TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週土曜日 11:30〜)。この番組では、多摩美術大学卒業で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。8月28日(土)の放送では、「東京ミッドタウン・ホール」で開催されていた「北斎づくし」に伺いました。

◆前代未聞、壮大な北斎漫画づくしに片桐絶叫!

今回の舞台は、東京・港区の東京ミッドタウン内にある「東京ミッドタウン・ホール」。葛飾北斎の生誕260年を記念し開催されていた特別展「北斎づくし」へ。前回の放送では「すみだ北斎美術館」で北斎の生涯に肉薄しましたが、今回はまた違った角度から彼の魅力に迫ります。

東洋古美術の専門美術商「浦上蒼穹堂」代表の浦上満さん案内のもと、展示場に足を踏み入れると早速「踊独稽古」という作品が。これは踊りの指南書のようなもので、片桐は「今までの(北斎作品と)印象と違いますね……」と早くも北斎の懐深さを実感。

そして、最初の展示室に踏み入れると「すごい! 思っていたのと違う! こんな『北斎展』は見たことない!」と大興奮。そこは辺り一面「北斎漫画」づくし。

「北斎漫画」とは北斎が50代半ば頃から刊行された木版画による絵手本で、本来は弟子などに向けた絵の指南書でしたが、江戸庶民にも大好評で、15編まで刊行されました。

この展示室ではそんな北斎漫画全15編883ページが余すことなく見られるようになっており、「すごくないですか! 全ページが見られる。こんなことないと思いますよ!」と片桐も興奮がさめやらない様子。

ちなみに、そこには計500冊もの北斎漫画が使用されており、それら全ては浦上さんのコレクションで、52年かけて収集。浦上さんは北斎漫画の質・量ともに世界一のコレクターとして知られています。

◆江戸時代にパラパラ漫画…アニメーションの元祖

そんな北斎漫画は、それまで描かれることのなかった江戸庶民の普通の生活がモチーフになっており、「(庶民が)主人公として出てくるのは北斎漫画が初めてだと思う」と浦上さん。それも温かい眼差しで観察しているのが感じ取れ、当時のリアルな生活がうかがえます。

また、北斎漫画は印象派の父と言われるエドゥアール・マネら多くの印象派の画家に影響を与え、なおかつ対象も人物のみならずカエルや虫などさまざま。北斎が興味ある目に見えるもの、見えないもの全てを描き尽くした、森羅万象を描いたのが北斎漫画と言われるとも。

さらに驚くべきは、北斎の先見性。「第三編」には雀踊りを踊っている様子が描かれているのですが、それはある種の「パラパラ漫画」。片桐が「アニメーション的な考え方ですよね……」と見入っていると、浦上さんも「(パラパラ漫画は)北斎が初めてだと思う。今、もし北斎が生きていたら間違いなくアニメーションもやっていただろう」と話します。

その上、人魚や妖怪など架空の存在も多数描かれており、北斎漫画は手塚治虫さんや水木しげるさん、松本零士さんなど多くのレジェンドからとても愛されていたそうです。

一方で、今回の展示会では新たな視点で北斎漫画を分析。「同じ本が上下で並んでいますが」と片桐は疑問を呈していましたが、それは初摺と後摺の違いを見てもらうため。

例えば、種子島に鉄砲が伝来した様子を描いた「第六編」では、初摺には説明書きがあるものの、当時キリシタン禁制だったため、後摺には説明書きがありません。また、「第12編」の初摺では女性の着物の一部が綻んでいるものの、後摺では綻びが塞がっています。これは「天保の改革」による規制で変更を余儀なくされたそうで、こうした比較ができるのも「北斎づくし」ならではです。

◆北斎の挿絵が江戸に空前の読本ブームを巻き起こす

北斎漫画に続いては「読本の挿絵」。北斎は40代後半、曲亭馬琴(滝沢馬琴)とともに読本を出し、それは空前の読本ブームを江戸に巻き起こします。北歳の名前はこの挿絵で全国区になったとも言われており、学者のなかには北斎のすごさは挿絵にあるという方もいるとか。

例えば、片桐が「このタッチは我々がイメージする北斎ではない感じがしますけど、こういう絵柄も若いときは描いていたんですね……」と驚いた「新編水滸画伝」は、浦上さん曰く劇画の元祖的作品。

また、平安末期の武将・源為朝を描いた「鎮西八郎為朝外伝 椿説弓張月」では、精密かつダイナミックな波が描かれ、その類稀なる画力を存分に発揮。片桐は北斎のすごさを改めて実感します。

◆富嶽百景に記された“画狂老人卍”とは!?

