結婚・出産・転職。

20代には人生を大きく変えるイベントがぎゅっと詰まっている。

そんな大きな決断をまえにすると、多くの人は悩む。

世間一般で言われる“幸せ”と、「わたしはわたし」と考える“セルフ・ラブ”はズレるから―。

これはさまざまな葛藤を抱えながら、自分だけの正解を見つけようともがく、20代女子の内面を描いた物語。

これまでは「身体の関係だけで十分」と考えるミア、結婚を夢見るこじらせ女子マイ、“若妻ステータス”に取り憑かれたレイカ、自立しすぎて不器用なマキを紹介した。

そして今回お届けするのは、彼氏をキープしながらもっと良い男を探したい、貪欲な女のストーリー。

▶前回:彼氏がいながら“アップグレード版”を探す女。乗り換えた彼との予想もしない結末とは?



File6 高井ワカナ(23) 大手メーカー勤務の場合


昔から、専業主婦になって家事や育児に専念するのが夢だった。

キャリアには全く興味がなく、裕福でなくて良いから、とにかく働きたくなかった。

頑張れば手の届いた早慶ではなく、あえてMARCHを選んだのも高学歴男性に選んでもらうため。

このままいけば順調に20代前半で結婚できると思っていた。



「ごめんの一点張りで。結局どうして別れたいのかもよくわからず別れたって感じ」

私には大学3年生の時から付き合っていた3歳年上の彼氏がいる。いや、正確には「いた」。彼の海外転勤が決まったのは、1年前のこと。

付き合っている頃からいずれ結婚して、専業主婦になることに賛成してくれていた。そういう前提で、一度は社会人を経験してほしいという彼の要望に応えて就職を決めた。

転勤が決まったときは私が社会人になりたてて、さすがにすぐに結婚という選択肢はなかった。でもこのまま順調にいけば、海外転勤から戻ってきた彼と結婚できるだろう。そう信じて疑わなかった。

専業主婦を夢見る私にとって、理想に近い彼と付き合えているということは運命そのもののように思えた。

それが、遠距離恋愛に突入してから半年。一時帰国をした彼から別れを告げられた。

「え、それ以外に、別れたい理由は教えてくれないの?」

信じられないと言った表情で、親友のミキがカメラに向かって話している。

「うん、私が言われたことは『これといった理由はないけど付き合い続けられる自信がなくなった』『俺が情けない』『ごめん』だけ」

話し合う余地もなく、別れる以外の選択肢がなかった。

ショックでショックで、ごはんも喉を通らない状況だった。そんな私をみかねて、親友であるミキが電話してくれたというわけだ。

中東の航空会社でCAを務める彼女は、なかなか直接会えないものの、必要な時はいつも時間を作ってくれる。

「やばすぎなんだけど。直前まで普通に連絡取ってたの?」

「一時帰国で何しようかって話してたんだけどなんとなく乗り気じゃないのが伝わってきて、突っ込んだらこれ。もう戻る気はないのかな…」

「それはもうなさそうだね。はっきり言ってその別れ方するような男ってどうなの?とも思うし。まああまり期待しない方が良いかもね」

「だよね。あー私の婚期が一気に遠のいたわ」

「男は男でしか忘れられないっていうし。結婚に向けて次探そう、次!ワカナは可愛いんだから、まだまだすぐ他の人見つけられるって」

正直、モデルとは言わないもののそれなりのルックスだと思っていたし、なぜ彼に捨てられたのか理解ができなかった。

何がなんでも20代前半で専業主婦の座を手に入れたい私は焦る気持ちでいっぱいだった。


無理矢理気持ちを奮い立たせて作った華麗な計画とは?


