夜遊び仲間の“悪友”に7年ぶりに再会。そこで抱いた「人には言えない」ひそかな優越感
そしてドラマの舞台も…。夜の港区から、昼の港区に変わるのだ。
20代は深夜の西麻布で、30代は昼の麻布で。女たちは時に嫉妬し、時に優越感に浸る。
これは大人になった女たちが港区で繰り広げる、デイゲーム。
悪友たちとの嬉しい再会
よく晴れた土曜日。私は白金にある結婚式場を訪れた。
数回しか会ったことのない知り合いの結婚式に、招待されたのだ。
どうせ人数あわせだろう、と思いつつも出席の返事を出したのは、1ヶ月前のこと。
― あ、あった。
私は、席次表の中に自分の名前「森田サトミ」を見つけた。
それと同時に、同じテーブルに配置された懐かしい名前に自然と目がいく。
「仲川菜々緒…堀井優子…」
私は披露宴会場の入り口で、7年ぶりに会う友達の名前を声に出して読み上げた。
ふたりとは20代の頃、六本木界隈で毎週のように遊んでいた。
― 同い年だから、ふたりとも32歳か…元気かなぁ。
一時は濃密な時間を共にしていたけれど、結婚や引っ越しを機に会う回数が減り、連絡さえ取らないようになってしまう。
女ならば、誰でも経験があるだろう。
― よしっ。行こう。
バレッタで留めただけのロングヘアに、ブラックミニドレス。結婚式では非難されそうなルックで、テーブルに向かう。
「な〜なおっ!よかったぁ。仲間がいたわ」
私は、金髪で大ぶりのピアスをつけている菜々緒の肩をポンと叩きながら、着席した。
「数年ぶりに会った第一声が、それ?」
菜々緒は笑いながら、ひとりでシャンパンを飲んでいる。
「きゃ〜!サトミ!久しぶりだねぇ」
後からやってきた優子は、美容院でセットしたであろうヘアに、教科書通りのベージュのドレスを着ている。
「優子は相変わらず、ちゃんとしてるわ」
「ん?どういうこと」
私は優子の質問をスルーして、菜々緒に倣い乾杯前のシャンパンをフライングして一口飲んだ。
― なんだか、一瞬で昔に戻れたなぁ。
「なんとなく、ふたりに会えるような気がして出席にしたんだよね」
「え!私も」
「やだ。私もなんだけど」
たいして仲良くない新婦の結婚式で意気投合した私たちは、何度も乾杯をした。
この時は、ただこの同窓会のような時間を楽しもうと思っていた。
ふたりとの再会が、マンネリしていた毎日をガラりと変えてくれるなんて、予想もしていなかったから。
◆
「この年になるとさ、結婚式に何度も呼ばれるじゃない?だから、わかっちゃうんだよね〜」
前菜を食べ終わり、すでに2杯のシャンパンを飲み干した私は、グラスを持ち上げながら言った。
「わかる。最初にラベル確認したけど、プロセッコでもカヴァでもなく、ちゃんとシャンパーニュだった」
菜々緒がピアスを揺らしながら答える。
軽く酔っていてもわかるくらい、この結婚式はかなりお金がかかっていることがうかがえる。
装花は豪華で華やかだし、料理も高級食材を惜しみなく使っているからだ。
― ふ〜ん。お金持ちをゲットしたのね…。
でも、新婦から結婚報告のLINEをもらった時、彼女がどんな子だったのか、思い出すのに数秒かかった。
それもそのはず。
彼女とは食事会でしか会ったことがなかった。しかも、そのすべてが深夜の西麻布だったのだから。
披露宴にはひとり参加の人も多く、会場の雰囲気からも、新婦に友達が少ないことはすぐわかった。
もしかしたら、友達が減ってしまった理由があるのかもしれない。
そんなことを思っていたら、化粧室から戻った金髪の菜々緒がニヤニヤしながら小声で言う。
「ねぇ、今お化粧室で聞いちゃったんだけど…新婦の子、妥協婚らしいよ。好きな人は他にいるみたい。しかもその男性は既婚だって」
「なにそれ、怖い〜!」
優子は、両手で口を押さえながら嘆いた。
― なるほど。結婚相手には愛じゃなく、お金を求めたってことか。
私は妙に納得した。
