これは男と女の思惑が交差する、ある夜の物語だ。

デートの後、男の誘いに乗って一夜を共にした日。一方で、あえて抱かれなかった夜。

女たちはなぜ、その決断に至ったのだろうか。

実は男の前で“従順なフリ”をしていても、腹の底では全く別のことを考えているのだ。

彼女たちは今日も「こうやって口説かれ、抱かれたい…」と思いを巡らせていて…?

▶前回:27歳OLが、付き合う前の男の部屋で「一夜を明かす」と決めたワケ



ケース2:抱かれるかどうかを3つの質問で決める女・夏野葉子(27)


「ねぇ。私のこと、好き?」

西新宿にある、高層ホテルの一室。そのベッドの上で彼の腕に抱かれながら、私はつぶやいた。

「うん。誰よりも愛してるよ」

髪を撫でながらそう言う聖司の言葉に、満足した私はニッコリ微笑む。

付き合って3ヶ月ほどになる彼は、6つ上の33歳。新宿区の大学病院に勤める、整形外科医だ。

「ずっと一緒にいてくれる?」

「もちろん、ずっと一緒にいるよ」

「…結婚してくれる?」

「俺も結婚したいと思ってるよ」

この3つの質問に即答できる男は、ほとんどいない。大概の男は目を宙に泳がせながら口ごもり、適当にごまかすからだ。

そんな男たちに抱かれたいなんて思わない。私だって今年、28になるのだ。不毛な恋愛をしている暇はない。

結婚適齢期の女が男に求めるのは、未来を約束してくれる言葉なのだから。

聖司の腕に抱かれながら、私は1年前のことを思い出していた。未来を約束してくれなかった元カレ・拓也のことを。


女が男に幻滅する、最悪な回答とは

「永遠の愛を誓いますか?」

「はい、誓います」

テレビから、耳なじみのある“あのセリフ”が聞こえてくる。婚活ドラマの最終話。ヒロインが涙するシーンに、私ももらい泣きしそうになっていた。

その隣でマンガを読んでいる拓也の顔をのぞきこんで、こう尋ねる。

「ねえ。いつか、永遠の愛を誓ってくれる?」

でも私の期待は、一瞬にして打ち砕かれた。

「俺、誓いの言葉って嫌いなんだよね。未来のことなんて、誰も約束できないでしょ?」

― えっ。私との結婚は、全く考えていないってこと…?

ショックを受けていると悟られないよう、テレビの方へ向き直る。

当時の私たちは、26歳。付き合って3年も経っていたから、少しぐらい結婚について考えてくれていると思っていた。

そうして「拓也との未来はない」と気づいた私は、すぐに彼へ別れを告げたのだ。

― 次に抱かれるなら、未来を約束してくれる男にしよう。

そう決めて、1年。ついに聖司と出会えたのである。




「ねぇ、聖司。私のこと…好き?」

「もちろん。誰よりも愛してるよ」

今夜も完璧な回答をくれる彼の胸に、顔をうずめる。

「そろそろ、聖司の部屋に行きたいな」

付き合って3ヶ月。私は一度も、彼の部屋に行ったことがないのだ。

「うん。でも俺の部屋何もないから、ホテルのほうがいいよ」

「そんなこと気にしないよ。来週行ってもいい?」

「…うん、わかった」

その瞬間。聖司の表情が、少しだけ暗くなったような気がした。



「それ、やっぱりおかしいってば」

ある金曜のランチタイム。同僚の絵里が、ハンバーガーにかぶりつきながら言った。

「だって3ヶ月も部屋に入れてくれないとか、ありえなくない?西新宿のタワマンに住んでるのに、近くのホテルを取る意味もわかんないし」

「私が部屋に行きたいって言ったのは、この前が初めてなの。最近引っ越したばかりで、ベッドくらいしか部屋にないって言ってるし…」

「え〜、そんなことある?絶対、彼女がいるか既婚者だよ」

彼氏に浮気されて別れたばかりの絵里は、男性不信におちいっているからか、そんな言葉をかけてくる。

「今夜、彼の部屋に行く約束だもん。怪しいことなんて何もないって!」

絵里にそう言い残すと、私は仕事を早々に切り上げて新宿へと向かった。…しかし。待ち合わせ時間の20分前に、聖司からこんなLINEが届いたのだ。

seiji:ごめん、今日遅くなる。22時過ぎそうだから、別日にしてもらってもいいかな?

