人はパートナーに、同じレベルの人間を選ぶという。

つまり手の届かないような理想の男と付き合いたいのなら、自分を徹底的に磨くしかない。

そう考え、ひたむきに努力を重ねてきた杏奈(25)。

彼女は信じていた。「あるルール」を守れば、いつかきっと最高の男に愛される、と。

今、その思い込みが崩れはじめた。

彼女が最後に見つけた答えとは?

◆これまでのあらすじ

「この人と付き合って自分の価値を証明したい」と感じる光輝という男と、2ヶ月間体の関係を持っていた杏奈。

親友を介して偶然出会った進という男と、会っているうちに、これまで「愛」を履き違えていたことに気づく。

進との交際を決め、順調に1年が経った頃、進の海外赴任が決まる。

一緒についてきて欲しいと言う進に対し、迷い続けた杏奈の決断とは…?

▶︎前回:NY帯同かキャリアかの選択を迫られた女。自分が可愛い女が最後に選ぶのは?



「木内くん、K社のプロジェクトだけど、いつミーティングセッティングできそう?」

部長が後輩の木内くんにかけた言葉にびくっとする。

大きな悩みに未だに答えがでず、ため息がこぼれる毎日。無理やりモチベーションを保ってパソコンに向かっていたときのことだった。

― あのK社のプロジェクトを木内くんが…?

このプロジェクトは今年一番と言っても過言ではない大きなプロジェクトだ。

木内くんが優秀なことは知っていたけど、まだ私を差し置いて抜擢されるほど、追い越されたとは思っていなかった。

ゆっくりとショックが胸の内に広がっていく。



「差し支えなければ、K社のプロジェクト担当がどうして私ではなかったのか教えていただきたいです。ずっと担当したいと思ってたので…」

自分に何が足りないのかを知るいい機会だとも思ったし、どうしても納得いかなかった。部長にランチの時間をもらって聞いてみることにした。

「君にはS社とR社の大きなプロジェクトを2つもお願いしてるから、このプロジェクトまでお願いしたら身体が持たないと思っただけだよ。それに、後輩もどんどん育てて行かないと会社としての成長スピードが落ちちゃうからね。いつもよくやってくれて、助かってるよ」

部長曰く単純な話だったし、確かに私は今もフル稼働だった。

それでも、やっぱり自分に何か足りないところがあったのではと思ってしまう。

高校時代の部活も大学受験も、能力には限界があってMAXまで到達するとどれだけ努力をしても伸びにくいということを実感してきた。

でも仕事だけは、周りに期待されたり評価されることで順調に成長できているのだと思えた。

けれど、前回の評価の時も期待したほどランクが上がらなかった。今回の件も踏まえて自分は今これ以上伸びないところに到達してしまったのではと思う。

ー こんなに早く伸び悩むなんて、この仕事、向いてないのかな…。


「今の仕事に向いてないかも」そう考える杏奈の根底にある思いとは


「逃げ道があるから、そう考えたいだけじゃないの?」

真央の言葉がぐさっと胸に刺さる。自分でも薄々気づいていたものの、気づかないふりをして逃げていた。

いまだに進の海外赴任に付いて行くべきかの判断ができない私は、親友である真央にまた電話をしていた。

「それも確かにある。けど、シンプルに自分の伸び代がどのくらいあるのか知りたい。でも、私この道向いてないのかなあと怖い気持ちもある」

「今まで自分がやってきたことや、周りに言われた言葉思い出してみなよ。それでも、自分は期待されてない向いてないと思う?」

これまで周りに言われた言葉…。

三桁いる同期の中で、もちろん自分より優秀な人もいたが、それでも上位5%には常に入ってきた。今持っているプロジェクトも十分やりがいのある大きいものだと思うし、期待をしているからと伝えられたことも何度もあった。

「…やっぱり逃げたいだけなのかな、私」

「私がこれまで杏奈から聞いた仕事の話では、杏奈は期待されていて成績もよくて、諦めるにはもったいないと思うよ。後輩に追い越される恐怖もわからないでもないけど、そんなこと言ったら世の中には杏奈より優秀な人なんてたくさんいる。そういうことと自分の価値を比べない方が良いんじゃないかな」

