女にとって、33歳とは……。

32歳までの“20代の延長戦”が終わり、30代という現実に向き合い始める年齢だ。

結婚、キャリア、人間関係―

これは、33歳を意識する女たちが、それぞれの課題に向かって奮闘する2話完結の物語だ。

◆これまでのあらすじ

恋活に難航する衣里は、元同期の英輔に連絡。楽しくデートするも、彼はバツイチ子持ちだった。

▶前回:「お互い独身だったら結婚しよう」3年以上彼氏ナシの32歳女が、元同僚との約束を思い出し…



33歳までに彼氏がほしい女・深山衣里(32歳)【後編】


32歳で、3年間彼氏もいない私。

そろそろヤバいと焦り始めた私は、重い腰をあげて、マッチングアプリに登録した。

でも、そう簡単にはうまくいかない。

そんなとき、“10年後お互い独身だったら結婚しよう”なんて言い合っていた前職の同期である英輔の存在を思い出し、久々に彼を呼び出した。

彼がバツイチとなっていたことや、元妻との間に子どもがいることには驚いた。

そして、別れ際に、彼からこう言われた。

「俺、今日会ってみて、衣里のこと改めていいなって思ったんだ。よかったら、またこうして会えないかな?」

私は驚いて、彼の目をまじまじと見つめる。

「…もちろん!私も、英輔にまた会いたい」

一瞬、なんと答えようか迷った。

ついさっきまで「彼とならうまくやれそう」と勝手に妄想していたけれど、いざ彼からアプローチを受けてみると…。

英輔がバツイチ子持ちであることを消化しきれず、不安を覚えている自分がいる。

― まあでも、とりあえず私の目標は“33歳までに彼氏をつくる”だもんね。今すぐ結婚するわけじゃないし、重く考えなくていいか。

彼と別れ、電車に揺られながらそんなことを考える。

不意に、バッグの中でスマホの通知音が鳴る。取り出すと、英輔からのメッセージだ。

『衣里、今日はありがとう。久々に会えてすごく楽しかった。次、いつ会える?』

前のめりな彼の姿勢に、思わずニヤけてしまう。久々に会ってカッコよくなっていた彼に密かにときめいていたから。

『私も楽しかった♡来週末とかどうかな?』

なんだかんだ、私は彼に惹かれている。思わず即レスし、満ち足りた気持ちになるのだった。


英輔との日々は、想像以上に楽しくて…

そこから1ヶ月間、週末は英輔とのデートの予定で埋まった。

意外なことに彼は折々、「早く再婚したい」と再婚願望を口にする。

初婚の時に結婚相談所を利用したのも、早く結婚して家庭を持ちたかったから。姉がいる彼は甥っ子や姪っ子をかわいがっていて、「自分も早く子どもがほしい」と常々思っていたようだ。

