四川を筆頭に、東京では中華が勢いづいている。 グランメゾン級ダイニングから、オリジナルを追求した東京スタイル、名店を経た実力派のインディペンデント系など、目が離せない!


中華に人生を捧げた若き伝道師『中華香彩ジャスミン』

広尾

「中華オタク」。山口祐介料理長は自らをそう呼ぶ。ラーメン好きでラーメン屋さんに憧れていた山口少年が料理人を志したのは中学1年の頃。

横浜中華街で初めて食べた東坡肉の柔らかな美味しさに魅せられ、以来、お小遣いを貯めては中華街に通ったという。

「その頃から寝ても覚めても中華のことばかりでした」と山口シェフ。調理課程のある高校に進み、卒業後は都内の店で働きながら2年間中国語も学んだ。

そんな情熱が周囲に伝わってか『グランド ハイアット 東京』開業時、中国料理『チャイナルーム』のスタッフとして働く好機を得る。8年間みっちりと働きながら、研修では中国各地を廻った。


2011年春には、広尾にオープンした『中華香彩ジャスミン』の料理長に就任。ここでは、山口シェフが熱意と技を注ぎ込んだ料理をアラカルトで気軽に楽しめる。

メニューには東坡肉の宝塔仕立てやよだれ鶏などの伝統料理がずらり。加えて中国の大豆味噌を使った魚介の炒め物や、ハーブやスパイスが利いたシンガポールのニョニャソースを添えた魚料理など、中国各地で今、楽しまれている味を紹介しているのも魅力的だ。

まだまだ若いが、中華にかけてきた年月と情熱は人一倍。キャリアも申し分ないが、探究心がさらにそれを上回る。中華に人生を捧げた若き伝道師。真価が発揮されるのは、きっとこれからだろう。


杭州名菜 東坡肉の特製宝塔仕立て。煮込んだ豚バラを桂剥きに(3日前までに要予約)


厨房から店内を見渡せる造りに。インテリアはモダン、席間が広く取られ、ゆったりと寛げる


若いが貫禄のある山口シェフ。オープンからしばらく経つが「寝ても覚めても中華」な日々は続く


山口シェフが熱意と技を注ぎ込んだ料理をアラカルトで気軽に楽しめる


小気味よいひねりを効かせた上海×四川のハイブリッド中華『廣安』

広尾

トレンディな食の達人が集まる恵比寿〜広尾界隈に、食いしん坊魂に火をつける個性派の中華料理店がある。

『上海四川料理廣安』と記された看板がなければ、ここが中華料理店とは思えぬほどの目立たぬ店構え。どこか居酒屋チックな印象を受けるインテリアにも関わらず、メニューを開けば、意欲的な料理の数々に、食指が動く。

ピータンの卵まきや温蒸し鶏とレタスの特製醤油ソース、完熟トマトのエビチリソースに豚トロのオイスターソース炒め、芝海老のマンゴーマヨネーズソースetc.。

素材使いや組み合わせ、さりげないひとひねりが小気味良い調理法に、料理人のセンスが偲ばれる。


聞けば、ご主人の田部広一郎氏は、16歳から中華一筋の大ベテラン。上海系の料理店で修業を積むかたわら、四川料理の香りの豊かさにも惹かれ、独学でマスターしたとか。

それゆえ、麻婆豆腐や担々麺といった基本の四川料理にしても、一見平凡なスタイルに見えて、その味わいには、田部料理長ならではのひと工夫が盛り込まれている。

たとえば、人気メニューの麻婆豆腐。四川特有の麻辣の風味を引き立たせながらも、「辛味だけでなく、日本人の舌にあう塩分のバランスを考慮に入れ、ほんの少しだけ隠し味程度に砂糖を入れている」とか。


