「可愛いのに、どうして結婚できないんだろうね?」

そんなふうにささやかれる女性が、東京の婚活市場にはあふれている。

彼女たちは若さにおごらず、日々ダイエットや美容に勤しみ、もちろん仕事にも手を抜かない。

男性からのウケはいいはずなのに、なぜか結婚にはたどりつかないのだ。

でも男性が最終的に“NG”を出すのには、必ず理由があるはず―。その理由を探っていこう。

▶前回:「可愛いってそういう意味じゃないんだけど…」婚活アポで男が女に失笑した理由



Vol.5 優花、27歳。赤坂23時、シンデレラガールになり損ねた女


― アキラ、なんか疲れてる?

彼氏の彰がシャワーを浴びに行くのを目で追いながら、私はなんとなくそう思った。

なぜなら、久しぶりに夜を共にしたのに、私に対する彼の態度が冷めていたからだ。

「まだ付き合って2ヶ月なのに…」

私は、ついポツリと漏らしてしまう。

自分もシャワーを浴びたくて下着を身につけていると、早々に彼がバスルームから出てきた。

「優花、ごめん。今日は帰ってくれる?取引先に呼ばれて、今から銀座に行かなきゃだわ」
「え!今から銀座に?」

彰は経営者という仕事柄、こういうことがたまにあるが、時刻はもう23時を回っている。

ということは、ドレスのお姉さんが接客するような店にでも行くのだろうか。

― 気になるけど、聞いたらウザがられるよね。

「そっか。わかった。じゃあ、帰るね!」

彼はうるさい女は嫌いだ。それは付き合う前も付き合ってからも散々聞いてきた。だから私は、物分かりのいい彼女を演じ、帰る準備をした。

その様子を彰が横目で見ている。

彰は申し訳なさそうな顔をするでもなく、ほかに何か言いたそうだったが、結局何も言わなかった。


おとなしく自宅に帰る優花。彰との出会いのきっかけは?

「また連絡するね。今日はありがとう」
「おう。気をつけてな」

ドアを閉められるとすぐに鍵をかける音がしたので、途端に寂しくなる。

私は気持ちを切り替え、赤坂の一ツ木通りを抜け、明かりがまばらに灯るBizタワーを横目に千代田線の電車に乗り込んだ。



― ふぅ。

終電に間に合い、ホッと一息つく。

私は実家住まいで、最寄り駅はたまプラーザだ。付き合う前は、彰がタクシー代を出してくれていたが、最近は駅まで送ってくれることもなくなった。

鈍感な私でもわかるくらい、最近の彰は冷たいし、いろんなことに対しておざなりだ。

― 何か嫌われるようなことしたかな…?

