「結婚するなら、ハイスペックな男性がいい」

そう考える婚活女子は多い。

だが、苦労してハイスペック男性と付き合えたとしても、それは決してゴールではない。

幸せな結婚をするためには、彼の本性と向き合わなければならないのだ。

これは交際3ヶ月目にして、ハイスペ彼氏がダメ男だと気づいた女たちの物語。

▶前回:カップルで入れるサウナで、ゆっくりするはずが…。女がドン引きした、彼氏の予想外すぎる行動とは?



Episode 13:莉生(31歳・フリーアナウンサー)の場合


「莉生ちゃんもそろそろ…、ねぇ。そういう時期っていうか」
「あの、それって…?」

スタジオから、控え室に向かう途中。

立ち話をしているプロデューサーとマネージャーの声が、耳に入ってきた。

「事務所にさ、だれかいい子いない?」
「えっと…そのお話、ちょっと持ち帰らせてもらえますか」

ここまで聞くと、急に足もとが震えはじめた。

― うそっ!?降板させられちゃう…ってこと?

4年間、私は情報番組のサブキャスターを務めてきた。起きるのは、毎朝3時。だからプライベートの誘いは全部断り、仕事を最優先にしてきた。それなのに数日後、マネージャーからあっさりと“卒業”を告げられてしまった。

理由は、番組の構成を一新するため…。

歴代のキャスターたちも、こうやって世代交代させられてきているから仕方ない。いちフリーアナウンサーには、どうにもできないってこともわかっている。

こうして、釈然としないまま迎えた3月末。番組の最後、後任の27歳元局アナに、うやうやしく花束を渡されたのだった。

「莉生さん、ご卒業おめでとうございますっ!お疲れさまでしたっ」

― 何が“卒業おめでとう”よ!こっちは、追い出された気分なのに…。

女子アナ人気ランキング上位の常連で、サッカー日本代表選手との交際も噂されている彼女が、心底妬ましい。

どうせなら、このタイミングで結婚発表とかしたいところだけれど、残念ながら相手がいない。そのうえレギュラーの仕事もゼロだなんて、これから先の不安は大きくなる一方だ。

2年前に別れた元カレ、礼二から連絡がきて「結婚を前提に復縁したい」と言われたのは、ちょうどそんなときだった。

もう、この道しかないと思った私は、二つ返事でOK。

…だけど、その3ヶ月後には、彼とよりを戻したことを後悔していた。


大学生の頃。

女性誌の読者モデルをしていた私は、今の事務所にスカウトされてフリーアナウンサーになった。

在学中にお天気キャスターに抜擢されたのをきっかけに、一気に人気女子アナの仲間入り。事務所の社長からも可愛がってもらえて、バラエティ番組の司会をしたり、CMに出たり、グラビアに挑戦したりしたことだってある。

スポーツ選手や芸能人からデートの誘いも絶えなかったし、20代半ばは私の最盛期だった。

でも当時の私が恋人に選んだのは、華やかな業界で働く彼らではない。不動産会社に勤める、同い年の礼二だ。

彼とは、24歳のときに友人の結婚式で出会った。

式の中盤、いよいよウエディングケーキのファーストバイトというときに、私は突然ほかの出席者たちに取り囲まれてしまった。「いつもテレビで見てます」など、新郎新婦を差し置いてみんなが私に声をかけてきたのだ。

どうしようかと困っていると、礼二がひときわ大きな声でこう言った。



「おー、いちごがすごいことになってる!こんなケーキ、初めて見たよ」

カメラをこちらに向けてきていた人たちも、礼二のひと言で我に返ったようだった。

大事な友人の結婚式で、引け目を感じずに心から祝うことができたのは、率先して主役の2人を盛り上げてくれた彼のおかげ。

「あの…、さっきはありがとうございました」

声をかけたのは、私。

「いえ、素敵な結婚式でしたね!」

礼二は、私を特別扱いすることなく、ごく普通に接してくれて、何だかホッとした気持ちになったのだった。

後日。

式を挙げた2人の新居に招待されると、そこで彼と再会。改めて自己紹介をすると、テレビをあまり見ないからと、申し訳なさそうに頭を下げてきたが、それが逆に好印象だった。

交際が始まったのは、そのすぐあと。

礼二:仕事が終わったら、うちで京都のうどんすきセットを食べよう!取り寄せしてみたんだ。
莉生:礼二、いつもありがとうー!今度は、外食しようね!

こんなふうに、基本的にはどちらかの自宅で会うことが多かった。事務所から、恋愛を禁止されていたわけではない。けれど、イメージ的に写真に撮られるのはよくないと礼二が気を使ってくれたのだ。

それでも、交際5年のあいだには、国内旅行にも海外旅行にも何度か行くことができたし、私は十分満足していた。

ところが、30歳を目前に、それぞれの仕事が忙しさのピークを迎えると、会うことも連絡を取り合うことも次第に減っていった。

そして、ついには別れることになってしまったのだった。



礼二と別れてから、私は誰とも付き合っていない。

ということは、彼氏いない歴はもうすぐ2年。

相変わらず、単発の仕事がポツポツと入るだけの日々が続いていた。

“たまには実家に帰って、お母さんの手料理が食べたいな…”