― 自分の価値…。

私が、取り憑かれたように毎日欠かさずジムに通っていた時も、付き合う人で自分の価値を決めていた。

それが変だということに気づいたはずなのに。また同じことをしていたみたいだ。

「真央〜。本当にいつもありがとう。やっと本質的なことに気づけた気がする」

私はきっと、本当は自分に自信がなくて、でも努力すれば変われるはずと思っているのだ。

努力家なところ自体は自分の好きなところでもある。だからきっとこの性格を変えようとして来なかった。

でも行き過ぎて、いつの間にか間違えてしまった。今なら、素直に認めることができる。

そのうえで、大事なことを見失わなければ、何かのために努力している自分が好きだし、それありきで私だ。

パッと顔をあげると、部屋に光が差し込んでいた。少しだけ軽くなった気持ちで進にLINEをした。

『杏奈:今週末、海外赴任について話したい」



「私、日本に残ろうと思う。ついてきて欲しいって言ってくれたのにごめんね。まだ今の仕事も一人前になれてないし、満足するまで頑張りたくて。進と今後一緒にいるためにも、今の環境を捨てちゃダメだって思った」

「…わかった。でも正直、杏奈がその決断をしてくれて安心した。実は一緒に来て欲しいって言ったあとで、後悔してたんだ。俺は自分の人生を大事にしてる杏奈が好きなのに、自分のエゴで杏奈の人生を考えずついてきて欲しいなんて言っちゃったなって」

改めて、こんな人と付き合えて自分は幸せだと実感する。

「いつも私のこと考えてくれてありがとう。お互い自分に与えられた環境で、一人前になれるように成長しよう」

「そうだな、寂しいけど、今はテレビ電話もあるしな」

少し寂しいような、けれど自分たちにとって最善の選択をできたような嬉しさを噛みしめる。

「あとさ」

進が、まだ言うか迷っているような表情で口を開いた。

「結婚のことなんだけど。サプライズでやりたい気持ちもあった。でも、今回みたいに俺たちは話し合うことでいい選択ができるのかなって思って」

「そうだね、私もそう思う。結婚も、今したくない理由はないけど、正直海外赴任の話が出るまではなかった話だし、これを理由に結婚するのも違うかなって思ってる」

「俺も同じ。もちろんいつか杏奈と結婚できたらって思ってはいたけど、2人の感覚で今だって時まで待った方が良いと思うんだ」

距離が離れるとほぼ確実に浮気するとか、別れる人が多いとか、そう言う話があるのも知っていたし、そんな不安が全くないと言えば嘘になる。

それでも“約束”をしないのは、きっとお互い、これで別れることになるくらいなら本当の相手じゃないんだろうと、いい意味で割り切れているから。

そして、私たちはそれぞれの環境で頑張ることを決めたのだった。


海外赴任を経て、2人の関係はどうなるのか…?


「忙しそうな杏奈って、本当に幸せそうだよな」

進が冗談まじりで笑っている。

そう、去年マネージャーに昇格した私は、以前にも増して多忙な日々を過ごしている。それでも、今日は絶対にジムに行くと決め込んでバタバタと準備をしていたのだ。

「だって、今日ジム行けるかどうかで明日の仕事の生産性が変わるんだもん」

「よし、じゃあ俺も鍛えてくるか」

今日は家でゆっくりすると言っていた進も、私に触発されてジムに行くことを決意したようだ。

今も私は、ストイックに努力する性格を変えていない。

努力して自分の成長を感じることが自分の幸せに繋がるから。

相手の幸せを思って行動する大切さを実感しつつも、自分の幸せがあってこそだと思う。

そして今は、そんな私を魅力的だと言ってくれる“最高のパートナー”もいる。



私たちは3年の遠距離恋愛を乗り越え、進の帰国後に同棲を始め、1年が経とうとしている。

遠距離恋愛は思ったよりも辛くはなかった。成長したい一心でお互いに仕事に打ち込んでいたこと、離れたことでお互いの大切さをさらに実感したことが大きいと思う。

進がいない間、付き合いで何度か合コンに誘われたりしたけど、魅力に感じられる人がいなかった。

きっと進に出会う前の私だったら引っかかってそうな男性はたくさんいたけれど…。

そして、同棲ともう一つ私たちの関係に大きな変化がある。

それは、結婚するということ。

いろんな男性に恋をして、たくさん悩んで傷ついて、25歳になってやっと、愛とは何かに気づいた。時間を無駄にしたように感じたけれど、今となっては起きたこと全てが必要だったと感じる。

正解は常に変わる。だからこそ、試行錯誤し続けなければいけない。それでも向き合うことから逃げなければ、最善の選択はできるものだ。

この人となら、人生のパートナーとして歩んでいける。

その確信を胸に、私は顔をあげ、進の目を真っ直ぐ見つめた。

「私は、2人の関係のために努力し続けることを誓います」

人の気持ちほど、不確実な約束はない。そう考える私たちらしい誓いの言葉だ。

式場ではなく海岸で、親族だけで行ったLAでの結婚式で、私たちはかけがえのないパートナーとして愛を誓い合った。

Fin.


▶︎前回:NY帯同かキャリアかの選択を迫られた女。自分が可愛い女が最後に選ぶのは?