「可愛いのに、どうして結婚できないんだろうね?」

そんなふうにささやかれる女性が、東京の婚活市場にはあふれている。

彼女たちは若さにおごらず、日々ダイエットや美容に勤しみ、もちろん仕事にも手を抜かない。

男性からのウケはいいはずなのに、なぜか結婚にはたどりつかないのだ。

でも男性が最終的に“NG”を出すのには、必ず理由があるはず―。その理由を探っていこう。

▶前回:医師の男が、同棲中の彼女との結婚を渋るのは…。家庭的で料理上手な女の落とし穴



Vol.4 麻友、26歳。顔とスタイルには自信あり


― あぁ、もう。なんでここまできて無視するのよ!

私は、メッセージが返ってこなくなったマッチングアプリのやり取りの画面のまま、スマホをベッドに放った。

ハイスペックな男性会員が多いと評判の、マッチングアプリに登録して1年。彼氏どころかいい感じの男性すらできない。

― この人、素敵だと思ったのになぁ…。

たまたま他にいい女性が現れたか、面倒になってしまったかだと思うのだが、ここまでうまくいかないとメンタルが持たない。

『めちゃくちゃスタイルいいですね!』『すっごくタイプです!』

そう言われて、最初は順調にやりとりがスタートするのだが、いいなと思った人に限って、会話が続かなくなる。

そこで私は、思い切って、マッチした男性とのやり取りの回数を減らし、自分から最初の食事に誘うことにした。

その作戦はうまくいった。そして、早速週末に、アプリでマッチした男性とデートすることになったのだ。


マッチングアプリで出会った男性がまさかのイケメンで・・・

デート当日。今日は5月なのに夏のように暑い。

― 何か冷たいものが欲しい…。

待ち合わせ前に買い物をしようと早めに家を出てきた私は、すぐにカフェに入りアイスラテをto goする。

「すみません、突然すみません!お姉さん、芸能とか興味ないですか?」

ラテを飲みながら、原宿から表参道へ歩いていると、うさんくさそうな男性に声をかけられた。

上京して食品メーカーの事務職として働き始めてまる4年、これまでも何度かスカウトされたことがある。

私は、中学・高校と6年間ソフトボール部に所属しており、それしか学生時代の思い出がないくらい、真剣に取り組んでいた。

そのおかげで、体は引き締まっており、スタイルはよく褒められるのだ。

ここ最近マッチングアプリでの惨敗に辟易していた私は、承認欲求を満たすためだけに、立ち止まった。

「あ〜、もう事務所とか入ってますかね。すごくお綺麗だし」
「すみません、そういうのあまり興味なくて」
「じゃあLINE聞くのは無理か。せめて名刺だけでも!気が変わったら連絡ください。あ!名前は?」
「麻友」

私は無愛想に答え、片手で名刺を受け取った。

男性が見えなくなるまで歩いてから、事務所名をスマホで検索してみるが、それらしいHPは出てこない。

― 大手事務所なわけがないか。

私は名刺を丸めて、服のポケットに入れる。

スカウトマンが容姿を褒めてくれたことで自信がついた私は、意気揚々と待ち合わせのお店へ向かった。

これから会う男性の詳細なプロフィールは覚えていないが、かなりのハイスペックだった気がする。



「すみません、ちょっと遅れました」

表参道から恵比寿までの道が混んでおり、待ち合わせ時間に5分遅刻してしまった私は、席に着くなり謝る。

「全然。僕も今来たところですよ。改めまして、斉藤佳紀です。とりあえず飲み物頼みましょうか」

そう言ってくれた男性の顔を見て、私は驚いた。

― うそ!めちゃくちゃ爽やか…!!

男女ともに“写真は盛る”が基本なアプリ界隈で、こんなにかっこいい人に出会えるのは奇跡だ。私は、胸の高鳴りを抑えられなかった。

「それじゃあ。お疲れさま!」

佳紀はビール、私はグレープフルーツジュースで乾杯をする。

彼が予約してくれたのは、恵比寿の『創和堂』。グルメ雑誌やSNSで話題になっていた店だ。



食事のメニューはどれも美味しそうだ。決められずにいると、彼は好き嫌いを聞いた上でテンポ良く決めてくれた。

私はジュースを飲みながら料理を待つが、久しぶりにタイプの男性が隣にいるからなのか、緊張して言葉が出てこない。

「最近ようやく海外旅行する人もチラホラいる感じですよね。麻友さんどこか行きました?」

佳紀が沈黙を破る。

「それが、全然行ってなくて…」

彼氏がいないのもあるが、私はここ数年でインドア気質に拍車がかかってしまった。



外出しにくい日々が続いたことをきっかけに、一昨年に動画配信サービスを4社契約したこともあり、今は家にいるのが楽しい。

「そうなんですね。僕は、先月宮古島に行って来たんですけど…麻友さんは行ったことあります?」
「いえ。ないです〜」
「そっか。僕も初めてだったんですけど、シギラリゾート、よかったですよ!現地の人に教えてもらった居酒屋も当たりで。沖縄料理だと何が好きですか?」
「う〜ん、あんまり食べないけど、海ぶどうとか?ですかね」

