平日は全力で働き、週末は恋人と甘い時間を過ごす。

それが東京で生きる女たちの姿だろう。

でも恋人と、“週末”に会えないとわかると

「いったい何をしているの?」と疑心暗鬼になる女たち。

これは、土日に会えない男と、そんな男に恋した女のストーリー。

◆これまでのあらすじ

IT会社でアプリをプロデュースする笹本美加(28)は、脚本家の釘宮海斗(32)と恋に落ちた。だが彼は土日になると音信不通になる男だった。

海斗は、自らの恋愛における未熟さを懺悔したうえで「ちゃんと付き合ってほしい」と告白する。だが美加はそれを断った…。

▶前回:「ありえない…」彼の家で元カノと鉢合わせ!?その女から告げられた、衝撃の真実



5th week 「密会」

―月曜日―


出勤前、身支度を整えながら美加は、鏡の前で溜息をつく。

昨日、海斗は告白してくれた。出会ってから4週間。悪くないテンポだ。

ただ、告白の理由がひどかった。

海斗は、体の関係になったあと、正式に付き合おうとせず、だらだらと大人の関係を続けてしまう悪癖があるという。

そのことを懺悔したうえで「今後は悪癖を直していきたい。だから恋人として付き合ってほしい」と言ってきたのだ。

― 素直に…喜べるわけないよ。

彼の欠点克服のために、利用されているだけではないかと美加は感じた。

― 悪い癖を直すことと、私と付き合うことは関係ないですよね。私は、海斗さんが成長するための、踏み台なんですか?

昨夜、助手席にいた美加は、運転席の海斗に向かってそう言ってやりたかったが、グッと堪えた。

「今は…無理です」

そう返事をして、家まで送ってもらいバイバイした。

とはいっても、海斗の気持ちを確認できて安堵した側面もある。

― 海斗さん、“今は”まだ付き合えないっていう意味、わかってるのかな?

美加は、先週、アプリ開発チームのプロジェクトリーダーに任命された。先輩である沙希から独り立ちして、最初の仕事だ。だから、今は仕事に集中したかった。

仕事が落ち着くまでは、海斗との関係は“現状維持”でいいと考えている。

それにこの1ヶ月間、美加は心も体も、海斗に散々振り回された。だから、美加も少しくらいワガママを言っても許されるだろう、という気持ちもあった。

― あ、もう8時。とにかく、今は仕事に集中!

支度を終えた美加は、決意を新たに家を出た。


現状維持を望んだ美加だったが…、あることをきっかけに、心境の変化が訪れる?

―火曜日―


この日も美加は出社し、朝からプロジェクトメンバーとのミーティングを繰り返していた。おかげでランチ休憩が遅くなり、時計は15時を回っている。

「美加ちゃんも何も食べてないの?実は私もランチしてないんだけど」

オフィスで沙希に話しかけられ、社外へ誘われたのだ。

芝公園の近く、緑溢れるオープンテラスの人気カフェは、その時間にはもう客足のピークを過ぎていて、すんなり着席することができた。

「で、最近、釘宮海斗くんとはどうなの?」

沙希に促された美加は、先週の出来事を饒舌に語ってしまう。

「告白の返事は保留したんですけど、間違ってないですよね?」

いつも味方でいてくれる沙希は当然、賛同してくれると思った。が、この日は違った。沙希は顔をしかめて言う。

「美加ちゃんのやってること、釘宮くんと一緒じゃん」

「どういうことですか?」

「『仕事があるから土日に会えない』って釘宮くんは言う。『仕事があるから今は付き合えない』って美加ちゃんは思ってる。どっちも一緒じゃない?」

美加は言葉を失う。

雷に打たれた、とはこういう感覚かと思った。



―水曜日―


この日のミーティングはすべてZoomやグループチャットで行い、食事もデリバリーで済ませたから、美加は家から一步もでなかった。

代わりに、浮いた時間をすべてLINEの文面を考えることに充てた。海斗へ送るLINEだ。

昨日の沙希の助言のおかげで、美加は気がついたのだ。

告白されたとき、せめて「なぜ保留したいのか」を素直に伝えるべきだったと。大きな仕事を任されたことと、それに賭けている自分の心情を、丁寧に説明したLINEを海斗へ送る。

文章を推敲し、LINEを送ることができたのは、20時を過ぎてからだった。

― 海斗さん、執筆中かな…?

