TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週土曜日 11:30〜)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。10月9日(土)の放送では「笠間日動美術館」で名画商が惚れ込んだ近代西洋画コレクションに迫りました。

◆名画商が惚れ込んだ珠玉の印象派の名画たち

今回の舞台は茨城県笠間市にある「笠間日動美術館」。ここは、日本美術界を牽引する画廊「日動画廊」の創業者で、美術界で知らない人はいない名画商・長谷川仁が多くの人々に芸術に触れる機会を作ろうと故郷に開館した美術館です。アートの街・笠間の中心的存在で、近代西洋画のコレクションを中心に国内外の作品約3,000点を収蔵。現在は、長谷川仁の三男・徳七が二代目館長として世界の名画の収蔵につとめています。

画商が創設した美術館ということで、そこに収められているのは画商が惚れ込み、手放すことができなかった逸品ばかり。片桐は入館前から「どんな名作が見られるのか楽しみ」と期待を寄せます。

同館の学芸員、塚野卓郎さんの案内のもと、今回は3館あるなかからフランスの作品を中心に展示している「フランス館へ」。その2階には印象派の名作がズラリ。その光景に片桐は「すごいですね〜。この部屋に名画が集まっていますね」と息を呑みます。

まずはクロード・モネ、40代初めの頃の作品「ヴェトゥイユ、水びたしの草原」(1881年)。モネといえば、さまざまな手法で光の表現を追求した印象派の象徴的存在ですが、片桐は「(モネのわりには)とろけていないというか、わかりやすい景色ですよね」と作品の印象を語ります。

それもそのはず、モネが評価されるのはこの作品以降。これは大成する転機の時期に描かれたもので、モネの半生で重要な意味を持つ貴重な作品です。そんな逸品に「とてもカラフル。すごく色の数が多い感じがして、奥には教会みたいなものがあり、それが水面にちょっと映っていて、とてもキレイな絵ですね」とうっとり。

一方、60歳頃に描かれたのが「ロンドン、チャリング・クロス橋」(1900年頃)で、片桐も「だいぶ(印象が)変わりましたね」と目を見張ります。これはモネが次男に会いにいくためにロンドンに向かったときに描いたもので「心象というか、実際に見たものというよりは、よりその場での実感がこもっている絵になっているのかもしれない。これまた色がキレイ」と片桐。

印象派の代表格といえばもう1人、ピエール=オーギュスト・ルノワール。当然の如く笠間日動美術館にもその作品は展示され、「これまたいい絵ですね。女性を描かせたらルノワールはいい。柔らかいタッチが」と片桐が惚れ惚れしていたのは「泉のそばの少女」(1887年)。

ルノワールは、20代の頃からモネと交流を深め、1874年の「第一回印象派展」に参加。その後、独自の道を歩むも彼が描く肖像画にはモネと研鑽を詰むなかで習得した印象派の色使いを感じ取ることができます。

ちなみに、この作品は現館長の徳七が若い頃にスイスのコレクターから譲り受け、しばらく自宅の応接間に飾っていたそう。それを聞いた片桐は「ルノワールの本物が(自宅に)……すごい」と驚愕。徳七は、幼少期より初代館長であり父である仁のもとで芸術の素養を身につけ、彼が駆け出しの画商時代に一大決心をして買い付けたのが、現在ひろしま美術館に所蔵されているルノワールの作品「麦わら帽子の女」(1915年)で、徳七にとってルノワールは特別な存在なのだとか。

さらには、モネ、ルノワールと並ぶ印象派の大家エドガー・ドガの作品「舞台の袖の踊り子」(1900〜1905年頃)も。「ドガといえば動きのあるバレリーナ、踊り子をいっぱい描いていますけど、上手いですよね」、「ドガを見ると、パステルのこの色が100年経ってもキレイに残っているのはすごいなっていつも思う」、「袖から舞台を伺っていると思うんですけど、そこに物語があって、この華やかな色としっかりしたタッチの線とこの影が……」とドガの名画に片桐は目を奪われていました。

◆セザンヌにゴッホ…ビッグネームが続々と

印象派の作品を堪能した後、次はポール・セザンヌ「聖アントニウスの誘惑」(1874年頃)。「セザンヌといえば静物画、風景も同じ山を何度も描いている印象がありますが、これは言われないとセザンヌだとわからないですね……」と意外そうな顔をする片桐。

