「あのコは、やめた方がいい」

恋人との交際を友人から反対されたら、あなたはどうしますか。

愛する人を、変わらずに信じ続けられますか。

そして、女が隠す“真実”とは…?

これは、愛と真実に葛藤する男の物語。

◆これまでのあらすじ

2019年の夏。誠は親友の恋人・真紀に、できたばかりの彼女・咲良とのつきあいを「やめた方がいい」と言われてしまう。理由もわからず困惑する誠は「ずっとちやほやされたい女の嫉妬」と結論づけるが…

▶前回:「2人きりで会えないかな」親友の婚約者から突然のLINE。気になる逢瀬の理由とは



「このお店、よく来るんですか?」

咲良は緊張しながら周囲を見渡し、嬉しそうに誠に尋ねた。

ここは、代官山にあるリゾート地を思わせる多国籍料理のレストラン。ハイセンスな店内はまさにデートにぴったりだ。

「ああ…たまにね」

誠は目を泳がせながら、さらりと答えた。

実はこの店、初めて訪れる場所なのだ。以前、咲良をファミレスに連れて行き、真紀から非難されたことへの反省から、ネットで『デート 大人 おしゃれ』…など、必死に検索して見つけたのである。

― 喜んでくれてよかった…。

料理の写真を何枚も撮りながら、嬉しそうに食べる咲良。お腹が相当減っていたのか、大皿の料理も取り分けずそのまま口に運ぶ豪快さを見せる。その姿に誠は思わず笑みがこぼれた。

目の前の咲良は相変わらず無邪気で明るく、いい子だ。

本当はどんなレストランでも喜んでくれる子だろう。どこから見ても彼女は感じがよく、嫌う要素は1つも見当たらない。

親しみやすい雰囲気の咲良と高嶺の花の真紀という、タイプの違う2人。男にはわからない相容れない壁でもあるのだろうか。

真紀が彼女に会うだけで、あれだけ態度が豹変するとは予想外だった。

親友の彼女として仲良く接してくれて、誰にも分け隔てなく優しいと思っていた。それは、もしかして男性だからなのか。

― 女って、怖いな…。

誠は思わず身震いしたのだった。


盛り上がる咲良と誠。明らかになる2人の意外な共通点とは?

