そのブランド力に惹かれ、多少背伸びをしてでもセルフ・ブランディングのために恵比寿に住む女性がいる。

恵比寿に生息する恵比寿女子、通称、“エビージョ”。

一見華やかに見える彼女たちには、窺い知れない裏の顔がある。

そんな典型的なエビージョであるマナミは、年収1,000万円のテレビマン・裕太を巡り、目黒女子・早希と戦うことに。しかし結局裕太に遊ばれていたことが分かりショックを受ける。そんな中、レストランで偶然居合わせた俊明に心惹かれるマナミだが...



アラサー女子の妄想劇


—岩田マナミ—

会社のデスクで、ポスト・イットに彼の名字と自分の名前を重ねて書いてみる。うん、悪くないと頷き、顔がニヤける。何歳になっても、女性がすることは一緒だ。


1. 彼と結婚した時のことを考えて、彼の名字に自分の名前を当てはめる
2. 子供は男女どちらかと考え、女の子だったらあの名前...と妄想する
3. 結婚したら、今の仕事辞めちゃおうかな〜と甘い気持ちになる


まだ始まってもいない恋だが、レストランで居合わせた、(楓曰く)リッチで素敵な男性・岩田俊明。彼と結婚したら、今の仕事はやめてもう少し楽な、趣味程度の仕事に転職できる。自宅でサロンとか開いちゃって、セレブ妻として有名になるのも悪くない。

「マナミちゃん、さっきから一人で何ニヤニヤしてるの?」

佳奈恵が怪訝そうな顔をしてこちらを見ていた。将来の希望が見えると、周りにも優しくなれる。

「私、来年あたり結婚するかも♫佳奈恵、ランチ行こう〜!」

外は寒いはずなのに、心はポカポカとしていた。


男も単純だが女も単純。果たして俊明とはうまくいくのか!?

男の価値が上がるレストラン選び


—先日はありがとうございました。隣でうるさくしていたのに、ご馳走になってしまって...もし、お時間あればまたお会いできると嬉しいです♫—

俊明のメールアドレスにメールを送ると、直ぐに返信が来た。このスピード感は、向こうも私に気がある証拠だろう。こんな御礼メール、手慣れたものだ。この10年間で一体、何千通とこの文面を送ってきたのだろうか...

—こちらこそ、楽しい時間をありがとうございました。今度、飯でも行きませんか?—

想定内の返事が返ってきた。答えはもちろんイエスだ。是非!と返信をし、具体的な日時を決めた。

—じゃあ、木曜日20時に『かどわき』で。楽しみにしてるね—

指定してきたお店・『かどわき』の一人あたりの単価を考える。悪くない。最近、久しく“定番の高級店”に行っていなかった。

港区女子・楓が“好物件”と見抜いた千里眼に間違いはないだろう。そろそろ、一人で頑張るのにも疲れてきた。結婚して、一刻も早く家賃のために働く生活から抜け出したかった。



女性のデートへの期待値は服装の気合と比例する


デート当日は、久しぶりに気合いを入れた。裕太とのデートの時に、こんな気合いを入れた記憶はなかった。でも、大物かもしれない、未来の旦那になるかもしれない人とのデートだ。

「よし...これで完璧!」

前日までにネイルサロンに行き、マツエクもお直しに行った。そして恵比寿アトレの『ラウンジドレス』で購入した(今月のお給料的に厳しかったので散々悩んだが)オフショルのニットと、黒のタイトスカート。そしてファーマフラーという2016年版・冬の勝負服でデートに挑むことにした。

「ごめんね、待った?この前も素敵だったけど、今日もいいね。」

俊明が遅れて入ってくるなり、嬉しいことを言ってくれる。高級レストランに、良い男。そして美味しいお酒と最高のお料理。久々に、東京の良い所取りをしている気分になり、思わず目眩がしそうになる。

「俊明さんって、毎日こんな所でお食事しているんですか?」

「流石に毎日ではないけど、でも接待とか多いから頻度はかなり高いかもね。」

あぁ、この人と一緒になれたら、こんなお店にも日常的に通えるようになる。何て素晴らしい生活なんだろう。お酒が進むと共に、期待値はどんどん膨らんで行った。


一見、順風満帆なように見えるデートだったが、小さな違和感が...

24歳だったら絶対見向きもしない相手なのに


楽しい時はあっという間に過ぎる。しかしつまらない人とのデートは、何度時計を見ても永遠に針は進まない。


序盤、俊明とのデートは楽しかった。しかし、食事が進むにつれて徐々に違和感を覚え始めた。とても優しいし、素敵だとは思う。しかし、よく喋る。男性のお喋りは嫌いではないが、度が過ぎると少しげんなりしてくる。

「マナミちゃんの仕事は?何やってるの?僕は会社を経営しているんだけど、昔は凄く大変でさぁ。」

「休みの日は何してる?僕はね、腰を痛めてからゴルフからすっかり遠ざかっちゃって。トライアスロンとかやりたいんだけどね。」

はぁ...せっかくの美味しい食事なのに、味が段々分からなくなってきた。裕太に感じた違和感とは、また違う違和感。裕太に対しては、年収がどうのこうのと自分に言い聞かせていた。

「あの、俊明さんってお話が好きなんですね。」

少し皮肉を込めていったつもりだったが、俊明の話は止まらない。

「母親が関西出身なんだよね。だから昔から、母親譲りで話すことが好きで。」

久しぶりに、一刻も早く帰りたい、と思うデートだった。俊明がお会計したのを見計らい、

「すみません、明日朝が早くて...」

という定番の言い訳をして帰ろうとした。しかし、その時に見てしまった。久々に見る、Sクラス男の帰り方を。



「あ、本当?明日朝早いなら残念だなぁ。そしたら、送っていくよ。」

結構です、と言いかけた時、思わず足が止まった。お店の目の前には、運転手さんが待っていた。

「え、これって俊明さんの...?」

「あ、そうだよ。うちの運転手。家、恵比寿だったよね?」

車に乗り込み、一所懸命頭の中を整理する。確かに、俊明はカッコよくもなければ心がトキメクような相手でもない。しかし、このステータスは最高だ。

—マナミ社長夫人—

高らかに笑う、自分の将来像が見えてきた。

きっと、結婚に焦っていなかった20代前半なら、お喋り好きな変な人、で終わらせていただろう。でも今は、“結婚”という人生最大の試練とゴールが待ち受けている。


マナミ、ここは冷静になるんだ!結婚相手に求めるのは顔なんかじゃない、経済力だ!!
心の中で、もうすぐ28歳になる自分が叫んでいる声が聞こえた。

次週12月16日金曜日更新予定
結局男は金なのか?相手の経済状況で態度を変える女たち。その結果は...?