とはいえ、舌に甘さはほとんど感じず、辛さの中にまろやかさとコクを感じるのみ。口に入れた瞬間に広がる辛さと香気は思わずご飯を呼ぶこと請け合いだ。

その旨味を呼ぶ香りの秘訣は、秘伝!?の香味油。辛みを引き立たせる自家製ラー油のほかに、八角や陳皮、沙茶醤、生姜粉など10種のスパイスをブレンドしたこの油をかけることで、香りの広がりに抑揚をつけている。

また、ステーキのように肉厚の濃厚黒酢すぶた、クワイのシャキシャキ感と長ねぎのしまった甘みが決め手の廣安シューマイも料理長の自信作。ひと皿のボリュームもたっぷりだ。


濃厚黒酢すぶた。豚バラ肉をダイナミックにカット。しっかりした歯ごたえで食べ応えあり


天使海老の四川風スパイス炒め。油切れも軽い天使の海老は、サクサクとした歯触り


ひとりでサクッと麺やご飯もので済ますもよし。グループで楽しむもよし


オーナーシェフの田部広一郎氏。自分が食べたいと思う料理を提供。誠意ある姿勢も支持される所以だ


"海の幸"に特化した広東料理の真髄

ベーシックでいて味わいはモダン。広東料理の底力を示す実力店『海鮮名菜香宮』

六本木

本格はの広東料理『海鮮名菜香宮』。西麻布は星条旗通り沿い、ひと際目を引く白亜の建物がそれだ。「食在広州」の言葉もあるほど食材に恵まれた広東の地。

そのあっさりとして穏やかな味わいは、日本人にも親しみやすい料理として知られているが、中でも、ここでは、店名に示すが如く、“海の幸”に特化。身体に優しい上品な広東海鮮料理の粋を堪能させてくれる。


厨房を預かる料理長は、あの『赤坂璃宮』出身。篠原裕幸氏は、本場香港まで遊学、都合2年に亘り研修を重ねた若年の実力派だ。

生み出す料理はベーシックながらも味わいはモダン。聞けば、店で扱う魚介はすべて築地まで足を運び、その目で吟味したものばかりだ。それも、銀座の有名鮨店と同じ仕入先というこだわりよう。鮮度の良さは推して知るべし、だろう。

紹興酒漬けにした生の牡丹海老は、ねっとりと甘く鼻腔を抜ける紹興酒の香りもふくよか。


絶妙のタイミングで蒸し上げた活けの毛蟹やワタリガニは、旨みを閉じ込めるためにふりかけた卵液の柔らかな舌触りとともに、カニ本来の芳醇にして淡麗な味わいを存分に楽しませてくれるはず。

一方、高価な金華ハムを贅沢に使った蒸しスープ“頂湯”をじっくり煮含めた、ふかひれの姿煮込みも、名物のひとつ。“頂湯”の深奥な味わいは、広東料理の底力と料理人の引き出しの多さを感じさせるに十分だ。

また、締めを飾るデザートも秀逸。イチゴや柑橘といった旬のフルーツを使ったそれは、フレンチ顔負けの出来栄えだ。


柑橘類のデザート。和歌山の文旦を使ったフレンチのデザートを思わせる華麗なひと品。文旦の下には、はちみつのプリン、まわりにはちみつのジュレが。メニューは一例


ワインはフランスを中心に100種余りをストックしている。グラスワインは日替わりでお手頃価格。メニューは一例


四大料理に加わる新ジャンル「東京チャイニーズ」ここにあり『くろさわ東京菜』

大森

「だって、日本人だし」ふとした会話の中で際立って聞こえたのは、その言葉だ。大森に開業した『くろさわ東京菜』は店に入っても、メニューを見ても、中国料理店なのか、惑う。

出された皿を見ても、場合によっては料理を口にしても、謎が解けないこともある。スペシャリテは野菜炒め、麺料理は置かない、エビチリは夏トマトのシーズンだけ。餃子は時々、出すらしい。

