― イイ男はすでに売約済み ―

婚活戦国時代の東京で、フリーの素敵な男性を捕まえるなんて、宝くじに当たるくらい難しいと言っても過言ではない。

待っているだけじゃ『イイ男』は現れない。

これだと思う人を見つけたら、緻密な戦略を立ててでも手に入れる価値がある。たとえその人に、彼女がいても…。

◆これまでのあらすじ

大手IT企業に勤める凛(30)は、大学時代に憧れだった先輩の悠馬(31)に再会するが彼女がいた。悠馬を好きになった凛は略奪に成功する。しかし初めて彼の家に行くと、元カノの私物が置いてあり、さらにLINEが来て…。

▶前回:「何これ…」初めて彼氏の家を訪れた女が洗面台の下で見つけた、生々しい女の影とは?



「今のってLINE?誰から…?」

悠馬と付き合って1ヶ月半経ったが、会うのは今日で2回目だ。今日こそ彼と一晩を共にできるのでは、と期待していた凛。

だが、そんな思いも虚しく、凛は急に夢からさめた気分になる。

先ほど洗面台の下で見つけた元カノの化粧品や下着、そして“Eri”という人物からのLINE。

「えっと…。多分エリ」

ー “多分”って何?

凛は怪訝な顔をしながら、探った。

「エリさんと…まだ連絡を取ってるんですか…?」

不機嫌な様子を見せる凛に、悠馬はさらに焦った顔をした。

「いや、そういうワケじゃない。でも付き合いが長かった分、そんなすっぱりとは…。共通の知り合いもいるし、友達に戻ったから」

「友達って…」

悠馬と付き合うことばかり考えていたため、冷静に彼のことを見極めていなかった。

凛自身は男女の友情、ましてや元恋人との友情は成立しないと思うタイプだったのだが、悠馬はそうではないらしい。

しかも共通の友人がいるのなら尚更厄介だ。

「スマホの画面を下にしたから、隠したのかと思いました。しかも洗面所で彼女の私物を見つけちゃったし…」

すると悠馬は手を首の後ろに当て“まいたっな”というように、目線を下に向けた。

「あれは…、君に変に心配かけたくないと思って。でも別にやましいことはないよ。

それに私物はエリがそのうち取りに来るって言っていたから置いていただけ。LINEもそのことについてだった」

「そう…ですか…」

荷物が理由とはいえ、元カノにもう一度会うのかと思うとすごく嫌な気分になった。

「悠馬さん、あの…お願いがあるんですけど…」


「荷物は送るか、渡すのなら外で会ってもらえないですか?その時は教えてほしいです。気になっちゃうので安心したくて」

「…あぁ、わかった。心配かけてごめん」

悠馬は承諾してくれたが、渋々言っているようにも聞こえる。

彼はエリではなく自分を選んでくれた。その事実が逆に、いつか元カノとヨリを戻すのでは、と凛は不安が拭えない。

2人はその後も微妙な空気が拭えず「今日はもう遅いし、また今度仕切り直そう」と、その日は何もなく解散した。





「ごめん。これからエリに荷物を返すことになった」

悠馬と会った日から1ヶ月が過ぎようとしていた。

あれから彼に国内出張が入ったり、凛に海外出張が入ったりとバタバタしていたため、全然会えていなかった。

そしてやっと今日、夕方から悠馬と久しぶりにデートの約束をしていた矢先だった。

― 久しぶりに会える日に、元カノを優先させるの…!?

凛が呆然としていると、続けざまにもう一通メッセージが届いた。

「悪いけど待ち合わせ、1時間ずらしてくれる?渡したらすぐに行くから」
「今日じゃないとダメなんですか?」
「近くにいるらしくて。今日を逃すといつになるかわからないから」

悠馬からの返事に対し、凛は「返送するのではダメなんですか?」と打つが、少し考えて削除した。

これ以上面倒な印象を与えたくなかったからだ。

「わかりました。ではまた後で」

凛はそう返したものの、2人が会っている姿を想像し、不安に駆られる。

― 荷物を送らなかったのは、まだ彼女に未練があるから…?

