人はパートナーに、同じレベルの人間を選ぶという。

つまり手の届かないような理想の男と付き合いたいのなら、自分を徹底的に磨くしかない。

そう考え、ひたむきに努力を重ねる女がいた。

広告代理店に勤務する杏奈(25)。

彼女は信じている。

決して休まず、毎日「あるルール」を守れば、いつかきっと最高の男に愛される、と。

◆これまでのあらすじ

杏奈は「この人と付き合って自分の価値を証明したい」と感じる男・光輝と、2ヶ月間体の関係を持っている。

思い切って告白をするが、微妙な返事をもらい、落ち込んでいるところで大学時代の同級生・進と再会し、盛り上がる。

そんな時に、振られたはずの光輝から前向きな言葉をもらい、自分の本心と向き合う決意をする杏奈。まずは進からの誘いをOKして…?

▶︎前回:割り切ることも、問い詰めることもできない関係。恋愛ホリックな女が絶対認めたくない「あるコト」



「杏奈、おはよう。今日の服、いつもと違う感じでかわいいね」

今日は、進と“遊ぶ”日。進が褒めてくれてテンションがあがる。最近買ったという新車で迎えにきてくれた。

「ありがとう。なんだかんだ日にち空いちゃってごめんね」

「全然大丈夫だよ。仕事忙しそうだね。俺も繁忙期はめちゃくちゃ忙しいから気持ちわかるよ」

「そうなんだよね、でも今日は仕事のことは忘れて楽しむよ〜!」

「よし、俺が楽しませたる」

ノリの良い進のおかげで、出だしは好調だ。

「どこか行きたいところある?」

「どうしよっか。進くんは?」

デートで何をしたい?と聞かれるのが苦手だ。

どこに行っても楽しめる自信はあるけど、特に初回のデートは相手に合わせたいので、自分の意見を言えない。なんて答えようか内心困っていると、進が助け船を出してくれた。

「特に行きたいところなければ、横浜方面どう?あの辺、最近色々できてさ」

「え!めっちゃ行きたい!なんだかんだ1年ぶりとかかも」

ほっとして、思わず笑顔になる。進が行きたい場所ならば、スムーズに運ぶに違いない。

「そう言えばさ、今日はデートってことでいい?」

進が悪戯っぽい笑みを浮かべて、ちらっと助手席の私を見る。

「うん、デートだね。天気もいいし」

「天気良いの関係ないでしょ、絶対」

二人で楽しくおしゃべりしながら横浜へと向かった。



「ただいま〜」

家に着くと、ドッと疲れを感じた。

あの後、横浜のハンマーヘッドにある景色が良いレストランで食事をし、中華街をぶらぶらしたりしてなんだかんだ夜まで横浜を堪能した。

楽しかったはずのデートでこの疲労感の原因。


それは、途中から気を使ってばかりいたから。

行きの車は特に、お互い知らないことだらけだったから、聞きたいことや話したいことがたくさんあったんだと思う。

けれど、趣味の筋トレやYouTubeも詳しく掘り下げると好きなジャンルが違ったりして話が広がらなかったのだ。

光輝とは、何も考えなくても友達みたいに楽しい時間が過ごせていたから、話題がなくなることは想定外だった。

やっぱり光輝が自分に合ってるってことなのかな…。

ため息をつきながら、その日は疲れのあまりすぐに眠りに落ちた。


光輝と進、どちらに決めることもできず宙ぶらりんの杏奈。さて、それを聞いた親友の反応は…?