店主は黒澤篤也氏。調理師学校卒業後、三笠会館の数寄屋橋『ブオーノ・ブオーノ』で料理人のキャリアをスタートさせた。「当時はイタリアン全盛。学生時代、中華の授業はさぼってばかりの記憶がありますね」


そう笑う彼は、数寄屋橋と名古屋で合計6年修業。名古屋時代、中華に興味が移り、東京に戻り中国料理店に異動する。料理ジャンルを超えた転属は創業以来初。だが訳あって程なくその店を辞す。

中華を本格的に身につけたのは、横須賀『煌蘭』での7年半だった。中華に邁進するかと思いきや、神宮前『ラ・グロッタ』で2年シェフを務め、蒲田『聖兆』で中華に戻り、5年、料理長として働いた。

ふたつのジャンルを行きつ戻りつした人生だが、今の店にはそれらが随所に顔を出す。野菜ではなく、野菜の「味」を食べる皿のスタイルは『ラ・グロッタ』時代の寺内正幸氏から学んだ。8割が産直という有機野菜の生産者との付き合いは、この頃に培った。


料理のボーダレスな空気感は、蒲田『聖兆』の前田精長氏との5年間で有形化した。素材の味を活かすため、調味料は極力控え、使うものはできる限り手作り。

中国各地の料理手法や食材を尊重するが、それだけに寄りかかりはしない。「中華は十分に、日本で独特の発展をしたじゃないですか。『現地の味を』なんて無理する必要は、もう無いですよ」

日本人なのだから――。同じ言葉を、前田氏からも聞いた。「東京菜」とは、東京料理の意。間違いなく美味しいのだから、人まね小猿は、もうおしまい。


飼育方法、環境に惚れ込んだ、湘南"みやじ豚"の蒸し豚。メニューは一例


左からターリー・ジンファンデル"ムーア・アースクエイク・ヴィンヤード"1997、カレラ・ロゼ、レ・ヴュー・クロ ニコラ・ジョリー。メニューは一例


料理道を邁進する黒澤篤也氏


内装も「中国料理店らしからぬ」シンプルさ。花器として使う急須や箸置きにわずかに「らしさ」を


ふかひれの名店出身オーナーシェフの凱旋出店

ふかひれの名店出身オーナーシェフの凱旋出店『蔭山樓 恵比寿店』

恵比寿

オーナーシェフの蔭山健一氏は、一風変わった経歴の持ち主。京王プラザホテル『南園』などの中国料理店で修業し、ふかひれ料理の名店『筑紫樓』で料理長を務めた後、故郷の千葉にラーメン店を開き独立。

特製の鶏白湯スープが話題を呼び、ラーメン界では一躍時の人となるも、再び中華の道を究めようと自由が丘に創作中華の店『蔭山樓』を構えた。

2009年のオープンから時間がたった今も、ランチは数カ月先まで予約でいっぱいという盛況ぶり。2号店の出店を考えていた時に、料理長を務めていた頃の『筑紫樓』があった恵比寿の物件が空くと知り迷わず決断した。


料理は本店に同じ、看板はなんといっても鶏白湯塩そばである。鶏の手羽先をじっくり煮込んだスープは粘性を感じるほど濃厚で、浅草開花楼特製のちぢれ太麺とよく合う。

ふかひれは刺身や姿煮、焼売で。三浦から朝穫れの野菜を仕入れ、蒸籠蒸しや炒め物で供するなど野菜料理にも力を入れる。ディナーコースもリーズナブル。

また、1杯飲んでそばで〆る、なんて使い方もウェルカムだ。カウンター席もあり、ひとりでも気軽に立ち寄れるのも嬉しい限り。

店内には、蔭山氏を崇拝するラーメン好きの青年がいたり、かつてこの場所にあった『筑紫樓』を知る近所のご年配のゲストがいたり。幅広い世代が、この“凱旋”を歓迎している。


