何不自由ない生活を送っているように見える、港区のアッパー層たち。

だが、どんな恵まれた人間にも小さな不満はある。小さな諍いが火種となり、後に思いがけないトラブルを招く場合も…。

しがらみの多い彼らだからこそ、問題が複雑化し、被害も大きくなりやすいのだ。

誰しもひとつは抱えているであろう、“人には言えないトラブルの火種”を、実際の事例から見てみよう。

記事最後には弁護士からのアドバイスも掲載!

▶前回:サウナにハマって痩せたら、若い女性が寄ってきて…。婚前契約を結んだのに浮気した男の末路



Vol.4 ホステスとの情事の代償

■登場人物
・妻=奈央(35)WEBディレクター
・夫=裕介(40)コンテンツ制作会社役員
・ワカバ(23)六本木のクラブホステス
・諒太(6)&大志(4)夫妻の子ども
妻の奈央が、探偵に夫の浮気調査を依頼。ホステスとの不倫が明らかになり、慰謝料請求を決意する。

「本当にこの女性なんですか…?」

奈央はタブレットを手に取り、画面に映った女性を訝しむように見つめながら尋ねた。

向かいに座る男性が、「間違いありません」とうなずく。

奈央は、探偵事務所に、夫である裕介の浮気調査を依頼し、その結果を聞きに来ていた。

普段から裕介は、オフィスのある六本木、西麻布界隈で飲食をし、深夜に帰宅することが多かったが、特に最近その頻度が増えていたため疑いの目を向けたのだった。

相手は、裕介が通っているクラブのホステスで“ワカバ”という女性。

探偵は再度タブレットを開いて六本木にあるクラブのホームページを表示させた。キャスト一覧を開いて、ワカバの顔を奈央に見せる。

ワカバは、凹凸の少ないのっぺりとした薄い顔をしていて、どこか田舎臭さを感じさせた。

どうにも腑に落ちない。

裕介が結婚前に交際していた女性を何人か知っているが、誰もが皆、目鼻立ちの整った、キリッとした美人だった。それ故、ワカバのようなタイプに入れ上げるとは到底思えなかったのだ。

― なんでこんな女に…。

自分がこのレベルの女性に負けたことが悔しく、とても腹が立つ。

同時に、もしかしたら写真では伝わらない魅力を秘めているのかもしれない、という思いに駆られ、会って確かめてみたくなった。


プライドを傷つけられた妻。夫の浮気相手に会ってみるも…

ワカバは店に入ると、ひどく動揺した様子で辺りを見回す。

奈央に気づくと席の前に立ち、「申し訳ありません」とまず謝罪の言葉を口にした。

奈央は座るように促し、ワカバの身体にサッと視線を這わせる。

やはり、実際に目にしても、容姿やスタイルが特に優れているようには感じられなかった。

奈央は、ワカバのSNSからDMを送り、クラブへ出勤する前にこの『カフェ・ジタン』に呼び出したのだ。裕介の妻であることを告げると、素直に応じた。



「いつからなの…?」

奈央が尋ねると、ワカバは顔を上げた。質問の意図を察し、言葉を選んで答える。

「入店したのが半年前なので、その少しあとからです…」

「私の存在はもちろん知っていたのよね?」

ワカバはうなずくと、肩を窄めてうつむいた。

ワカバは23歳で、昼間は専門学校に通っているとのこと。その学費を稼ぐために、夜はホステスとして働いてるようだ。

会話をするなかで、奈央は気づいたことがあった。

ワカバの“声”にやや特徴があった。鼻にかかったトーンの高い声は、どこか幼さを感じさせる。

― 裕介はこの声で甘えられ、落とされたのだろうか…。

すると、その声が次第に震え出し、鼻をすする音が混じり始めた。

とりあえず不倫相手の存在をこの目で確かめることができたし、家庭を脅かすほどの存在ではないことも確認でき、胸のつかえも取れた。奈央が、「また連絡する」と告げて帰るように促すと、ワカバはこう言ったのだ。

「裕介さんを思う気持ちを、ずっと宝物にします」

奈央のカラダに鳥肌が立つ。取って付けたようなセリフに、薄ら寒さを感じた。

― 宝物って…。そんなことよく言えるなぁ…。

今は尊い感情のようであっても、きっとこれから出会うであろう多くの男性のなかに埋もれていくに決まっている…。

奈央は紅茶を口に運びながら、ワカバの背中を見送った。

そこで、奈央はハッとする。

さっきのワカバのセリフに聞き覚えがあった。

それは、かつて裕介が大好きだと言っていたアニメの主人公が言っていたセリフだ。

大学を舞台にした青春群像劇で、裕介とまだ結婚する前、交際中に見せられた。まったく興味はなかったものの、感情を共有したいという思いから辛抱して見ていた。セリフの出どころは、そのアニメに違いない。