珍しくTwitterに弱音を吐くと、その日の夜。

礼二:久しぶり。最近、どうしてる?莉生のTwitter見たら、元気ない感じだったから…急に連絡してごめん。

彼からLINEがきたのは、別れてからはじめてだった。

こうして、ふたたび連絡を取り合ったり、食事に行くようになったりして、ついには礼二から復縁を申し込まれた。

「莉生、結婚を前提にもう一度付き合ってほしい」

ほんの少し残っていた彼への未練と、この結婚を逃したら…という将来への不安から、私は「はい」と返事をした。


「ねぇ、礼二!いつの間に、起業したの?」

2年ぶりによりを戻した元カレは、不動産関係の代行会社を設立していた。

住まいは三軒茶屋の1DKの部屋から、中目黒の2LDKのタワーマンションに変わり、どこか堂々とした自信ありげな雰囲気も漂っている。魅力的な大人の男性へと変わった礼二に、付き合い始めの新鮮なドキドキ感が戻ってくる。

「莉生は、前よりゆっくりできてるんでしょ?せっかくだし、仕事以外にも、好きなことをして過ごしてみたら?」
「うん、ありがとう。礼二はいつも優しいね!」

微笑んだときの目じりのシワが、昔より少しだけ深くなった。そんな彼の言葉に、私はすっかり甘えて、安心しきっていた。

ところが、交際2ヶ月目のある日曜日の朝。

となりで眠る彼のスマホが、「LINE!」と大きな音で着信を告げた。

― こんな朝早くに、何!?

別に、見るつもりはなかったのだが、「もう1回、会って話せないかな?(MIZUHO)」というメッセージがポップアップ表示されていて、一気に目が覚めた。



「ちょっと!礼二っ!これ、誰?」

まだ、のんきに眠っている礼二を揺すって起こす。

「おはよう…ん?あぁ、莉生と別れたあとに付き合ってた子だよ」

彼は、焦る様子も、悪びれる様子もなく淡々と答える。

「今も…会ったりしてるの?」
「まさか!彼女がいるから無理だって、伝えるよ」

― それなら、いいんだけど…。でも、礼二って、前よりずっと格好よくなったし、仕事だってちゃんとしてるし、いわゆるハイスペだよね?もしかして、モテてる?

ほかの女性の影がチラつくと、急に焦りを感じ始める。

― 彼のこと、絶対に逃がしたくないっ!!

こうして私は、礼二の気が変わる前に、結婚の話を詰めることにしたのだった。



「あれ?これって、莉生のAppleWatchの充電器?」
「そうそう、最近礼二の家にいることのほうが多いから、置いておいてもいいでしょ?」

まずは、身近な生活用品を少しずつ彼の家に置いていき、半同棲に持ち込んだ。

食事の準備や掃除、洗濯も、押しつけがましくならない程度にこなす。

礼二の生活に、私がいることが自然と馴染むようになったのは、交際3ヶ月目。

そこで、一気にたたみかけた。

「礼二、知ってる?結婚の平均的な準備期間って8ヶ月なんだって!」
「へぇー、そんなにかかるものなんだ」

思っていたよりも、軽く流されてしまったことに、少しイラついた私は続ける。

「礼二は、いつごろ結婚したいとかあるの?」
「んー、莉生と僕の仕事の状況次第じゃないかな」

ここでもまた、歯切れが悪い。

「…礼二、私たちって、結婚を前提に付き合ってるんだよね?」
「もちろん!」

その割りに、礼二が結婚を考えているようには見えない。

「じゃあ、私がすぐにでも入籍したいって言ったら?」
「…最近、莉生の“結婚したい”って圧が強すぎるよ。それに、結婚を前提にっていっても、今すぐにとはいかないよ」

確かに、彼しかいないと、多少強引に突っ走りすぎたところは認める。

「今すぐじゃないって、じゃあ…どうしてそんな言い方したの?」
「えっ?だって、”結婚を前提に”は“結婚しよう”とは違うでしょ?」

この機会に、礼二の結婚に対する意識を再確認しておこうと思って、さらに続ける。

「ちょっと待って!私の中での“結婚を前提に”は、“わりと早い段階で結婚しよう”なんだけど」
「僕の中では、“結婚をするかどうかお互いに見極めよう”だね。だから、もし莉生がすぐにでもっていうなら、それはちょっと待ってほしい。少なくとも1年か、2年以上は」

― 嘘でしょ…?

どうやら、“結婚を前提に”には2通りの捉え方があるらしい。

とはいっても、結婚を望む女性がそんなふうに言われたら、私と同じような受け取り方をするケースが多いのではないだろうか。

「1、2年後って、それまで礼二は何かやりたいこととかあるの?」
「うーん、そうだな。ここ何年か会社のことでずっと忙しかったし、もう少し自由を満喫したい…ってとこかな」

― それって、私のことを結婚相手として見極めるっていうのとも…違くない?

何だか、一気に白けてきた。

ほぼタレントに近いフリーアナウンサーといえども、言葉の仕事をしているのに、「結婚を前提に」のニュアンスや捉え方が、人によってこうも違うとは思わなかった。

たぶん礼二と私の感覚は、大きくずれている。

それに気づき「あ、この人じゃなかったんだ」と失礼ながら後悔した。結婚という言葉につられて、安直によりを戻したのがいけなかったのだ。

いくら相手がハイスペで、交際できたとしても、スムーズに結婚まで進むとは限らない。今回は、こちらからお断りします!

Fin.


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