「ねぇ。私たちだけでニ次会しない?話したいことたくさんあるし。ここ、知らない人ばっかり」
式が終わりに近づき、菜々緒と優子に提案すると、ふたりは笑顔で賛同してくれた。
「えっ。優子も子どもいるの?しかもうちの息子と同い年って…すごい」
結婚式場から近い『ライク』で私たちはこの7年間にあった出来事を、それぞれ報告し合った。
すると、優子は結婚していて昨年の10月に出産しており、今1歳の娘がいることが判明したのだ。
私にも来月1歳になる息子がいる。息子の誕生日は11月だから、月齢も近い。
― こんな身近にママ友がいるなんて…。
指輪をつけていたし、席次表に書いてある名字も変わっていたので、結婚していることは察していた。
でもまさか、同い年の子どもがいることは予想外だった。
「コロナで結婚式が何度も延期になってね。それなら子どもを先に作ろうか…って」
「うそ。うちもなんだけど」
私は、菜々緒に申し訳ないと思いながらも、優子にばかり話をしてしまう。
「ふたりとも育児してんのか〜。なんだか、置いてかれちゃったなぁ」
ポツリとつぶやいた菜々緒は、あれから2回転職し、今はWEBデザイン会社で働いているらしい。
かなり仕事ができるらしく、役職がついていて部下もいると聞いて感心した。
「息子ちゃんは旦那さんが見てるの?」
優子に聞かれ、私は我に返った。
「そう。 旦那が見てくれてる。優子のところもパパとお留守番?」
私が尋ねると、優子が少し寂しそうに答えた。
「ううん。今日は横浜から母親が来てくれているんだよね。夫は昨日から出張でいなくてさ」
優子の夫は、大手メーカーの情報システム部にいるらしい。
エンジニアでも出張があるのは、普通なのだろうか。私は夫が会社経営をしているので、その辺が疎い。
そんなことを考えていると、菜々緒が口元を緩ませながら意地悪な質問をする。
「出張じゃなく、こっそり他の女子と旅行してたらどうする〜?」
しかし、優子は全否定した。
「女?ないない〜。ここだけの話、うちの夫すごいんだよ。妊娠中から今も、しつこいほど求めてくるんだよね…」
「へ〜そうなのね。子どもがいてもラブラブでうらやましいっ」
菜々緒はそれ以上、優子の話を聞かず、アハハと笑いながら話を切り上げた。
気づくと外はすっかり暗くなり、ディナーで訪れた客でお店は賑わっている。
「そろそろお会計する?早く帰らないと夫から連絡が来そう」
私がふたりに言うと、優子も同意した。
「そうだね。それに、数時間離れると子どもに会いたくなるよね」
本当は、このまま深夜まで何軒もハシゴして飲みたいのだが、そういうわけにもいかない。
あの頃とはもう、遊び方はすっかり変わってしまった。
その事実に切ない気持ちになりながらも、同じく母親業をしている優子と、これを機に改めて仲良くなりたいと思った。
「ふたりともインスタやってる?LINEも交換してあるよね?」
私が言うと、優子と菜々緒はスマホを手にした。
すでにLINEは登録されていたし、なんならグループも作られていたことに、3人で笑い合って会はお開きになった。
私はふたりと別れ、アプリでタクシーを呼び、自宅のある六本木へ向かう。
すると、早速グループLINEに優子から連絡がきた。
『優子:サトミのチビちゃんに会いたいし、よかったらどちらかの家でランチでもしない?』
― 菜々緒、ごめん。
どうしても子ども優先になってしまうことを心の中で謝りながら、『そうだね!』とメッセージを返す。
タクシーの窓から港区の景色を眺めた。
7年前、「いつかはここに住みたいね」と3人が憧れていた港区。そこに私だけが住んでいる優越感を抱きながら。
◆
【登場人物】7年ぶりに再会を果たした32歳女たち
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▶Next:11月19日 土曜更新予定
サトミと優子。ママ友同士の友情物語?が幕を開ける