「女は所詮、金やステータスでしか男を見ていない」

ハイステータスな独身男で、女性に対する考え方をこじらせる者は多い。

誰も自分の内面は見てくれないと決めつけ、近づいてくる女性を見下しては「俺に釣り合う女はいない」と虚勢を張る。

そんなアラフォーこじらせ男が、ついに婚活を開始。

彼のひねくれた価値観ごと愛してくれる"運命の女性”は現れるのか―?

◆これまでのあらすじ

経営者の明人は婚活アプリで出会ったマイとデートをするが、彼女の予想外の行動に恥をかかされてしまう。そんな中、過去の食事会で玉砕した美女・恭香と再会し…。

▶前回:「僕が君を格安店に連れていった理由わかるよね?」デートの帰りに男から脈無し発言された女は…



Vol.4 キャリア・ウーマン


<10日の19時ですね。楽しみにしています♪>

<僕もー(^^)店は決めておくから、また近くなったら連絡するよ(^^) >

ひょんなことから再会した、かつてのあこがれの女性・恭香。

名刺に記載されていた電話番号にSMSで連絡したところ、とんとん拍子に食事の約束を取り付けることができた。

開放的なワークスペースの中心にあるガラス張りの社長室。深々と椅子に座り、スマホを見ながらニヤニヤしている彼には、社長としての威厳は一切感じられなかった。

彼の様子を外から見ていた久保は、呆れた顔で入室してくる。

「さっきから仕事が手つかずのようですが」

「いやぁ。大切なメールなんだよ。ホラ」

明人は久保に恭香とのやり取りを見せた。

「昔、食事会で一緒になったフェリスの恭香ちゃん覚えてる?彼女と今朝、再会しちゃってさぁ」

デレデレする明人に対して、久保はさらに大きなため息をつく。だが、明人はお構いなしで話をつづけた。

「連絡先交換したら、食事行くことになったんだ。なぁ、女ウケしそうないい店、教えてよ。

今、花屋で働いているんだって。指先をシワシワにして頑張っている彼女にいいもの食わせてあげたいよね」

「…はいはい。調べておくよ」

久保は、どこかイライラした様子で社長室を後にしたが、明人はその態度に全くきづいていなかった。


美女との約束で浮かれる明人に、久保が紹介した店は…

ほどなくして、久保からおススメの店のリストがLINEで送られてきた。

「ん…『サルヴァトーレ クオモ ブロス』って、聞いたことがあるな」

リンク先を見ると、愛宕グリーンヒルズにあるレストランだった。マイがよく行くと名前を挙げていた場所だということを思い出す。

― げっ。アイツと鉢合わせするじゃないか…。

「…でも、まてよ」

候補から外そうとしたが、不思議とそれもいいかと思いとどまる。

立石の大衆酒場に自分を連れていった男が、数日後には誰もが振り返る美女とスタイリッシュなレストランでデートしている…。彼女はどんな気持ちになるだろうか。

必ず来るという保証はないが、そんなハプニングもいいだろう。

明人はその店にすることを決めたのだった。





「…では、奇跡の再会に乾杯」

「ふふふ。なんか照れちゃいますね」

東京タワーを間近に堪能できる絶景の席。明人は恭香とまずはシャンパンで乾杯した。

明人は社長就任祝いにあつらえたフルオーダースーツを身に纏い、この日に臨む。

一方、恭香は仕事帰りということもあり、パンツスタイルにフラットシューズという装いであったが、彼女から自然とにじみ出ているエレガントな美しさは若干のカジュアルさを十分カバーしている。

出会った頃は女子大生だった彼女。現在は30を越えているだろうが、それでもなお肌艶はよく、華やかさは変わらない。

― 彼女と今、こうして2人きりで食事ができているなんて…。

改めて、自分は勝ち組になったのだと実感する。

「夢みたいだな。初めて会ったときは僕なんかなしのつぶてだったのに」

「そうだったかしら…。10年以上前だし、全然覚えていなくて」

「はは。当時の僕は金もなくて、いわばフリーターだったからしょうがない」

ポロリと本音と自虐が出てしまう。彼女が返答に困る姿を見て、明人は我に返る。昔の自分と今の自分は違うのだ。

明人は、自分が今では社長であることを改めて主張し、芝浦の高層マンションでひとり暮らしをしていることや、何回か訪れた星付きの名店の話題など、華やかな会話で彼女を楽しませる。

