『嫉妬こそ生きる力だ』

ある作家は、そんな名言を残した。

けれど、常に上を目指して戦う東京の女たちに、そんな綺麗事は通用しない。

”嫉妬”。

果てしなくどす黒い感情は、女たちを思いもよらぬところまで突き動かす。

ときに、制御不能な域にまで…。

静かに蠢きはじめる、女の狂気。

覗き見する覚悟は、できましたか?

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出し抜く女


― 美人は生涯で3億の得をする。

まことしやかに囁かれる、この都市伝説。

本当に3億も得をするのか、金額の信ぴょう性は定かではないが、美人が得をするのは間違いないように思う。

愛莉と知り合って、私はその事実を目の当たりにしたのだ。

愛莉とは、とある飲み会で知り合い意気投合した。初対面のときから美人な子だなぁとは思っていたが、彼女の生きる世界線は私とはだいぶ違っていた。想像以上に。

「明日、なんか有名な経営者の人たちと飲むんだけど、来ない?」

「そういえば昨日、『三谷』連れてってもらっちゃった!」

彼女からのお誘いや、彼女の口から飛び出す情報は、私の日常ではちょっと起こりえないものばかり。

だから、彼女と仲良くなれたことは初めはとても嬉しかったのだが…。

あることをきっかけに、私は彼女をこんなふうに思うようになった。

― …顔だけの女が。


愛莉と3人の美女。彼女たちが築く歪な友情を知り…



愛莉は、ときおり飲み会に誘ってくれた。

一言で言えば出会いの場。でも、相手は名の知れた経営者や大企業の御曹司など、私には全く縁のない界隈がほとんどだった。

愛莉は、そんな面々から常にお声がかかる。そして招待される場には、愛莉と仲の良い美女が3人、いつも必ずそこにいた。

みな、とびきり美しかった。”華”要員を求められたときに出動するレギュラーメンバーなのだと思う。

たまに顔を合わせる程度だったから、正直、名前も出身大学も職業も曖昧。愛莉は確かMARCHのどこか出身だったはず。ただ、みんな大学は出ていて、それなりの企業で働いていた。

「みんな、本当可愛いよね〜」

「芸能人とかとも絶対飲んだことあるよね?」

普段は滅多に関わることのない、下手したらメディアで一方的に見覚えのあるようなちょっとした有名人たちが、私たちをちやほやする。

経験のないそんな扱いに最初は戸惑ったし、どう反応していいかわからなかった。ジョークなのかと軽く疑ったりもした。

一方、美女4人は慣れた様子でその場を丁寧にさばく。後日になって愛莉のように、予約のとれないレストランに連れて行ってもらうことも多々あるようだった。



私は早稲田大学を卒業後、外資系コンサルへ就職した。6年経った今でも、必死にしがみついて働いている。年収も、肩書も、実力も、そこらへんの“バリキャリ”を自称する女とは一線を画している自負がある。

…それに、美人だと言われることだって多い。

愛莉たちのようなモデル級美女には敵わないが、一般的には美人な部類であることを自分で理解もしている。

ルックスだけでは愛莉たちに太刀打ちできないけれど、この肩書きは男性陣からも珍しがられ、気に入られることもある。

彼女たちにはない圧倒的なキャリアと、頭の回転スピード。それに、足切りされない程度の美人度。

それが、愛莉が私に声を掛ける理由だったのだろう。何となくわかっていた。

間違いなく、私はレギュラーメンバーではなかった。

「この前の食事会の斎藤さん、個人LINE来たの私だけ?」

「来週のスタートアップ飲みって、何曜日だっけ?」

彼女たちの会話の節々で、自分だけが誘われていない会がいくつもあることを察していたから。

それはしょうがない。彼女たちのルックスが圧倒的なのは、認めざるをえない事実だ。

でも…。そんなふうに割り切れない事件が起きてしまった。

その日は、ある経営者の別宅で主催されたホームパーティーにお邪魔していた。節税対策で購入したという代官山にある高級レジデンス。

いつものようにワイワイと賑やかに過ごす中、私は仕事のメールを一本だけ打ちたくて、スマホを手にお手洗いへ入ったのだ。

お手洗いといっても、そこは学生時代に西早稲田に借りていたワンルームくらいの広さだった。その異空間に圧倒されながらも、鍵をかけたそのとき、床に落ちているiPhoneが目についた。