牛すじ入り麻婆豆腐。柔らかな牛すじがごろりと入ってコクがある。山椒もしっかり


卓上には蓮の花を模ったキャンドルスタンド、ふかひれ型の箸置きが。設えはシンプルそのもの


時代に即した中華を提案する、スーパーカンパニーの『東京チャイニーズ 雪梅花』

四谷

「梅花笑傲寒雪独自开(厳しく寒い雪の中、微笑むかのように美しく力強く咲く梅の花)」。壁に書かれたこの文字が、『雪梅花』の姿勢を示している。手掛けるのは中島武氏率いる際コーポレーション。

『紅虎餃子房』など、日本の中華界に新機軸を次々と打ち出し、今や直営の飲食店だけ数えても、300を超える店舗を展開するスーパーカンパニーだ。

『雪梅花』のコンセプトは「新しい時代のチャイニーズ、普段使いのスタンダードなチャイニーズの提案」で、店名に込めたのは、気高く凛と咲く梅の花の美しさを再確認して欲しいと願う中島氏の気持ち。


桜ではなく、梅の花という点が時代の空気をいつも的確に捉え、料理に落とし込んできた氏の真骨頂。そこには、こんな世の中だからこそ、ひとりひとり力強く生きていこうとのメッセージも含まれる。

「けれど」と中島氏は言う。「我々はブランドでなく、1軒の料理屋として品物で勝負していきたいと考えている」。この店のために創案され、梅肉の朱色が目を引く美しさで登場したのが梅焼売。

ほかにも自家製腸詰めを頼めば、極太が迫力の盛り付けで登場し、相変わらずの大胆さ。「身体を気遣って」考え出したというシジミの汁そばも胃の腑に染み入る有り難い味。

食べれば問答無用に引きずり込まれる力強さをどの皿も持っているのだ。これぞ中華が持つ、原初的な魅力ではなかったか?そんなことを思うのだ。


食べれば問答無用に引きずり込まれる力強さをどの皿も持っているのだ。これぞ中華が持つ、原初的な魅力ではなかったか?そんなことを思うのだ。

思えば、ニラまんじゅうも鉄鍋餃子も、黒胡麻担々麺も黒酢の酢豚も、みんなみんな氏の店で初めて食べて感激した。時代に即した潮流を作り続けてきたのが彼なのだ。その感性と技術を改めて思い知る。

「料理屋は安心を提供するのが大前提。その上で、今は誰もが『なんちゃってモノ』に飽きている時代だと感じ、この店を始めたんです。ちょっと気の利いた美味しいものを気取らず楽しくという空気に合わせて」。その言葉に深く頷くのだ。


しじみ×ネギ塩そば。シジミを生きたまま冷凍し、旨みをしっかり出させた後にスープにする。季節や仕入れ状況などによりメニューは異なる。写真は一例


社内デザインチームが創る店内は相変わらず洒落ててる。カラフルな水筒やアンティーク家具もある


単なる刺激ではない、四川料理に対する愛情と敬意

単なる刺激ではない、四川料理に対する愛情と敬意『蜀彩』

経堂

何事にも通ずることだが、刺激も過ぎると、だんだんと飽食気味になるものである。ただ、世の中には、クセになる刺激というものも確実に存在する。

料理人としてのスタートは決して早かったとは言えないが、その“種”が心のなかに芽生えたのは、わりに早期であった。子供の頃、親に連れられて行った四川料理店で、はじめて雲白肉に出合ったときの感動を今でも忘れることはないという。


「昔からおつかいで買いものに行くことが多かったから、どんな食材を使っているかというのがなんとなくわかったんです。どこでも手に入るような普通の豚肉を、こんな美味しい料理にできるのかと。子供心にすごく感激したのを覚えています」

村岡拓哉氏が世田谷区・経堂に自身の店『蜀彩』を構えたのは2011年10月のこと。胸のなかで大切に育ててきた“種”がこうして花開くまでには、様々な紆余曲折があったという。一生をかけて情熱を注げる仕事を考えたときに中華の料理人という答えに行き着いた。