美加は、祈るような気持ちで、3通のメッセージを立て続けに送った。

『海斗さんの告白は、本当に嬉しかったです。私も海斗さんが好きです。だからこそ仕事が落ち着くまで待ってほしいと思いました』

『でも、それが間違っていたことに、気がつきました』

『今度、もう一度、会ってくれませんか?』

5分ほどして、既読がつき海斗から返事が来た。

『LINEありがとう。仕事の事情や率直な気持ちを伝えてくれて嬉しいし、安心しました。実は俺も大きな仕事の締め切りを迎えていて…。今週末は執筆したいんです。お互い仕事をがんばって、来週末お会いしませんか?』

3日後の土日でなく、10日後の土日に海斗と会うことになった。

美加に断る理由はない。むしろ渡りに船だ。それまで仕事に励むことができる。

『ありがとうございます。10日後ですね、もちろん大丈夫です!それまでお互い仕事がんばりましょう!』


だが2日後、思いもよらない事態に…!?

―木曜日―


ミーティングの予定は少なく、自宅でのリモートワークでも問題なかったが、美加は気合を入れるべく出社した。

海斗と出会ってから初めて、彼と同じ方向を見ることができた気がして、仕事にも精が出る。

隣席で作業中の沙希も、その手を止め、こう言った。

「美加ちゃん、なんか急に変わったね」

「…それ、いい意味ですか?」

「もちろん、いい意味。褒めてるのよ。釘宮くんと何かあったの?」

「はい!沙希さんのアドバイスに感謝してます!」

沙希は詳細を聞いてこなかったが、プロジェクトが落ち着いたときにでも、ゆっくり報告しようと美加は思った。

― 今はとにかく10日後――あ、もう9日後?――海斗さんと会うために、目の前の業務に集中しなきゃ。



―金曜日―


14時。

自宅がある目黒から散歩がてら白金まで移動し、カフェで作業をしていると、日菜子からLINEが届く。

『先週のこと、ごめんね…。あのあと将樹から事情を聞いて、美加に申し訳ないことをしたって思っています』

先週、美加が日菜子のカレシ・将樹と会っていた件について、どうやら誤解がとけたらしい。美加は安堵した。

『私も強引だったと思うから…。日菜子に改めて謝りたい』

わだかまりが消えて、早速、美加の家で一緒に夜ゴハンを食べることになった。

18時。

約束の時間どおりに日菜子がやってきた。手土産はオーガニックワインが2本。

今日中に終えたい作業が残っていた美加は、20分ほど日菜子を待たせたあと、ワインで乾杯する。

先週、派手に怒っていた日菜子は気恥ずかしそうにしている。美加はそんな日菜子に慣れっこだが、多少は照れ臭い。

フレンチのデリバリーを待っている間、他愛もない世間話をしていたが、日菜子は急に声のボリュームをあげた。

「あっ、そういえば!」

日菜子は何か思い出したのだろう。だがその内容は良からぬことのようだ。眉間にしわを寄せ、険しい表情となる。

「私、見ちゃったんだ…」

美加は嫌な予感がした。「何を?」と聞き返したが、その声は自分でも驚くほどに小さい。

「美加といい感じの脚本家さんが、骨董通りにいるとこ」

「海斗さん?」

「そう。海斗さん」

海斗と日菜子を引き合わせたことはない。どうして日菜子が、海斗の外見を知っているのだろうか。

美加が尋ねると、日菜子は「美加が写真を見せてくれたじゃん」と答えた。

たしかに、海斗と出会ったばかりで浮かれていたころ、ネットに転がる海斗の顔写真を、日菜子に見せたことがある。

「骨董通りのケーキ屋さんのテラスで海斗さんを見かけて、そのときもすぐにネットで顔写真を確認して、本人だって確かめた」

「何してんの…」と思わず美加は吹き出す。嫌な予感をやわらげたくて無意識に笑った自分に気づく。

「海斗さん、女の人と一緒だった」

「…仕事相手とか?」

「そんな感じじゃなかった」

きっぱりと日菜子は否定する。

「海斗さんと会っていた女の人は、明らかに“そういう関係”に見えたよ」

先週末、海斗から紹介された元カノにして親友のユウかもしれない、と美加は推理した。

だが、日菜子はそれすらも否定する。

「だって別れ話みたいな、口論みたいな、雰囲気が悪かったから…」

海斗とユウの様子を見るかぎり、二人は喧嘩するような関係ではなさそうだ。つまり、その女性はユウではない別の女性…。

いったい海斗は誰と“別れ話”をしていたのだろうか。

「ちなみに、それ、いつの話?」

「おとといだから…水曜日の夜8時ごろ」

水曜20時――それは美加が、海斗とLINEのやり取りをしていた時間だ。

日菜子の話が本当なら、海斗は謎の女性と別れ話をしながら、何食わぬ顔で美加と「10日後に会いましょう」と約束をしたことになる。

「土日に会えない男って、結局、平日も何してるかわからないよね」

日菜子に悪気はないと、わかっている。

しかしその言葉は、美加の心を深々と、えぐった。


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海斗と密会していた女性は、まさかのあの人…!?