これはセザンヌが30代半ば頃に描いた作品ですが、彼もまた評価されたのは50代以降。とはいえ、作品からはいろいろと感じるようで、片桐は「みなさん野心的ですよね。新しいものや誰もやっていないもの、自分だけのものの見方とか。それをどうやって表現するか試行錯誤している感じがしますよね。常に実験している」と感慨深げに語ります。

19世紀後半を代表する画家の1人、セザンヌも日動画廊とは大きな縁が。徳七が小学生のとき、ブリヂストン美術館にセザンヌの「サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール」を納品。それは画廊の記念碑的出来事として刻まれ、現在では特別な思いを持って、この笠間日動美術館に数点収蔵されています。

続いては、1890年に自殺を図って、37歳の短い生涯を閉じてしまうフィンセント・ファン・ゴッホの最晩年の作品「サン=レミの道」(1889〜90年頃)。心の動きが絵画に反映した燃える色彩と筆使いによる独自の画風を確立し、死の間際まで後世に残る名画を生み出し続けたゴッホですが、これは療養院に入ってから制作した作品の1つ。

片桐は「ザッツ・ゴッホって感じですよね」といかにもゴッホらしい作品に目を輝かせつつ、「この色使いとか、一切の迷いがない。ゴッホ以外これは描けないという、そういう境地に達していますよね……10年後、20年後も見たかった」と悔やみます。

◆印象派からフォービスムまで時代を超えた作品群

「印象派」、「ポスト印象派」を経て時代は20世紀、「フォービスム」へ。20世紀を代表するアンリ・マティスの「窓辺にすわる女」(1919〜1920年頃)を鑑賞します。

1905年、パリで大規模展覧会「サロン・ドートンヌ」が開催され、1,600点以上の作品が出品されるなか、マティスは仲間たちとともに鮮烈な色彩表現と荒々しいタッチの作品を発表。批評家たちが、その異彩を放つ作品群を野獣(フォーヴ)と呼んだことで「フォービスム」が誕生。そんな20世紀アートの鮮烈な幕開けを飾ったマティスの絵画も名画商が手放せなかった作品の1つです。

「いかにもマティスって感じですよね……」、「この床の模様の奥行きのなさはともかく、見やすい。外から光が来ていることもわかるし。とはいえ、女の人を端に寄せすぎですよね(笑)。なぜ真ん中で画面を真っ二つにしてしまったんだろうっていう、絶対にわざとですよね。一目でマティスってわかる」とマティスならではの作品に見惚れます。

印象派からフォービスムまで。錚々たる作品群を見た片桐は「名画の数々をこの距離で、この並びで見られるという贅沢。絵を売る仕事をしている画商の長谷川さんが“これだけは売りたくない”というものが集まっているのが、この笠間日動美術館。それはもう名作ばかりになりますよね」と改めてその豪華さに納得しつつ、「さまざまな縁によって笠間日動美術館に集められた名画たち、素晴らしい!」と絶賛。画商が惚れ込んだ名画の数々に大きな拍手を贈っていました。

◆今日のアンコールは、ルノワールの彫刻作品

笠間日動美術館に展示されている作品のなかで、ストーリーに入らなかったものからどうしても見てもらいたい作品をアンコールで紹介する「今日のアンコール」。今回、片桐が選んだのは、ルノワールの彫刻作品「大きな勝利のヴィーナス」(1915〜1916年)。

「この顔、見たことありませんか?」と話す片桐の目線の先にあるのは、ルノワールの絵画で見られる人の顔そのもの。なんでも、これは彼が依頼して自分の絵を彫刻にしてもらった作品だそう。「ルノワールの絵って蠢いている感じがあり、硬いブロンズ(像)とは最も遠いものという印象があるんですけど、柔らかい感じ、そして腰のハリなど一生懸命彫刻で再現している。言ってしまえば相反するもの、絵の具でしか表現できないものをあえて彫刻にしているのがいいなと思って。この口元の開くでもない閉じるでもない、なんとも言えない感じもいいですよね。新発見です」と新たな出会いに喜んでいました。

最後はミュージアムショップへ。「お皿がありますよ! しかも770円、安い!焼き物も2,500円と安い! なんでこんなに」とここでもまた驚きっぱなしの片桐でした。

※開館状況は、笠間日動美術館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>番組名:わたしの芸術劇場放送日時:毎週土曜 11:30〜11:55<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00〜8:25<TOKYO MX2>「エムキャス」でも同時配信出演者:片桐仁番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/