離婚して5年、いきなり元夫に「会いたい」と連絡する女。再婚相手も決まっているのに、何の魂胆が…?
「俺は結婚に向いていないし、結婚しなくても十分幸せだ…」
と、思っていたバツイチ男が“ある女”と再婚した。
彼の結婚の決め手は何だったのか――。
6人の女性の中から、彼に選ばれたのは誰?
◆これまでのあらすじ
2016年にバツイチとなった桜井和真はその後、5年の間に5人の女性と出会い、デートを重ねていた。
2016年の玉城玲奈とは海外旅行をともにして、2017年の行野澪とは交際に発展し、2018年の椎名由起子には逆プロポーズされ、2019年の黒木彩とのデートで失敗し「恋愛も結婚も向いていないタイプだ」と自覚する。
そして2020年のステイホーム中に石川沙耶と出会うが、和真のもとには元妻から離婚以来の連絡が届いていたのだった。
▶前回:Case5(回答編):2020年の桜井和真(33歳)
Case6:2021年の桜井佑子(33歳)
離婚してから5年、桜井佑子はずっと自分に問いかけてきた。
― 私、どうして苗字を旧姓に戻さなかったんだろう?
和真と結婚したときは当然のように、むしろ大喜びで「桜井」に改姓した。たった1年で離婚に至ったが、その手続きのとき「離婚後も苗字を旧姓に戻さない選択肢」があると知り、そうした。
ただ、何となく。
「子どもがいるわけではないのに、おかしい」
そう言ってくる友達もいて、返す言葉がなかった。
「和真さんに未練があるんじゃない?」
「ないよ!未練だけはない!」
いつも食い気味に否定した。
離婚後、趣味が高じて歯科衛生士からヨガ講師に転職していたが、受講生から「桜井さん」と言われるたびに、むずがゆい思いがした。
― よし、苗字を変えよう。
そして2019年に、そう決意した。直後、自分でも信じられない行動に出る。
『佑子です。お久しぶり。もしかしてブロックしてるかな?』
3年ぶりに、和真へLINEしてしまったのだ。
― 会いたいわけでもないのに何してるんだろう、私…。
しかし2021年。元夫婦として、独身同士として。和真と2人きりで食事することになる。
会いたいわけでもないのに、なぜLINEを送ったのか?
前夫の優しさに触れて
佑子が送った離婚以来初のLINEに、和真は社交辞令としてだが返事をくれた。
軽く近況報告をするうちに「もしかしたら会っても平気かも」と、佑子は思い始める。
LINEのやり取りがフランクで、ノンストレス。もし直接会ったとしても、元夫として変に意識することもなく“かつて結婚していたけど今は友人”のような距離感になれると感じたからだ。
『LINEで会話するんじゃなくて、久々に会って話さない?』
この提案に対し、和真はノーと言わなかった。だが彼の仕事が忙しく、なかなかスケジュールが決まらないまま2020年になってしまう。
LINEでは『お互い体調に気を付けよう』なんて言い合っていたが、佑子は体調を崩してしまった。検査では陰性と言われて安心したものの、体がツラくて買い物に行けない。
そのことを和真に伝えると、彼は療養生活に必要なものを買い揃え、佑子の自宅玄関前まで届けてくれたのだ。
顔を合わせたわけではない。けれど、和真の優しさに4年ぶりに触れた。
― ちゃんと会って、お礼したいな。
そして2021年になってから『ご飯行かない?』とLINEで和真を誘った。きっと、その想いが届いたのだろう。
彼は表参道の『ローブリュー』を予約してくれた。ここは2人で何度か足を運んだ、思い出の店だ。
差し入れのお礼を深くしたあと、話題は互いの両親のことになった。離婚後は当然疎遠になった義両親だが、婚姻中は本当の家族のように思っていたのだ。
それは和真も同じだったようで、それぞれの両親が健康で人生を楽しんでいることを知り、ワインが進む。
こういう会話は、彼としかできない。それが本当に楽しかった。
「私たち、なんで別れちゃったんだろうね?」
デザートを待っている間、佑子はポロッと漏らす。
「離婚したいって言い出したのは、佑子だろ?」
和真は軽口をたたくように言った。あえて重たく受け止めないようにしてくれたのだろう。
「俺さ、佑子と結婚したときから今でも『どうして結婚を決めたんですか?』って、よく質問されるんだ」
「なんて、答えるの?」
「時と場合によって変わるよ。一言では説明できるものでもないしね。けど『離婚の原因は?』って聞かれたら即答してる」
「私に、離婚しようって言われたから?」
彼は少し笑ってから、首を横に振った。
「俺が結婚に向いてなかったから、って答えてる。そしたらみんな大体、俺の全身を舐め回すように見てから『あ〜、たしかに』って言うんだ」
佑子は笑った。
「結婚に向いてない男だって、みんなにバレてるんだ?」
「そうらしい。困っちゃうよ」
「じゃ、もう二度と結婚しないの?」
久しぶりに連絡を取って以来、ずっと気になっていたことを尋ねる。
「…再婚したいよ、本当は。でもできないと思うし、たとえ再婚してもまた失敗する気がする」
「そんなことない、再婚できるよ」と、励ますこともできない。「そうだね、再婚しても失敗しちゃうね」と、冗談を言うこともできない。
佑子は返事に困ってしまった。
「…佑子は、どう?再婚しようとは思わないの?」
「んー、思わないかな。結婚はもうこりごり。一生、再婚しなくていい」
本当は年内中に再婚するのに、それを伝えるために和真と会ったのに。佑子は言えずに嘘をついた。
再婚予定だった佑子…。その相手とは?