次に片桐が向かった展示室には北斎が75〜76歳の頃に描いた「富嶽百景」が。北斎の代名詞「冨嶽三十六景」はカラーですが、こちらは白黒。とはいえ、「色数は少ないけど豊かですね……」と感動する片桐。

その一片となる「富嶽百景」二編の海上の不二では、ものすごい波が描かれており、片桐は「これはすごい!」とその迫力に圧倒されつつ、「 『神奈川沖浪裏』のセルフカバーというか、波が鳥になっていますよ!」とビックリ。「もう船が儚い、波が主人公なんですね……本当にすごい、波が細かい」と作品を凝視します。

そんな「富嶽百景」は初編〜三編まであり、その初編と二編の奥付を見てみると、そこには「七十五齢 画狂老人卍筆」とあります。片桐も不思議に思ったこの「画狂老人卍」とは北斎の最後の号(ペンネーム)。

葛飾北斎は「春朗」や「宗理」、「戴斗」、「為一」、「卍」など号を30回も変えたと言われ、75歳となり最後に名乗ったのが画狂老人卍。片桐が「パンクですね〜」と唸っていると、その横にはさらなる驚きの決意表明が。なんと「70歳以前に描いたものはろくなものがない」、「75歳になってようやく少し絵がわかりだした」、「80歳でさらにうまくなり、90歳でますます極め、100歳はさらにすごい、それ以上になればもはや絵が動き出すから神様見ていて」と意味することが書いてあるそう。そんな北斎は生涯現役を貫き、90歳で亡くなりますが、死の間際にも天を指差し、「あと10年、いや5年生かしてくれ、そしたら一人前の絵描きになれる」と言ったそうです。

「北斎づくし」をたっぷりと体感した片桐は、「北斎がいかに描き続けたかっていう印象が伝わってくる展示でした」と感想を述べ、「とにかく何でも描いた。しかも、75歳になって“俺はこれからだ”って神様に宣言しているわけですから……まさに画狂老人卍。もう歳を取ったとか言っていられない。みなさん頑張りましょう」と元気付けられた様子。「生きている限り絵を描き続けた葛飾北斎。そして、52年に渡りその北斎の作品を集め続けた浦上さん、素晴らしい!」と賞賛し、葛飾北斎と彼を愛するものたちに盛大な拍手を贈っていました。

◆北斎の独特な視点にあっぱれ!

ストーリーに入らなかった作品から片桐がどうしても紹介したい作品をチョイスする「片桐仁のもう1枚」。今回、片桐が選んだのは「北斎漫画」の十編。

片桐は「当時の変な顔、にらめっこなんですかね」と変顔しているその絵を楽しみ、「これをやるおじいさん今もいますよね。百年前もありだったっていうのがいいですよね」と感慨深げ。「こんな顔をしている人はいるけど、絵にしようだなんて思わないですもんね」と北斎の絶妙な視点に感心します。

最後はミュージアムショップへ。まずは“いろはにほへと”、それぞれの文字がモチーフとなったお皿に注目しつつ、さらには北斎の作品で遊ぶ福笑いで一興。そして、まるでポスターのような図録に「これはオシャレ! すごい」と興味を示す片桐。見開きの「神奈川沖浪裏」やカラーの錦絵に感動し、思わず全ページを熟読してしまう片桐でした。

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<番組概要>番組名:わたしの芸術劇場放送日時:毎週土曜 11:30〜11:55<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00〜8:25<TOKYO MX2>「エムキャス」でも同時配信出演者:片桐仁番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/