「まずは、この婚活計画の誓いから。私、高井ワカナは、ドキドキよりロジックを優先し、欲張らず、条件を満たした男性を選ぶことを誓います」

落ちるとこまで落ち、ようやく無理矢理でも前に進まなきゃと思えたのは、それから半年後だった。

そして、私が最近始めたこと。それは、婚活計画だった。最近彼氏と婚約したミキに、先輩としてアドバイスをもらおうという作戦だ。

「うわ、まじ?本当にドキドキがない男性でも、条件さえあれば付き合えるの?付き合うって、男女のそういうこともするってことだよ?」

「いいの、もう私はこれ以上働きたくもないし、ドキドキがなくても結婚して仕事辞めて、子供がいたらそれで幸せ」

「ほんとね?絶対相手を傷つけず、家族を幸せにするためにその信念貫くんだよ?」

「うん、大丈夫。もうその覚悟はできてる」

2時間もかけて精査した条件は、誠実であること・仕事が安定していること・すぐにでも結婚したいこと・専業主婦になることを快諾してくれること・身長が私より高いことの5つだ。できれば、面白くて共通の趣味があればいいなと思っているが、これがなくても選ぶと決めている。

結婚成約率が高いと噂のアプリを登録し、このために何度も撮り直した写真を登録する。いろんな記事を読んで作り上げたプロフィール文を設定する。

「よし」

後は、条件に合う男性を待って連絡を取るだけだ。

そしてその3週間後。私はまたしてもミキに相談していた。

「なんかさ、アプリで出会った男性って他人のまま付き合うって感じがしない?告白するなら 3回目のデートでって風潮あるじゃん。同じ環境に長い間いて惹かれあった男女ならわかるけど、会うの自体3回目の男女が3回目に決めなきゃって不思議だよね」

「わかるわかる。まだ全然他人だよって思うよね。一目惚れでもしない限り、なんか良さそうだからとりあえず付き合ってみようって感じなんだろうね」

「だよね。今さ、条件を満たす人が1人、それと別にもう1人気になる人がいるんだ。その人は男性としての魅力をすごい感じるけど、誠実さはまだわからないって感じなんだよね」

「しっかり、ロジックとドキドキの戦いになってるね。でも、誓い通り行くと前者を選ぶわけだよね?」

「そう、もう少し何人か会ってみるけど最終的には条件第一」



「楽しめました?」

今日は、条件「は」満たしているケントさんとサッカー観戦に来ている。

盛り上がりそうな試合だからどうかと誘われ、スポーツ観戦自体、好きでも嫌いでもなかったが、連れて行かれれば楽しむだろうなと思い、誘いに乗った。

「はい、おかげでとっても楽しめました。誘ってくれてありがとうございます」

ルールがよくわからない私に、丁寧に教えてくれたり、飲み物を買ってきてくれたりと終始私に気を遣ってくれる優しさが見えた。

ケントさんといると、優しい気持ちになれる。うん、それは間違いない。



「このカフェ、かわいいでしょ」

今週末は、土曜日曜で別の男性と予定を入れている。今日は、例のドキドキする方の男性・リクとのデート。

「内装もケーキもすごくかわいい!」

リクの車で鎌倉デート。女子の好きなものを理解しているなというプランだった。

リクは歳が近いこともあり、話も盛り上がる。友達といるような楽しさと、男性として意識してしまう魅力がある。

けれど、やっぱり否めない遊び慣れている感。彼も、私と並行していろんな女性を天秤にかけているんだろう。


ロジックとドキドキ。選んだのはどっち?


「彼と私、誕生日が同じで。半年後の二人の誕生日に入籍したいから、逆算してお互いの家族に会う日程とか、両家の顔合わせに日程とか決めてるのよ。急で忙しいけど、やっと結婚という二文字がクリアになってきて嬉しい」

「ちょっと、早くない?そんなすぐに決めちゃっていいの?」

「うん、誓い通りね。私人間力を見る目だけはあるから、私を泣かさない人ってところは確信を持っているし。だったらもう腹括って一緒になろうと思って」

「ワカナが幸せだったらいいけどさ」

そう、私は結局、優しさと誠実さが初日から伝わってきたケントさんを選んだのだ。

「彼も割とすぐ結婚したいって感じだったの?」

「うん、ご家族にも早くいい人見つけなさいって言われてたみたいで。このスピードも、二人の温度感も合うなって思うんだよね」

まだどこか疑った様子のミキがこちらを見つめている。

「なるほどね。迷いはない?」

「もともと、大好きな人と結婚するのが必ずしも幸せな結婚とは限らないなって思ってた。恋愛感情じゃなくて、人として尊敬できるとか、この人を大切にしたいって感情を持てるとかで一緒にいるのも素敵かなって。正解はわからないんだけどね」

