女にとって、33歳とは……。

32歳までの“20代の延長戦”が終わり、30代という現実に向き合い始める年齢だ。

結婚、キャリア、人間関係―

これは、33歳を意識する女たちが、それぞれの課題に向かって奮闘する2話完結の物語だ。

◆これまでのあらすじ

「次にマンションを更新する33歳までには素敵な家に引っ越したい」と考える由利。そんな時、彼氏から同棲の提案を受けたが…。

▶前回:「次引っ越すなら、マンション買いたい…」恵比寿在住・家賃12万1Kに住む31歳女の本音



33歳までに理想の家に住みたい女・秋山由利(31歳)【後編】


彼氏の宏太と過ごしていた休日の夜。

私が持っていた分譲マンションのチラシが宏太のタワマン購入願望を刺激したようで、彼から“ある提案”を受けた。

「由利、今度一緒にタワマンの内見に行こうよ。せっかく家を買うなら、由利と一緒に住みたいな、俺」

ニコニコと笑顔の宏太を前に、私は頭をフル回転させて彼の真意を推し量ろうとする。

― これ、さすがにプロポーズってわけじゃないよね!?

彼との結婚を意識する機会が増えてきたからか、そんな期待を持ってしまう。

けれど彼の性格上、プロポーズするならあくまできちんとした形――それこそ、高級レストランで指輪の“箱パカ”くらいのことはしそうな気がする。

ということは、この提案はあくまで気まぐれな思いつきでしかないのだろうか。

私はおそるおそる、彼に尋ねた。

「それって、私との将来のことも、考えてくれてるってこと?」

すると宏太はキョトンとして、私の顔をじっと見つめた。

「将来?そうだね、俺も転職したばかりだし、今すぐ結婚っていうわけにはいかないけど。

俺が買うマンションに由利も一緒に住んで、暮らしていく中で考えてみてもいいんじゃない?」

「どれくらい先とか、目途もないってこと?2、3年後とかさ…」

「うん、そうだね。特にない。仕事が落ち着いたら、かな」

あっけらかんと宏太は言う。

― 将来の約束もなく、同棲しようって言ってるの!?

彼の提案を受け止めきれず、私は「考えてみるね…」と伝えるしかなかった。


結婚前提でない宏太からの同棲の提案に、モヤモヤする由利だが…

既婚の友達との落差


それから私は、宏太からの提案を受けて同棲すべきかどうか、考え続けた。

恵比寿の小さなワンルームマンションに1人でいると、「もっと広い家で宏太と一緒に住めたら楽しいだろうな」とつい考えてしまう。

けれど同時に、結婚願望も無視できない。

宏太と住む時が来るならば、結婚か婚約はセット条件になるものとばかり考えていたけれど、彼にその意識はない。

悩んだ末、私は“ある人”に相談することにした。





「由利〜!ようこそ、来てくれてありがとう!」

「こちらこそ、お招きありがとう!」

宏太とのことを相談しようと、私は友人の紗季に連絡を取った。

不動産会社で働く彼女は同棲カップルの事情をよく知っていそうだと思ったし、何より彼女自身が、長年付き合った彼氏と同棲を経てゴールインしているのだ。

「今日はダンナ、外に出てるから、気兼ねなくゆっくりしていってね〜」

外苑前に新しく建った高級分譲マンション。

エントランスに足を踏み入れた瞬間、息を呑んだ。天井はつい見上げてしまうほど高く、恭しく頭を下げるコンシェルジュはモデルのように美しい。芸能人御用達と言われても納得するレベルのグレード感だった。

「ご主人は、優しいうえにドクターで、こんな素敵なところに住めるなんて、いいなぁ〜」

「由利だって金融マンの彼氏がいるんでしょ?しかも、外資に転職したって言ってたじゃない」

「そうなんだけどさ。ちょっと、結婚願望についてはアヤシイところがあって」

私が事情を話すと、紗季は「そっか…」と腕を組む。

「結婚願望がボンヤリしてる人と、将来の約束を全くせずに同棲するかどうか、か〜」

「うん。次の家の更新が33歳だから。それまでには今の家を出たいんだよね。だから、同棲の提案をしてもらったこと自体はありがたいんだけど。

紗季も、婚約前に同棲してたよね?その時はどうだった?」

「そうだね。その時は、正式な婚約こそしてなかったけど、2人の間で『いずれは結婚する』っていう意見は一致してたよ。だから、同棲の期間は長くても2年って、最初から決めてた。

ずるずると一緒に住み続けて情が湧いて離れられなくなるのも嫌だったから」

“期限を決める”という紗季の話に、私は「たしかに、それいいかも」とうなずいた。そういう話は他でも聞いたことがある。

「でも、宏太のあの感じで、期間限定の同棲に理解を示してくれるかどうか、不安だなぁ」

私だってそれなりに忙しく働いているから、「仕事が落ち着くまで結婚は考えられない」という宏太の考え方も、ある程度理解はできる。

ただ、彼との会話から、どことなく「結婚のタイミングは自分の意思とペースで決めたい」という本音が伝わってきた。

期限を決めて一緒に住み、一定の時期が来たら、否が応でも結婚するか否かの結論を出す――そういうやり方を、彼は好まないような気がしたのだ。

「仮に由利の希望を理解してくれなかったとしたら、その時はその時で、考えるしかないんじゃない?