「え!?」

店内に美咲の声が響き渡る。

「ごめん、びっくりだよね。本当は遊びに行く前に話したかったんだけど、直接言えるタイミングがなくて」

今日も美咲とランチに来ている。進のことをよく知る美咲に相談しようと思ったのだ。

進と二人で会ったことを話すと、美咲は飲んでいたカフェラテを吹き出しそうなほど驚いた。

「杏奈は光輝さんに一途だから、他の人とデートに行くなんて考えてなかった。それに、相手が進って」

「光輝と色々あって悩んでたし、ほんとに特に断る理由もなくてOKしたの」

もしかしたらすでに、進くんから美咲に話しているかもと心配していたが、美咲は知らないようだ。

「そうだったんだ。二人がそんなふうになってるなんて知らなかった。進も進で、なんで言ってくれないのよ」

美咲はぷうっと頬を膨らませている。

「本当にごめんね。でもまだ友達っていうか、一緒に遊んだだけだから」

「それで、さすがに今回の1回だけだよね?いくら悩んでたとはいえ、光輝さんが一番なのは変わりないだろうし」

「進くんがどう思ってるのかわかんないけど、今のところまた会おうって話にはなってないの。デートの最後の方で、話が盛り上がらなくて。それに帰った後も連絡きてないし」

「やっぱり杏奈は光輝さんが合うんだと思うな。でもさ、もしまた会おうって言われたらどうするの?」

「…会うと思う」

なんとなく、「会わない」と私が答えるのを美咲は望んでいるんだろうなと感じた。

けれど、もう嘘をついて、こそこそ進くんに会い続けるのも嫌だった。

「ふーん、モテる女はいいねえ」と美咲は冗談まじりに呟いた。そして「光輝さんとは、最近会ってるの?」と続けた。

「会ってるんだけどね、実はこの間会った時に、真剣な関係になることも視野に入れたい的なこと言われて」

「え!まじ!?やったじゃん!早く言ってよ」

美咲は私よりもはるかに嬉しそうなリアクションをした。

「ごめんごめん、私の中で光輝への気持ちがわからなくなってて」

「進と遊んで、やっぱり光輝さんが杏奈には合うんだって実感したよ、私。逃したらもったいないよ」

「まあ、そうだね」

そのとき、私のiPhoneにLINEの通知が表示された。

私のiPhoneなのに、美咲がなぜかiPhoneの画面をのぞいてくる。

『進:昨日はありがとう!帰ってすぐ寝ちゃって連絡遅れてごめんね。今週、予定合えばまた二人で会いたい』

パッと顔をあげて美咲の顔を見ると、少しだけ表情がこわばって見えた。

けれど、美咲はすぐに「来ちゃったね」と冗談混じりに笑って見せた。


どうしてそんなところに…?後日、デートのあと、杏奈が振り返るとそこにいた“あの人”とは?


『光輝:今起きた、まじごめん』

今日は、「体の関係以上になるかを考えて欲しい」と言われてから初めてのデートの予定だった。

待ち合わせの11時になっても、私の家に現れず、もう12時だ。

「今起きたら会えるの13時じゃん」

誰もいない部屋にボソッと言葉を吐いた。

少しだけ、光輝の本気に賭けてみたいという気持ちがあったし、ちゃんと向き合おうとしていたのに。



結局、13時過ぎに合流し、近場でランチを済ませ、特別なことをするわけでもなく街をぶらぶらして帰ってきた。

お酒を飲んだ私たちは、タクシーで私の家に帰ってきた。

「ありがとうございました」

タクシーの運転手さんにお礼を言って、外に出る。

「杏奈?」

聞き覚えのある声に呼ばれて振り返ると同時に、私の身体はビクッとした。

そこにいたのは美咲だった。

「こんなところで、何してるの?」

深夜23時。街灯の少ない、住宅街に美咲がいるのは不思議でしかなかった。

「次住むところどこにしようかなって思って探してたの。杏奈この辺だったの、すっかり忘れてた」

美咲はへへっと笑ってみせた。

「あ、光輝さんですか?杏奈からよく話を聞いています」

美咲はすかさず光輝にも挨拶をした。

「あ、はい、光輝です。そちらは…」

「私、杏奈の友達の美咲です」

美咲は光輝の言葉に被せる形で返事をした。

美咲がこの付近にいた違和感を拭えないまま、また会おうと話して美咲とは別れた。

「俺のこと、話してる人いるんだね」

「まあ、ガールズトークってそんなもんだから」

「そっか。なんて言われてるのか気になるな」

光輝との会話も気が気じゃない。

この違和感はなんだろう…。

二人が好きなYouTubeを観て、無理矢理気を紛らわせた。

― あれ、そういえば昨日進くんに送ったLINEの返信が来てない。

昨日の時点で「既読」とついたことは知っていた。なのにまだ返事が来ていない。いつも返事が早い進くんだから気になった。

― どうしたんだろう…。

胸がざわつくのを感じたが、光輝の笑い声で考えるのをやめることにした。

…このときはまだ、進くんからの連絡が途絶えてしまうとは知らずにいた。そして、その理由が、「昨夜」にあるということも。


▶︎前回:割り切ることも、問い詰めることもできない関係。恋愛ホリックな女が絶対認められない「あるコト」

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1人にしか話していないことなのに…。筒抜けになった恐怖のワケとは