TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週金曜日 21:25〜)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。1月29日(土)の放送では、「金沢市立中村記念美術館」で奥深き茶道具の世界を味わいました。

◆茶道具の“はだ”と“わざ”に注目!

今回の舞台は、石川県・金沢市にある茶道具と工芸品専門の金沢市立中村記念美術館。ここは金沢で酒造を営んでいた実業家で茶人の中村栄俊が長年収集した茶道具などを提供し、1966(昭和41)年に開館。現在、1,200点を超える作品を所蔵しています。

片桐は、そんな金沢市立中村記念美術館で昨年開催された企画展「<はだ>と<わざ>」へ。工芸作品を鑑賞するときのポイントとなる肌と技(技法)の2つをキーワードにした内容となっており、片桐は「そんなテーマ初めて聞きました、楽しみ!」と心躍らせます。

同館の学芸員・齋藤直子さんの案内のもと館内に赴くと、まず現れたのは「古伊賀耳付花生」(桃山〜江戸時代 16〜17世紀)。

ザラザラとした表面は焼け焦げていますが、これはわざと。一方で裏側は、片桐が「ガラスっぽい感じ」と言うように色づいています。古伊賀の焼物は“自然釉”と言い、窯のなかに入れるときに釉薬をかけません。強い炎で焼かれることで自然の釉薬が集まり“ビードロ釉”と言われるきれいな緑色の釉薬に。

今回の展覧会は「<はだ>と<わざ>」ということで、ザラザラとした肌感と滑らかな緑の面、多彩な肌を見せるべく最初に展示されています。

また、形も歪ですが、これもあえて。中国や朝鮮半島では形が整っているものが好まれますが、こうした歪んだ形を好むのは日本人独特の感性だそうで、片桐は「どこを見てもかっちりしていないというのが、すごいな……」と思わず声を漏らします。

続いては、抹茶用の器「青井戸茶碗 銘 『雲井』」(李朝時代 16世紀)。一見、何の変哲もない茶碗に見えますが、実は非常に貴重なもの。これは“井戸茶碗”と言われる朝鮮半島で焼かれた茶碗のひとつで、特に優れた作品に付けられる“銘”がつけられている作品です。

井戸茶碗の特徴は、そのなんとも言えない色にあります。その温かみを帯びた色は“びわ色”と言われ、高台(足の部分)の辺りは半透明の釉薬が溜まってデコボコしており、この梅花皮(かいらぎ)を見て楽しむのが井戸茶碗ならでは。

また、今回は展示していませんが、この茶碗には多くの箱が存在します。その数に片桐は「入れ物のマトリョーシカみたい。過剰包装にも程がありますよ!」と驚いていましたが、その理由はさまざまな人の手に渡る間に前の人が作った箱を傷つけないよう、所有者が新たな箱を作っていったためで、箱の数は自然と増えていったそうです。

そして、金沢を代表する焼物・九谷焼も。しかし、この「古九谷山水図丸紋平鉢」(江戸時代 17世紀)は、今の九谷焼とは趣が違います。というのも、古九谷は一度途絶え、その約200年後、江戸時代末期に加賀地方で再建。その流れが今に脈々と続いています。

この作品は、真ん中の山水図の周囲に丸い模様が描かれていて、その数17個半。なんとも中途半端ですが、それがまた味に。

そして、その肌面もポイントで、古九谷は絵付けの細かさも見ものですが、注目は地の部分。白い肌は“化粧釉”と言い、一度焼き、その上に白い釉薬をかけ再び焼くというこだわりよう。この絵付けに対する執念が、近現代の九谷焼に大きな影響を与えているそうです。

◆片桐を圧倒する超絶技巧の茶器たち

水田生山の「九谷色絵金彩四季耕作図煎茶器」(明治〜大正時代 20世紀)は、同じ九谷焼でもその印象が異なります。

とりわけ、1年間の農作業の流れを描いた絵は微に入り細を穿つ繊細な仕上がりで、片桐は「これはすごい。超絶技巧ですよね」と舌を巻きます。しかし、当時は芸術的な価値が軽んじられ、水田が憤慨したというエピソードが残っているとか。

また、細かさで言えば、山尾光侶の「宝尽熨斗押」(明治〜大正時代 19〜20世紀)も。

作品を前に、片桐は「明治から大正(時代)にかけての作品の作り込みは、異常ですね」と感心しきり。というのも、これは絵が描かれているのではなく、金属で作った巾着袋の表面を模様の形に削り、刻んだ溝に金が埋め込まれています。

