「冴えない男で妥協した」と友人の夫を貶す女。招待された結婚式で“ある事実”を知り、絶望するハメに…
…本当に、そうでしょうか?
今宵、その先を語りましょう。
これは「めでたし、めでたし」から始まる、ほろ苦いラブ・ストーリー。
▶前回:プロポーズしてくれた彼氏を裏切って、元カレと密会していたら…。愚かな30歳女に下った天罰は
Episode6:友人の結婚を見下す女
「ねぇ、ありえなくない?」
高校時代の親友・美咲から届いた結婚式の招待状を片手に、私はつぶやく。
するとリビングで仕事をしていた恋人の竜也が、パソコンを凝視したまま「え、どうしたの?」と尋ねてきた。
「高校のときの友達が、結婚するみたいなんだけどね。相手が、同じ地元の冴えない男なの〜。もうすぐ30になるし、妥協したのかな」
私は、招待状に添えられていた前撮りの写真を彼に見せる。しかし竜也は、一切こちらを見ようとしない。
「…そうなんだ」
「そうなんだ、じゃないよ〜。もったいなさすぎない?だから一緒に上京しよって言ったのに。…東京にいれば、竜也みたいな素敵な男性と付き合えたかもしれないのにね」
そう言うと私は、彼の肩に無理やり顔をうずめた。
広島の高校を卒業後、東京の大学に進学した私。就活はせず、細々とレポーターの仕事をしていたけれど、27歳の頃には限界を感じ始めた。
そこからは婚活にシフトし、2年間も街コンやマッチングアプリで必死に相手を探した。そして…。
「優しくて、俺に尽くしてくれる芹那ちゃんが好きなんだ。付き合ってくれないかな」
ついにマッチングアプリで出会った大手広告代理店勤務の彼と、付き合うことに成功したのだ。私は29歳にして、ようやく結婚向きな男を捕まえたのだった。
「竜也がいてくれてよかった。同級生はさ、みんな冴えない地元の男と結婚していくの」
「…そっか」
「うん。竜也みたいにカッコよくて、代理店に勤めてるようなハイスぺ男子は地元にいないんだよ…?」
私はキーボードを打つ彼にギュッと抱きつきながら、竜也の顔を見つめる。
― 絶対に、彼と結婚するんだから。
私は吞気に、そんなことを思っていた。…美咲の結婚式で、まさかの事実を耳にするとは知らずに。
それから半年後。美咲の結婚式の日がやってきた。
「それでは、新郎新婦の入場です!」
司会者の言葉に、会場は盛大な拍手に包まれる。
ブルーノ・マーズの『Marry You』が流れると、後方のドアがゆっくりと開き、高校の同級生だった美咲と丈一郎が入場してきた。
「美咲、とっても綺麗…」
思わずそう、声が漏れる。彼女は高校時代から変わらないスタイルの良さで、真っ白なウエディングドレスをバッチリ着こなしていた。
その横でタキシードに身を包んだ丈一郎は、冴えない顔で笑っている。
「丈一郎!頑張れ〜!」
同じ卓に座っていた高校の同級生は、彼にエールを送っている。しかし丈一郎は緊張しすぎて手と足が一緒に出てしまい、つまづきそうになっていた。
― だっさ。美咲、なんでこんな冴えない男と結婚したんだろう。
高校時代、全国ミスコンでファイナリストに選ばれた経験がある私と美咲。地元ではちょっとした有名人で、他校から私たちを見るためだけに学校へ押しかけて来る男子もいた。
…なのに、なぜ。彼女はよりにもよって、地元の冴えない男・丈一郎と結婚したのだろうか。
私は新郎新婦の姿をぼんやりと眺めながら、美咲と過ごした高校時代のことを思い出していた。
◆
井の中の蛙
「ねぇ、うちら絶対東京でも人気者になれるって!一緒に上京しようよ」
高校2年生の夏。芸能関係の仕事に興味を持っていた私は、美咲と東京の大学に進学したいと考えていた。
「美咲と私だったら、東京の合コンでも絶対モテるしさ…!」
…しかし彼女は、首を横に振ったのだ。
「私、ミスコンもファイナリストで落ちたし。地元の女子大に行って、そのまま広島の企業に就職しようと思ってるんだ」