「へぇ…社長さんって、すごい生活をされているんですね」

「そんなことないさ。経営者なんて、そこらへんにゴロゴロいるし」

美女の羨望のまなざし。それは明人にとって社長就任の最上のご褒美だった。

「あれ…アキヒトさん?」

恍惚の中、背後からどこかで聞いたことのある声が聞こえる。

デートの高揚感から、明人はこの店を選んだ理由をすっかり忘れていた。


振り向いた明人の前にいたのは…

「マイ、さん…」

「こんばんは。偶然ですね」

白いシャツに黒いタイトスカートの彼女。

会社帰りなのだろうか――しかし、明人に微笑むだけで、あっさりとすぐ去っていった。

彼女の肩透かし以上に驚いたのは、身長180cmはあるだろう、高級感あるスーツを着た男を背後に2人従えていたことだ。マイの小柄な体型もあり、まるで少し前に流行した芸人ユニットのようだった。

― あの男たちは…?withBかよ…。



なぜか彼らの存在が気になってしまった。マイの反応を楽しむためにこの店を選んだはずだったが、自分の方が動揺してしまうとは。

明人の心中をさらに刺激するかのごとく、少し離れた席から件のwithBがこちらのテーブルをじっと見ている。

― そうか、恭香ちゃんがいるから…。

明人の心に別の緊張が走る。

彼らはお互いひじを突き合わせて、何か相談をしているようだった。

「あの…」

― 早く店から退散しよう…。

入れたばかりのボトルワインを片付けようとピッチを上げ飲んでいると、彼らにけしかけられたのか、マイが明人たちに近づいてきた。

「友達が…大学の同級生なんですけど、おふたりとご同席したいと言っておりまして。お邪魔じゃなければお食事ご一緒しませんか」

もちろん明人は断ろうとしたが、恭香はあっさりと答えたのだった。

「私は、大丈夫ですよ。明人さんは?」

「え、あ、うん…」

結局、席を移動せざるを得なかった。



一同は大きめの丸いテーブルに移動する。

明人は恭香をガードするように席を陣取り、マイを彼女の隣に座らせた。だが意外にも、マイの友人だという2人は本当に明人に興味を持っていたようだった。

「高見堂社長、お名前はよく耳にしていました」

実は、withBは、明人と同じく会社経営者なのだという。

ECサイトをいくつも運営する会社のトップの徳山と、バイオテクノロジーの研究開発を主な事業としたベンチャーの社長という杉本。2人は恐縮しながらも気さくに明人を受け入れる。

「いつかお話したいと思っていました。まさかこんなところで会えるとは」

「いやいや…」

明人が今トップに立っている会社の前身は、かつて一時代を築いたITベンチャーだった。

だが、全盛期に当時の社長の薬物使用と脱税でどん底に落ち、残った数人の社員とアルバイトで何とか存続。事業譲渡や親会社変更などを経て再び独立し、現在はやっと軌道にのっている状態だ。

IT業界では珍しく、泥船に残り続け、叩き上げで社長になったということもあり、実は明人の名前は経営者界隈では有名なのだ。

彼らの賛辞に得意げになりながらも、明人はマイを冷ややかな目で見る。

― こいつ、社長狙いなだけだったんだな。

マイは恭香と楽しげなお喋りの真っ最中。初対面で意気投合した模様だ。しばらく男3人の硬い話で、ほったらかしにしていたから仕方ない。

明人は、このままマイと恭香が適当に韓国やスイーツなどの話をずっとしていてほしいと心から願った。高スぺックのイケメンと、恭香を近づけさせるわけにはいかないからだ。

「さすがマイさんの人脈は僕らも見習いたいよね」

「フットワークとバイタリティは、僕の知る経営者の中で1番だよ」

会話の中で時折挟まれる、マイをたたえる言葉に引っかかった。

「ん?経営者って」

「彼女の会社、勢いすごいですよね。在学中に起業した中でも現時点では1番大きいんじゃないかな」

明人はさも知っていたかのように頷いたが、内心では非常に動揺していた。

― え、彼女が経営者…?

そういえば、マイは彼らと大学の同級生だと言っていた。明人は一抹の不安をおぼえながら、恐る恐る尋ねる。

「あの、みなさん、大学ってどちらでしたっけ」

「あ、東京大学です」

明人はどこから発せられたのか不明な、イルカのごとき声を店内に響かせる。

マイも恭香も、何事かという表情で明人を見た。

東京大学―。

明人が中学の時から憧れながらも、現役時代の受験で落ち、早稲田で仮面浪人を続けたが結局合格できなかったエリートのシンボル。

「へ、へぇ…東大、ですか。マイさんも…?」

取り繕い、平然を装う明人。

マイは困ったような顔で頭を下げた。

黙っていたことを申し訳ないと思っているのだろうか。

その行動は、明人の繊細な部分をさらに刺激したのだった。


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