男子、女子。


その日の咲良は上機嫌だったので話が弾み、彼女の意外な過去も聞くことができた。

「代官山に来るのって、大学のとき以来」

咲良は、窓から見える街を眺めながらつぶやく。

「まさか、彼氏と…?」

「違うよ。女友達とよくカフェ巡りをしていたの」

咲良は東海地方出身で、私立の中高一貫の女子校に通っていたという。今でもそのときの友人とは仲良く、上京組で定期的に会っているそうだ。

「なんだ。僕も中学から男子校だったよ」

「ふふ。なんとなくわかる」

誠はその言葉を聞いて、少し不安がよぎった。

男社会で生きてきた特有の雰囲気がにじみ出ているのだろうか。運動部ではなかったが体育会系的な男ノリが、時折出てしまうことがあるのだ…。

― でも咲良さんが、女子校出身とは正直意外だったな。

誠は私立の女子校というと「ごきげんよう」と挨拶しあうような、上品で高貴な印象を持っていた。例えば、真紀のようなイメージだ。

活発で庶民的な咲良からは、予想がつかなかった。そんな誠の女子校イメージを聞いて、咲良は手を叩いて笑う。

「むしろ、男性の目を気にしない分、自立した強いコが多いかもね」

確かに咲良はサバサバしていて、気が強そうな印象もある。

「お嬢様学校っていっても地方だし、勉強すれば一般家庭でも入れる普通の学校だったよ。友達もいっぱいできたもの」

楽しそうに学生時代の思い出を話す咲良は、きっとクラスでも人気者だったのだろう。

思い返せば、圭一もクラスで…いや校内でも中心人物だった。彼は生徒会長も務めたほどだ。

自分が咲良に惹かれるのは、そんな圭一と似たところがあるからではないか。誠は屈託のない彼女のほほえみを見て、しみじみ感じた。



「え。まさか、誠、俺のことを…」

数日後。圭一の行きつけである近所のビストロで、誠は彼にデートの報告していた。

咲良と彼の間に共通点があると話すと、彼はニヤニヤと笑みを浮かべ、なぜか上機嫌になる。

「違うよ。ちょっと似ているなって思っただけ。そういう意味じゃないから」

「構わないよ。ただ、俺には真紀がいるからな。誠の思いが本気なら考えても…」

「…そういえば今日、真紀さんは?」

一歩間違えると暴走してしまいそうな圭一の悪ノリを、誠はスルーして彼に尋ねた。

あの日以来、真紀とは連絡さえも取っていない。単なる女の嫉妬だと自己完結したものの、2人きりで会ってしまった罪悪感がある。

とにかく、真紀の不可解なアプローチと要求を、圭一と共通の笑い話にしたかった。

「この時間は貸しスタジオで練習中。連絡はしてあるけど」

真紀は来ない。だが、この機会を逃すとさらに重荷になりそうな気がする。誠は我慢しきれず、圭一だけに話すことにした。

「そういえば圭一。実はさ…」


圭一に真紀の件を告げようとするも…

その時、店のドアが開いた。

「お待たせ。お腹すいちゃったー」

「えっ!真紀さん?」

タイミング悪く、真紀が現れる。誠は思わず椅子から転げ落ちた。

「おっ真紀。今日は来ないと思っていたよ」

「誠くんも来るって言うから。私がガーデンパーティで途中退席した日以来だもん…って、大丈夫?」

バーでの逢瀬は秘密と言わんばかりに、誠とは久しぶりだと強調する真紀。誠は動揺してしまい、彼女の嘘に乗っかってしまった。

「ああ。そうだね…」

真紀は、圭一と誠が並んで座っていた席に入り込んだ。そして、いつも以上に圭一に身体を密着させメニューを見る。目の前の誠に見せつけるかのように。

誠は2人を複雑な気持ちで凝視した。

― 前は「羨ましいな」と思うくらいで、全く気にならなかったのに…。

「あのコはやめた方がいい」「大切な人だから」などと言われて以来、真紀のことが心から離れない。

それだけ存在が大きくなっているということなのか。彼女が目の前に現れると、気持ちがどうしても不安定になってしまう。

「そういや誠。さっき、何か話そうとしてなかったっけ?」

真紀の鋭い視線が自分の方に向いたような気がした。誠は体勢を整え、声を裏返らせながら、うやむやにごまかす。

「いやいや、別に。たいしたことないよ」

「もしや、咲良さん含め一緒に遊びに行こうって話?」

圭一の言葉に、真紀は穏やかに微笑んでいるように見える。咲良と自分の関係に横槍を入れているのが、まるで嘘であるような顔で。

「そうだね…。今は忙しいから難しいけど、また4人で集まりたいよね」

反応を伺うように言葉を絞り出す誠だったが、真紀は肯定も否定もしない。ただ黙っているだけだった。



「えー。それって、私、嫉妬しちゃうな」

「誤解だって。圭一がカン違いしているだけで」

「色々な愛の形があるからね。俺は問題ないよ」

その夜3人は、圭一をめぐって繰り広げられる架空の三角関係の妄想話で盛り上がった。

圭一に身体をゆだね、楽しそうにキャハハと口に手を添えて笑う真紀。やはり自他ともに認めるお姫様には違いなかった。

「ちょっとお手洗い」

そろそろ会計という頃合いで、圭一が席を立つ。真紀は彼がお手洗いのドアを閉めたことを確認すると、低いトーンで誠に尋ねるのだった。

「…誠くん。まだあのコと別れてないの?」

「あ、当たり前だろ」

誠はあえて軽い調子で答える。そして動揺を隠すように勢いよく言葉を続けた。

「てかさ、気に入らないから別れろなんて、なんで言うのさ。仲間ハズレなんて、子どものイジメじゃあるまいし」

「…」

しばし沈黙した真紀。よほどキツい言葉だったのだろうか。

「真紀さん?」

これまで見たこともない悲しげな表情だ。誠は言葉を反芻して、後悔した。

「…言い過ぎた?」

「ううん。そう思っても仕方ないよね。ごめんなさい」

真紀は素直に納得したかのように見えた。

「なら、いいんだよ」

しかし次の瞬間、突然誠に近づき、そっと耳元で囁くのだった。

「後悔しても、しらないから」

彼女の吐息が耳の奥に触れる。体温が急に上昇していくのが自分でもわかった。真紀は唇をかみ、潤んだ瞳で誠を見つめている。

誠は、どう反応すれば良いのかわからず固まっていると、圭一がお手洗いから帰ってくる。すると、それまでのことがなかったように、真紀は彼に甘えるのだった。

― 女は、怖い…。

彼女の豹変ぶりに、その言葉が頭のなかに浮かんでは消えていく。まるで、自分に言い聞かせるように。


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真紀から絶縁される誠。「後悔しても、しらない」この言葉の真意とは…?