「えぇ、もったいない!」と隣で絶句する私を横目に、美咲は顔色1つ変えずに首をかしげた。
「何がもったいないの…?」
「だって東京に行けば、お金持ちでカッコいい人もたくさんいるし。
いつか素敵な人と結婚して、海が見える大きな庭付きのおうちでワンちゃん飼って。幸せな家庭を築きたいねって、2人でよく話してたじゃん。それも叶うかもしれないんだよ!?」
私の言葉に、美咲はクスクス笑った。
「…うん、憧れるね」
「でしょ?」
「うん。…素敵な人と結婚して、海が見える大きな庭付きのおうちでワンちゃんを飼って。幸せな家庭を築くの、すごく憧れる」
…あのとき確かに、そう言ったのに。
美咲は地元の大学に進学し、そのまま地方銀行の一般職に就いたのだ。しかし就職後も、彼女とはたまに電話することがあった。
「もしもし、美咲?今日も収録終わりに、テレビ局の人と飲んでてさ〜」
「芹那はすごいね。東京で頑張ってて」
「そんなことないよ。美咲はどう?」
「うん、仕事は順調。…あ、そういえば彼氏できたんだ」
ずっと「今は恋愛しなくていいかな」なんて言っていたのに。美咲からの突然の報告に動揺しつつも、私は平静を装ってこう尋ねた。
「えー、おめでとう!どんな人?」
「…丈一郎なの」
「えっ、嘘でしょ!?高校のとき、全然仲良くもなかったじゃん。美咲、冗談やめてよ〜」
「…冗談じゃないの」
東京に住む私と田舎に住む美咲。私たちは価値観が合わなくなり、だんだん疎遠になっていったのだった。
「それでは、ケーキカットです!」
私は高校時代のことを思い返しながら、ドレス姿の美咲をぼんやりと眺めていた。視線を横に移すと、丈一郎が口いっぱいにケーキのクリームをつけながら、冴えない顔で笑っている。
「…もったいないなぁ、美咲。こんな低スペックの男と結婚するなんて」
思わず、心の声が漏れてしまう。
「素敵な人と結婚して、海が見える大きな庭付きのおうちでワンちゃんを飼って。幸せな家庭を築きたいね」
あの頃交わした夢を、彼女は諦めてしまっているようだった。
…そのときだった。隣の席にいた同級生たちの声が聞こえてきたのは。
「すげぇよな、丈一郎。美咲と2人で会社立ち上げて、大きくしたんだもんなぁ」
「そうそう。稼いだお金でマイホームも建てたばっかりだしな」
「…えっ?何、その話?」
シャンパンを飲もうとしていた手を止め、私は思わず口を挟む。
「あぁ、芹那は東京に住んでるから知らないのか。美咲と丈一郎、2人で観光系の会社を立ち上げたんだ。今は美咲、敏腕女社長なんだよ」
「そっ、そうなんだ…」
「海が見える大きな庭付きの家に住んでてさ、でっかいゴールデンレトリーバーを飼ってて。幸せな家庭を築いてるよ」
◆
「ただいま〜」
結婚式が終わったその足で、私は竜也が暮らす青山のマンションへと向かった。
「…来るなら、先に連絡してほしいな」
「ごめんごめん。どうしても会いたくなって来ちゃった♡」
私は部屋に入るなり、甘い声で囁いた。
「…ねぇ、竜也。私ももう29歳だし、そろそろ完全に仕事辞めて結婚したいなぁ」
すると彼は、思いもよらない言葉を口にしたのだ。
「あのさ、芹那。…俺と、別れてくれないか」
「えっ!?何よ、急に。冗談でしょう?」
「冗談じゃないよ、ずっと考えてたんだ。芹那と一緒にいると、しんどくて。地元の友達の結婚も素直に喜べないような子とは、一緒にいられない。…ごめん。出て行ってくれないかな」
マンションの部屋から追い出された私は、玄関ドアの前で呆然と立ち尽くす。
「う、嘘でしょ…」
私はコートのポケットからスマホを取り出すと、美咲のInstagramアカウントを開いた。そこにはマイホーム紹介の投稿がいくつも続いている。
「どこで、間違えたんだろう…」
私は美咲のアカウントをブロックすると、竜也の部屋の前からそっと立ち去ったのだった。
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