年収8桁は当たり前。
予約のとれないレストランに頻繁に通って、
画面の向こう側の人たちとコネクションがあって、
美男美女で賢くて…。

「あの人みたいになりたい…」とみんなから羨ましがられるハイスぺたち―。

けれど…

そんな人間も、実は人知れず意外な闇を抱えていること。

あなたはご存じですか?

▶前回:「出産後も、それなりに稼いでる君ってさ…」夫が放ったその一言で、妻が離婚を決意したワケ



ケース9:モテたかっただけの男


世界平和のため。自己実現のため。子どものころからの夢を叶えるため。周りの人を幸せにするため…。

人が何かをするとき、そこには理由がある。

大きいことであればあるほど、壮大なモチベーションや大義名分が語られる。

でも、僕は思う。

そんなの綺麗ごとだって。

― モテたい。

仕事でもなんでも、男が活動的になる根源的な欲求は、ここにしかないと本気で思っている。

その欲求がこの世から消えたとき、世界はどれほどつまらないものになるだろう。

どれだけの産業が廃るだろう。GDPはどれほど低迷するだろう。

それくらい、“モテたい”という欲求は、綺麗ではないけれど、しかし人間をどこまでも突き動かす原動力になっているのだと思う。

そんな欲求に素直に従ってきた僕は、とんとん拍子に成功を収めた。

…けれど、思ってもみなかった苦労を味わうことになる。

モテたが故の、本気の孤独だ。


ハッキリ言って、若い頃僕はモテなかった。

でも、それが人生に対する活力につながった。

人は、若い頃に感じたコンプレックスを一生引きずるように思う。そのコンプレックスを解消することが、人生の命題になる節さえあると思う。

見た目はイマイチだし、これといって特筆するべき得意なことは何もない。モテる要素が何一つなかった。

しいて僕を表現するとすれば、それは“無難”。当たり障りのない、つまらない男だった。

けれど、なぜだか野心みたいなものは人一倍つよくて、モテたいという欲求も留まることを知らなくて、そして、僕はモテるために人生を生きることにした。

なんだか下世話な話だと、自分でも思う。

わかってる、しょうもないなって。

でも、何に魅力を感じるか。何をしたいと思うか。どうなりたいと思うか。

それって、自分で決めることができない。本能に紐づいている欲求を、綺麗ごとだけで変えることは決してできない。

だったら、その欲求に素直に従ったほうが、確実に自分を幸せに導くと思ったのだ。



そして、僕は弁護士になることにした。理由は言わずもがな、モテそうだから。

医者も考えたけど、血とか無理。手術とか怖すぎる。自分の手に人の命がかかってるとか、そんなプレッシャー耐えられない。

それより、人間同士の争いを仲裁する方が気楽だし、面白そうだと思ったのだ。

中央大学の経営学部にいた僕は、必死に努力して法学部に転籍。そこから、司法試験に向けて必死に勉強した。

途中、僕は一体なにをこんなに必死に勉強してるのだろうと我に返ることがあったけれど、やっぱりどう考えても、自分を幸せにする道はこっちしかないという結論にいつも至る。

そして、1年の司法浪人を経て、僕は晴れて弁護士になったのだ。

目標を設定して、それを達成する。

モテたいが根源にあったことだけど、それは案外気持ちのよいものだった。生きているという実感がした。

けれど、弁護士になっただけじゃモテなかった。

昔に比べたらモテたけど、もっと、もっとモテ散らかしたかった。

だって弁護士なんて、東京、とりわけその中心部にごまんといる。医者やすごい経営者、名を馳せているフリーランス。すごい人間がいくらでもいる。

やっとこさ、そういう層に食い込むことはできたけど、ただただ彼らと同じ土俵に乗っただけなのだ。

そこらへんの普通の女じゃない、とびきり美人で賢い女からモテるには、もっともっと上にいかなくてはならない。

弁護士になるのでさえ一苦労だったのに、まだ先があるのか。そう思うと、とんでもなく果てしない道に感じた。

だけど、僕が幸福を感じられるのは、きっとその先にしかない。

そう信じていた僕は、更に努力した。

いちはやくパートナー弁護士になろう。若くしてパートナーにまで昇り詰めれば、そこそこモテるだろう。

打算というか、そこには勝算があった。



そして、僕は35歳でパートナー弁護士になった。

そこからは、面白いほどにモテた。学生時代の冴えない僕からは想像もできないほど、面白いくらいに。

僕の目論見は間違っていなかったのだ。


ついに、ついにやったぞ…!

クールな顔で美女を見つめつつ、内心ではガッツポーズを決め続けていた。

僕はやればできる男なんだ。本来、やっぱりこちら側に来るべき人間だったんだ。ようやく、たどり着いたんだ。

毎晩のように着信する美女からのメッセージを見つめながら、僕は優越感というか選民意識のようなものに浸っていた。

どれほど、その“モテ”を謳歌しただろう。

“モテ”に飽きることはない。いつまでも、それこそ死ぬまで、いや来生も、モテ続けたいと心から思う。

自分の自尊心をくすぐる、唯一の事象。

でも、40歳になった頃、そろそろ身を固めたいという欲求が芽生えたのだ。“モテたい”という欲求がまだしぼんでいないのに、なんて矛盾した感情だろうと思うけれど、思ってしまったことはしょうがない。

僕は、結婚相手を探し始めた。



正直、結婚相手を探すことに苦労はなかった。だって、モテるんだから。多くの美女が僕と結婚したがった。

ストレートに言葉にする人は少なかったけれど、その言動や行動の端々から、痛いほどに感じた。


さて。誰にしようか。

人生のパートナーを吟味し始めたとき──。


気づいてしまった。

誰が、僕を本当に好きなんだろう。誰が、僕自身のことを本気で思って、愛してくれるんだろう。

それが、全くわからなかったのだ。

はじめて頭をよぎったその考えに、僕は混乱した。

モテるための肩書を強化し過ぎてしまったために、本当の僕を見てくれる人を発見する判断材料を、僕は失ってしまっていたのだ。

「すごく、カッコイイよね。魅力的だと思っている」

美女がそんなふうに僕を見つめる。



でも、こう聞くと、美女はたいていたじろぐ。

「僕が無一文になっても、一緒にいてくれる?」

「もちろん!」と笑顔で述べる女の子もいたけれど、腹のうちなんて決してわからない。本当に僕が無一文になってみないと、答え合わせができない。


魅力的な肩書は、良くも悪くも色んなものを引き寄せる。

そういう状況になりたくて僕は必死に努力してきたわけだけど、その有象無象の中から“本物”を探すとなると、肩書が強くなるにつれ反比例的に難易度はあがっていく。

ちょっと考えればわかりそうなことなのかもしれないけれど、あまりにもモテたい欲求が強かった当時の僕に、そこまで考えを及ぼす余地はなかったのだ。

人生のパートナー。

重要すぎるその人を選ぶことが、今の僕にはできないのだ。


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バカを演じる賢さを兼ねそなえた女性。…彼女が陥った落とし穴