遅咲きを承知で25歳からのスタートを決意できたのは、やはり一生をかける覚悟あってのことだ。30を目前にして原宿『龍の子』に入店、その後、本場の空気を肌で感じるために四川省へと渡った。

帰国後は再び『龍の子』へ戻り、新宿の『川香苑』などを経て、独立へと相成った。村岡氏の原動力は、単なる“刺激”ではなく、四川料理に対する愛情と敬意。料理はときとして、作り手以上に雄弁だ。


甘海老と四川漬物の炒め。甘海老のプリプリした食感が楽しめる。油通しの妙を感じるひと品。メニューは一例


カメ出し紹興酒。高度酒として知られる白酒のほか、お茶の種類も豊富だ


オーナーシェフの村岡拓哉氏


経堂は「とくに土地勘があったワケではない」が、農大通り商店街の名物店に。開放感のある空間には、テーブル席のほか8名用の小上がりも用意している


積み重ねた経験と才能を発揮し、四川料理の道をひた走る若き担い手『仙ノ孫』

西荻窪

ユニークな店名は、八百屋を営んでいた奥様の祖父、仙太郎氏にちなんだものだとか。『龍の子』や『目黒雅叙園』などで修業を積み、さらには上海でも研修を重ねたご主人の早田哲也氏。その実力のほどは、メニューを彩る多彩な料理アイテムからも伝わってくる。

名物の豚ヒレ肉の黒酢炒めに砂鍋獅子頭といった上海の代表的な逸品から麻婆豆腐、水煮牛肉などおなじみの四川菜、そして黒板メニューにはラム肉のクミン炒めといった清真料理的ひと皿まで、思わず目移りしてしまうこと必至。


しかも、広々とした厨房で鍋を振るうのは、ご主人ひとり。その堂々たる体躯同様、供される皿もいずれ劣らぬ説得力とパワーに溢れている。

中でも圧巻は、豚耳や豚タン、胃袋、ハチノスを四川の辛い鍋に仕立てた川国毛肚火鍋だ。赤黒く染まったスープから立ち上る四川料理特有の香り。

目にしみるような芳香の正体は桂皮や陳皮、甘草、にんにく、クミン、沙姜に小回香、八角など15種の漢方薬だ。これらを豆板醤や唐辛子の粉末で炒めた早田シェフ渾身の火鍋の素が、味の決め手。


「牛脂を使い、辛みと香りを引き出すようじっくり炒めることがポイント」とは、早田シェフ。この“油使い”もこだわりのひとつ。油も食材のうちと考え、料理によって香りの異なる9種の油を使い分けている。

クラシックな中華料理を目指す一方で、有機野菜を積極的に取り入れ、化学調味料も一切使わない等々、その目線は、現在の中華をしっかりと捉えている。


ナマコの肉づめ海老子煮込み。10日間あまりもかけて戻したゼラチン質豊富。メニューは一例


奥様の祖父が営んでいた八百屋が『八百仙』。その跡地ではじめたからこの店名があるとか


四川の香り漂う複雑な辛みと旨み

奥行き深く、幅広い。香りと旨みと辛さに酔う四川料理は罪つくり『天府舫』

新宿

ここ『天府舫』には、その現地・四川の香りが漂う。香りの元は茂汶紅花椒。鮮烈な香りが鼻をくすぐり、しびれをもたらし、バラエティに富む唐辛子が複雑な辛味と旨みをもたらす。

実は、店主も料理長も、有名四川料理店からのスピンアウト組。日本語は流暢とはいかないが、キャリアは十分、もてなしの心も十二分に備えている。ランチは水餃子が食べ放題、それも夜とは味を変えているんだとか。


サービスし過ぎと思ったら、この辺り、中華大激戦区なんだそう。そのせいか、夜は飲み放題もある。

でも、そんな「余計な」ことをしなくても、徐々に、四川料理好きが集まる店になるはずだ。なにせ、酸辣湯で産湯を使い、麻婆食べて育った四川人が作る四川料理を、生粋の四川人がサービスしてくれるんだから。


