何か言いたいことがあるに違いないと感じていた。


将樹の言いたいことは、何だったのか?

―火曜日―


テレワーク中も美加の脳裏には、将樹の“苦笑い”がずっと残っていた。

― 海斗さんの件について、何か言いたかったのかな?

男性の立場から意見があったのかもしれないが、日菜子の前だったから躊躇したのだろう。

仕事が一段落すると、美加は将樹にLINEしてみることにした。

だがスマホを開いてから、将樹のLINEを知らなかったことに気づく。束縛癖のある日菜子に気を使って、LINEを交換していなかったのだ。

― どうしよう…。あっ、でもインスタがある…。

日菜子とのツーショット写真ばかりアップしている将樹のInstagramを開いて、DMを送る。

『海斗さんのことで、男性の意見を聞きたいの。日菜子の前だと、言いづらいこともあるのかなと思ったから。会えない?』

将樹からの返信は早かった。

『美加ちゃんの相談には乗ってあげたいけど、日菜子抜きでは会えないよ。ごめんね』

日菜子と将樹が2年も続いている理由を垣間見た気がした。



―水曜日―


朝10時。

美加は出社後、すぐに先輩の沙希とともに会議室へ呼ばれ、上司から新たなアプリ開発を命じられた。

今まで沙希の下でプロジェクトチームの一員として働いていた美加だが、今回から晴れて独り立ちし、自身もチームを率いることになった。

先週耳にした、部署異動の噂がデマだったことがわかり安心する。

「これ、本当に大きなチャンスだからね。がんばって!」

会議室を出るとすぐ沙希に励まされ、美加は言葉にならない喜びを覚えた。

が、それと同時に焦燥する。

― 仕事が今以上に忙しくなると、平日は残業が続くことになるだろう。土日に会えない海斗とすれ違いが続くことになるかもしれない…。

自分のデスクに戻るまでの間に、美加はDMをした。相手は将樹だ。

『このあとミーティングで赤坂に行くんだけど、お茶くらいならできない?』

将樹が勤める外資系商社は赤坂にある。嘘の用事を作ってでも将樹から男の本音を聞きたかった。

『会社の近くで、お茶するぐらいなら』

将樹の返事を受けて、デスクの上のノートパソコンをバッグに突っ込み、美加はオフィスを飛び出す。日菜子のことが頭を過ったが、親友の彼女ならわかってくれるだろうと思った。

オフィスビルのエントランスにあるコーヒーチェーン店で、30分だけ会ってくれた将樹は、月曜日の夜に言えなかったことを伝えてくれた。

「日菜子がいる手前、言いにくかったんだけど…俺も、昔のカノジョに『仕事』を言い訳にして、土日に会わないことがあってさ…」

「そうなの?」

「でも日菜子に対しては、そんなことしたことない」

「どうして?元カノのことはあまり好きじゃなかったから?」

美加は迫るように尋ねる。

「それもあるけど、それだけじゃない…」

将樹の声が小さくなったが、口調はハッキリとしていた。

「心のどこかで試していたんだ。『この女性は、俺の仕事への情熱をどれだけ理解してくれるのかな?』って」

結果、元カノは理解してくれなかった。だから別れた、と将樹は言う。

「海斗さんも無意識のうちに美加ちゃんを試しているんだと思う。だから答えを出すのは、まだ早いよ」

「…諦めないほうがいいってこと?」

「そう。だってまだ出会って1ヶ月も経ってないんでしょ?焦ることはないよ」

将樹と話を終えたあとも、美加はひとり店に残り、考えた。

― 無意識のうちに試しているって何? 男って面倒くさいんだけど。

しかし、将樹の言葉に励まされた部分もある。

― 諦めるのはまだ早い、って誰かに言ってほしかったかも…。

美加は、自分もまた面倒くさい生き物だと思った。


将樹と話したことで、意外な展開が…

―木曜日―


『話があるんだけど、電話できる?』

会社でミーティング中、日菜子からLINEが入る。

美加が『どうしたの?15時以降なら大丈夫だよ』と返信すると、15時ぴったりに電話がかかってきた。

「昨日、将樹と二人きりで会ったでしょ?」

日菜子の声は、震えていて、怒っていることが伝わってくる。

美加は、弁明しようと思ったが、謝るほうが先だと考え、最初に「ごめん」と言った。

その瞬間、電話が切れ、それ以降、美加が何回掛け直しても日菜子は出てくれなかった。

仕方なくLINEで長文の弁明を送ったが、既読すらつかない。

― 日菜子ならわかってくれるって思ってたけど…ブロックされちゃったかな…。



―金曜日―


18時から日菜子とディナーをする予定があった。

二人が前々から「行きたいね」と言っていた店で、予約も済ませている。昨日のこともあったから、美加は、確認のLINEをする。

『美加、本当にごめんね。このメッセージは読めているかな?今夜来てほしいの。ちゃんと謝りたいから』

しかし、既読はつかない。

― でも、もしかしたら来てくれるかもしれない。

メッセージを受け止めた日菜子が、けろっとした表情でやってくるかもしれないと期待して、美加はひとりで神宮前にある店に向かった。

たが、それは単なる淡い期待に終わる。

30分待っても彼女が現れなかったので、美加は“おひとりさま”ディナーをすることにした。

食事中、何度も泣きそうになった。

海斗のことを諦めようと思った今週、高校時代からの親友を怒らせてしまった。

日菜子は悪くない。嫉妬心の強すぎる彼女の束縛癖を、美加は心底から理解している。理解した上で仲良くしていた。

― それなのに、日菜子に黙って将樹さんと二人きりでお茶した私が、完全に悪い…。

会計を済ませて店を出ると、バッグの中でスマホが震えた。

― 日菜子!?

美加は、急いでスマホを取り出した。

「…えっ…」

思わず声が漏れた。LINEは海斗からだった。

『もう夜ゴハンは食べましたか?』

先週末、美加は酷い去り方をしたのに、海斗は何事もなかったようにメッセージを送ってくる。

正直、困惑したし、少し怖くもあった。

― この人、いったい何を考えているの?いや、何も考えていないのかもしれない。きっとそう。

さらに、今週は日菜子とのこともある。そもそも、海斗のことを相談したせいで親友と仲違いしてしまった。

先週末にも抱いた怒りが沸々と湧いてきた。

― 直接会って、文句を言ってやりたい…。

『これから食べようと思っていました』

美加は堂々と嘘をついた。

海斗から返事が来る前に、立て続けにメッセージを送る。

『もし良かったら、今から海斗さんの家に行ってもいいですか?適当にゴハンを買っていきますので』

ほどなくして海斗から返信が来る。

『ありがとうございます。お言葉に甘えてもいいですか?』

心の中のモヤモヤを海斗にすべてぶつけるつもりで、美加はタクシーを拾って麻布十番へ向かった。

高級スーパーで総菜を買い込むと、リングにあがるボクサーのような気分で彼の家に乗り込む。

が、リビングに到着すると、戦闘意欲がそがれた。

「はじめまして〜」

家には、海斗ひとりではなかった。

見知らぬ女がそこにいた。


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海斗の家にいた女の正体は? 男女三人で過ごす奇妙な土日。