ついそんなことを考えてしまい、首を横に振る。

― 違う。問題があるのは彼じゃなくて、すぐに不安になる自分だ。前回も気まずいまま別れちゃったし、今日こそは楽しく過ごしたい。

仲直りをしたかった凛は気分を盛り上げるため、普段は行かない水族館に行こうと計画していた。

凛は何とか気を取り直し、今日を楽しもうと誓った。

だが…。

悠馬は品川駅での待ち合わせに15分遅れてやってきた。

待ち合わせの15時を10分ほど過ぎてから「ごめん、あと5分くらいで着く」と連絡があっただけ。



「遅れてごめん!」

今日こそ嫌な雰囲気にしないと心の誓っていた凛は明るく尋ねる。

「荷物は…渡せました?」

「あぁ、無事渡せたよ。えっと、あっちだよね?」

悠馬がウィング高輪の方角を目指そうと向きを変えた時、わずかにミス ディオールの香りがした。

その瞬間、反射的に凛は尋ねてしまった。

「エリさんとは、どこで会ってたんですか?」

悠馬は小さくため息をついた。


「会ったのは六本木駅のカフェ。遅れたのは本当にごめん」

謝ってはいるものの、小さなため息が凛の神経に触れた。

「郵送にするかと思ってました…」

言わない方がいいと頭ではわかっていたが、気がつけば口から出ていた。

すると悠馬が少し黙る。考え事をしているのか落ち着こうとしているのか、彼の真意がわからない。

「郵送しようと思って連絡したんだよ。そしたら近くにいるからって。それに荷物を送りつけるだけって言うのも悪いと思って」

「悪いって…」

元カノにまで気を使うあたりが、やはりまだ未練が残っているのでは、と勘繰ってしまう。



しばらくの間、沈黙が流れる。そして悠馬が言った。

「なあ、俺たちちょっと焦り過ぎたんじゃないか?もう少し時間を置いた方がいいんじゃないか?」

「時間…?」

「付き合うかどうか。前も言ったけど、エリとは共通の友人もいるから完全には切れないし、君もそれが許せないでしょ?お互いにもっとちゃんと考えたほうがいいんじゃないか?」

― やっと付き合えたのに…。

凛は自分の態度を激しく後悔した。

「とりあえず、今日は一旦帰ろう。お互いにもう一度、ゆっくり考えよう」

「嫌です。私は悠馬さんが良いんです」

このまま帰ったらきっと関係が壊れてしまう、と凛は必死で彼を繋ぎ止めようとした。

しかし…。

「俺も凛ちゃんのことは好きだけど、一旦冷静になりたい。会うたびにエリのことで喧嘩するのは嫌だし、君も俺の嫌なところや合わないところが見えただろ?」

その言葉が凛を拒否しているようで、傷ついてそれ以上言えなくなってしまった。

そうして話が一向に進展せず収拾がつかなくなり「とりあえず、ここを離れよう」と悠馬が改札の方へと促す。

けれど凛は「行ってください。一人で考えます」とその場に残った。

少し心配そうな顔をした悠馬は「わかった、また連絡する」と残し、そのまま改札へ入ってしまった。

彼の後ろ姿が見えなくなった途端、我慢していた涙が一粒流れ落ちた。

― 絶対に失いたくない人なのに、失いたくないからこそ不安になっちゃう…。どうしたらいいんだろう…。



その時、後ろから急に声をかけられた。

「あれ、凛ちゃん!?マジか、何してんの?」

それは、偶然通りかかった隆也だった。


▶前回:「何これ…」初めて彼氏の家を訪れた女が洗面台の下で見つけた、生々しい女の影とは?

▶1話目はこちら:「何考えてるの!?」食事会にしれっと参加する既婚男。婚活を妨げ大迷惑なのに…

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