「そっか。親友だから、あえて最後に聞かせて。元彼のことはちゃんと消化できてる?」

その言葉に無意識にドキッとする。元彼とは、学生時代から付き合っていた、理由をきちんと告げられずに別れた彼のことだった。

「うん、そんなのとっくに忘れてるよ。大丈夫」

無理矢理笑ってみせた。だけど、内心動揺していた。

次々と進む結婚準備で考える暇がなかった。

…いや、思い出さないように彼への感情を押し殺してきたのかもしれない。

あんなひどい振られ方をされてもなお、急だったがために、何か特別な事情が合ったんじゃないかとか、また戻りたいと思ってくれているんじゃないかという期待する気持ちがないと言えば嘘だった。

「先月から日本に戻ってきたみたいだよ」

そんな私の本心を察したのか、ミキが口を開く。

「そうなんだ。結婚報告で会ってみようかな」

ヘヘッとおどけてみせる。本当は、知ることのできなかった真実を知って、この行き場のない思いを清算したかった。

思いを巡らせながら家に帰り、思い切って元彼のLINEを開く。

「えいっ」

1時間以上送るか迷ったLINEをついに送った。返事を待つ間、緊張感が漂う。

すぐに返信が返ってきた。

「ワカナ、久しぶり。帰国したんだけど、俺はもう合わせる顔がないと思って連絡してなかった。けど、もしワカナが友達として会ってくれるっていうなら会えるよ」

懐かしい思いと、傷つけられた時の気持ちが蘇り涙が溢れる。

「うん、会いたい」



「もう友達として聞きたいんだけどさ、あの時、本当の理由は何だったの?」

少しの沈黙の後、彼が口を開く。

「仕事で行き詰まって。キャリアへの焦りをすごく感じてたんだ。どうしようもないくらい追い詰められて、けどワカナは口を開けば結婚の話で。情けないけど、結婚も、ワカナを大事にできる自信も無くなって全てを投げ出したくなったんだ。本当に、謝りきれないけど、ごめんな」

「そうだったんだ。大丈夫だよ。社会人になった今、その気持ちが理解できなくもないから」

「ごめんな、ありがとう。ワカナは今誰か大事な人、いるの?」

指輪がついていない彼の左手を見て、安心したのは事実だった。一瞬、答えに迷う。

「うん、実はもう少しで結婚するんだ」

「そっか。ワカナはいい奥さんになるだろうな。正直、何度もやり直したいって連絡しようとしたんだ。けど、今幸せそうだから、しなくてよかった」

「ありがとう」

当時の彼の本心と、別れたことを後悔する彼をみて、少しだけ気持ちが晴れた気がした。

ぼんやりしながら帰路につくと、途中でスマホが振動した。もしかして、とこの期に及んで期待したが、ミキからだった。

「ワカナ、今日元彼に会ったんだよね?何か聞いた?」

「当時別れた理由とかちゃんと聞いてきたよ。今度時間があるときにでもゆっくり話すね」

「そうじゃなくて。これみて」

1枚の写真が送られてきた。それは、私が別れてブロックしていた彼のFacebookのスクショだった。

「…1ヶ月前に…結婚…?」

私は、夜道で足を止める。驚愕のあまり声が漏れた。

意味もなく、ぐるりと周囲を見る。どこかで誰かが、滑稽な私を笑っているような気がした。

彼がどういうつもりでこのことを私に言わなかったのかはわからない。でも、心から、今日選択を間違えなかったことに安堵する。

そして同時に、「正解」を選んだはずの自分のこれからの人生を思って、月のない夜空をいつまでも眺めていた。

▶前回:彼氏がいながら“アップグレード版”を探す女。乗り換えた彼との予想もしない結末とは?

▶Next:9月6日 月曜更新予定
産まないという選択はまだできない。けれどなかなか妊活に踏み切れない…。その理由とは?