佳紀が人見知りをせず、さらに会話をリードしてくれる大人な人で、私はほっとしていた。


麻友にとっては最高のデートだったが、佳紀が抱いた印象は悲惨なもので…

美味しそうな料理が運ばれてきて、私は撮影と食事に夢中になった。

しばらくすると、また佳紀が話を振ってくれる。

「僕、お酒が大好きで。ある程度の浅い知識はあるつもりなんですが、麻友さんは何が好きですか?」

彼は、ビールの後、日本酒を飲んでいる。ということは、お酒は弱くはないのだろう。

「私、実はそんなにお酒飲めなくて」

私はそう答えながら、目の前に運ばれてきた料理を写真に収める。



我ながら、かなり美味しそうに撮れたので急いでストーリーにアップした。

彼はイケメンだし、料理は映える上に美味しい。お気に入りのワンピースを着てきたから気分もいいし、最高だ。

― 次はドライブとか行きたいな。車あるのかしら?

「お酒弱いんですね。だからジュースだったのか。麻友ちゃん、可愛いね。なんだか大学生と話してるみたい」
「か、可愛い、だなんて…!」

私は嬉しくなって、はにかんでしまう。

― この人なら、付き合ってもいいかも。ううん!結婚してもいい!したい!

1年近くマッチングアプリを使っているが、心からそう思えたのは初めてだった。

「そういえば、麻友ちゃんは、どんな仕事してるの?」
「私?ふつうの会社員ですよ。誰でもできる事務職です。学生時代は部活しかしてこなかったので、そのくらいしかできなくて」



そういうと、佳紀は苦笑いした。

「聞かれないから言っちゃうけど、僕は広告代理店で働いていたんだ。一昨年に独立してね。まだまだ小規模だけど」
「そうなんですね、すご〜い!」

そこから沈黙が続いてしまうが、私は気にならなかった。

「ジュースだと何杯も飲めないよね?最後、お茶もらう?」
「あ、はい。そうですね」

そう答えると、彼は店員に会計の合図をした。

財布を出す素振りをする間もなく、スマートに支払いを済ませた佳紀は、外に出ると呼んでいたタクシーに私を先に乗せた。

「今日は貴重な時間をありがとう。気をつけて帰ってね」

― あれ?次の約束、してないよね。もしかして忘れてるのかな?

そう思ったが、深く考えずに、自分からお礼のLINEをして返事を待つことにした。



麻友との未来を考えられなかった理由〜佳紀の場合〜


「はぁ…」

家に着くと、僕はジャケットを脱いでソファに倒れ込んだ。楽しいはずの女の子とのデートなのに、どっと疲れてしまったのだ。

― 今日の子は、なんだか妙に精神年齢が低すぎたな…。

麻友とは、会話が成立しない。僕が質問しなかったら、永遠と沈黙だっただろう。それを彼女は気づいていないように感じた。

彼女は僕の質問に答えたらそれで終わり。次のターンで相手に何か聞くのが普通の流れというか、常識ではないだろうか?

それに、 料理の写真を撮っては、スマホと睨めっこ。きっとInstagramにアップしているんだと思うが、初対面でスマホばかり見られると、会話する気も失せてしまう。

学生時代は6年間ソフトボール部で運動しかしてこなかったと言っていたから、多少世間知らずなのは許せる。しかし、相手に興味を持たないと恋愛は始まらない。

恋愛どころか人間関係も心配になるレベルだ。

たしかに細身なのに健康的な印象で、スタイルがいい。顔も美人な部類だとは思う。

しかし、中身が圧倒的にイケていなかった。

冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、飲もうとすると、スマホが震えた。

『麻友:今日は楽しかったです!ごちそうさまでした。またお会いしたいので、予定教えてください』

麻友からだ。

― ……。

今日のデートで次もいけると思い込んでいる時点で、100%僕とは合わない。

失礼だが、そう思ってしまった。

美人でスタイルもいいから、外見は言うことなしだ。しかし、結婚を見据えて付き合うなら、幼稚で思考が浅く、考えない人は無理だ。

麻友のためを思って、色々アドバイスしてあげることもできるが、その助言が彼女に刺さるとも思えないし、時間の無駄だろう。

申し訳ないとは思ったが、返事はせずにフェードアウトすることにした。

僕は熱いシャワーを浴びて、仕事のメールに目を通した。


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