なんだか嫌な予感がする。平静を装って「了解!」と返信したものの、心臓はバクバクと音を立てていた。

それから1時間後。ちょうど会社を出た絵里と合流した。

「やっぱりおかしいって!」

彼女は目の前に座るなり、ランチタイムのときの話を蒸し返してくる。おもむろにスマホを手に取ると、私立探偵かのように検索を始めた。

「聖司くんの名字ってなんだっけ?病院のホームページしか出てこないな。…あっ!」

数分後、絵里の指が止まった。

「彼って、都内の医学部出身?」

「そうだけど」

「…これ見て」

彼女のスマホには、Facebookの画面が表示されている。そこには、聖司と同姓同名のアカウントが7人ほど並んでいた。そのうちの1人をクリックする。

アイコンは空の画像だが、プロフィールにはローマ字でseijiと書かれていた。

― 嘘でしょ…?

タイムラインを見て言葉を失った。そこには、私の知らない聖司の姿があったのだ。


甘い言葉をささやく男の正体とは…?

『今日は家族3人でキャンプ。来年は4人家族になるので、3人でする最後の旅行になりそうです』

Facebookにアップされていた、3日前の投稿。そこには2歳くらいの男の子を抱く聖司と、彼に寄り添う女性が写っていた。

いつも私に見せる表情とは、全然違う。彼は完全に“父親の顔”をしていた。

画面をスクロールしながら、聖司の言葉を思い出す。

「結婚したいと思ってるよ、って言ってくれてたのに…」

呆然としている私を横目に、絵里は冷静だった。

「女を抱くための常套句だよ。そういう言葉を簡単に吐く男ほど、信用しちゃダメなの」

その後も慰め続けてくれた彼女と別れた私は、1人あてもなく西新宿方面へ歩いた。

「付き合う男のSNSは、チェックしといたほうがいいんだよ」という絵里からのアドバイスで、私は5年ぶりにFacebookへとログインしてみる。



聖司の家族写真をスクロールしながら、彼との3ヶ月を振り返った。

― あのロマンチックな夜景も、甘い言葉も全部私を抱くためだったの…?

絶望した私はふと、拓也のことを思い出した。私の期待を裏切り続けた元カレは今、何をしているのだろうか。

検索ボックスに、拓也のフルネームを入力してみる。すると、いとも簡単に彼のページが見つかった。アイコンは以前と変わっていなくて、懐かしい気持ちが込み上げてくる。

投稿の一番上は、マイホームを購入したという投稿。その下には、転職したという報告。ゆっくりタイムラインをスクロールしていく。

そこにはタキシード姿の拓也と、ドレス姿の女性が微笑んでいる写真があった。2人は海をバックに手を繋いでいる。彼は私と別れた後に付き合った人と、結婚していたのだ。

幸せそうな画像の下には、こんな投稿文が記されていた。

『一生側にいるとか、簡単に誓うことは難しいけれど。それでも今の僕は君を愛しています』

― 簡単に誓うことは難しい、か。

「ずっと一緒にいてくれる?」という言葉に「いいよ」と即答する男は、不誠実なのだろうか。それなら、即答できない男はどうなってしまうのだろう。

誰もいない真夜中の西新宿。私は高層ビルの間を歩きながら、グルグルと考え続ける。

そのとき、LINEの通知が鳴った。…聖司からだ。

seiji:今日はごめんね。ちゃんと埋め合わせするから!なかなかとれないホテルが予約できたんだ。

メッセージを読んだ私は、いつもの質問を投げかける。

葉子:聖司、本当に私と一緒にいてくれる?

返信はすぐに来た。

seiji:もちろん。ずっと一緒にいるよ。

その通知を見た瞬間、私は聖司のFacebookに投稿されている家族写真に、いいねを押した。

そして、LINEをブロックする。既読はつけないまま。

未来を約束させるような答えにくい質問にも即答できる男なら、抱かれてもいいと思っていた。…でもそれは間違いだったようだ。

一時的に女性を安心させるような言葉を、何のためらいもなく吐ける男は、逆に怪しい。

― 甘い言葉に騙される女は、もう卒業しよう。

月の見えない夜空の下、LOVEのオブジェだけが淡く光っていた。


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