そんな話を聞いていると、私も自然と彼との結婚生活を想像するようになる。

英輔とは昔からの仲だけど、こうして頻繁に会うようになって、改めて彼との時間に居心地の良さを感じている。

お互いのプライベートな時間は自然と尊重しあえているし、料理の好みや金銭感覚も合う。

だから一緒にいて不安やストレスはなく、むしろ安心感を覚えるのだ。

最初こそ、彼がバツイチ子持ちであることへの不安が大きかったが、徐々にその感情は薄れていた。

英輔は元妻に全く未練がないし、子どもの養育費も払っていない。だから心理的にも経済的にも、懸念材料は少ないと思ったのだ。

ある夜。

駅までの道中、英輔は不意に私の手を握り、ゆっくりと言った。

「俺、衣里と再会して、君が自分にとって一番大切な存在だって気が付いたんだ。俺と結婚を前提に、付き合ってほしい」

「…!英輔、ありがとう。私も、ずっと一緒にいたいと思ってる」

私は素直に嬉しくて、彼の手を握り返す。

「俺、離婚歴あるけど。衣里には迷惑かけないようにするから」

「うん、大丈夫。気にしてないよ」

彼に伝えた言葉は、半分は本心、もう半分は建前というところだ。

本音は全く気にならないわけではない。

でも、何よりも昔から知っているという安心感が何よりも勝った。これから新しく出会ってイチから信頼関係を築いていくのは大変だけど、彼だったらいいかも、と考えていた。

「ねえ、英輔。私たち、幸せになろうね」

つないだ手をもう一度、ギュッと強く握った。





4ヶ月後


付き合い始めて以来、英輔とは順調な交際が続いている。

結婚前提の交際だから、交際開始してすぐ、お互いの両親への挨拶を済ませた。

どちらの親も、急な展開に驚きつつも祝福してくれた。

入籍日は、大安ということもあり私の33歳の誕生日に決まった。

新生活に向けて話し合うことはたくさんあるが、今のところ、私たちは1度も喧嘩したことがない。意見が対立しても、英輔はいつも鷹揚な調子を崩さないのだ。

バツイチ男性は、最初の結婚で人生経験を積んでいるから、2人目の妻には寛容になる…と聞くが、彼もそうなのだろうか。

― バツイチって、マイナスどころかむしろプラスかも。

私は彼の離婚経験を、いつしかポジティブに考えるようになっていた。



そんなある日。

仕事終わり、渋谷のオフィスを出て道玄坂を歩いていると、不意に見知らぬ女性から腕をつかまれた。

「深山衣里さんですか?」

大きな女優帽を被ったその女性は、儚げな雰囲気の漂う美人だ。

一体この人は誰なのだろうかと視線を落とすと、彼女が左手でつかんでいるベビーカーの中の男の子と目が合った。

その瞬間、この女性が誰なのか察する。

顔を上げると、彼女は挑むような目で私を見据え、言い放った。

「私、英輔の元妻です。あなた、彼と交際しているようだけれど…この子にために、別れてほしいの」



道端で話し込むわけにもいかないので、近くのカフェに入った。彼女が席についたまま動こうとしないので、私が彼女の分もコーヒーをカウンターで注文し、席まで運ぶ。

彼女はお礼も言わずに、コーヒーを一口飲むと再び口を開いた。

「今の夫が事業で失敗して、お金を失ったの。このままじゃこの子を育てられない。だから、私は英輔と再婚したいの」

「でも、あなたが望んで英輔さんと離婚したんですよね?」

私はげんなりして言い返す。しかし、彼女はまったく意に介さない様子だ。

「あなた、この子を見捨てろっていうの?」なんて言ってくる始末。

だいたい、「お金がない」と言う割には、この女性が身に着けているのは高価なものばかりだ。

腕に巻きつけているのは、カルティエのタンクだし、バッグはルイ・ヴィトンのカプシーヌ。女優帽だって、かなりの高級品に見える。

「わかってもらえる日まで、何度だって会いに来ますから」

結局、私が「英輔と別れる」と言わないので、彼女は憎々し気な表情で去っていった。

― なんか…めちゃくちゃ疲れたわ。

今まで、英輔がバツイチ子持ちであることへのデメリットを感じたことがなかったけれど。

急に現実に引き戻されたような気分になった。


悩む衣里は、英輔と話し合うものの

数日後。

週末、英輔の部屋に行ったタイミングで、元妻から待ち伏せされたことを告げた。

「あいつ、ありえない。衣里、迷惑かけてごめん」