考えれば、考えるほど嫌な思考で頭がいっぱいになり、不安や不満で押し潰されそうになる。

私は気分を変えるために、彰との出会いを振り返った。



彰と出会ったのは、豊洲の『ワイルドマジック ザ・レインボウ ファーム』でのBBQ。



私が勤めるWeb制作会社の後輩に誘われたのだが、みんなテンションが高く見た目も派手で、すぐに場違いだとわかった。

彰はその中でも中心人物で、みんなを盛り上げお酒も飲ませ、肉も積極的に焼いていた。

人見知りな私は、みんなの輪に入れず、彰の横で野菜を焼いていた。それが彰と仲良くなったキッカケだ。

彰は私より3つ上で、焼肉店を都内に何店舗か経営していると教えてくれた。

「優花ちゃんって、俺の周りにいないタイプだわ。なんか、新鮮でいい!仲良くしてよ」

人懐っこい笑顔でそう言われ、悪い気はしなかった。それに帰り際、彰は私にだけ連絡先も聞いてくれたのだ。

今まで、こんなお金持ちの人と付き合うどころか、好意を持たれたこともない。

だからこそ、浮かれてしまった。

― こんなスゴい人と結婚したら、私の人生は一変するかも。

その願望は、少しずつ現実に近づいた。

あれは、2回目のデート。忙しい彼のリクエストで、深夜まで営業をしている赤坂の『ヒョンブ食堂』に行った時のこと。



最初のデートは高級なお店で緊張してしまったが、ここではお互いの学生時代の話で盛り上がり、お酒も結構飲んだ。

「優花ちゃんって、男の人に怒ったりする?なんか従順そうだよね。すごく」

彰が不意に顔を近づけて言ったので、すごくドキドキしたのを覚えている。

「従順…なのかな?でも、たしかに付き合った人とケンカはしたことないかも」

そういうと、彰は驚いていた。

「へ〜!今まで顔だけが取り柄の、ワガママ自己中なうるさい女とばっかり付き合ってきたから、そういうの最高だわ」

そして、彰はマッコリを一気飲みし、私にこう言ったのだ。

「優花ちゃんのこと好きかも。結婚前提に俺と付き合ってみない?」


彰との出会いを思い出し、切なくなる優花。そんな彼女が取った行動に…



電車はたまプラーザ駅に到着し、私は徒歩で家を目指した。

歩きながら、スマホをずっと握りしめているが、彰からの連絡はない。というか、ここ1ヶ月くらいは私から連絡しないと向こうからは来ない。

「はぁ…」

私は、頭の中を整理するように、彰への不満をスマホに打ち込んでいった。

好きなのに、こんな状態になってしまった。胸が締めつけられる。メッセージを打ち込みながら、涙が止まらない。

「結婚前提に付き合おう」そうキッパリ言ってくれたことがすごく嬉しかった。

だから、会う頻度も、時間も、場所も、ずっと彰に合わせて付き合ってきた。私はそれが心地よかったし、嫌ではなかった。



私は嫌われたくないから、思っていることがあっても言えない時があるし、自分を出すことに抵抗がある。

それが、こうなってしまった原因なのだろうか。

このままでは、お城にガラスの靴を置いてくることすら許されず、彼の花嫁候補にも入れない。

― 私のシンデレラストーリーは、もう終わりなの?

私は画面に収まりきらない文章を、確認することなく送信した。


優花への興味を失った理由〜彰の場合〜


「あれ?本当に来てくれたの?いつも営業LINEは無視するのに」

俺は、女友達のミユが働いている銀座の店に来ていた。しかも彼女の優花とのお家デートの後に。

どこに行くのか聞かれ、嫌がられたらやめようと思っていたのだが、優花は何も言わず無表情で家を出て行った。

だから、こうして遊びに来たのだ。

「とりあえずシャンパンでも入れたらいい?ミユが好きなの頼んで」
「あら。嬉しい!ありがとうございま〜す!!」

銀座という場所にそぐわない元気さで答える友達に、思わず笑顔になる。

「ていうか、彼女できたんじゃなかったっけ。しかもかなり真面目な交際って聞いたけど?」
「いや、まぁ、それがさ…」

俺は、あまりに従順すぎる優花のことを、ミユに愚痴っていた。

連絡をしなくても何も言ってこないし、会う時は俺の都合でも文句を言わないこと。

食べるものも俺の気分で決めるし、夜の方も優花は常に受け身で、こちらがアクションを起こさないかぎり、予想外な展開にならないこと。

他の女の子から電話が来ても、誰なのか聞いてこないことを。

ミユは俺が一通り喋ると、シャンパンを飲んでから言った。

「それは、アキラがワガママすぎない?私たちみたいにハッキリ言う女が嫌で、その子と付き合ったんでしょ」

てっきり、味方してくれると思ったのに、怒られたので拍子抜けした。

でも言われてみれば、今まで付き合ってきた女性と違う、おとなしいところに惹かれたのだ。



それを、やっぱり従順すぎてつまらないと無下にするのは、ひどすぎた。

「それはそうだよな。ちょっとかわいそうになってきたかも」

ミユが優花をかばったことで、俺は自分がしたことを反省した。

彼女に話せば、今からでも関係を修復できるかもしれない。

優花は優しいし、俺の言うことならなんでも聞くだろう。

そう思いながらタクシーに乗り、スマホを見ると、LINEが来ていた。

― おっ、優花だ。

連絡しようと思ったところだったので、嬉しくなる。

俺は申し訳なさから、すぐ返信しようとメッセージを表示させた。

しかし、そこには画面に収まりきらないほどの長文が綴られていた。

「まじか……」

さっきまで、愛おしさがこみ上げていたのに、その感情はガクッと急降下した。

普段全く文句を言わず、意見しない女はこうやって溜めていたものを爆発させるのか。

そう思ったら、結婚はおろか、これ以上付き合うのも難しいと思ってしまった。

自分を持っていて、しっかり意見できる女はかっこいいし、魅力がある。だが、衝突しすぎて疲れると、なんでも言うことを聞く女に癒しを求めたくなるのだ。

優花を求めたのは、その典型だった。

しかし、この先ずっと一緒にいるなら、俺は時々ケンカしなからも、思ったことを言ってくれる人がいいと思ってしまったのだった。


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