由利が我慢して彼に合わせるか、別れるか。相手を無理に変えることってできないもの」

「そうだよね…」

紗季の言葉に、私はうなずく。

ただ、紗季の言った“我慢して合わせるか、別れるか”について――宏太のことは好きだから、ハッキリ決めきれない自分がいる。





紗季のマンションを出ると、タイミングよく宏太から連絡がきていた。

『宏太:由利、明日のお昼空いてない?ちょっと行きたいところがあるんだ』

― 行きたいところって、どこだろう。

気になったが、彼と話をしたかったからちょうどいい。私は『空いてるよ。どこに行くの?』と彼に返信した。

『宏太:オッケー。行き先は明日までのお楽しみ!』

いつになくテンションの高いLINEに、私は首をかしげた。


宏太が由利を連れて行った先とは…

“理想の家”


「由利、ここすごいだろ?ほら、東京の景色を一望できるよ!」

「本当だね。すごい絶景…!」

「この物件ずっと気になっててさ。売り出しに出たって聞いて、急遽内見を申し込んだんだ!」

翌日。宏太に連れてこられた先は、赤坂のタワマンだった。



20階、2LDK、55平米。価格は1億5,000万円のこの部屋は、グレードといい広さといい、私の理想そのものだった。

「人気のマンションなので、申込みを入れられるなら本日中がいいですよ!」

案内の営業マンがにこやかに説明してくれる。

宏太は転職して間もないが、前職の勤続年数や転職時のオファーレターの内容を考慮してローンを下ろしてくれる銀行もあるという。それを聞いて、彼はパッと目を輝かせた。

「俺名義でこの部屋を買って、由利も一緒に住めばいいよね。ローンは俺が払うから、生活費を由利に出してもらってさ。由利も今よりずっといい暮らしができるよ!」

「たしかに…!」

いざこんな素敵な部屋を見せられると、純粋にテンションが上がってしまう。

― だけど、本当にこんな感じで決めていいのかな?

ふと、頭に現実的な不安が浮かぶ。

生活費は私の負担だと言っているが、宏太が毎月どれくらい生活にお金をかけているのかを私は知らない。2人分の生活費は、具体的にどれくらいの金額になるのだろうか。

それに、同棲するなら、私が持っている家具や家電はほとんど処分することになる。もしも結婚せずに別れてしまったら、また一人暮らしに逆戻り。家具家電も買い直さなければならない。

宏太は軽く考えているようだが、やはりすごく大きな決断だ。

「宏太、ちょっと一度、話し合わない?」

今すぐにでも申込みを入れたそうにしている宏太を引っ張り、カフェに連れ出した。



「ねえ宏太。やっぱり2人で暮らすなら、将来のことをきちんと決めたいの」

「将来って、この前言ってた結婚の話?」

「うん。私はずるずる一緒に住むのは嫌で…たとえば1、2年で区切って、2人の将来のことを決めたくて」

私は昨日紗季と話した“期間限定の同棲”について、宏太に説明した。

「うーん…なんかそういうふうに、キチキチやりたくはない、かな〜」

宏太はうなり、頭をがしがしと掻く。その様子に、「面倒くさいな」と言いたそうな空気を感じてモヤモヤした。

「由利は、『結婚できなければ一緒に住みたくない』ってことなの?もし俺のことをちゃんと好きだったらさ、まずは『一緒に住みたい』が先にこない?

この前から由利の話を聞いてると、俺への気持ちが感じられないっていうかさ」

私は呆然として彼を見つめる。

― なにそれ。自分のことばかりじゃない?

以前から彼は、こんな感じだっただろうか。それとも、跳ね上がった収入が、彼を変えてしまったのだろうか。

― 自分の気持ちを押し殺して宏太に合わせ続けたとしても、きっと幸せにはなれないな。

私は震える声で、彼に告げる。

「その言葉、そっくりそのまま返すよ。今の宏太からは、私への気持ちが全然感じられない」

「なんでだよ。由利だって、今の家を出たいって言ってたじゃん。それも考えて、2LDKで良い物件を探したのに。由利は家賃なしであの部屋に住めるんだよ?」

「宏太こそ、私と住めば生活費の負担はないよね。そしてもし別れた時、私には何も残らないけど、宏太には自分名義の家が残る。それって、宏太にはすごく都合のいい同棲じゃない?」

図星を突かれたのか、ぐっと言葉に詰まる宏太。私は、今日もらった物件資料をテーブルに置き、立ち上がる。

「申し訳ないけど、同棲とか将来とかそれ以前に、今後の関係について考えさせて」

カフェを出て、恵比寿へ帰るために駅までの道を歩く。

先ほどのタワマンの前を通ると、理想の空間を思い出して、ほんの少しだけ心が揺れたけれど。

― 理想の家に住むなら、理想の人と…がいいよね。

そんなことを思い直す。

なんだかスッキリした気持ちで、春の六本木通りをゆっくりと歩いた。


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「33歳までに会社でのポジションを変えたい」と女が考える理由