2019年の秋のこと
苗字を変えよう。桜井姓ではなく旧姓に戻そう。そう決意した直後、佑子は1人の男性と出会った。ヨガの受講生で、都内に数か所ある音楽スタジオの経営者だ。
出会って早々に「結婚を前提に付き合ってほしい」と言われ、その後も押しに押された。
とはいえ強引には感じず、次第に好意も抱くようになる。
2020年、体調不良になった佑子のもとへ和真が差し入れを届けてくれた翌日、彼もまた差し入れを持ってきてくれた。…和真の差し入れよりも10倍近くの物量で、笑ってしまったのだが。
そのとき本気で「この人と結婚してもいいかも」と直感した。
― 和真よりも遅れてくるけど、和真の10倍は愛してくれるかもしれない。
こうして受講生は彼氏となり、婚約者となった。
けれど5年も前に離婚したというのに、旧姓に戻さなかった自分自身にモヤモヤしていた。だからケジメをつける意味でも、和真に会ったのだ。
しかし結局、再婚することを伝えられないまま食事を終え、解散した。
『今日は久々のデート(笑)楽しかったよ』
帰宅後、和真からLINEが届く。(笑)という文字はついていたけれど、デートという言葉自体が、佑子に重くのしかかってきた。
『友人として、またご飯行こうね』
佑子は熟考を重ねたうえで、そう返信する。それからすぐに婚約者へLINEを送った。
『今すぐ会いたい』
彼は飛んで来てくれた。正直、罪悪感はなかった。なのに、なぜか涙が出る。
「どうしたの?」
彼は優しく尋ねてくる。突然に「会いたい」と言って、来てみたら彼女が泣いているのだ。当然の反応だろう。
「ごめんね。でも1年に1度ぐらい、こういうこともあるんだ」
「そっか。うん、わかったよ」
彼は優しく佑子を抱きしめてくれた。
― 私みたいな女が幸せを感じていいのかな?
佑子は彼の胸の中で思った。
心の中で呟いただけなのに、まるでそれが聞こえたかのように彼は言った。
「大丈夫。俺が佑子を幸せにするから」
再婚は2021年12月に
佑子はようやく、苗字を前夫と同じものから、現在の夫と同じものに変えた。
目黒区役所で手続きをしている間、和真からLINEが届く。夫がトイレに行っているうちに、隠れてチェックした。
『報告があります。あまりに突然で、自分でも驚いてるんだけど。俺、再婚することにした』
反射的に笑ってしまった。
― なんで、こんなタイミングなの。
夫が戻ってくる前に、なんとか笑みを堪えたい。でもできない。
『おめでとう!相手はどんな人?』
自分が再婚したことは報告せず、尋ねる。しかし和真からはレスがない。夫がトイレから戻ってきたので、慌ててスマホをしまった。
和真から返事が来たのは、夫と入籍記念のディナーをして帰宅したあとのこと。佑子は、夫がシャワーを浴びていると確認してからLINEを開いた。
『実は、佑子と離婚してからの5年間で、6人の女性たちとデートしてきたんだ。再婚したいと思った女性は、そのうちの1人で…。
一度は疎遠になったけど「やっぱり彼女と一緒に人生を過ごしたい」って思う出来事が起きたんだ。もし嫌じゃなければ会って話したいけど、どうかな?』
佑子は夫がシャワーを終える前に、急いで返信する。
『わかった。会って話そう。私からも報告があるから』
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▶1話目はこちら:結婚願望のないハイスペ男が“結婚”を決意。絶対手に入れたかった女とは
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2021年の和真の身に、いったい何が起きたのか!?