メニューは80種以上。水煮牛肉、朝天辣椒をたっぷり使った辣子鶏をはじめ、ほんまもんの四川料理が味わえる。前日予約の鍋もまた美味である。


本場の味を追求する何 伯超シェフ。四川省にある有名料理店やホテルで腕を磨いた経験を持つ


四川から直送するという茂汶紅花椒。夏に収穫されるが、今がもっとも香り高く味もいい時期


小滝橋通りから脇道に入ってすぐ。料理はもとより、温かなもてなしも店に足を向けさせる理由だ


上海ベースに和洋のエッセンスを取り入れた『レンゲ』

銀座

同じ四川料理店でも、料理人が表現しようとする味の表情やその方向性は、各々異なる。

麻婆豆腐ひとつとっても各店各様なのだ。基礎力のある料理人が中華の基本をキッチリと踏まえながらも、独自のセンスで現代的なニュアンスを加味する。

たとえば、『レンゲ』。ここもそんな東京チャイニーズを象徴する1軒だろう。


ケチャップを使わず、海老の味噌のみで仕上げる伝統の手法を用いつつ、アメリケーヌソースでコクをプラスした乾焼明暇(上海海老明暇のチリソース)や味つけはオーソドックスな上海式。

しかし、下ごしらえに和の知識を取り入れて生臭さを取り除いたすっぽんの大蒜煮込みと、上海料理のベースはあくまでも崩すことなく和洋のエッセンスをさりげなく取り入れたひと皿ひと皿は、シンプルながら実にモダンだ。


そう、今や中華もイタリアンやフレンチ同様、料理人の個性を味わう時代になったといっても過言ではない。まさにそこが面白いのだ。なればこそ。


ネギラーメン。シンプルイズベストの真骨頂ともいうべき品。ごまかしのきかない美味しさ。季節などによりメニューは異なる。写真は一例


トマトケチャップを使わず、海老の味噌で仕上げたソースは、自然な甘さが特徴。大人の味わいだ。季節などによりメニューは異なる。写真は一例


四川料理一筋!ホテル中華の雄

四川料理一筋!ホテル中華の雄
シェラトン都ホテル東京『中国料理 四川』

白金高輪

広東料理が圧倒的多数を占める東京ホテル中華にあって、ホテル開業以来、四川料理一筋の『四川』料理長・橋本暁一氏。日本における四川料理の父・陳建民氏の直弟子として学び、その後多くの後進を輩出してきた。

自ら四川省に足を運び、食材や香辛料を吟味し、本場の味に触れる等の研鑽も怠らない。その功績が称えられ、「黄綬褒章」を2011年秋受章。そんな橋本氏に東京における四川料理の変遷についてお伺いすると、「(2012年当時)ここ15年ぐらいで激変した」とのこと。その理由や如何に!?


「新鮮な魚介を生かした広東料理と異なり、四川の真髄は唐辛子を使った辣(ラー)という辛い味わい、山椒などのしびれる味わい麻(マー)と黒酢の風味の酸(スヮン)、香(シャン)と呼ばれる香り。ところが、これらを実現するための唐辛子や山椒が日本では手に入らなかったんです」

しかし1972年の日中国交正常化に伴い、本場の香辛料が日本に流入。日中のシェフも自由に両国を行き来できるようになり、本場の四川料理が広がる環境が整ったという訳だ。作り置きはせず、素材や料理ごとに味を見ながら作ると言う醤。


なかでも20種ほどの香辛料を使った麻辣醤を口に含むと、上質な素材のみが発する澄んだ香りが全身を駆け抜け、その後、複雑かつまろやかな旨みが口中に広がった。

「食在広州味在四川(食は広州にあり、味は四川にあり)」との言があるが、それを体現するホテル中華の雄である。