それは愛莉のものだった。

待ち受けが、愛莉が今夢中になっている地下アイドル・凌くんだったから。

あとで渡そうと思ったのだが、その時、LINEの通知が表示されているのが目についてしまったのだ。画面に光るLINEグループの名前は、「美女軍団」。間違いなく、あの4人のLINE。

…好奇心に駆られた私は、ついその内容を覗き見してしまった。

そこでは、想像を絶する会話が繰り広げられていた。


LINEグループに投下されていた、女4人の残酷な会話

<Sayo:愛莉、なんで今日あのバリキャリ呼んだの?(笑)>
<愛莉:だって、他に捕まらなかったんだもん〜>
<芽衣子:男性陣にがっかりされなければいいけど>
<愛莉:ま〜、コミュ力は高いしちゃんとしてるから、下手なことはしないと思ってる(笑)>

誰も明確に言葉にはしない。けれど彼女たちは、私だけが美人じゃないという共通認識を持っていて、それを小バカにしていたのだ。

じわじわと、自分の中で蓋をしていた感情が止められなくなっていく。

― バカにしやがって…。

ふつふつと怒りが沸騰し、息が荒くなっていく。

…けれど、何より私を苛立たせたのは、彼女たちの認識は間違っていないという事実だった。

認めたくないけれど、私より彼女たちのほうが圧倒的に美人だし、彼女たちの持つ人脈のおかげで、私は知らない世界を覗かせてもらっている。

だから、自分の中に生じたこの感情はとても厄介だった。この怒りの矛先には、自分自身も含まれている。

きっと彼女たちを攻撃したところで、気持ちが落ち着くはずがない。

…私は、考えた。

どうしたら、この感情が静まるのか───。


“支援”


「なんか困ったことあったら、私に相談してね。あ、約束は絶対守るのよ」
「もちろんだよ、わかってる」

そういって、凌太は私に優しくキスをした。

子犬のような顔に、線の細い体。年齢は私の5個下で、全くタイプじゃない。

けれど、こうして体の関係もある。

私は別にしなくてもいいのに、彼はどこかでそれを義務のように感じているようだ。

愛莉の追いかける地下アイドル・凌(本名・凌太。苗字は未だに知らない)と出会うことは、わけないことだった。

熱心に地下アイドルを追っかけている友人に彼のことを聞いたら、すぐに彼がプライベートで出没するスポットを教えてくれた。

高円寺にある、とあるカフェ。そこで何日か張ったら、すぐに出会えた。

そして私は彼に、私なりの“支援”を提案した。

「…え、いいんですか?」

彼自身には全く興味がないため、どうしても私の態度はビジネスライクになってしまう。

けれどそんな私とは対照的に、彼は潤んだ瞳で私を見つめた。

そして、契約が成立した。


愛莉という美しい女のファンには、徹底的に塩対応すること。

時々、私とデートすること。

その代わり、私は彼に広尾のマンションの一室を与え、月3万円のお小遣いを渡す。

外資コンサルで働いて6年。無駄遣いする暇もなく働いてきたから、蓄えはある。広尾の1LDKのマンションも、2年前に投資用で購入したもの。ちょうど空室になったタイミングだったので、新規の募集をせずに彼を住まわせた。

尊敬する会社の先輩にならって、初期のころからビットコインにも投資していた。つい最近の高値更新時に、彼へのお小遣い資金確保のため利確した。

彼への“支援”は、私の年収からしても痛いけれど、自分の生活レベルを少し落とせば無理じゃない。

「もっとぎゅっとしてよ〜」

ベッドの中で、凌太は私に甘える。

「はいはい。これでいい?」
「うん。…しあわせ〜」

全く興味を持てない凌太をこの腕に抱きしめながら、私は想像する。

必死に凌太を追いかけまわしている愛莉が、塩対応され、傷ついている姿を。

その一方で、私は彼から愛情を注がれている。それは、お金で買った愛情だけれど。

美しさは、いつかなくなる。

“きれい”ともてはやす男たちは日を追うごとに減っていき、そう遠くない未来に、いなくなる。

美しさだけを盾に生きるって、なんて儚いのだろう。

…だけど、私には財力がある。圧倒的なキャリアと稼ぐ力がある。それは、これからの私の人生を大いに豊かにしてくれる。

そう、こうやってあなたが欲している男だって、買うことができるのだから。

せいぜい残されたその美しさの寿命を、まっとうするがいい。

顔だけの女が。


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みんなが欲しがるものを常に欲しがる女。誰からも羨ましがられる幸せな結婚を手にしたのだが…。