ちなみに「熨斗押さえ(のしおさえ)」とは何か。お金を贈るときに入れる袋を「熨斗袋」と言いますが、「熨斗」とは元来、鮑を細く削ぎ、乾かして叩いて伸ばしたもので、それを押さえるものが「熨斗押さえ」。婚礼や正月などおめでたい時に飾る熨斗を落ちないようにすると同時に飾りとしても使われていたそうです。

◆千利休が実際に使っていた!? 稀代の名品

次は「黒織部沓茶碗」(桃山〜江戸時代 17世紀)。“織部”と聞いて、片桐は「『へうげもの』、古田織部ですね」と人気マンガを回顧。古田織部とは、豊臣秀吉に仕えた武将であり、千利休の弟子でもあった茶人で、この織部焼は彼が創始した彼好みの焼き物と言われています。

織部焼の形状は、あらゆるものを削ぎ落とし、侘び寂びを追求した師匠・千利休に反し、歪んだもの、デザインの変わったものばかり。「黒織部沓茶碗」を見た片桐も「元祖ヘタウマ。抽象画みたい」と評します。なお、織部焼は今もその精神を継承し、歪んだ形、何だかわからないもののなかに“美”を見出しているそうで、その気概に「ロックですよね。アナーキーというか」と感慨深そうに語る片桐。

そして、最後の茶碗は「赤楽茶碗 銘『手枕』」(桃山時代 16世紀)。楽焼とは、千利休が自分好みの茶碗を作らせるために楽家の長次郎に命じて作らせた焼き物のことで、片桐は一見して「これぞ侘び寂びですね」と感嘆。

何の飾りもなく、形もシンプルな円筒形に見えますが、実は口まわりを見ると少し波が。ほんの少しだけ、なだらかの山並みのような工夫が施されており、これは“遠山”と表現されるそう。

この「赤楽茶碗 銘『手枕』」は、千利休が大徳寺の古渓宗陳という和尚に献上したというエピソードがあるそうで、茶碗の内側を見ると変色しており、茶碗として実際に使っていたのではないかと齋藤さん。

茶道具の逸品の数々に触れた片桐は「千利休が『良い』って言ったものが前にあっても、(シンプルすぎて)スルーしますよね。自分の視野がいかに狭いか、実感しました。『先入観に捕われちゃいけないよ』って、僕は自分に言いたいです」と反省しつつ、「茶道具の奥深さを教えてくれた金沢市立中村記念美術館、素晴らしい!」と称賛。茶道具に命を吹き込んだ名匠たちに大きな拍手を贈っていました。

◆今日のアンコールは、大垣昌訓の「裂模様蒔絵二重小箱」

金沢市立中村記念美術館の展示作品のなかで、今回のストーリーに入らなかったものからどうしても見てもらいたい作品を紹介する「今日のアンコール」。片桐が選んだのは、大垣昌訓の「裂模様蒔絵二重小箱」(大正〜昭和時代 20世紀)。

これは模様を一度全て描き、その上に葉と蔓のようなものを漆で盛り上げ、そこに金を貼り、最後に螺鈿をはめ込むという精緻な作りで、そのうえ蓋もシンプルな模様がこと細かに描かれています。その匠の技に片桐は「人の手ってどこまでいけるんだっていうね。もう意地ですよね。これは疲れるよ〜」と圧倒されていました。

最後はミュージアムショップへ。片桐曰く、多くの美術館で販売されているマスキングテープ。金沢市立中村記念美術館では、さまざまな字体で“寿”の文字が書かれた、なんともおめでたいテープが販売されています。

また、黒織部が描かれたトートバッグに「絵に描くといいですね、実物とまた違う感じがあって面白い」と反応。さらには、青井戸茶碗の絵葉書を見て「これはいいですよね。この写真を見せられても……ってなると思うんですけど(笑)。これは買おう」とご満悦の片桐でした。

※開館状況は、金沢市立中村記念美術館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>番組名:わたしの芸術劇場放送日時:毎週金曜 21:25〜21:54、毎週日曜 12:00〜12:25<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00〜8:25<TOKYO MX2>「エムキャス」でも同時配信出演者:片桐仁番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/