そしてもうひとつ、ここまでの事の成り行きに説明がつく、ある事実に気づいたのだ。

ワカバの声は、そのアニメの主人公の声にそっくりなのだ。

裕介がワカバに入れ上げた理由は、そこにあったのだろう。奈央はとんだ茶番を見せられたような、不快な気分に陥ったのだった。


全てを知った妻が選んだ道とは…

「じゃあ、行ってくる」

裕介は沈んだ声でそう言うと、ゴルフバッグを担いで出かけていった。

昨夜、裕介の帰宅後に話し合いの場が設けられた。証拠を突きつけ、ワカバに会ったことを伝えると、観念して不倫の事実を認めたのだ。

ワカバとはアニメ好きという共通点があり、意気投合し、不倫関係になったのだと言った。そして、ワカバが昼間通っているのは声優の専門学校であり、授業料を負担していることも自白した。

もう会わない。店にも行かない。と約束させ、連絡先も消させた。

「あの子から慰謝料も取るから」と伝えると、裕介はため息をついてうなずく。

奈央は、この家庭を絶対に守ると心に固く誓った。しっかりケジメをつけるために、ワカバにも制裁を受けてもらうつもりだ。

「ママ、ごはんまだ?」

足元から大志の声が聞こえた。

「ああ、もうちょっと待ってて。すぐ準備するからね」

アイランドキッチンの向こう側でテレビを見ている諒太に、「一緒に遊んであげて」と声をかけた。

ビルトインオーブンからこんがり焼き色のついたチーズトーストを取り出し、プレートにのせて蜂蜜をかける。ルッコラとトレビスのサラダを添えてテーブルへと運ぶ。



食卓を整えながら、ふと子どもたちのほうに視線を向けた。

2人寄り添って、おとなしくテレビの前に座っている。

テレビの画面には、2人の好きなアニメが流れていた。

その光景が、かつての自分たちの姿と重なり、奈央は一瞬、クラッと軽いめまいを覚えた。



奈央は2度と同じ過ちを繰り返させないためにも、ワカバから慰謝料を取ることでケジメをつけようと考えた。

実際、どのくらいの慰謝料が請求できるのか。

銀座に事務所を構える青木聡史先生のもとを訪れ、取れる金額について聞いてみた。


〜監修弁護士青木聡史先生のコメント〜
女性側だけに慰謝料を払わせるのは難しいでしょう


一般的に、不倫における慰謝料の相場は、数十万〜三百万円程度とされています。

慰謝料の金額を決めるポイントは、まず家庭が円満だったかどうかです。不倫が、円満だった家庭にどれくらいの打撃を与えたのかが焦点となります。既に破綻していたり、冷え切った関係であったりした場合は、慰謝料の額は下がるでしょう。

この夫の場合は、普段から飲み歩くことが多く、帰りが深夜になっていたことから、円満であったとは断言しにくいかもしれません。

不貞行為をどの程度していたかもポイントとなります。

どれくらいの期間、どれくらい会っていたか。期間が長く、回数も多くなれば、それだけ妻の受けた精神的苦痛も大きくなり、請求額も上がります。精神的苦痛からうつ病などを発症していた場合も、慰謝料増額の対象となります。

慰謝料を請求するためには、不貞の証拠が必要です。夫が認めたとしても、相手の女性が認めない場合もあるので、言い逃れできないような証拠を収集しなくてはいけません。今回のように、探偵に依頼した調査報告書などがあると非常に有利です。

しかし、慰謝料について相手側が支払いに応じたとしても、不倫は共同不法行為にあたるため、女性が夫側に概ね半分の支払いを請求することができます。「求償」という制度が法律として認められているため、女性側だけに慰謝料を払わせるのは難しいと言えるでしょう。


ホステスから多くの慰謝料を取るのは難しい


今回のケースでは、不倫相手の女性は、単なるホステスとしての営業というより夫との趣味も合い意気投合し継続的な不貞関係に至っており、学費を払うほど親密であるので不倫相手の女性は、慰謝料を支払うべき事案といえます。

しかし、継続的な関係であれば不貞行為とみなされるかもしれませんが、1度や2度の過ちが、果たして不貞と言えるのか。営業の一環だとみなされてしまう場合もあります。

過去の判例として、銀座のクラブのママと約7年間にわたり不倫していた男性客の妻が起こした裁判があります。

妻がママを相手取り、400万円の損害賠償を求めていたものの、「水商売の女性が営業のために客と寝ることはよくあること」として、性的行為があったとしても不貞行為にはあたらないという判決が出たことがあります。

この判決は、特殊事情が考慮されたものと一般化しがたいですが、水商売の女性との浮気は、場合によっては、不貞行為ではないとみなされてしまうケースもあるのです。


監修:青木聡史弁護士

【プロフィール】
弁護士・税理士・社会保険労務士。弁護士法人MIA法律事務所(銀座、高崎、名古屋)代表社員。

京都大学法学部卒。企業や医療機関の顧問業務、社外役員業務の他、主に経営者や医師らの離婚事件、相続事件を多数取り扱っている。

【著書】
「弁護士のための医療法務入門」(第一法規)
「トラブル防止のための産業医実務」(公益財団法人産業医学振興財団)他、多数。


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