「ううん、大丈夫。ただ、こういうことがあると、不安になるっていうか…」

そう言いつつ、私は自分の抱えている不安や不満をうまく伝えられず、口をつぐむ。

元妻からの待ち伏せはもちろん迷惑だし、怖い。

でもそれ以上に、「彼にかつて伴侶がいたこと」を実感したことで、私の心の中に、どす黒いイヤな感情が渦巻いていた。

― 嫉妬、してるのかな。元奥さんに。

誰にでも、過去はある。

私にだって、元カレなら何人もいる。

過去に付き合った男性たちにももちろん元カノはいたけれど、その存在を気にしたことはなかった。

でも、“元カノ”と“元妻”では重みが違う。

一生の愛を誓い合い、法的な手続きを踏んでパートナーになった相手が、英輔にはいるのだ。

その重みがあるからこそ、元妻だって未だに英輔を頼ろうとするのだろう。

それがたまらなく、不快に感じた。

「ちょっと、今後の関係について考えさせて」

そう言って、彼の部屋を出る。

気持ちの整理ができないまま、彼と結婚なんてできない。





入籍前夜


それから1ヶ月。

明日は、私の33歳の誕生日。本来、入籍を予定していた日だ。

しかし私は、自分の部屋で1人で過ごしている。

あれ以来、英輔には会っていない。時々連絡が来るが、返信をしないでいると、だんだん頻度は落ちていった。

― このまま、別れちゃうのかな。

それでも仕方ないような気がした。彼がバツイチであること、何かあると元妻と子どもが目の前に現れること。そのことを私が許容できない限り、一緒にはいられない。

世の中には、離婚経験を受け入れられる器の大きい女性がたくさんいる。英輔はそういう人を選んで一緒になればいいのだ。

― 本当に、それでいいの?

ぐるぐると自問自答を続ける。

掃除でもして心を落ち着けようと立ち上がり、棚に挟まっていた要らない書類を捨てることにした。

すると、書類を引き抜いた拍子に1枚の写真が床に落ちた。

「あれ?これって…」

10年前にインスタントカメラで撮った、英輔の写真だった。まだ入社する前、内定者で仲の良いメンバーと旅行した時のもので、22歳の英輔が眩しい笑顔でピースサインをしている。

当時の感情が鮮明に思い出される。

あのころ、私はほのかに英輔のことが好きだった。だけど彼には他大の彼女がいたし、私にも同じサークルの彼氏がいた。だから好きな感情を抑えて、“いい友達”の枠で彼の特別になろうと思った。

その時の切ない気持ちが胸の内に蘇って、苦しくなる。

「せっかく英輔と付き合えたのに、くだらない嫉妬で諦めるの?」

写真を撮った時の自分に、そう問われている気がした。



その時、インターホンの音が鳴った。

モニターを見ると、英輔が立っている。

「ごめん。連絡が来るまで待とうと思ってたけど…これ以上、衣里と離れていたくなくて」

射すくめられるような目で見つめられて、私は震える指で「開錠」ボタンを押す。

数分後。息を切らした英輔が現れた。

そして彼は、部屋に入るなり私を抱きしめる。

「衣里。君が今、俺との関係をどう考えているかわからないけど…俺、やっぱり君と一緒にいたい。不安なことがあれば、話してほしい。入籍するのが不安なら、先延ばししたっていいから」

「うん…」

聞き慣れた彼の声と匂いに、安心感を覚える。

彼の背中に腕を回すと、幸福な気持ちで心がゆっくり満たされていく。

それと同時に、私の中に“ある決意”が芽生えた。

「私、やっぱり英輔とずっと一緒にいたい。あなたの最後の妻になりたい」

驚いて私を見つめる英輔。

― 『女は男の最後の女になりたがる』っていうけど…。なんか、よくわかったかも。

元妻の存在は、気になる。

これからも、彼への愛情と元妻への嫉妬で、ジレンマに苦しむ時がくるかもしれない。

けれど、それ以上に「もう二度と、英輔を他の女に渡したくない。一緒にいたい」という想いが、私の中で勝っている。

「衣里、ありがとう…!結婚しよう。必ず幸せにする」

感極まって泣きそうになっている彼の頬を、優しくなでる。

― 今日は、忘れられない一日になりそうね。

時刻は0時。

私は、33歳になった。

Fin.


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